災害対応の自治体職員はいつ休める?健康チェックと交代・応援の受入れ
2026年熊本のDOHAT活動と業務継続・受援の手引を基に、職員の健康把握、休養、引継ぎ、応援の受入れについて
熊本地震でのDOHATの活動、内閣府の業務継続・受援手引き、厚労省の疲労チェックから、自治体職員が休める災害対応を考える。健康情報の把握と勤務調整、応援の人数と交代・引継ぎ、入力件数と成果を分けて読む。
ざっくり言うと
- DOHATは職員の健康入力を個別支援と組織全体の日報へつなぐ仕組みを公表した
- 疲労の把握を勤務調整へ進めるには、仕事を引き継ぎ、休息を確保する担当が必要になる
- 応援の環境・交代・撤収後の引継ぎを考え、入力や派遣の件数と実際の休息・業務継続を分けて評価する
何が起きているのか
熊本でのDOHATの活動から、健康把握と支援の仕組みを読む
災害対応を続ける自治体職員は、住民を支援する人であると同時に、自分の家や家族が被災している場合もある。体調の悪化を把握するだけでなく、その人が休めるように仕事を渡せるかが問われる。健康チェックと勤務の組み替えをつなぐ仕組みを、支援する人の善意だけに任せず考えたい。
は、2026年7月28日の熊本地震を受け、災害産業保健支援チーム(DOHAT)が8月1日から支援を始めたと公表した。自治体職員や派遣された支援者などの健康を支える活動であり、8月2日には広島大学と協働する「J-SPEED健康チェック」の運用も開始した。
公表によると、職員や支援者がスマートフォンなどから1日1回、約2分で健康状態を入力する仕組みである。産業保健の支援チームが確認し、不調のある人への個別支援と、指揮者へ組織全体の健康状況を伝える日報へつなぐ。
ここで確認できるのは活動の開始と仕組みであり、すべての職員が回答したことや、病気・離職が減ったことまでではない。公表資料にない調査条件を補って、地域全体の疲労率や原因を説明することもできない。健康状態が分かったことと、休める勤務に変わったことを分けて読む必要がある。
背景と文脈
疲労のチェックと勤務条件、職員自身の被災を考える
疲労を、本人の状態と勤務条件から見る
厚生労働省の疲労蓄積度自己診断チェックリスト(外部サイト、新しいタブで開きます)の2023年改正版は、最近の自覚症状と勤務の状況を組み合わせて疲労の蓄積を判定する。勤務時間だけでなく、不規則な勤務、仕事の負担、睡眠、次の勤務までの休息なども対象になる。病名を確定する検査として扱うものではない。
同資料は、個人の裁量で改善できない勤務条件について、上司や産業医などへ相談するよう示す。疲れた人へ「休んでください」と伝えても、引き継ぐ人がおらず仕事が残れば、本人だけで解決することは難しい。負担を減らす判断と、それを実行する配置や業務の調整まで必要になる。
異なる調査の結果を比べるときは、調査の時期、回答した人、判定方法を確認したい。同じ「疲労」という表現でも、これらが違えば数字は同じ意味にならない。条件を確かめられない割合を使って職場の状態を診断せず、公的資料で確認できる支援と勤務調整の仕組みから考える必要がある。
勤務の調整を検討する際には、本人に残っている仕事も確かめたい。休むよう伝えた後に、連絡への返信や次の担当への説明を続けているなら、勤務表の上だけで交代が終わっている可能性がある。たとえば住民からの問い合わせを受ける担当を替える場面では、回答を待つ案件と、次の担当が判断してよい範囲を整理する方法がある。これは業務の引継ぎを考える例であり、誰の疾病や健康状態も推測するものではない。
全員が集まる前提を置かない
では、職員や家族の被災によって参集できる人数が想定を下回ることを考慮する。2023年改訂の手引きには、職員自身の健康、子育てや介護などへの配慮と、交代要員の考え方を定める視点もある。
勤務できる人を数えるだけでは、その人がどの業務を担当できるか、いつ交代するかは分からない。平時から、優先して続ける業務と、他の部署へ渡せる業務を整理しておく必要がある。手引きが挙げる休息・宿泊場所の確保も、職員が戻るまでの仕事を誰が担当するかと合わせて考えたい。
構造を読む
健康情報の扱い、勤務調整、受援と引継ぎをつなぐ
個別相談と、組織への共有を分ける
全国保健師長会が掲載したDOHATの資料(外部サイト、新しいタブで開きます)は、本人の入力、専門職の健康管理、自治体担当への日報を循環として示す。資料には、電話面接などを含む個別支援と、成果や課題の日報を会議資料として使う流れが記される。入力フォームを用意するだけで終わらない構成になっている。
ただし、組織が勤務を変えるために、個人の詳しい症状を全員へ知らせる必要があるとは限らない。厚労省の健康情報等の取扱規程の手引き(外部サイト、新しいタブで開きます)は、健康確保という目的、取り扱う方法や権限、目的に必要な範囲への情報の加工を説明する。本人が人事上の不利益を心配して相談できなくなることにも触れている。
この手引きは事業場向けであり、各自治体に関わるすべての法令の判断を代わりに行うものではない。運用を考える参考として、専門職に相談する情報と、配置を決める人が必要とする就業上の配慮を整理したい。本人に共有の目的と相手を伝え、回答や相談が次の勤務の調整へどうつながるかを説明することが重要になる。
個別の相談記録と、仕事を引き継ぐための記録は、目的を分けて準備する方法がある。次の担当に必要なのは、未処理の仕事や連絡先、確認すべき判断であり、休む人の詳しい症状とは限らない。勤務の調整に必要な配慮をどの形で渡すかは、本人と専門職、配置を決める担当がそれぞれの役割に沿って確かめたい。引継ぎを急ぐことを、健康情報を広く回す理由にしないことも大切になる。
個別の支援
専門職が本人と確認
- 情報
- 症状・困りごと
- 対応
- 相談・必要な支援
- 取扱い
- 目的と権限を確認
組織の調整
業務と配置を判断
- 情報
- 勤務に必要な配慮
- 対応
- 仕事・交代の変更
- 確認
- 休息を取れたか
DOHATの支援の循環と厚労省の情報取扱い資料を参考にした本稿の整理。実際の共有項目や権限がすべての自治体で同じであることを示さない。
応援の人数を、交代できる仕事へ変える
2025年改訂の受援計画作成の手引き(外部サイト、新しいタブで開きます)は、応援職員を受け入れる窓口と業務ごとの担当、任せる範囲、執務環境を整理する。応援が到着しても、必要な情報や機器、指示を受ける相手が分からなければ、すぐに仕事を引き継げるとは限らない。
同手引きは、活動中の確認に、応援職員の健康や安全、人数、派遣期間、ローテーションを含める。人員が足りないときの追加要請では、派遣までの調整と業務引継ぎに時間がかかることを見込むよう示す。疲労が限界になってから要請する運用では、その時間を現場が持ちこたえなければならない。
追加の応援を待つ間には、今ある仕事を同じ優先度で続けられるかも検討したい。優先する業務と待ってもらう業務を指揮する担当が整理し、住民へ何を説明するかを合わせる方法がある。応援人数だけで調整を済ませず、その人が扱える業務、確認を要する判断、使える機器を照合する。応援職員の不慣れを個人の能力不足と決めず、被災自治体が渡せなかった情報も振り返りたい。
被災自治体が宿泊先をすべて用意するという説明でもない。宿泊は応援する自治体で準備することを基本とし、困難な場合に紹介できる施設などを被災自治体が平時から整理する。応援する自治体と被災自治体の分担を確かめ、その日の業務だけでなく、交代する人が安全に休める条件も共有しておきたい。
受け入れる準備
人数と仕事を合わせる
- 担当
- 窓口・業務の指示
- 環境
- 機器・執務・宿泊
- 仕事
- 任せる範囲を整理
活動を続ける調整
健康と次の体制を確認
- 交代
- 人数・期間・健康
- 要請
- 派遣と引継ぎの時間
- 撤収
- 知見と業務を継承
内閣府の2025年受援手引きに基づく整理。全国一律の勤務上限や、一定の疲労率で発動する基準を示す図ではない。
入力件数から、休息につながったかへ
応援には終わりがある。国の受援手引きは、被災市町村が意思決定を担当し、応援職員が撤収するまでに知見を引き継ぐ重要性を説明する。短期の応援が入っている間の人員だけを見れば、その後に残る業務と負担を見落とす。継続する仕事の量を確認し、通常業務へ戻す見通しまで共有する必要がある。
支援の評価も、入力件数や派遣人数だけでは終わらない。のように活動から変化までの関係を整理し、として、相談後に勤務が調整されたか、実際に休息が取れたかを確認する視点が考えられる。これらは本稿の評価案であり、今回の支援で効果が測定されたという報告ではない。
住民への対応が遅れたかという視点も、職員個人の病名とは別に確かめたい。業務量、交代、休息とサービスの継続を合わせて見れば、支援が足りない仕事を検討しやすくなる。少人数の部署の結果が本人を特定することにも配慮し、組織の改善に必要な範囲で扱う方法を考える必要がある。
応援の担当が替わると、受け入れる部署は同じ説明を繰り返す必要が生じ得る。記録を残したことだけで引継ぎ済みとせず、次の人が必要な文書を開け、どこへ質問し、どこまで判断できるかを試す方法がある。説明に使う時間も勤務の負担として考え、疲れた担当一人に資料作成と案内を任せない。確認したことと、まだ引き継げない仕事を分ければ、応援の終了後に自治体へ戻る負担も検討しやすくなる。
担当が替わっても動く計画にする
受援の手引きは、計画を作るだけでなく、定期的な研修・訓練で検証と改善を続けるよう示す。人事異動時に引継ぎを兼ねた研修を行うことや、応援協定の連絡先・要請手順を点検することも含む。前の担当者が知っていた段取りを、新しい担当者も動かせる状態に保つ仕事である。
訓練では、応援が予定どおり到着する場合だけでなく、担当者が休む場面も考えたい。どの業務を渡せるか、誰が配置を変えるか、相談先へ連絡が通じるかを試す視点になる。これは本稿の訓練案であり、すべての自治体で既に実施された取組ではない。記録した困難を次の計画へ反映できるかまで確認したい。
訓練の振り返りでは、休む役の人が席を離れた後に、残った人だけで問い合わせへ対応できたかを確かめる案も考えられる。予定した応援が来なかった場面を含め、仕事の順番や連絡先を誰が替えたかを記録する。休息の実現を本人の努力としてだけ評価せず、組織の判断と準備のどこを直すかまで話し合いたい。
関連ガイド
成果指標の設計(このサイトの記事)では、活動の量と生じた変化を分けて考える。健康チェックの入力や応援派遣の人数を、休息や行政サービスの継続へ結びつけて評価する際にも役立つ。
写真はAI生成による庁舎の執務・休息スペースのイメージであり、実際の被災地や自治体職員を撮影したものではない。
この記事で使った統計の出典
- 1産業医科大学『熊本地震による被災地で災害産業保健支援活動を開始』(2026年) 出典を開く
参考書籍
評価を考えるための背景読書として、佐藤徹編著『エビデンスに基づく自治体政策入門: ロジックモデルの作り方・活かし方』(外部サイト、新しいタブで開きます)(公職研、2021年)を挙げる。本書の本文を根拠として、DOHATの効果や個々の職員の健康状態を判断しているわけではない。
残る問い
職員が休む判断をしたとき、引継ぎの時間をどこに確保できるだろうか。応援要請から到着までの間にも、住民への対応は続く。疲れた人が説明をすべて担当する形では、休息の前にさらに仕事が増える。平時の訓練で、担当が不在でも開ける業務記録や、他の人が判断できる範囲を試せるか。交代した人数だけでなく、元の担当者が連絡対応からも離れられたかを確認したい。受け渡せなかった仕事を記録し、残った人が担当した負担も次の交代へ反映できるだろうか。
健康チェックに答えにくい人へ、どのように支援を届けられるかも残る。時間がない、通信が使えない、回答が評価に使われるのが心配だといった事情は、入力件数だけから分からない。未回答を健康の証拠にせず、相談の目的と情報を見る人を伝え、別の連絡方法を用意できるだろうか。多くの回答が集まった日にも、把握できていない人がいる可能性を残して勤務を考える必要がある。代わりの相談方法を案内した後に、実際に使えたかを誰が確かめ、未確認の状態を誰へ渡すかも残る。
応援が終わった後には、復旧の仕事と通常の行政サービスが重なる。支援をいつ終えるかを派遣の期限だけで決めず、残る業務、休息、専門職へ相談できる経路を確かめられるか。災害時の経験から平時の人員配置を考えるには、誰が何を担当し、どの調整で負担が変わったかという記録も要る。支援者が健康を損なわずに住民へ応え続ける条件を、次の計画と訓練へ引き継ぎたい。派遣の終了を支援の完了とせず、自治体で続ける仕事と、なお応援が必要な仕事を分けて説明できるだろうか。
参考文献
熊本地震による被災地で災害産業保健支援活動を開始 — 産業医科大学 (2026). DOHATの開始、J-SPEED健康チェックと個別・集団支援
令和8年熊本地震 災害対応における行政職員・支援者の疲弊対策 — 災害産業保健チームDOHAT (2026). 全国保健師長会2026年8月26日掲載・PDF1頁、入力・専門職支援・日報の循環
大規模災害発生時における地方公共団体の業務継続の手引き — 内閣府(防災担当) (2023). 2023年5月改訂・45、54頁、参集・健康・交代・休息場所
市町村のための人的応援の受入れに関する受援計画作成の手引き — 内閣府(防災担当) (2025). 2025年4月改訂・9、19〜20、25、29頁、受入れ・健康・交代・引継ぎ・訓練
労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト(2023年改正版) — 厚生労働省 (2023). 自覚症状・勤務状況・判定と疲労蓄積予防
事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き — 厚生労働省 (2019). 1、4、12頁、取扱目的・権限・必要な範囲への加工・管理
読んだ後に考えてみよう
- 職員が休む判断をした後、誰が仕事を引き継ぎ、配置を変えるか。
- 健康情報を必要な支援へつなぎ、目的を越えた共有を防げるか。
- 応援が終わった後も、職員の休息と住民への対応を続けられるか。
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