ISVDに寄せられる相談のなかで、特に多いのが「助成金の審査で毎回"成果が見えない"と言われる」という声です。10年以上にわたって活動を続け、現場では確実に変化を起こしてきた団体が、それを評価される言葉で伝えられずにいる——その多くは、活動の「論理」を一枚の図に整理する機会を持てていませんでした。
「助成金の申請書にロジックモデルを添付してください」
そう言われたとき、何をどう書けばいいか分からなかった、という声をよく聞きます。あるいは一度作ってみたものの、「本当にこれで合っているのか」と自信が持てないまま提出してしまった、という経験をお持ちの方もいるかもしれません。
ロジックモデルは、難しいフレームワークではありません。 社会課題を「なぜ起きているか」から「どう変えるか」まで、一枚の図に整理する地図 です。
この記事では、ロジックモデルの基本から、実際の作り方まで、ステップごとに解説します。
1. ロジックモデルとは何か
ロジックモデルとは、 ある事業や活動が「どのような資源を使い」「何をして」「誰に何をもたらすか」を視覚的に整理したもの です。
もう少しシンプルに言うと、「もしAをすれば、Bが起きる。Bが起きれば、Cが実現する」という 因果の連鎖を図にしたもの です。
なぜロジックモデルが必要なのでしょうか。主に3つの場面で威力を発揮します。
① 助成金・補助金の申請
多くの助成財団や行政は、事業の論理的な根拠を求めます。「活動すれば良いことが起きる」という主張では不十分で、「この資源を使い、この活動を行うことで、こういう変化が起きる」という因果の根拠を明示する必要があります。
② チームや支援者との合意形成
ロジックモデルを一枚の図にすることで、スタッフ・ボランティア・支援者が同じ絵を見ながら議論できます。「成功」の定義を共有することが、チーム運営の基盤になります。
③ 事業の評価と改善
「何を測ればこの事業の成果が分かるか」の基準になります。ロジックモデルなしに指標を設定すると、活動量(何人参加したか)しか計測できなくなりがちです。
2. ロジックモデルの4つの構成要素
ロジックモデルは、左から右へ向かう矢印の連鎖で表現されます。
インプット → 活動 → アウトプット → アウトカム(短期→中期→長期)

それぞれを見ていきましょう。
インプット(Input)― 投入する資源
事業を動かすために必要な「資源」の総称です。
- ヒト: スタッフ、ボランティア、専門家
- カネ: 助成金、寄付、会費、自己収益
- モノ: 施設、機材、ソフトウェア
- 情報・知識: 専門性、データ、ノウハウ
インプットは「あるもの」を書く欄。理想より、現実を正確に記録することが重要です。
活動(Activities)― 何をするか
インプットを使って実際に行う具体的な活動です。
例: ワークショップの開催、相談窓口の運営、情報発信、ネットワーク構築
活動は 動詞で書く のがポイントです。「子ども食堂」ではなく「週1回の食事提供と学習支援」のように具体化します。
アウトプット(Outputs)― 活動の産出物
活動によって生み出される 量的な産出物 —— 参加者数、開催回数、配布資料数など、数えられるものです。
アウトプットは「やったこと」の記録。成果(アウトカム)とは明確に区別します。
よくある混同: 「月100人が利用した(アウトプット)」と「利用者の孤立感が減少した(アウトカム)」は別物です。
アウトカム(Outcomes)― もたらす変化
事業を通じて受益者や社会にもたらす 変化・効果 です。ここがロジックモデルの核心。
アウトカムは時間軸で3段階に分けます。
| 段階 | タイミング | 例 |
|---|---|---|
| 【短期】アウトカム | 活動中〜直後 | 知識が増える、スキルが身につく |
| 【中期】アウトカム | 数ヶ月〜1年 | 行動が変わる、関係性が変わる |
| 【長期】アウトカム | 1年〜数年 | 状況が改善する、制度が変わる |

ISVDが支援した団体では、指標を「参加者数(アウトプット)」から「参加者の意識・行動の変化(アウトカム)」に切り替えたことで、採択に至った経緯を複数確認しています。「事業の因果が明確になった」という審査担当者のフィードバックが共通しています。
3. セオリー・オブ・チェンジとの違い
ロジックモデルと混同されやすいのが セオリー・オブ・チェンジ(Theory of Change / ToC) です。
ロジックモデル: 「この事業は何をして、何をもたらすか」を構造的に整理する記述ツール
セオリー・オブ・チェンジ: 「なぜその変化が起きるのか」という仮説と根拠まで含む思考の枠組み
どちらを先に作るかは、状況によります。
- 既存の事業を整理したい → ロジックモデルから
- 新規事業の設計をゼロから考えたい → ToCから
どちらか一方で完結するのではなく、ToCで「変化の仮説」を立て、ロジックモデルで「実行の設計図」を描く、という組み合わせが実践的です。
4. 実際に作ってみる(ステップバイステップ)
ロジックモデルは 右から左に向かって作る のが基本。「何を達成したいか」を先に決め、そのために何が必要かを逆算します。
Step 1: 長期アウトカムを決める
「この事業が5〜10年後に実現したい社会的変化は何か?」を1文で書きます。
例: 「就労困難な若者が、地域社会の中で自分らしい働き方を見つけている」
ポイントは 主語を明確に すること。「社会が変わる」ではなく、「誰が」「どう変わるか」を具体的に書きます。
Step 2: 中期・短期アウトカムを設定する
長期アウトカムを実現するためには、何が変わっている必要があるかを逆算します。
中期: 「就労困難な若者が、職場定着に必要な対人スキルを身につけている」
短期: 「就労困難な若者が、自分の強みと課題を言語化できている」
Step 3: アウトプット・活動・インプットを埋める
短期アウトカムを実現するために必要な活動・資源を逆算します。
例:
- 短期アウトカム: 「若者が自分の強みを言語化できている」
- アウトプット: 個別相談12回・自己分析ワーク3回
- 活動: 週1回の対話型相談支援
- インプット: 支援スタッフ1名・年間予算80万円
「できるだけ具体的な数字で書く」のがポイントです。数字がないアウトプットは後の評価で使えません。
Step 4: 矢印の論理を検証する
最後に、左から右に矢印を追いながら「もしAなら、Bが起きる」という論理が成立しているかを確認します。
「週1回の相談支援(活動)を12回受けると(アウトプット)、対人スキルが身につく(短期アウトカム)」
この「もし〜なら」の仮説が成立しない箇所は、活動を追加するか、アウトカムの設定を見直します。
実例(匿名): 就労支援NPOの場合
ある就労支援NPOが「若者の就職率向上」を長期アウトカムに設定していました。しかし「就職率」は景気・求人市場・家庭環境など外部要因の影響が大きく、自団体の活動との因果が説明しにくい状態でした。
ISVDとのセッションで逆算を行い、アウトカムを3層に組み直しました。
- 短期: 「参加者が自分の強みを3つ言語化できている」
- 中期: 「就職活動を自律的に進められている」
- 長期: 「地域社会の中で自分らしい働き方を見つけている」
「就職率」から「自律性の変化」へ主語と動詞を明確にしたことで、助成財団の審査で「活動と成果の論理が見えた」と評価されました。
5. ISVDロジックモデルテンプレート
実際に使えるテンプレートを準備中です。公開をお待ちください(近日公開予定)。
テンプレートには以下の記入欄を設けています。
テンプレート構成(記入欄)
┌─────────────────────────────────────────────────────────────────┐
│ ロジックモデル │
│ 事業名: _________________ 対象: _________________ │
├──────────┬──────────┬────────────┬───────────────────────────┤
│インプット │ 活動 │アウトプット│ アウトカム │
│ │ │ │ 短期 │ 中期 │ 長期 │
│・ヒト: │・ │・参加者数: │ │ │ │
│・カネ: │・ │・開催回数: │・ │・ │・ │
│・モノ: │・ │・配布数: │ │ │ │
│・知識: │・ │ │ │ │ │
└──────────┴──────────┴────────────┴────────┴────────┴──────────┘
6. よくある失敗と対策
ロジックモデルを作る際によく見られる失敗を3つ紹介します。
① アウトカムとアウトプットを混同する
「100人に研修を提供した」はアウトプット。アウトカムとは、「研修を受けた100人のうち80人が3ヶ月後に業務改善を実施した」のような変化を指します。
対策: アウトカムには必ず「変化の主語(誰が)」と「変化の内容(どう変わったか)」を含めること。
② インプットが理想的すぎる
「専門家10名・年間予算1,000万円」のようなインプットを書いても、実態と乖離していれば絵に描いた餅になります。
対策: 現在確保できているリソースと、必要だが未確保のリソースを分けて記載します。
③ アウトカムの主語が「社会」になってしまう
「地域全体が活性化する」は検証不可能なアウトカムです。
対策: 「この事業の直接の受益者は誰か」を先に特定し、その人たちに起きる変化を書きます。
まとめ
ロジックモデルは、社会課題解決に取り組む組織にとって、事業設計の「地図」であり、評価の「基準点」です。
作り方のコツは、理想の最終状態から逆算すること。そして「誰が、どう変わるか」を主語を明確にして書くことです。
ISVDでは、ロジックモデルの設計からアウトカム指標の設定まで、伴走支援として対応しています。
はじめてのロジックモデル作成や、既存モデルの見直しについてのご相談は こちら から。初回相談は無料で対応しています。
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この記事は一般社団法人社会構想デザイン機構(ISVD)が作成しました。
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