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国立美術館への交付金が増えた年に、国立映画アーカイブへの交付金の配分は大きく減った。同じ年、同館には5,500人を超える人から1.5億円を超える支援が集まった

更新: ヨコタナオヤ(横田直也)約11分で読めます

国立映画アーカイブは2026年6月から9月までクラウドファンディングを行い、5,500人を超える人から1.5億円を超える支援を集めた。同じ年度、国から国立美術館への運営費交付金は84.6億円で、前年度から約3.2億円増えている。文化庁によれば、各館への配分は法人が決めており、国立映画アーカイブへの交付金の配分は、交付金と自己収入のバランスを全館の間で是正した結果、大きく減った。文化庁が国費で賄うとする仕事と、集めたお金の使い道を並べて読む。

ざっくり言うと

  1. 国立映画アーカイブは2026年6月25日から9月23日までクラウドファンディングを行い、5,500人を超える人から1.5億円を超える支援を集めた
  2. 国から国立美術館への2026年度の運営費交付金は84.6億円で、前年度から約3.2億円増えた。一方、国立映画アーカイブへの交付金の配分は前年度より大きく減った
  3. 文化庁は、収集・保管、教育普及、調査研究には国費を措置していると説明している。集めた支援金の使い道には、資料の収集・保存・修復・復元が含まれている

何が起きているのか

国立映画アーカイブのクラウドファンディングと、交付金をめぐる文化庁の説明

国立映画アーカイブは、2026年6月25日から9月23日までクラウドファンディングを行った。目標は1億円で、8月15日に1.5億円のネクストゴールを設けた。終了の告知には、「5,500人を超える多くの方々から、ネクストゴールの1.5億円をも超えるご支援をいただくことができました」とある。

募集を始めた6月25日には、同館で記者会見があった。美術手帖によれば、会見には栩木章館長、冨田美香学芸課長、独立行政法人国立美術館の田中正之理事長、応援メッセージを寄せた映画監督の諏訪敦彦が登壇した。財政の事情については、次のように書いている。

会見での説明によれば、同館には現在、政府からの予算削減によって「国費に依存しない財政構造」への転換と「基幹事業を保つ」ことの両方が早急に要求されている。

文化庁は、募集が始まった翌日の6月26日に、この募集をめぐる報道について事実関係を説明する文書を出した。報道機関の名前も記事の名前も、文書には書かれていない。

文書に日付の表示は無いが、ページを開いたときにサーバーが返す最終更新日時は6月26日18時1分(日本時間)である。翌27日にYahoo!ニュース エキスパートに載った記事も、出典欄に「文化庁 2026/6/26(金)」と書いている。書き出しの一文はこうである。

国立映画アーカイブは、令和8年6月25日に「使命は人類の記憶を繋ぐこと。国立映画アーカイブの活動にご支援を」という題名で、クラウドファンディングを開始しましたが、その報道において、政府が国立映画アーカイブの運営費交付金を削減したと一部誤解を招く報道がありましたので、事実関係をお知らせさせていただきます。

文書によれば、国から独立行政法人国立美術館に対して措置した令和8年度の運営費交付金は84.6億円である。物価高騰分への対応等を新たに行っていて、前年度から約3.2億円増えた。国立映画アーカイブへの交付金の配分は前年度より大きく減少していると聞いている、と文化庁自身が書いている(この点は中期目標を原文で読んだ記事(このサイトの記事)でも触れた)。

東京新聞は、2026年9月25日にこの募集を国立美術館の値上げとあわせて取り上げた。記事は「2026年度の同館の運営費交付金は約3億5800万円で、前年度より44%も減った」と書き、同館は減額を受けてクラウドファンディングを始めたと伝えている。同じ記事には、ISVD代表理事の横田直也がについて述べたコメントも載っていて、横田はこの記事の筆者でもある。

同じ年度に、国から法人への交付金は増え、法人から国立映画アーカイブへの交付金の配分は減ったことになる。

背景と文脈

国立映画アーカイブの成り立ちと、交付金が各館に配分される仕組み

国立美術館の6番目の館

国立映画アーカイブの公式サイトは、成り立ちを次のように書いている。1952年に国立近代美術館の映画事業(フィルム・ライブラリー)として始まり、1970年に東京国立近代美術館フィルムセンターが開館した。2018年に、独立行政法人国立美術館の6番目の館として設立された。

クラウドファンディングのページでは、同館は自らを「日本で唯一の国立の映画専門機関」と説明している。2025年度には、上映会に7万6,422人(目標は6万3,000人)、展覧会に2万1,131人(目標は1万5,500人)が入り、どちらも目標を上回った。

法人が決める各館への配分

は、国がに渡す資金である。国立美術館の場合、国が渡すのは法人全体への額で、7つの館と本部にどう分けるかは法人が決める。文化庁の文書は、法人の運営が運営費交付金や自己収入などで構成される予算で賄われていること、各館への予算配分は法人が決めていることを、次のように書いている。

独立行政法人国立美術館全体の運営は、運営費交付金や自己収入などで構成される予算で賄われていますが、独立行政法人国立美術館が設置する国立映画アーカイブを含む各館への予算配分は、独立行政法人の業務運営の自主性・自律性の観点から、独立行政法人国立美術館が決定しており、館によって前年度から増減があります。

国立映画アーカイブへの交付金の配分が減った理由については、こう書いている。

今年度の国立映画アーカイブの予算配分は、独立行政法人国立美術館において、運営費交付金と自己収入のバランスを全館の間で是正した結果、前年度より運営費交付金の配分が大きく減少していると聞いております。

続けて、文化庁は法人に、各館の状況を踏まえて各館にふさわしい配分を行ってほしいと書いている。

告知が挙げた「収入の多角化」

国立映画アーカイブのサイトにあるクラウドファンディングの告知は、実施の理由を書く前に、費用の事情を挙げている。保存にかかる費用については、こう書いている。

フィルムの損傷・劣化を防ぐためには、室温2~10℃、相対湿度35~40%の環境を維持する必要があり、年間を通して多くの光熱費を要します。

続けて、フィルムや資料を適切に扱える専門家が欠かせず、その専門的技術の継承が急務であること、企画上映や展示の機能を強化するにも資金が必要であることを書く。そのうえで、次のように続ける。

そこでこのたび、活動の安定的な継続と将来への発展に向け、収入の多角化と拡大に取り組む一環として、クラウドファンディングを実施します。

この告知ページは、「交付金」「減額」「予算」という言葉を使っていない(2026年9月25日に保存した本文で数えた)。

「多角化」は、中期目標にある語でもある。中期目標は「財源の多角化による自己収入の拡大」を掲げている。同じ節に「クラウドファンディングの活用も含む積極的かつ戦略的なファンドレイジングの展開による寄附の獲得を進め」ともある(中期目標を原文で読んだ記事(このサイトの記事))。

一方、寄付を集めたREADYFORの募集ページは、メディア掲載情報として日本経済新聞の記事を載せている。見出しは「国立映画アーカイブ、活動存続へクラファン 運営費交付金の削減受け」である。新聞の見出しで同館の文ではないが、同館の募集ページに並んでいる。

同じ募集ページは、「独立行政法人国立美術館へのご寄付」に寄附金控除が適用され、寄付の受領日はREADYFORからの入金日(2026年11月10日予定)になると書いている。各館への配分を決める法人が、この寄付の受け手でもある。6月25日の会見にも、この法人の理事長が登壇した。

集めたお金の使い道は「国立映画アーカイブの運営費全般(資料の収集・保存・修復・復元、上映・展示等の公開事業等)」である。目標に届かなかった場合も「国立映画アーカイブの運営規模が直ちに縮小することはありません」と書いている。

終了の告知には、こうある。

国立のアーカイブがクラウドファンディングを行うことについて、私たち自身も葛藤と不安の中で議論を重ね、張り詰めた緊張の中でスタートしましたが、直後からさまざまなご意見やご声援を多数いただき、想像を上回る多くの方々が国立映画アーカイブの在り方や活動を応援くださっている状況に、日々、大きな励ましと刺激、エネルギーをいただきました。

構造を読む

文化庁が国費で賄う仕事と支援金の使い道。館ごとの配分額と計算のしかたは、確認できた公開資料に見当たらない

文化庁が国費で賄う仕事と支援金の使い道

文化庁の文書は、中期目標の自己収入の目標について、次のようにも書いている。

中期目標における自己収入目標の設定は、展示に係る費用に対する自己収入の割合の目標を示したものであり、収集・保管、教育普及、調査研究といった事業に対しては、しっかりと国費を措置しております。

同館の告知が示した支援金の使い道と並べる。

文化庁の説明

2026年6月26日の文書。国費を措置する仕事は収集・保管、教育普及、調査研究

各館への配分
国立美術館が決定
同館への交付金の配分
前年度より大きく減少と聞く

国立映画アーカイブの告知

クラウドファンディング、2026年6月から9月

支援金の使い道
運営費全般
実施の理由
収入の多角化と拡大の一環
集まった支援
5,500人超から1.5億円超

同館の告知は、運営費全般の内訳として、資料の収集・保存・修復・復元と、上映・展示等の公開事業を挙げている。どの事業にいくらの交付金が配分されたのかは、どちらの文書にも書かれていない。

文化庁の説明と、国立映画アーカイブの告知

文化庁は国費を「しっかりと」措置していると書き、同館は支援金を資料の収集や保存にも使うと説明している。支援金は運営費全般に充てるもので、収集と保存はその内訳なので、二つの文書は食い違っていない。

2026年度に収集や保存に回る国費が前年度からどれだけ減ったかは、どちらの文書にも書かれていない。美術手帖によれば、今年度の映画にかかわる収集、保存、復元、ニュープリント製作等の予算は1億2300万円で、前年度より削減される。前年度の額は、同じ記事に書かれていない。

「国が措置した額」と「館に届いた額」

文化庁の説明が示す84.6億円は、国から法人全体への額である。館ごとの額は、この文書に書かれておらず、同館の告知にも出てこない。文化庁の文書は「大きく減少」と書くだけで、額も割合も示していない。

館ごとの額は報道が伝えている。東京新聞は約3億5800万円で前年度より44%減と書いた。映画ナタリーは、6月25日の会見で冨田学芸課長が令和8年度の交付金配分額を3億5856万円と説明したと書いている。

このため、国の予算が増えたという説明と、館の交付金が減ったという報道は、どちらも成り立つ。法人への額と館への額を同じ「交付金」という言葉で話していることが、食い違って見える理由の一つになっている。

どちらの額で見るかで、同じ年度の話が逆向きに読める。館の事業にどれだけ回るかを知るには、館への配分額に何が含まれるのかが要る。その内訳は、確かめられた資料に書かれていない。

配分の計算のしかた

文化庁は、交付金の配分が減った理由を「運営費交付金と自己収入のバランスを全館の間で是正した結果」と書く。どの数字をどう揃えたのかは、その文書に書かれていない。

配分の大枠は、中期目標に書かれている。中期目標は「各館へ配分する予算の一部を留保して財源を捻出し、各館の自己収入額の実績や伸び率に応じて配分するインセンティブ予算を設定する」としている。どれだけを留保するのかと、2026年度に各館へいくら配分したのかは、書かれていない。

決算のあとには、附属明細書に運営費交付金収益の館別の表が載り、館ごとの列とは別に法人本部の列がある。ただしこの表の数字は会計上の収益で、年度の初めに決めた配分額とは別のものである。

中期目標は、展示事業に係る費用に対する自己収入の割合を、法人全体で2030年度に65%以上とする目標を置いている。各館の割合が5年間の4年目に4割を下回っている等社会的に求められている役割を十分に果たせていないと考えられる館は、再編の対象になる(中期目標を原文で読んだ記事(このサイトの記事))。

文化庁の質問と回答は、再編は閉館を想定しておらず、各館の展示収入が4割未満になることだけですぐに再編の対象にするものではないと答えている。配分の是正が、この目標やインセンティブ予算とどう関係しているのかは、文化庁の文書に書かれていない。

同館の自己収入については、中期目標に同館だけに向けた一節がある。国立映画アーカイブの節は、次のように書いている。

テレビなどのメディアへの映像提供の強化、所蔵作品に加え借用作品を用いた上映の強化、特別な観覧料金を設定した上映の企画、施設の積極的な貸出等を通じて自己収入の増加を図る。

同館の観覧料金は、2027年1月5日から、所蔵作品展(一般)が250円から500円に、所蔵作品上映(一般)が520円から1,000円になる(中期目標を原文で読んだ記事(このサイトの記事))。

同館の告知によれば、フィルムの保存には、温度と湿度を保つ費用が年間を通してかかる。自己収入を物差しに含む配分で、この費用がどう扱われたのかは、各館への配分額の全体と計算のしかたが示されるまで確かめられない。

見ておきたいこと

2027年度の同館への交付金の配分が2026年度と比べてどうなるかと、国立美術館が決算の前に各館への配分額と計算のしかたを示すかどうかを見ておきたい。

集まった寄付が、同館の自己収入として2027年度の配分の計算に入るかどうかも確かめたい。中期目標は、寄附の獲得を「財源の多角化による自己収入の拡大」の節に置いている。インセンティブ予算が見る「自己収入額」に寄付が入るかどうかは、本文から分からない。

中期目標は、入館者数や入場料収入などの詳細な開示を進めるとしている。配分の開示も、その延長で求められてよい。財源を分けて持つ考え方と、クラウドファンディングの位置づけは、NPOのキャッシュフロー設計(このサイトの記事)でも整理している。

残る問い

同じ年度に、国から法人への交付金は増え、法人から国立映画アーカイブへの交付金の配分は大きく減った。同じ年、同館には5,500人を超える人から支援が集まった。

来年度の交付金の配分は、どの数字をもとに決まるのか。その数字は公表されるのか。

この記事で使った統計の出典

  1. 1国立映画アーカイブ、クラウドファンディング「使命は人類の記憶を繋ぐこと。国立映画アーカイブの活動にご支援を」(2026年9月) 出典を開く
  2. 2文化庁「国立映画アーカイブのクラウドファンディング実施に関する報道について」(2026年6月) 出典を開く
  3. 3東京新聞「こちら特報部」(2026年9月25日) 出典を開く
  4. 4独立行政法人国立美術館「令和7年度業務実績報告書」別表3・別表4(2026年6月) 出典を開く
  5. 5美術手帖「国立映画アーカイブが1億円を目標としたクラウドファンディングを開始。予算削減が迫る「唯一の国立機関」の現在地」(2026年6月) 出典を開く
  6. 6映画ナタリー「国立映画アーカイブが映画遺産を守るためクラウドファンディング開始、目標金額は1億円」(2026年6月) 出典を開く
  7. 7文部科学省「独立行政法人国立美術館が達成すべき業務運営に関する目標(中期目標)」(2026年2月) 出典を開く
  8. 8独立行政法人国立美術館「独立行政法人国立美術館の所蔵作品展における観覧料金の改定について」(2026年9月) 出典を開く

参考書籍

参考文献

国立映画アーカイブのクラウドファンディング実施に関する報道について — 文化庁 (2026). 文化庁

クラウドファンディング「使命は人類の記憶を繋ぐこと。国立映画アーカイブの活動にご支援を」 — 国立映画アーカイブ (2026). 国立映画アーカイブ

使命は人類の記憶を繋ぐこと。国立映画アーカイブの活動にご支援を — 国立映画アーカイブ (2026). READYFOR

当館について — 国立映画アーカイブ (2026). 国立映画アーカイブ

令和7年度業務実績報告書 — 独立行政法人国立美術館 (2026). 独立行政法人国立美術館

第25期事業年度(令和7年度)附属明細書(セグメント情報の補足事項) — 独立行政法人国立美術館 (2026). 独立行政法人国立美術館

独立行政法人国立美術館の所蔵作品展における観覧料金の改定について — 独立行政法人国立美術館 (2026). 独立行政法人国立美術館

独立行政法人国立美術館が達成すべき業務運営に関する目標(中期目標)(令和8年2月27日) — 文部科学省 (2026). 文化庁

国立博物館・国立美術館の次期中期目標につきまして — 文化庁 (2026). 文化庁

国立美術館が入館料を大幅値上げ…「稼げる展示」求める国の姿勢に「文化軽視の国は先進国じゃない」の声 — 東京新聞 (2026). 東京新聞(2026年9月25日)

国立映画アーカイブが1億円を目標としたクラウドファンディングを開始。予算削減が迫る「唯一の国立機関」の現在地 — 美術手帖編集部 (2026). 美術手帖(2026年6月26日)

国立映画アーカイブが映画遺産を守るためクラウドファンディング開始、目標金額は1億円 — 映画ナタリー編集部 (2026). 映画ナタリー(2026年6月25日)

国立映画アーカイブがクラファンに頼る窮地の報道に、文化庁は事実誤認を指摘。そもそもの問題は? — 斉藤博昭(映画ジャーナリスト) (2026). Yahoo!ニュース エキスパート(2026年6月27日)

読んだ後に考えてみよう

  1. 法人全体への交付金が増えた年に、一つの館への配分が大きく減ることを、どう説明すればよいか
  2. 国費で賄うとされる仕事に支援金が使われるとき、その支援金は何を補っているのか
  3. 館ごとの配分を決める基準は、誰に向けて公表されるべきか

この記事の用語

運営費交付金
国が独立行政法人に、業務の財源として交付する資金。根拠は独立行政法人通則法第46条で、政府は予算の範囲内で、業務の財源に充てるために必要な金額の全部または一部を交付できる。法人は、税金などで賄われる資金であることに留意し、適切かつ効率的に使うよう努めなければならない(同条第2項)。
中期目標
独立行政法人通則法第29条に基づき、主務大臣が3年以上5年以下の期間で定め、中期目標管理法人に指示して公表する業務運営の目標。期間、国民に提供するサービスその他の業務の質の向上、業務運営の効率化、財務内容の改善などを定める。法人はこの目標に基づいて中期計画を作成し、主務大臣の認可を受ける(同法第30条)。
独立行政法人
独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)及び個別法(国立美術館なら独立行政法人国立美術館法)の定めるところにより設立される法人。公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務や事業のうち、国が自ら主体となって直接に実施する必要はないが、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの、または一つの主体に独占して行わせることが必要なものを行う(通則法第2条)。法律は中期目標管理法人・国立研究開発法人・行政執行法人の3つの型を定めており、国立美術館と国立文化財機構は中期目標管理法人にあたる。

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