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DVの相談を受けた後、誰が安全を確かめるのか

ヨコタナオヤ(横田直也)約9分で読めます

2025年の警察相談等は98,289件だが、被害者の実人数や保護完了人数ではない。保護命令違反の検挙88件と相談件数を割って、保護成功率を作ることはできない。警察・支援・裁判所の役割と、安全な連絡方法を確かめる。

ざっくり言うと

  1. 2025年の警察相談等は98,289件だが、被害者の実人数や保護完了人数ではない。
  2. 保護命令違反の検挙88件と相談件数を割って、保護成功率を作ることはできない。
  3. 警察・支援・裁判所の役割と、安全な連絡方法を確かめる。

記事の画像はAI生成のイメージであり、実際の人物や現場を撮影した写真ではありません。

何が起きているのか

2025年の警察相談等は98,289件だが、被害者の実人数や保護完了人数ではない。

相談できたことと、安全になったことは違う。配偶者などからの暴力、DVへの支援を考えるとき、この間にある仕事を見落とせない。

警察庁の公表資料によると、2025年の配偶者からの暴力事案等の相談等件数は98,289件。法の施行後で最多とされる。ただし、これは警察が受理した相談等の件数であり、被害者の実人数や被害全体の規模ではない。

個別事件で支援が届かなかった理由を論じるには、事前相談の内容や、その後の対応記録が必要となる。本稿ではそうした記録を取得していないため、特定の事件を情報共有の不備によるものと認定しない。ここでは、公開されている統計と支援の基本方針から、相談後の保護をどう評価するかを考える。

受付が増えたことは、支援への入口が使われていることを示す。一方、その先で危険が把握され、必要な保護が届き、生活を続けられる状態に移れたかは、別に確かめる必要がある。

警察の相談と検挙は、別の件数
2025年の項目件数数えていないもの
相談等98,289被害者実人数・保護完了人数
保護命令違反の検挙88保護命令の発令総数
関連する刑法犯・他の特別法犯の検挙8,358安全になった人の人数

相談等は2024年94,937件から3,352件増。2024年4月に脅迫の計上範囲が拡大。検挙件数を相談件数で割って保護成功率にしない。

出典・編集整理:警察庁・7/9ページ

背景と文脈

保護命令違反の検挙88件と相談件数を割って、保護成功率を作ることはできない。

相談件数の増加には、複数の読み方がある

相談が増えれば、被害の増加を疑う理由にはなる。しかし、相談しやすくなったことや、認知された対象が変わったことも件数へ影響しうる。数字が増えたという事実だけで、原因を一つに絞ることはできない。

警察庁の資料も、法改正による計上対象の変化を注記している。集計の範囲を読まずに年次の数字を比べれば、状況の変化と制度上の変化を混ぜてしまう。相談の多さを支援の失敗とも成功とも即断せず、何を数えたかから確認したい。

また、相談していない人は統計の外側にいる。受付件数だけで利用のしやすさを評価すると、連絡手段を持たない人や、相談の事実が相手に知られることを恐れる人の状況が見えにくい。入口の数と入口へ来られる条件は、別の情報なのだ。

支援機関には、異なる役割がある

内閣府の法制度解説は、通報、相談、保護、自立支援などの体制を示している。DVへの対応は、犯罪の捜査だけでなく、住まい、生活、家族の安全とも関わる。

警察、相談支援センター、医療、福祉、裁判所などは、同じ仕事をしているわけではない。ある機関が持つ情報を次の機関へ渡す際には、何を求めるのか、誰が対応するのかを明確にしないと、連絡したという記録だけが残りうる。

これは連携そのものが不足していると一律に断定する話ではない。役割が異なる以上、引き継ぐ情報と確認の責任を具体的にする必要があるということだ。機関が集まった回数を、そのまま被害者の安全へ換算することはできない。

共有の拡大が、常に安全を増やすわけではない

DV施策の基本方針は、関係機関の連携とともに、被害者の安全や個人情報への配慮を扱う。必要な情報が届かない危険と、所在などが必要以上に広がる危険を、同時に考える必要がある。

たとえば、支援のために転居先へ連絡したつもりでも、連絡の時間や方法が本人にとって安全とは限らない。これは特定の漏えい事案の説明ではなく、支援を設計するときの想定例だ。誰へ知らせるかだけでなく、本人へどう連絡してよいかも確認したい。

すべての情報をすべての機関へ共有する方法では、責任の所在がかえって曖昧になるおそれがある。必要な役割へ必要な情報を渡し、その受領と次の行動を確かめる。共有の量ではなく、安全のための具体的な仕事として扱うことが重要だ。

相談と検挙を、一つの到達率にしない

警察庁の資料の7・9ページでは、2025年の相談等件数98,289件とともに、保護命令違反の検挙88件、関連する刑法犯・他の特別法犯の検挙8,358件を示している。いずれも警察の活動に関する数字だが、数えている行為と対象が異なる。

88件は保護命令が出た総数ではなく、その違反を検挙した件数である。8,358件も保護を受けた人の人数ではない。したがって、これらを相談等件数で割って「保護成功率」や「相談後の放置率」と呼ぶことはできない。相談から保護へ進んだ同じ人の経過を追うには、別の記録が必要となる。

年次比較にも境界がある。相談等件数は2024年に94,937件、2025年に98,289件で、資料が示す増加は3,352件、3.5%だ。一方、2024年4月からは自由、名誉、財産に対する脅迫も計上している。2023年以前まで延ばす長期比較では、対応した事案の範囲が変わったことを併記しなければならない。

数字を分ける目的は、行政の成果を小さく見せることではない。受付が増えたこと、犯罪への対応が行われたこと、被害者の安全が続いたことを、それぞれ説明できるようにすることだ。窓口の利用が増えた年にも、その先で何が起きたかという問いは残る。

構造を読む

警察・支援・裁判所の役割と、安全な連絡方法を確かめる。

「紹介した」で支援を閉じない

ある窓口が相談先を紹介すれば、窓口の業務は終わったと記録できる。しかし、紹介された人が次の機関へ連絡できたか、事情をもう一度話せる状態か、その間に危険が変わったかは、紹介件数から分からない。

特に、支援が複数の制度をまたぐ場合には、申請と面談、保護と生活費、住まいと子どもの通学などが並行する。必要な対応が一つ進んでも、別の条件が整わなければ安全な生活へ移れないことがありうる。

そのため評価したいのは、紹介後のどこで対応が止まりやすいかである。本人の希望を無視して追跡を増やすのではなく、安全な連絡方法を確認しながら、必要な支援が届いたかを確かめる。行政側の処理完了と、本人側の利用成立を分ける考え方だ。

本人に、機関同士の調整を背負わせない

担当部署が違うたびに同じ事情を説明する負担は、単なる手間ではない。安全を確保しながら生活を維持する人に、制度の境界を理解して調整する役割まで求めることになる。

もちろん、情報の引き継ぎには本人の意向や法令上の扱いが関わる。だから、本人へ確認せずにまとめて渡すことを解決策にはできない。確認する事項を絞り、既に伝えた内容と追加で必要な内容を分けることなら検討できる。

誰が次の連絡をするのか、何の対応を依頼するのか、連絡がつかない場合に誰が判断するのか。こうした情報は、本人が制度の専門家でなくても分かる言葉で渡せる。連携という抽象語より、具体的な担当と仕事が支援の使いやすさを変える。

予防できた事例と、できなかった事例を両方読む

重大事件を起点に検証することは必要だが、それだけでは日々の支援のどこが機能しているかが見えにくい。逆に、保護できた事例だけを広報すれば、対応が届かなかった条件が隠れる。

必要なのは、結果だけで担当者を評価する前に、その時点で得られていた情報と選べた対応を確かめることだ。後から分かった事実を、最初から把握していたはずの情報として扱わない。警告の兆候をどう受け止め、どの判断へ進んだかを、順に見る必要がある。

個人を特定できる情報を公開せずとも、引き継ぎに要した時間や、生活支援へ進めなかった理由の類型は検討できる。ただし、本稿はそのデータを収集していないため、全国の遅延や失敗率を示すことはできない。現段階では、何を測るべきかという提案である。

DV支援は、相談窓口を知らせたところで完結しない。相談を受けた後、誰が何を引き受け、本人の安全をどのように確かめるのか。関係機関の一覧を、実際に動く仕事のつながりへ変えられるかが問われている。

紹介先の一覧から、役割の違いへ

内閣府の法制度解説と基本方針を照合すると、警察による危険への対応、支援センター等の相談や保護に関する支援、裁判所の保護命令、住まいや就労などの自立支援は、別々の役割として扱われている。すべての人が同じ順番を通る一本道ではなく、危険への対応と生活支援を並行して進める場合もある。

本人の安全を中心に、必要な支援が並行する

本人の希望・危険の状況・安全な連絡方法

担い手異なる役割
警察危険への対応、犯罪の捜査等
相談支援センター等相談、保護に関する支援、関係機関との調整
裁判所申立てに基づく保護命令
福祉・住まい・就労等の支援保護後の生活を維持する条件

役割を簡略化した図で、全員が順に通る手続ではない。情報共有や連絡は本人の安全と意向、法令上の扱いに配慮する。

出典・編集整理:内閣府・法制度の説明

基本方針は、手続の一元化や同行支援も扱っている。共通の様式を使う場合でも、記入する内容をどの手続にも必要な基本的事項に限るよう、個人情報の管理に留意を求める。何度も同じ説明をさせない工夫と、共有する情報を絞る工夫を、同じ支援の中で考えているのである。

この方針を踏まえると、引き継ぎの記録には、資料を送った日だけでなく、依頼した対応、受け手、本人に安全な連絡方法を確認したかを残す意味がある。これは本稿が提案する評価の観点で、全国でその記録が取れていると確認したものではない。

さらに、連絡がつかない理由を、本人の支援拒否と即断してはいけない。安全のために連絡手段を変えた場合も想定できる。一方、確認のための接触自体が危険を増やす場合もあるため、追跡を増やすだけでは解決しない。本人の希望と安全な接触条件を、機関の処理速度より先に考える必要がある。

保護命令を申し立てる支援ができても、住まいや生活費の条件は別に残りうる。相談、緊急対応、生活の維持を分けて記録すれば、進んだ対応と継続中の支援を同時に示せる。受付を閉じることを、その人の支援が終わったことへ読み替えない仕組みが求められる。

残る問い

安全な連絡条件を守り、引き継ぎ後の支援と継続する責任を確認できるかを問う。

相談等の件数が増えたことから、支援へつながる機会の広がりは検討できる。しかし、その後に必要な保護や生活支援が届いたかは、この集計では分からない。保護命令違反の検挙件数を組み合わせても、同じ人の経過を追う資料にはならず、保護の成功率を算出することはできない。

経過を把握する方法にも難しさがある。機関間で情報を共有すれば、同じ説明の繰り返しを減らせる可能性がある一方、共有先や接触方法が増えるほど管理すべき条件も増える。連絡がつかない場合に、支援が途切れたのか、安全のために連絡手段を変えたのかは即断できない。記録の空欄を埋めることより、本人の希望と安全な連絡条件を優先する評価が必要だ。

警察や支援機関が連携を検証するなら、引き継いだ対応と受け手、確認できた支援、継続中の課題を分ける方法が考えられる。緊急の保護、住まい、生活費などは、並行して動く支援として扱いたい。集計の公表では個人が推測されない範囲を検討し、追跡できなかった経過を一律に失敗や本人の拒否へ分類しないことも重要になる。ここで示したのは今後の評価案だ。機関の受付を閉じた後も、本人が必要とする支援を誰が引き受けるか。その責任を確認できる連携になっているだろうか。

参考資料

令和7年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等への対応状況 — 警察庁 (2026)

配偶者暴力防止法 — 内閣府男女共同参画局 (2026)

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等のための施策に関する基本的な方針 — 内閣府等 (2023)

データの読み方は統計・公開データを読むガイド(このサイトの記事)も参照できる。

この記事で使った統計の出典

  1. 1警察庁 令和7年における配偶者からの暴力事案等への対応状況(2025年) 出典を開く

読んだ後に考えてみよう

  1. 受付件数とともに、必要な保護や生活支援が届くまでの経過を確かめられるだろうか。

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