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高齢者の就業943万人、その数字は「働きたい」を数えていない

ヨコタナオヤ(横田直也)約9分で読めます

年齢別就業率は65〜69歳54.5%、70〜74歳36.2%、75歳以上12.6%。非正規76.1%の分母は役員を除く雇用者586万人で、就業者943万人とは違う。65歳までの雇用確保と、70歳までの就業機会確保の努力義務を分けて読む。

ざっくり言うと

  1. 年齢別就業率は65〜69歳54.5%、70〜74歳36.2%、75歳以上12.6%。
  2. 非正規76.1%の分母は役員を除く雇用者586万人で、就業者943万人とは違う。
  3. 65歳までの雇用確保と、70歳までの就業機会確保の努力義務を分けて読む。

記事の画像はAI生成のイメージであり、実際の人物や現場を撮影した写真ではありません。

何が起きているのか

年齢別就業率は65〜69歳54.5%、70〜74歳36.2%、75歳以上12.6%。

高齢者が働く人数は過去最多になった。ただし、その数字だけでは、働きたい人が働けているのか、働かなければ暮らせない人が増えているのかは分からない。

総務省統計局は2026年9月20日、敬老の日に合わせた統計を公表した。高齢者の就業についての資料によると、2025年平均の65歳以上の就業者数は943万人。増加は22年連続で、就業者総数に占める割合も13.8%となった。

公表は2026年だが、この就業者数は2025年の平均である。同じ発表で扱う人口の推計時点とそろっているわけではない。最新の発表という言葉を、すべての数字が今日の状態を示すという意味に置き換えてはいけない。

人手を確保する側から見れば、働く高齢者の増加は重要な変化だ。一方、働く本人にとっては、賃金や時間、体力との関係が生活を決める。人数の増加を、働く選択の広がりと同じものとして評価してよいだろうか。

年齢別の就業率:分母は各年齢の人口

2025年平均/共通目盛0〜100%

65〜69歳54.5%
70〜74歳36.2%
75歳以上12.6%

943万人の内訳割合ではない。非正規76.1%の分母は役員を除く雇用者586万人で、非正規は446万人。動機はこれらの統計だけでは分からない。

出典・編集整理:総務省統計局・図6/図8

背景と文脈

非正規76.1%の分母は役員を除く雇用者586万人で、就業者943万人とは違う。

働いているという状態と、理由は別である

就業者数は、仕事をしている人を数える統計である。その人数だけから、一人ひとりの理由を判断することはできない。収入、仕事のやりがい、人との関わり、家業の継続など、複数の理由が同じ人の中に重なる可能性もある。

だから、「高齢者全員が生活費の不足で働いている」という説明も、「働くことが好きだから増えている」という説明も、この統計だけでは成立しない。どちらも、人数から本人の事情へ飛躍している。

働く人の姿が見えることは大切だが、働けない人や、時間を減らしたい人も同じ制度の影響を受ける。健康や介護の事情で仕事を離れた人は、就業者の増加という見出しの外側にいる。雇用を広げる議論が、その生活を見落としてよい理由にはならない。

非正規という分類も、生活の評価とは一致しない

統計では、65歳以上の役員を除く雇用者のうち、非正規の職員・従業員が76.1%を占める。この分母は、65歳以上の就業者すべてではない。自営業者などを含む総数へ、そのまま割合を掛けるのは誤りとなる。

非正規の働き方には、短時間で働きたい人に合う場合もあれば、安定した収入や契約を求めても得られない場合もある。分類の比率だけで、すべてが望ましくないとも、すべてが本人の希望に沿うともいえない。

そこで必要になるのは、労働時間、収入、契約の見通し、仕事を選んだ理由を合わせて見ることだ。雇用の入口があるという事実を、その条件で生活が成り立つという証明へ変えてしまわないようにしたい。

65歳と70歳では、企業に求める措置が違う

厚生労働省の制度案内は、65歳までの雇用確保と、70歳までの就業機会確保を区別している。後者は努力義務であり、雇用以外の措置も含む。70歳の定年や、全員の同じ条件での雇用を義務づけたという理解ではない。

就業確保措置のQ&Aも、制度の導入を求めることと、個々の労働者の希望に一致する条件の提示を求めることは異なると説明する。制度があることと、自分に合う仕事があることの間には距離が残る。

この違いは、法律の説明だけの問題ではない。事業者にとっては対応する措置の範囲が変わり、本人にとっては契約や働く場所を考える前提が変わる。年齢の数字を一つにまとめるほど、その境界が分かりにくくなる。

65歳以上をまとめると、年齢差が消える

統計資料の年齢別就業率は、2025年平均で65〜69歳が54.5%、70〜74歳が36.2%、75歳以上が12.6%と示す。それぞれの年齢階級の人口に占める就業者の割合であり、943万人の内訳比率ではない。65歳以上全体の就業率26.0%と並べても、同じ分母の数字として足すことはできない。

65〜69歳では半数を超える人が働いているのに対し、75歳以上では割合が大きく下がる。人手不足を論じるときに「高齢者の活用」とまとめれば、仕事を続ける人の年齢や負担の違いが消えてしまう。就業率の差だけから健康状態を説明することはできないが、制度を考える際に対象を分ける必要は見える。

雇用形態でも分母をそろえたい。役員を除く65歳以上の雇用者586万人のうち、非正規は446万人、正規は140万人と資料は示す。76.1%という比率は、この二つの合計に対するものだ。自営業者や会社役員なども含む就業者943万人へ掛けて、非正規の人数を算出すると、違う集団を混ぜることになる。

資料の図8は、従業上の地位の割合では内訳の合計を分母とし、雇用形態の割合では正規と非正規の合計を分母にする旨を注記する。掲載人数は丸めた値でもあるため、本稿では掲載された446万人を使い、総数943万人と76.1%から別の人数を逆算しない。数字の大きさより先に、誰を数えたかを確かめる読み方である。

構造を読む

65歳までの雇用確保と、70歳までの就業機会確保の努力義務を分けて読む。

人手不足の解決と、本人の生活は同じ目的ではない

人手不足の職場が、経験を持つ高齢者を迎えることには意味がある。本人が希望する仕事を続けられれば、組織と働く人の利益が重なる。ただし、人手の確保が優先されるほど、本人が無理なく続けられるかという評価が後ろへ回るおそれがある。

求人の成立を成果とするなら、働き始めた後の時間や負担は別部署の仕事になりやすい。仕事の継続を成果とするなら、辞めたい、時間を減らしたいという希望が扱いにくくなる。何を成果と数えるかによって、聞き取る声が変わるのだ。

だからこそ、採用数や継続率と並べて、仕事量を調整できたかを見たい。休むことや離れることを失敗にしない評価があれば、雇用を増やす政策を、本人の選択を増やす政策へ近づけられる。これは効果を実測した結論ではなく、評価方法への提案である。

経験を生かすことと、負担を軽くすること

高齢者の経験が役立つという説明は多い。しかし、経験があるから体力の負担まで引き受けられるわけではない。仕事を渡す際には、何の判断に経験を使い、どの作業の負荷を減らすかを具体的に考える必要がある。

短時間勤務にしても、同じ量の仕事を短い時間へ詰めれば負担が減ったとはいえない。賃金を下げた理由が勤務時間なのか、役割なのか、年齢だけなのかも、区別して説明できるべきだ。働き方を変えることと、評価を曖昧にすることは同じではない。

一方、全員に同じ配慮を当てればよいわけでもない。体力や希望は人により異なる。年齢を手がかりに制度を整えつつ、実際の仕事を本人と調整することが必要になる。人数の大きな統計と、個別の条件を決める仕事を往復する視点だ。

働ける社会には、働かない期間を支える条件もいる

働く選択を増やすことは、働けない人の生活保障を弱める理由にはならない。休む余地がなければ、就業機会の増加が選択肢ではなく、生活を維持するための唯一の手段になる可能性がある。

その状態を確かめるには、就業者数の統計に加えて、世帯の収入や支出、健康、介護、本人の希望に関する情報が必要だ。本稿はそれらを全国で照合していないため、943万人のうち何人が働くことを強いられているかは示せない。

ただ、分からないという理由で人数の増加を無条件に成功と呼ぶのも適切ではない。人数で確認できる変化と、本人の生活で確認したい変化を分けて説明すれば、次に集めるべき情報は明確になる。

高齢者の就業増加を、社会の活力だけで語らないこと。働き続ける人、時間を減らす人、休む人が、それぞれの事情で選べるか。その問いを添えて初めて、過去最多という数字を生活の話へ戻せる。

雇用を続ける措置と、業務委託の機会は違う

厚生労働省の案内では、65歳までの雇用確保として、定年の引上げ、継続雇用制度、定年の廃止という措置を示す。70歳までの就業機会確保では、これらに加え、継続的な業務委託契約を結ぶ制度や、社会貢献事業に従事できる制度も選択肢になる。後者は努力義務であり、すべての企業に70歳までの雇用を義務づけるものではない。

65歳までの雇用と、70歳までの機会を比較
項目65歳まで70歳まで
措置雇用確保義務就業機会確保の努力義務
選択肢定年引上げ/継続雇用/定年廃止左の措置に加え、継続的業務委託や社会貢献事業等
本人の確認事項賃金・時間・役割等の条件雇用か否か、契約・費用負担・保護の条件

制度の比較。65歳までの措置は定年を65歳未満で定める事業主が対象。全員に希望どおりの仕事を保証する説明ではない。創業支援等措置には所定の手続・同意等がある。

出典・編集整理:厚生労働省・制度案内

雇用以外の選択肢が広がることには、経験を別の形で生かせる利点がありうる。ただし、契約の形が変われば、仕事の指示、費用の負担、収入の見通し、労働法による保護について確認する項目も変わる。制度上の就業機会があるという説明だけで、以前の雇用と同じ条件が続くと思わせてはいけない。

制度のQ&Aは、希望に合う条件を事業主が必ず提示しなければならないという意味ではないことも説明する。だからこそ、本人の希望する時間、必要な収入、実際に提示された仕事を分けて聞く必要がある。短時間を希望することと、その収入で暮らせることも一致するとは限らない。

就業者が増えたかという統計と、企業がどの措置を用意したかという制度評価は、そのまま本人の選択を説明しない。希望する条件へ移れた人、時間を減らせた人、仕事を離れた後も生活を維持できた人を別に確かめれば、労働力の確保と本人の生活を同じ数字にまとめずに議論できる。

残る問い

就業者数に加え、希望と提示条件、仕事を変える余地や離職後の生活を確かめる。

年齢別の就業率と雇用形態の内訳は、高齢者がどの程度働いているかを示す。しかし、希望して働く人と、生活のために条件を受け入れる人を、この数字だけで分けることはできない。働く機会を増やす政策が、本人の選べる条件も増やしたかを判断するには、希望と実際の仕事を対応させる情報が要る。

就業機会の確保には、雇用を続ける方法と、業務委託など雇用以外の方法がある。後者には働く形を広げる可能性があるが、収入の見通しや費用の負担、保護の条件を別に確かめる必要がある。雇用の継続でも、提示された時間や業務が本人の希望に合うとは限らない。制度を用意した企業の割合だけで、本人の選択が広がったと評価しないことが大切だ。

今後の調査では、企業が提示した条件と本人の希望を分け、時間を減らせたか、仕事を変えられたか、離職後の生活を維持できたかを追う案が考えられる。就業中の人だけを調べると、条件が合わず辞めた人を捉えにくいため、調査対象の設計も問われる。年齢や健康状態、世帯の条件が異なる人をまとめて「満足」と数える方法にも注意したい。行政や企業が労働力の確保を評価する際、働き続ける人数と、働き方を変える余地を併せて示せるか。人数の増加を本人の生活の改善へ結びつけるには、その間の選択を見ていく必要がある。

参考資料

統計トピックスNo.149 高齢者の就業 — 総務省統計局 (2026)

高年齢者雇用安定法の改正―70歳までの就業機会確保 — 厚生労働省 (2021)

Q&A集 高年齢者就業確保措置関係 — 厚生労働省 (2026)

データの読み方は統計・公開データを読むガイド(このサイトの記事)も参照できる。

この記事で使った統計の出典

  1. 1総務省統計局 統計トピックスNo.149 高齢者の就業(2025年平均) 出典を開く

読んだ後に考えてみよう

  1. 次の就業者数の増加とともに、働く時間や条件を変えられた人の姿も見えるだろうか。

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