投票できない若者は、候補者を応援してもいけないのか
東京地裁は本人の運動禁止を違憲と判断し、第三者による使用禁止は憲法21条1項に反しないと判断した。判決要旨の主文は、確認の訴えの却下と、賠償請求を含む残りの請求の棄却を区別する。本人の表現と参加への強制を分け、判決を全面解禁と取り違えない。
ざっくり言うと
- 東京地裁は本人の運動禁止を違憲と判断し、第三者による使用禁止は憲法21条1項に反しないと判断した。
- 判決要旨の主文は、確認の訴えの却下と、賠償請求を含む残りの請求の棄却を区別する。
- 本人の表現と参加への強制を分け、判決を全面解禁と取り違えない。
記事の画像はAI生成のイメージであり、実際の人物や現場を撮影した写真ではありません。
何が起きているのか
東京地裁は本人の運動禁止を違憲と判断し、第三者による使用禁止は憲法21条1項に反しないと判断した。
政治について考えることは学ぶべきだが、候補者を応援することは年齢で禁じられる。この境界を、裁判所が問い直した。
2026年9月25日、東京地裁は、18歳未満の本人による選挙運動を禁じる公職選挙法137条の2第1項について、表現の自由に反するとの判断を示した。一方、第三者による使用を禁じる第2項は、憲法21条1項に反しないと判断した。FNNの報道によれば、一方で原告らの損害賠償請求は棄却されている。違憲という見出しと、訴訟の結論を分けて読む必要がある。
本稿では報道に加え、CALL4掲載の判決要旨を確認した。主文は、確認の訴えを却下し、賠償請求を含む残りの請求を棄却している。判決全文と、確定や控訴の状況は未確認である。これを「18歳未満の選挙運動が全面的に解禁された」という説明へ広げることはできない。
それでも、投票する資格と政治的な意見を表す自由を、同じ年齢線で区切るべきかという問いは残る。投票に参加できない期間を、政治について発言できない期間まで広げる理由は何か。学校の教育ともつながる問題だ。
| 公職選挙法 | 規制する行為 | 東京地裁の判断 |
|---|---|---|
| 137条の2・第1項 | 18歳未満の本人の選挙運動 | 憲法21条1項に違反 |
| 137条の2・第2項 | 第三者が18歳未満を使用して選挙運動 | 憲法21条1項に反しない |
2026年9月25日判決要旨に基づく。判決の確定、法改正、個別の活動の合法性を示す図ではない。
出典・編集整理:東京地裁・判決要旨(CALL4掲載)
背景と文脈
判決要旨の主文は、確認の訴えの却下と、賠償請求を含む残りの請求の棄却を区別する。
投票と運動は、同じ行為ではない
投票は、選挙の手続の中で代表を選ぶ行為である。選挙運動は、特定の候補者の当選を目的に支持を求める行為に関わる。さらに、一般的な政治の話題について意見を表すこともある。これらをひとまとめに「政治参加」と呼ぶと、どの行為が制限されているのかが見えなくなる。
文部科学省のQ&Aも、政治的活動と選挙運動の関係を区別して説明している。選挙運動の禁止から、政治について学び、意見を述べることの全面禁止を導くことはできない。
一方、政治的な発言なら何でも同じ扱いになるという理解も粗い。誰の当選を目指すのか、時期や方法はどうかなど、行為の具体的な状況が関わる。本稿は個別の活動の合法性を判断するための実践手引きではなく、一律の年齢制限が持つ構造を考えるコラムである。
学校は、政治を遠ざけるだけでは役割を果たせない
文部科学省の2015年の通知は、選挙権年齢の引下げを受け、政治的教養の教育と生徒による政治的活動の扱いを示している。18歳以上の高校生が有権者となることも背景にある。
ここで、学校が特定の党派を支持することと、生徒が自分の意見を持つことは異なる。教育機関の中立性を守るために、生徒の政治への関心まで遠ざければ、教えるべき内容と現実の接点が失われる。
もちろん、学校は生徒を党派的な動員から守る必要がある。教師の評価権や部活動の上下関係がある場では、自発的な参加と実質的な強制を区別しにくいこともありうる。だからこそ、「政治を持ち込まない」という一言で処理するのではなく、誰が誰へ何を求めたかを見なければならない。
保護することと、発言を禁じること
若者を守る目的には、圧力や利用から距離を取れるようにすることが含まれる。しかし、本人が関心を持ち、自分の判断で表現する場合まで、一律に禁止する理由が十分かは別の問いだ。保護の目的を説明するだけでは、手段の広さを正当化できない。
今回の報道が伝えるのも、本人の関心や価値判断に基づく参加を一律に禁じる根拠についての疑問である。判決要旨でも、選挙の公正や未成年者保護という目的を認めつつ、一律禁止の必要性と表現への制約の大きさを比べている。報道の短い見出しに加え、この比較を読むことが重要だ。
二つの禁止規定を、裁判所は分けて判断した
CALL4に掲載された東京地裁の判決要旨は、公職選挙法137条の2の第1項と第2項を分けて検討している。第1項は18歳未満の本人による選挙運動を禁じ、第2項は第三者が18歳未満の人を使用して選挙運動を行うことを禁じる。年齢による規制でも、誰の何を止める規定かが違う。
裁判所は、本人の選挙運動を一律に禁じる第1項と、その違反を理由とする制裁規定について憲法21条1項に違反すると判断した。一方、第2項の使用禁止規定については、意思決定へ影響を与える立場の者が本人の意に沿わない運動に従事させる可能性を挙げ、憲法21条1項に反しないと判断している。
若者の保護を不要とした判断ではない。本人の自発的な表現を全部止める方法と、他者による使用を止める方法を比べ、制約の大きさと必要性を分けたのである。学校の中立性を守る議論でも、本人の意見と、教師や先輩の圧力を同じものとして処理しない視点につながる。
違憲の理由と、訴えの結論は違う場所にある
判決要旨の主文では、地位確認と違法確認を求める部分は却下、その他の請求は棄却となっている。確認の訴えについては、どの選挙で、誰の当選を目的に、どのような選挙運動をするのかが具体化されておらず、直ちに法的地位を確定する利益を欠くと説明する。
賠償請求では、規定の違憲性とは別に、国会議員の立法行為や不作為が国家賠償法上違法となるかを検討した。その違法性は認められず、賠償は認容されていない。「違憲だから原告がすべて勝った」でも、「請求が退けられたから規定は合憲だった」でも、要旨を正しく読めない。
| 判断の対象 | 結果 | 要旨の説明 |
|---|---|---|
| 法的地位・違法の確認 | 訴えを却下 | 予定する選挙運動が具体化されず、確認の利益を欠く |
| 本人の運動禁止規定 | 理由中で違憲判断 | 一律禁止の必要性と表現への制約を比較 |
| 国家賠償 | 請求を棄却 | 立法行為・不作為の国賠法上の違法性を認めず |
これは三つの判断の区分。手続の順番や、全面解禁を表すものではない。
出典・編集整理:判決要旨・主文/争点1・2・4
構造を読む
本人の表現と参加への強制を分け、判決を全面解禁と取り違えない。
誕生日だけで、政治的な判断力が完成するわけではない
年齢線は制度運用を明確にする。誰が投票できるかを一律に決める方法として、その明確さには意味がある。だが、別の行為にも同じ線が必要かは、その行為の性質から考えるべきだ。
意見を述べることや、候補者の主張に賛否を示すことまで同じ線で禁じれば、年齢未満の人は政策の影響を受けながら、その選択に関わる表現を制限される。教育、通学、居場所、気候や将来の働き方など、若者自身の生活に関わる話題は少なくない。
この指摘は、若者なら常に政治情報の真偽を見分けられるという主張ではない。判断を誤る可能性は年長者にもある。制限を設けるなら、どの危険を防ぐのか、その危険に対して一律禁止が必要なのかを、行為ごとに説明する必要があるということだ。
参加を学ぶ場所と、党派を選ばせる場所
政治的な参加を学ぶ教育は、同じ候補者を応援する授業とは異なる。異なる立場の主張を比べ、理由を説明し、反対意見を受け取ることは、特定の投票先を指示せずに扱える。
それでも、現場では中立性を失う不安が強いと、選挙の話題自体を避けるほうが扱いやすくなる。その結果、制度を知る授業はあっても、現実の争点を自分の生活に結びつける機会が狭まるかもしれない。これは全国の学校で実測した結論ではなく、教育の設計上、確かめたい可能性である。
参加を支えるには、応援する自由と同じだけ、断る自由が必要だ。活動への不参加が成績や所属集団での扱いへ影響しないこと。匿名で困りごとを伝えられること。本人の意見と、保護者や教師の望む意見を分けること。年齢による禁止を見直す議論でも、この保護は残る。
地裁の判断を、制度変更の完了にしない
裁判所の判断、行政の対応、法改正、学校での指導の変更には、それぞれ異なる手続がある。報道の見出しだけで一度に変わったと説明すれば、読者が現行の扱いを誤解しかねない。
だから、記事に必要なのは「違憲か合憲か」の言葉を繰り返すことだけではない。どの規定について、どの裁判所が、どの訴訟で判断し、何が結論として残ったのかを示すことだ。確認の訴えの却下と、賠償請求の棄却も、その説明の一部となる。
若者の参加を評価する際も、活動した人数だけでは足りない。圧力を受けずに意見を表せたか、異なる立場を学べたか、断る選択が守られたか。動員の増加を、自発的な政治参加の改善と混同しないための視点である。
年齢線があること自体で思考を止めず、その線が何のために引かれているかを説明し直す。投票、運動、教育を分けて考えることで、若者を守りながら、その声を過度に閉じ込めない設計を議論できる。
学校が止めるべき支障を具体的にする
文部科学省のQ&Aの問7・問9は、学業への支障や、先輩が部活動の人間関係を使って後輩へ参加を強要する場合を例示する。また、校外活動の届出制を扱う際には、届け出た人の政治的信条の是非を問うものにならないよう配慮を求めている。
この区別を運用へ移すなら、特定の政策への賛否を評価する代わりに、誰がどんな立場で参加を求めたか、断ったときに不利益があるかを確認する必要がある。授業を欠席すること、他の生徒の学習を妨げることと、意見が学校側と違うことを同じ理由にしてはいけない。
もっとも、通知やQ&Aは今回の裁判後の改訂版として作られた資料ではない。本稿も判決全文ではなく、CALL4掲載の要旨に基づいている。控訴や確定の状況、行政の対応は引き続き確認が必要だ。若者が明日何をできるかという説明は、判決の理由と現行の規定、活動の具体的な態様を分けて行うべきである。
残る問い
制度の動向を確認し、参加への圧力を防ぐ運用が本人の意思を守るかを検証する。
判決要旨は、本人による選挙運動と、第三者が未成年者を使用する行為を分けている。この違いは表現と強制を考える手掛かりになるが、要旨だけで個々の活動の適法性まで判断することはできない。判決全文、控訴や確定の状況、行政の対応を確認し、判決理由と制度上の変更を分けて追う必要が残る。
一律禁止を見直す議論では、本人の自由をどのように支えるかが問われる。広く参加を認めるだけでは、教師や先輩、家族からの圧力を見逃すおそれがある。他方、保護の名目で学校への届出や監督を広げれば、政治的信条を理由に活動を止める運用につながる可能性もある。参加を許す範囲と、強制や学習への支障を止める条件を具体的に分けることが必要だ。
今後の確認では、行政による案内の更新を追うとともに、学校が活動への参加・不参加をどう扱うかを検討したい。生徒が断った後に不利益を受けないか、相談先を知っているか、制限の理由を説明されるかは、評価の観点になりうる。確認のために支持政党や候補者を集める必要があるかは慎重に考えるべきだ。これは全国の学校の実態を確認した結論ではない。若者を守る仕組みが本人の意思を消していないかを、当事者の声と具体的な運用から確かめるための問いである。
参考資料
18歳未満の選挙運動禁止は憲法違反、東京地裁が判断、請求は棄却 — FNNプライムオンライン (2026)
高等学校等における政治的教養の教育と生徒による政治的活動等について(通知) — 文部科学省 (2015)
政治的教養の教育と政治的活動等に関するQ&A(生徒指導関係) — 文部科学省 (2016)
データの読み方は統計・公開データを読むガイド(このサイトの記事)も参照できる。
未成年者選挙運動禁止規定違憲確認等請求事件 判決要旨(令和7年(行ウ)第91号) — 東京地方裁判所(CALL4掲載) (2026)
読んだ後に考えてみよう
- 一律禁止を見直す場合、本人の意見表明を守る仕組みと、参加の強制を防ぐ仕組みを同時に整えられるだろうか。
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