「ロジックモデルを作ったあと、どう評価すればいいかわからない」という声をよく受けます。活動を設計する「地図」は描けた。でも、どこまで進んだかを測る「メーター」をどう用意するか——そこで詰まるのが、アウトカム指標の設計です。
1. アウトカム指標とは何か
アウトカム指標とは、 事業を通じて受益者や社会にもたらされた「変化」を測るための指標 です。
ロジックモデルで整理した「アウトカム(成果)」欄——「スキルが身につく」「行動が変わる」「状況が改善する」——を、実際に測定できる形にしたもの。それがアウトカム指標です。
前回の記事「ロジックモデルとは何か」でロジックモデルの作り方を解説しましたが、本記事はその続編として、完成したロジックモデルをどう「測定可能」にするかを扱います。
2. KPIとは何が違うのか
「KPIと同じじゃないの?」という疑問をよく受けます。似ているようで、根本的に異なります。
KPI(Key Performance Indicator) は、ビジネス目標に向けたプロセスの進捗を管理する指標です。「月間アポ件数」「広告クリック率」「解約率」など、業務の中間地点を測るもの。
アウトカム指標 は、活動の結果として受益者や社会にどんな変化が起きたかを測ります。「研修を受けた参加者のうち、3ヶ月後に就職できた割合」「プログラム終了後に孤立感が改善したと回答した比率」などが該当します。
混同しやすいのが アウトプット指標 との区別です。
| 種類 | 例 | 測っているもの |
|---|---|---|
| アウトプット指標 | 参加者数・開催回数 | やったことの量 |
| アウトカム指標 | 参加者のスキル習得率 | もたらした変化 |
| KPI | 月次目標達成率 | プロセス管理 |
「100人に研修を提供した」はアウトプット。「研修を受けた100人のうち80人が就職した」がアウトカムです。
3. 良い指標・悪い指標
悪い指標の3パターン
① 測定できない
「地域全体の意識が向上する」「社会が良くなる」——測定の基準がなく、事業が終わっても達成したかどうか判定できません。
② アウトプットをアウトカムと呼んでいる
「年間相談件数100件を達成する」は活動量(アウトプット)の目標。相談した人がどう変わったかを測ってはじめてアウトカムになります。助成財団に「活動量しか測れていない」と判断される典型例です。
③ 帰属問題を無視している
「地域の犯罪率が5年で10%低下した」——これが自団体の活動による成果と言い切れるでしょうか。社会変化の要因は複合的で、単一のプログラムに帰属させるのは多くの場合困難です。アウトカム指標は、自団体が合理的にコントロールできる範囲に絞ることが重要です。
良い指標の条件
次の4点を満たす指標を目指してください。
- 測定可能: 数値またはカテゴリで記録できる
- 帰属可能: この変化がプログラムによるものと説明できる
- 時間軸が明確: いつ測るかが決まっている
- コストが現実的: データ収集にかけられる予算・人員の範囲に収まる
4. 設計ステップ(4ステップ)
Step 1: ロジックモデルのアウトカム欄を起点にする
ロジックモデルで設定した短期・中期・長期アウトカムを見直します。「誰が」「どう変わるか」が主語と動詞で書かれていれば、指標化の出発点になります。
例: 「就労困難な若者が、自分の強みを言語化できている」(短期アウトカム)
このアウトカムを指標化すると:
指標: プログラム終了時に、強みを3項目以上書き出せた参加者の割合(%)
測定時点: プログラム最終回(〇月〇日)
測定方法: 自己記入式ワークシートの確認
アウトカムの文言に「誰が(就労困難な若者)」「どう変わるか(言語化できている)」が揃っていると、指標・時点・方法の3つがスムーズに決まります。
Step 2: 「どう測るか」を動詞で書く
アウトカムの変化を確認するための具体的な測定方法を決めます。
- アンケートで「自己効力感スコア」を事前・事後で比較する
- 3ヶ月後のフォローアップ調査で就職・進学の有無を確認する
- プログラム終了時に「強みを3つ書き出せるか」をチェックリストで確認する
注意: 測定方法は指標を決める前に考えます。「後から測ろう」と思うと、必要なデータが存在しない状況になりがちです。
Step 3: 短期・中期・長期で分けて優先順位をつける
すべてのアウトカムを測ろうとすると、データ収集コストが膨大になります。まず短期アウトカムの指標1〜2本に絞るのが現実的です。
優先する指標の選び方:
- 助成財団が重視する変化は何か
- 測定コストが最も低い指標はどれか
- 事業改善に直接役立つ情報はどれか
就労支援プログラムでの選択例:
| 候補指標 | 測定コスト | 財団評価 | 事業改善への貢献 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 就職・進学率(3ヶ月後) | 高(追跡調査が必要) | ◎ | △ | 2年目以降 |
| 強みの言語化スコア(終了時) | 低(チェックリスト) | ○ | ◎ | ★1本目に採用 |
| 自己効力感スコア(事前・事後) | 中(アンケート2回) | ○ | ○ | 余裕があれば追加 |
→ 1年目は「強みの言語化スコア」1本に絞り、2年目から追跡調査を追加するロードマップが現実的です。
Step 4: SIMIのアウトカム指標DBを参考にする
社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI) が公開するアウトカム指標データベースには、教育・就労・子育て・防災など13分野・343件の指標例が収録されています(2019年時点)。
ゼロから考えるより、近い分野の指標を参照し、自団体の文脈に合わせてカスタマイズする方が、測定方法も検証済みで精度の高い指標を早く揃えられます。
カスタマイズの手順:
- 分野(例: 就労支援)で検索し、近い指標を2〜3件ピックアップ
- 各指標の「測定方法」欄を確認し、自団体で実施可能かを判断
- 対象者・測定時点・判定基準を自団体の実態に合わせて書き直す
DB例: 「就労した割合(%)」
カスタマイズ後: 「プログラム終了3ヶ月後時点で、就職または職業訓練に参加している参加者の割合(フォローアップ調査で確認)」
指標の"芯"はDBから借りて、「いつ」「誰に」「どう確認するか」は自団体で具体化する、という分業が効率的です。
5. よくある失敗と対策
① 指標が多すぎる
「全部測りたい」という気持ちはわかりますが、測定できない指標は意味を持ちません。最初は3本以内に絞り、2年目以降に拡張するのが現実的です。
② 測定のタイミングが遅い
プログラム終了後1年で「行動変容があったか」を確認しようとしても、参加者の連絡先が分からない——こういった事態を防ぐためには、同意取得とデータ管理の設計をプログラム開始前に行う必要があります。
③ 数値だけに頼る
定量指標(数値)だけでは捉えられない変化があります。「孤立していた参加者が笑顔で話せるようになった」という変化は、インタビューや観察記録(定性指標)でしか記録できません。成果の全体像を把握するには、両者の組み合わせが不可欠。
まとめ
アウトカム指標は「測るためのもの」ではなく、 「事業が正しい方向に進んでいるかを確認するためのもの」 です。
指標を設計する目的は、助成報告書を書くためではありません。活動を通じて本当に変化が起きているかを確かめ、起きていなければ改善するための情報を得るためです。
ロジックモデルで「地図」を描き、アウトカム指標で「現在地」を確認する。この2つがそろって、はじめて事業の評価サイクルが回りはじめます。
ISVDでは、アウトカム指標の設計から測定ツールの構築まで、伴走支援として対応しています。はじめての指標設計や、既存の評価枠組みの見直しについては こちら からご相談ください。初回相談は無料です。
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この記事は一般社団法人社会構想デザイン機構(ISVD)が作成しました。
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