一般社団法人社会構想デザイン機構

廃校×福祉施設の収支モデル — 施設費を月15〜35万円削減する構造【2026年版】

ISVD編集部
約12分で読めます

廃校を障害福祉施設として活用する際の収支構造を徹底解説。施設費の削減メカニズム、障害福祉報酬の仕組み、就労継続支援B型20名規模の月次収支シミュレーション、成功事例と注意点を2026年最新データで掲載。

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ざっくり言うと

  1. 廃校を障害福祉施設として活用することで、通常の施設賃借費(月20〜40万円)と比較して月15〜35万円のコスト削減が可能になる
  2. 2024年度改定後の就労継続支援B型の報酬単価は、平均工賃月額45,000円以上で配置7.5:1の場合に702単位/日。20名稼働の月収入は300〜330万円が目安
  3. 廃校活用での障害福祉施設は177件(令和6年度調査)で横ばい。未活用廃校が約1,951校残存しており、事業機会として依然大きい

廃校→福祉転用のコスト優位性

新築比1/3〜1/2の改修費、月0〜5万円の施設費が実現する収支改善の全体像

障害福祉事業の収支を圧迫する最大の固定費のひとつが施設費である。都市近郊での事業所運営では、賃借料だけで 月20〜40万円 を要することが珍しくない。廃校活用はこの構造を根本から変えうる選択肢だ。

施設費の比較構造

廃校の低額賃借や無償貸与を活用した場合、月間施設費は 0〜5万円 程度に抑えられる事例が多い。通常の賃借と比較すると、月間で 15〜35万円の削減 が実現可能だ。

施設調達方法月間施設費の目安
民間施設の賃借(都市近郊)20〜40万円
民間施設の賃借(地方)10〜20万円
廃校(低額賃借・無償貸与)0〜5万円

年換算すると 180〜420万円 の差となる。この削減分が、そのまま事業の継続性・工賃向上・職員処遇改善に転用できる。

改修費は新築比1/3〜1/2

廃校活用で最初に検討すべきコストが改修費である。学校を障害福祉施設へ転用するためには、建築基準法上の用途変更(床面積200㎡超で確認申請が必要)と、バリアフリー化・消防設備の整備が必要になる。

ただし、改修費は新築と比べると大幅に低い。

  • 新築施設の建設費:㎡単価20〜25万円
  • 廃校改修費:㎡単価7〜10万円(新築比1/3〜1/2)

北海道夕張市の養護老人ホーム転用事例では、約1億5,853万円(㎡単価73,900円)の改修費で整備されており、これは新築の約1/3に相当する

必要な主な改修項目は以下のとおりだ。

  • バリアフリー化: 車椅子対応トイレ、段差解消、廊下幅確保
  • 消防設備: スプリンクラー(一定規模以上)、自動火災報知設備
  • 内装: 防火区画見直し、内装不燃化
  • 設備: 給湯設備、空調整備

補助金の活用により、事業者の実質負担はさらに圧縮できる。社会福祉施設等施設整備費補助金(国1/2・都道府県1/4)を活用すれば、事業者負担は改修費の1/4程度となるケースもある。


障害福祉報酬の仕組み

単位制報酬・地域区分・加算体系と2024年度改定の影響

廃校転用の事業性を評価するには、障害福祉サービスの報酬体系を理解することが前提となる。

単位制報酬と地域区分

の報酬は 単位制 で設計されており、サービスの種類・障害支援区分・定員規模・加算の有無によって1日あたりの単位数が決まる。地域によって 1単位あたりの金額 が異なり、地域区分として1〜7級地・その他に分類される。

報酬額 = 単位数 × 地域区分乗数(≒10〜11.14円)

地方の廃校が多い地域では地域区分が低め(1単位≒10円)に設定されることが多く、都市部(1単位≒11.14円)との差が生じる。収支計画には地域区分を確認して組み込む必要がある。

2024年度改定の主な変更点

2024年度障害福祉サービス報酬改定(全体+1.12%)の主な内容は以下のとおりだ。

変更区分対象サービス方向性
引き上げ生活介護(高区分)、B型(高工賃)、GH(自立支援強化)成果重視化
引き下げB型(低工賃)、A型(低スコア)、放課後等デイサービス質の底上げ
新設生活介護における支援時間連動加算サービス時間の可視化

2026年6月 には新規指定事業所のみを対象とした臨時改定が予定されており、就労継続支援B型で約1.6%の基本報酬引き下げが見込まれている。これは事業所数の急増(3年連続5%以上増加)への抑制措置であり、新規開設を検討する場合は改定内容の確認が必須だ。

就労継続支援B型の報酬単価

就労継続支援の報酬単価は、平均工賃月額人員配置比率 の組み合わせで決まる。

平均工賃月額配置7.5:1配置6:1
45,000円以上702単位837単位
35,000〜45,000円636単位758単位
25,000〜35,000円584単位695単位
10,000〜25,000円534単位636単位
10,000円未満468単位557単位

月間稼働日数を22日として計算すると、1日1名あたり の報酬額(7.5:1配置・25,000〜35,000円工賃の場合)は:

584単位 × 10円 × 22日 = 128,480円/月(定員1名あたり)

定員20名・稼働率90%で月収入を試算すると:

128,480円 × 20名 × 0.9 = 2,312,640円/月

就労継続支援B型の収支シミュレーション

定員20名・3シナリオでの月次損益試算と廃校活用による改善幅

定員20名の就労継続支援B型事業所について、3つのシナリオ で月次収支を試算する。

前提条件の整理

項目設定値
定員20名
稼働率90%(18名稼働相当)
稼働日数月22日
地域区分その他(1単位=10円)
人員配置7.5:1(基本配置)

シナリオA:通常賃借×低工賃(基準ケース)

  • 平均工賃月額:10,000〜25,000円(単価534単位/日)
  • 施設費:月25万円(都市近郊相場)
科目月額
報酬収入2,108,160円
工賃収入(利用者負担工賃)20万円(内部留保)
月間収入計約231万円
人件費(人件費率70%)161万円
施設費・賃借料25万円
その他管理費20万円
月間支出計約206万円
月間収支差約+25万円

シナリオB:廃校低額賃借×低工賃

  • 報酬単価・稼働率:シナリオAと同一
  • 施設費:月3万円(廃校低額賃借)
科目月額
月間収入計約231万円
人件費(人件費率70%)161万円
施設費・賃借料3万円
その他管理費20万円
月間支出計約184万円
月間収支差約+47万円

シナリオAと比較して月間+22万円の改善。削減した施設費を工賃向上に投資することで、上位の報酬区分に到達しやすくなる。

シナリオC:廃校×農業B型(高工賃モデル)

廃校の校庭・農地を活用した農業B型は、工賃向上と高単価報酬の組み合わせで収支を最大化できる。

  • 平均工賃月額:45,000円以上(702単位/日)
  • 施設費:月3万円(廃校低額賃借)
科目月額
報酬収入2,773,440円
農産物販売収入(工賃財源)30万円
月間収入計約307万円
人件費(人件費率68%)208万円
施設費・賃借料3万円
農業経費15万円
その他管理費20万円
月間支出計約246万円
月間収支差約+61万円

シナリオAと比較して月間+36万円の改善。廃校の広大な校庭・農地・調理室という物理資産を最大限に活用したモデルである。

3シナリオの比較まとめ

シナリオ施設費月間収支差廃校効果
A:通常賃借×低工賃25万円+25万円
B:廃校×低工賃3万円+47万円+22万円
C:廃校×農業B型3万円+61万円+36万円

※ 上記は概算シミュレーションであり、実際の収支は地域区分・加算の有無・利用者の障害支援区分・稼働率によって大きく変動する。事業化の判断には個別の精緻な事業計画が必要だ。


廃校活用で最適なサービス類型

生活介護・B型・農業B型の相性と選定基準

廃校の物理的特性(広い作業スペース、体育館、調理室、校庭・農地)は、特定の障害福祉サービスと高い親和性を持つ。

相性の評価

サービス類型相性主な理由
生活介護広いスペースが必要、高区分ほど高単価
就労継続支援B型作業スペース豊富、農福連携に最適
自立訓練(生活訓練)宿泊型との組み合わせが可能
放課後等デイサービス子ども施設としてイメージが適合
グループホーム(GH)個室化改修コストが高い
就労継続支援A型事業性リスクが大きい(低スコア減算が厳しい)

農業B型モデルの有望性

廃校×農業B型の組み合わせは、複数の利点が重なる特に有望なモデルだ。

  1. 工賃向上の手段として機能する: 農産物販売収益を工賃に反映することで高工賃区分の報酬を獲得できる
  2. 校庭・農地の有効活用: 廃校には農地や広大な校庭が付属することが多く、農業作業場として活用できる
  3. 農福連携施策との親和性: 農林水産省の農福連携推進交付金との組み合わせが可能
  4. 地域貢献の可視化: 農産物の地産地消・直売所運営は地域との関係構築に貢献する

成功事例3件の構造分析

岩手・新潟・北海道から見える成功の共通パターン

事例1:小規模多機能ホーム雪つばきの里(岩手県西和賀町)

岩手県西和賀町の旧越中畑小学校(1980年建築)を老人福祉施設(小規模多機能ホーム)に転用した事例。

  • 改修費: 約4,150万円(事業者850万円+補助金3,300万円)
  • 契約: 土地有償貸与・校舎無償貸与
  • 運営主体: NPO法人(住民が閉校前に設立
  • 成功要因: 旧学区4行政区の代表者が10回以上の検討会を重ね、住民主導でNPO設立。事業開始から8年で累積赤字を解消した

この事例の核心は「住民主体のプロセス設計」にある。自治体や外部事業者が先行して計画するのではなく、地域住民が自ら担い手になったことでNIMBY問題を回避し、長期的な運営基盤を構築した。

事例2:和島トゥー・ル・モンド(新潟県長岡市)

旧島田小学校(1904年建築、明治37年)を 障害者就労支援施設 (レストラン「Bague」・パン工房「Harmonie」)に転用した事例。

  • 改修費: 約2億3,500万円(事業者1.8億円+補助金5,500万円)
  • 契約: 土地有償譲渡・建物無償譲渡
  • 事業者選定: 簡易評価型プロポーザル
  • 成功要因: 市内大学にコーディネートを依頼し、4つの検討部会×各12回という丁寧なプロセスを経た。歴史的建造物の話題性がメディア露出につながり、レストラン・パン工房の認知度向上に貢献した

この事例は改修費が大きいが、歴史的な建物の付加価値と飲食業態の組み合わせが高い工賃水準の実現を支えている。

事例3:KAKA's FACTORY(北海道由仁町)

旧川端小学校(2012年廃校)を生活介護+就労継続支援B型の多機能型事業所に転用した事例。

  • 契約: 譲渡(売却)
  • 補助金: 社会福祉施設等施設整備費補助金
  • 成功要因: 廃校翌年度に迅速転用を実現。多機能型(生活介護+B型)として複数の収入源を確保した

3事例に共通するパターン

  1. 補助金の積極活用: 事業者が改修費全額を負担した事例はなく、国・都道府県補助を組み合わせている
  2. 合意形成プロセスの設計: 住民説明会・検討会の回数と内容が事業継続性を左右する
  3. 施設の物理的特性の活用: 教室・体育館・調理室・農地という廃校特有の資産を事業に組み込んでいる

前提条件と注意点

NIMBY問題・老朽化リスク・契約更新リスク・2026年報酬改定の影響

廃校を障害福祉施設として活用する場合、以下の点に注意が必要だ。

NIMBY問題への対応

障害者施設に対する地域住民の不安・偏見(NIMBY:Not In My Backyard)は、廃校転用で最も深刻なリスクのひとつだ。岩手県西和賀町の事例では、同業者から介護保険料上昇への懸念が出たが、10回以上の説明会で丁寧に解消した実績がある。住民合意形成のプロセス設計を事業計画の初期段階から組み込むことが不可欠だ。

老朽化建物の修繕費リスク

廃校の多くは建築後30〜50年以上が経過しており、入居後の修繕費が予想外に発生するリスクがある。契約段階で 修繕責任の範囲(屋根・外壁・設備等)を明確に取り決めることが重要だ。特に、1981年以前建築の施設は旧耐震基準に基づくため、耐震診断・補強工事 が必要になる可能性が高い。

契約期間の短さ

廃校の賃貸借契約は 3〜5年更新が多く 、長期の事業計画が立てにくい。障害福祉施設は設備投資の回収期間が長いため、できるだけ長期の契約(10年以上)を初期交渉で確保することが望ましい。

2026年6月の報酬改定対応

2026年6月の臨時改定では新規指定事業所の基本報酬が就労継続支援B型で約1.6%引き下げられる見込みだ。既存事業所は据え置きとなるため、新規開設の場合は改定スケジュールを考慮した資金計画が必要だ。

過疎地での人材確保

廃校が多い過疎地では、支援員・サービス管理責任者の採用が都市部と比べて困難な場合がある。送迎コストも都市部より高くなりやすい。採用計画を早期に具体化し、必要な場合は採用補助(処遇改善加算)を最大限活用する体制を整えることが重要だ。


自治体が廃校活用を歓迎する理由

廃校を抱える自治体にとっても、障害福祉施設への転用は多くのメリットをもたらす。

  • 維持管理コストの削減: 廃校の維持管理費は年間数百万円に上ることがあり、活用によって負担が軽減される
  • 解体費の回避: 解体費用は数千万〜数億円になる場合があり、活用によって先送りできる
  • 地域福祉サービスの確保: 過疎地での福祉サービス不足を補える
  • 雇用創出: 地域内での安定的な雇用が生まれる
  • 国庫補助の呼び込み: 補助金を通じた外部資金の地域への流入

未活用廃校のうち、住民意向聴取を実施していない自治体は49.6%にのぼる。裏を返せば、事業者側から働きかけることで活用への道が開ける余地が大きい。


次のステップ

廃校福祉転用の検討を始めるための3つのアクション

廃校を障害福祉施設として活用することを検討する場合、以下の3つのアクションから始めるとよい。

  1. みんなの廃校プロジェクトで施設情報を収集する: 文部科学省のみんなの廃校プロジェクトでは、活用候補の廃校情報が都道府県別に掲載されている
  2. 対象施設の建築年・耐震状況・施設費(賃借料)を自治体に問い合わせる: この3点が改修費と収支計画の基礎データとなる
  3. 地域区分を確認して収支を試算する: 厚生労働省の地域区分一覧で対象地域の単位乗数を確認し、本記事のシミュレーションを自社の想定条件に当てはめる

廃校活用の全体的な手順については、「廃校活用の全手順 — 施設選定からプロポーザルまでを完全解説」も参照されたい。プロポーザルへの参加方法については「廃校活用のプロポーザル — 選定フローと評価基準の設計」で詳しく解説している。


参考文献

廃校施設活用状況実態調査(令和6年度) (2025)

廃校活用事例集(令和5年3月版) (2023)

障害福祉サービス等の報酬について(令和6年度改定) (2024)

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読んだ後に考えてみよう

  1. 検討している廃校の施設費(貸付料)水準は月いくらか?現在の事業所と比較してどの程度削減できるか試算したか?
  2. 廃校の建築年は1981年以前か?スプリンクラー設置が必要な面積規模か?改修費の概算を事前に把握しているか?
  3. 自治体が障害者施設に対してNIMBY問題を想定しているか?住民説明会の設計が必要か?

この記事の用語

PPP/PFI
官民が連携して公共サービスの提供や公共施設の整備・運営を行う手法の総称。PFIは民間資金を活用したインフラ整備、PPPはPFIを含むより広い概念で指定管理者制度や包括的民間委託等を含む。
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