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一般社団法人 社会構想デザイン機構

廃業給油所 27,000 か所と地下タンク遺留 — 縮小資産の類型学

ヨコタナオヤ
約9分で読めます

全国の給油所は 1994 年度末のピーク 60,421 か所から 2024 年度末に 27,009 か所へ、30 年で約 33,000 か所が閉鎖された。廃業後の地下タンク処理は「撤去が原則、充填残置はやむを得ない場合のみ」(消防危第 78 号)だが、費用負担から充填残置が実態として多用されている。縮小資産のうち「地下インフラ遺留型」の類型学を、法制度と実態から読み解く。

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このノートは公共資産活用研究室の縮小資産類型学パートである。廃校スモコンとの類型比較は 廃校スモールコンセッションの構造分析(このサイトの記事)、公共サービスのソフト化との接続は 公共サービスのソフト化(このサイトの記事) を参照されたい。

はじめに

1994 年、日本の給油所は 60,421 か所あった。石油連盟の統計で確認できる、ピーク値である。

2024 年、同じ統計で 27,009 か所。30 年で約 33,000 か所が消えた。

閉鎖された給油所の跡地は、単純な空地ではない。地下に危険物貯蔵タンク(多くは繊維強化プラスチック製 FRP、直径 2.4m × 長さ 5〜6m 級)が残されているケースが少なくない。撤去には数百万円がかかり、廃業事業者にその負担能力がない場合、内部を砂または水で充填する「充填残置」が選ばれる。

このノートは、この 27,000 か所の縮小資産を、法制度と実態の両面から類型化する。廃校(未活用 1,951 校)や公共施設のインフラ維持更新費(今後 30 年で 190 兆円)と同様に、日本の都市が抱える「縮小資産」の 1 類型として位置づける試みである。

全国給油所数 30 年の推移

年度末給油所数ピーク比
1994(ピーク)60,421 か所100.0%
2004(10 年後)約 49,000 か所81.1%
2014(20 年後)約 33,000 か所54.6%
2020約 29,000 か所48.0%
2024(最新)27,009 か所44.7%

(表中 2004・2014・2020 の数値は石油連盟の同統計グラフから読み取った概数。ピーク比は 1994 年値に対する計算値。)

30 年で 55% の給油所が消えた。減少ペースは緩やかになっているが、EV 普及の政策目標(2035 年新車販売 100% 電動化)が達成に近づくにつれ、再び加速する可能性が指摘されている。

東京都だけで見ると、2020 年度末 967 か所、2023 年度末 898 か所。毎年 30〜40 か所ずつ減っている。

地下タンク処理 — 消防法上の 3 選択肢

給油所は消防法上の「危険物施設」(第 4 類第 1 石油類ガソリンを扱う)であり、廃止時の地下タンク処理は消防法第 12 条の 6 と 消防危第 78 号(平成 3 年 7 月 11 日、消防庁危険物規制課長通知)で規定されている。なお本ノートで参照する消防危第 78 号の文書は、宇都宮市が公開する二次資料 PDF を出典としており、消防庁による一次公開は確認できていない(告示番号と内容は各自治体の消防署で確認可能)。

処置方法は 3 つある。

選択肢 1: 掘り起こし撤去

地中からタンクを完全除去する。環境リスクは最小だが、費用は数百万円単位(1 基あたり 100〜300 万円が実務相場、複数基で更に増)。

選択肢 2: 充填残置(砂または水)

タンクを地中に残したまま、内部を砂または水で満たす。消防危第 78 号は「やむを得ない場合に限り、水または砂で内部を隙間なく充填したうえで残置してよい」と規定している(要旨、原典は逐語表現が異なる)。

選択肢 3: 洗浄後残置

タンクを乳化剤・中和剤で洗浄し、可燃性蒸気がないことをガス検知器で確認後に残置する。

消防危第 78 号は「撤去が原則、充填残置はやむを得ない場合」と明示している。しかし費用負担から、実態としては充填残置が多用されている(正確な統計は公的に整備されていない)。

縮小資産としての 3 つの類型

地下タンク遺留の縮小資産を、責任構造・費用構造・法的位置づけの 3 軸で類型化する。

類型 A: 事業者現存・撤去意思あり

元事業者が法人として現存し、撤去費用を負担できる場合。消防危第 78 号の「原則撤去」に沿って処理される。全国石油協会の 全国石油協会 による撤去補助事業(「SS ネットワーク維持・強化支援事業」「過疎地等における石油製品の流通体制整備事業」)の対象となり得る。

類型 B: 事業者現存・撤去意思なし

元事業者は現存するが、撤去費用が経営を圧迫する規模で、消防署の事前協議を経て充填残置を選んだケース。法的には「危険物廃止処理完了」で問題ないが、地上部の再開発(住宅・店舗)が困難になる。

類型 C: 事業者消滅・所有権不明

元事業者が倒産または個人事業者の高齢化で連絡不能となり、土地所有権も相続放棄・行方不明のケース。地下タンクは実質「無主物」となり、自治体が対応を余儀なくされる場合がある。この類型が最も政策的介入の必要性が高い。

類型区分の留意点: この 3 類型は「事業者の現存・消滅」と「所有権の明確・不明確」を主軸に構成しているが、実態には「事業者は消滅したが相続人が土地を保有し続けている(所有権は明確だが撤去意思なし)」というケースが存在する。このケースは類型 B(費用負担により撤去意思なし)と類型 C(所有権不明)のどちらにも厳密には当てはまらない。本ノートでは便宜上類型 B の亜型として扱うが、制度設計上は別途の対応が必要な可能性がある。正確な規模把握のためには、自治体アンケートと不動産登記情報の突合が必要である。

土壌汚染対策法との整合

給油所はガソリン(特定有害物質ベンゼン含む)を取り扱う「有害物質使用特定施設」に該当する。有害物質使用特定施設の廃止時に 900 ㎡以上の形質変更(土地の掘削・盛土等)を行う場合、土壌汚染対策法第 4 条による届出義務が発生する。

タンクを充填残置して土地を現況のまま維持する場合、形質変更に該当しないため届出義務は発生しない。しかし売却・再開発・建設工事等で形質変更が生じた段階で調査義務が発生する。

この構造が、廃業給油所の跡地流動性を大きく制約している。「土地を売りたいが、売った瞬間に土壌汚染調査コスト(80〜300 万円)が発生する」ため、所有者が売却を先送りする。結果として、地下タンクを抱えた土地が長期間放置される。

建築的転用の可能性 (Lacaton & Vassal の Transformation 論)

廃業給油所 27,000 か所を「縮小資産」として捉え直すと、単純な負債ではなく、都市が抱える潜在的なリソースとして再定義できる。

Lacaton & Vassal(2021 年プリツカー賞受賞)が Harvard GSD 講演で述べた原則がある。

Never demolish. Always transform, with and for the inhabitants.

決して取り壊すな。住民とともに、住民のために、常に変容させよ、と。

彼らのアプローチは、既存建築の解体を回避し、増築・改修による用途転換で価値を再生する。集合住宅・学校・美術館での実例が国際的に評価されている。

この Transformation 論を廃業給油所に適用すると、地下タンクは「都市が廃棄予定の危険物構造体」から「文化・観測・公共インフラの物理的基盤」へ再定義される可能性がある。国際的な建築転用先例(TANK Shanghai / Gasholders London / Vienna Gasometers、詳細は 廃業油槽所の建築転用 国際比較(このサイトの記事) 参照)はいずれも大規模施設だが、給油所という小規模・都市内分散型の資産にも同型のアプローチが適用可能かは、次のフェーズの研究課題となる。

政策提言への含意

含意 ①: 27,000 という規模感の政策的位置づけ

27,000 か所は、廃校 1,951 校(廃校スモコン 構造分析(このサイトの記事) 参照)の約 14 倍の規模である。しかし廃校とは異なり、廃業給油所には「公共資産活用」の政策的枠組みが用意されていない。国土交通省のスモールコンセッション・プラットフォームは公共施設が対象で、民有地の廃業給油所は対象外。政策的空白地帯である。

含意 ②: 補助金設計の再検討余地

全国石油協会の撤去補助事業は、業界内部の相互扶助として運営されている。しかし類型 C(事業者消滅・所有権不明)のケースには対応困難だ。土壌汚染対策法との整合を含めた、公的な包括的スキーム(撤去補助 + 土壌調査補助 + 転用支援)の設計余地がある。

含意 ③: 建築的転用の実験機会

小規模(土地面積 500〜1,000 ㎡)・都市内分散(1 万か所以上)・地下インフラ既存という給油所の特性は、実験的な建築転用プロジェクトに適している。1 か所の失敗が全体に波及するリスクが小さく、複数拠点で異なるアプローチを試すことができる。

静かなまちプロジェクトとの接続

ISVD の静かなまちプロジェクトは、廃業給油所を「観測拠点」として活用する構想を含む(研究段階、詳細は 静かなまち PJ 全体像 (仮説概観)(このサイトの記事) 参照)。都市内分散する 27,000 か所のうち、幹線道路沿いに立地する物件は騒音観測に適した位置にある。地下タンクは、観測機材の設置スペースとしても、また「意味反転 5 層」(意味反転 5 層方法論(このサイトの記事) 参照)の物質化としても再定義され得る。

これは 27,000 か所の縮小資産を、負債から都市の観測インフラへ転換する試みでもある。実現可能性の検証は、法規制(消防法・土壌汚染対策法・建築基準法)との整合を含む多角的な研究を要する。ISVD としては、少なくとも「その可能性がある」ことを、法制度と実態の両面から数字で示していく。

おわりに

30 年で 33,000 か所が閉鎖された。この規模感は、廃校の 14 倍、コンビニエンスストア全店舗数(約 56,000 店)の約 6 割に相当する。しかし社会的認知は薄い。「街から給油所が消えている」ことに気づいても、その跡地に地下タンクが残されていることまで想起する人は限られる。

縮小資産の可視化は、まず数を数えることから始まる。27,009 か所という石油連盟の統計、土壌汚染対策法第 4 条が定める形質変更の届出基準面積(900 ㎡)と土壌汚染調査の実務費用相場(80〜300 万円、法律上の定めではなく実態費用)、消防危第 78 号の「原則撤去、やむを得ない場合の充填残置」。これらの数字と条文を、負債ではなく研究資産として並べ直すのが、公共資産活用研究室の役割だ。

次のステップは、この 27,000 か所を「類型 A / B / C」に分類する試みと、類型 C(事業者消滅・所有権不明)の全国推計である。統計が整備されていない領域だが、自治体アンケート・不動産登記情報・消防署照会の組み合わせで、実務的な推計は可能と考えている。


関連ガイド: 公共資産活用の制度分析手法は EBPM入門(このサイトの記事)、廃校の類型学との比較は 廃校スモールコンセッションの構造分析(このサイトの記事) を参照されたい。

この記事で使った統計の出典

  1. 1文部科学省 廃校施設活用状況実態調査(2022) 出典を開く
  2. 2国土交通省「インフラ老朽化対策の現状」(2025年9月) 出典を開く
  3. 3石油連盟 SS 数の推移(1994) 出典を開く
  4. 4石油連盟 SS 数の推移(2024) 出典を開く
  5. 5全国石油商業組合連合会 都道府県別給油所数の推移(2023) 出典を開く
  6. 6日本フランチャイズチェーン協会 コンビニエンスストア統計調査月報(2024) 出典を開く

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