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日本版DBSは、犯罪歴を確認すれば完成するのか

ヨコタナオヤ(横田直也)約9分で読めます

現職者の確認期限は、義務対象事業で施行から3年、認定事業で認定から1年以内。犯歴がある場合の本人への事前通知と訂正請求は、情報管理の重要な工程。犯罪歴の確認と、日常の面談・相談・防止措置を別々に確かめる。

ざっくり言うと

  1. 現職者の確認期限は、義務対象事業で施行から3年、認定事業で認定から1年以内。
  2. 犯歴がある場合の本人への事前通知と訂正請求は、情報管理の重要な工程。
  3. 犯罪歴の確認と、日常の面談・相談・防止措置を別々に確かめる。

記事の画像はAI生成のイメージであり、実際の人物や現場を撮影した写真ではありません。

何が起きているのか

現職者の確認期限は、義務対象事業で施行から3年、認定事業で認定から1年以内。

子どもを守るための確認が、働く人の情報を守る仕事を増やす。日本版DBSの施行準備で見えてくるのは、この二つの仕事を同時に引き受ける必要だ。

こども家庭庁の従事者向け資料は、2026年12月25日以降、対象となる事業者で性犯罪前科の確認などが必要になると説明している。日本版DBSとは、教育・保育などの場で、対象従事者の特定の性犯罪前科を確認する仕組みを指す通称である。逮捕歴や捜査の記録を広く集め、人物全体を採点する制度とは異なる。

資料が並べるのは、前科の確認だけではない。被害を早く把握するための研修や面談、子どもの安全確保も含まれる。犯罪歴確認という入口が整っても、その結果だけで施設の日常が安全になるわけではないのだ。

ここで考えたいのは、照会件数を増やせば安全も増えるのか、という問いである。必要な確認を確実に行うことと、情報を必要以上に持たないこと。そして子どもが困ったとき、確認結果にかかわらず声を受け止めること。制度の成否は、その間の仕事にかかっている。

日本版DBS:対象者によって確認期限が違う
対象原則の確認期限再確認
新規の雇入れ・配置転換対象業務の従事開始まで5年ごと
義務対象事業の現職者施行から3年以内5年ごと
認定事業の現職者認定から1年以内5年ごと

施行は2026年12月25日。新規従事者には例外的な猶予措置もある。日常の防止策は確認待ちの間も必要。

出典・編集整理:こども家庭庁・概要5/18ページ

背景と文脈

犯歴がある場合の本人への事前通知と訂正請求は、情報管理の重要な工程。

確認する範囲には境界がある

制度の概要資料は、安全確保措置、犯罪事実確認、情報管理措置を区別している。学校などの義務対象事業者と、認定を受ける民間事業者の仕組みも同一ではない。「子どもに関わる仕事なら、誰でも同じ方法で直ちに照会する」という理解では、対象や手続を取り違える。

前科が確認されなかったという結果も、将来の加害が起きないという証明にはならない。確認には制度で定める対象と範囲があり、日常の言動や子どもからの相談を置き換えるものではないからだ。逆に、照会対象の情報を扱う側には、本人の生活と仕事に重大な影響を与えうる責任が生じる。

情報の取得を目的にしないことが、この責任の出発点となる。何のために確認し、どの業務判断に使い、誰まで見られるのか。その範囲を決めずに、安心の材料として情報を集め続ければ、子どもの安全対策とは別の危険を抱え込む。

保管するほど安全になるとは限らない

概要資料は、犯罪歴情報を適正に管理する規程を整えることや、漏えいなどの重大な事態が発生した場合の報告を求めている。確認記録の廃棄・消去も制度の一部だ。取得から保管、利用、廃棄までの経路を扱う必要がある。

たとえば、小規模な事業所で採用と現場の管理を同じ人が担うことはありうる。その場合にも、確認のために知った情報を職員間の雑談へ広げてよいわけではない。紙の置き場所、共有フォルダの閲覧範囲、異動後の権限を具体的に決める必要がある。これは想定例であり、特定事業者で漏えいが起きたという指摘ではない。

負担を減らすために全員へ一括共有する方法は、手軽でも適切とは限らない。判断に必要な人へ、必要な範囲だけを渡す。そのための権限設定は、業務を止めるための障害物ではなく、制度を続けられるようにする土台だ。

子どもの声は別の経路から届く

こども家庭庁の横断指針は、法の対象となる事業者以外も、防止策を検討する際に参照することを想定している。照会の対象かどうかと、子どもを守る必要があるかどうかは、同じ境界ではない。

照会の仕組みを使えない場でも、相談を受ける人や、密室での接触を避ける工夫、訴えがあったときの対応は必要になる。制度の対象外を、安全対策の対象外にしてしまうなら、仕組みの外側にいる子どもほど説明を受けにくくなる。その点を忘れたくない。

同じ施行日でも、確認期限は違う

概要資料の5・18・46ページを並べると、準備に必要な時間が具体的になる。新たな雇入れや配置転換では、原則として従事開始までに犯罪事実確認を行う。一方、義務対象事業の現職者には施行から3年以内、認定事業の現職者には認定から1年以内という期限がある。一度確認した人にも、5年ごとの再確認が必要だ。

義務対象事業の施行時現職者は約280万人と見込まれ、法定期限は2029年12月24日とされる。公立学校では教育委員会が対象者を把握して分散方法を決め、それ以外の施設等では都道府県を27か月の申請枠へ割り振る計画だ。これは確認済みの人数ではなく、申請を集中させないための見込みと計画である。

この違いを消して「12月25日から全員確認済み」と伝えると、保護者は制度にない保証を受け取ってしまう。準備の進捗は、新規従事者の確認と、現職者の分散申請を分けて示すほうがよい。日常の面談や相談体制は、その間も必要になる。

構造を読む

犯罪歴の確認と、日常の面談・相談・防止措置を別々に確かめる。

照会の終了を、安全対策の終了にしない

事業者が「確認済み」と記録できれば、管理上は区切りがつく。しかし、子どもの生活には同じ区切りがない。授業や送迎、個別指導は翌日も続き、新しい職員が入り、相談の相手も変わっていく。

そのため、制度の実施状況を確認件数だけで評価するのは狭い。対象者を漏らさず確認できたかは必要な指標だが、それとは別に、子どもが相談先を知っているか、職員が気になる言動を報告できるか、被害の疑いが出たときに接触を避けられるかを確かめたい。いずれも、本稿が効果を実測した項目ではなく、今後の評価に必要な観点である。

確認済みという表示が、子どもの訴えより強い証拠として扱われるなら本末転倒だ。「あの人は確認を通っている」という理由で相談を軽く扱わないこと。この原則は、採用手続の担当者だけでなく、日常の教育や保育を担う人へも共有される必要がある。

小規模な現場の負担を、管理能力へ変える

大規模な組織なら担当部署を置けても、小さな事業所では仕事の追加そのものが負担になりうる。だからといって、規程のひな型を配れば解決するとは限らない。担当者が、その内容を自分の職場の机や端末に置き換えられるかが問題になる。

必要なのは、情報を見られる職員の一覧や、退職・異動時の権限解除、紙の持ち出し、廃棄の確認を、普段の業務へ落とせる説明だ。相談窓口の存在から準備不足を断定することはできないが、窓口に寄せられる論点を制度運用の改善へ返すことはできる。問い合わせの多さだけでなく、同じ困りごとが再び起きるかを見たい。

現場の負担を減らす支援と、本人情報へのアクセスを絞る措置は両立しうる。共同の研修や手順書を用意しても、個々の犯罪歴情報まで組織の外へまとめて渡す必要はない。共通化してよいのは手順であり、誰の何を知ったかという情報とは分けて考えられる。

安全と更生を、雑な二者択一にしない

子どもの安全を優先することは、情報の無制限な流通を認めることではない。接触回避など必要な対応を行うことと、職場外へ情報を広めることは異なる。安全確保の理由を説明しながら、扱う情報の範囲も狭く保つ。その設計は、制度への信頼を維持する条件でもある。

もっとも、規程が存在するだけで実行が保証されるわけではない。担当者が変わったときに何を引き継ぐのか、緊急時に誰が判断するのか、誤った取扱いが見つかったとき誰が訂正するのか。書面の整備と、使える運用を分けて確かめる必要がある。

日本版DBSが目指す安全は、確認書だけで完成しない。確認する情報の境界と、子どもの声を受け取る経路を、同じ現場で守れるか。それが施行準備の中心に置かれるべき問いである。

本人へ先に知らせる手続が、誤りを止める

同じ概要資料の16・17ページは、照会する記録の範囲と回答経路を示す。特定性犯罪のうち、拘禁刑の執行終了から20年未満、執行猶予判決の確定から10年未満、罰金刑の執行終了から10年未満が対象となる。刑の種類によって起算点が違うため、「過去20年の記録を全部調べる」とまとめるのも正確ではない。

対象の犯歴がある場合には、事業者へ確認書を交付する前に本人へ通知し、訂正請求の機会を設ける。本人が戸籍情報をこども家庭庁へ提出し、同庁が法務省へ照会する経路も示されている。必要な確認は行いつつ、採用担当者へ最初からすべての資料を渡す手続にはしていない。

犯歴が確認された場合の通知・訂正経路
  1. 1. 事業者が申請

    戸籍情報は本人がこども家庭庁へ提出

  2. 2. 国の機関間で照会

    こども家庭庁から法務省へ照会、回答

  3. 3. 本人へ事前通知

    訂正請求の機会を設ける

  4. 4. 事業者へ確認書を交付

    訂正請求せず2週間経過した場合など、所定の手続後

制度概要の簡略図。訂正請求等の分岐をすべて示すものではない。本人が期間中に内定辞退した場合、確認書は交付されない。

出典・編集整理:こども家庭庁・概要17ページ

本人への通知は、子どもの安全対策と対立する単なる手間ではない。人違いや記録の誤りを訂正する機会がなければ、必要な防止措置と、誤情報による就業上の不利益を区別できないからだ。確認を速く処理することだけを評価すれば、この工程を短縮したくなる圧力も生じうる。

事業者側で確認したいのは、申請が何件終わったかに加え、結果を扱う職員を限定できたか、必要な措置を決める責任者がいるかという点である。保護者へは体制と進捗を説明し、個人の記録は広げない。その二つを同時に守る運用が、確認書への信頼を支える。

残る問い

照会の進捗と相談のしやすさを分け、共通化する手順と個人情報の境界を検証する。

施行後に確かめたいのは、確認の網が広がることで、子どもの声が届く経路も強くなるかという点だ。照会の進捗は制度を実施するうえで必要な情報だが、相談しやすさや初動の適切さを直接示さない。相談が増えても、被害が増えたのか、声を上げやすくなったのかは件数だけでは判断できない。

事業者の負担を抑える方法にも選択がある。手順や研修を共通化すれば、各施設が一から準備する負担を減らせる。一方、個人の犯罪歴情報まで広く共有すれば、閲覧者を限定する設計と衝突する。どこを共通化し、どの判断を各現場に残すか。支援の使いやすさと情報の管理を、別々に評価する必要がある。

今後の評価案として、事業者は確認期限への対応とともに、相談先の周知、訴えを受けた後の対応、担当者交代時の権限管理を確かめられる。こども家庭庁や自治体には、現場の困りごとを集約し、研修や案内の改善へ返す役割が考えられる。ただし、集計のために個人の記録や被害の詳細を新たに集めるなら、目的と必要性の吟味が先に要る。確認を終えた施設で、子どもが安心して声を上げられるか。その問いを、書類上の進捗の外へ追い出さない運用が求められる。

参考資料

こども性暴力防止法について(概要) — こども家庭庁 (2026)

こども性暴力防止法について(従事者向けリーフレット) — こども家庭庁 (2025)

児童対象性暴力等の防止等の取組を横断的に促進するための指針 — こども家庭庁 (2026)

データの読み方は統計・公開データを読むガイド(このサイトの記事)も参照できる。

読んだ後に考えてみよう

  1. 施行後、照会件数の増加と、子どもが相談できる環境の改善を別々に確かめられるだろうか。

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