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一般社団法人 社会構想デザイン機構

少子化の本丸は子育て支援ではない — 社会支出140兆円の配分を問う

ヨコタナオヤ(横田直也)
約9分で読めます

2025年の出生数は70.6万人。社人研の推計より17年前倒しで70万人台に到達した。だが問題の本質は「子育て支援の不足」にはない。政策分野別に見た社会支出は「高齢」49.4兆円に対し「家族」11.5兆円。4.3対1の配分構造こそが少子化を固定化している。団塊ジュニアの「失われた機会」と、シルバーデモクラシーが封じる配分見直しの回路を分析する。

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ざっくり言うと

  1. 2025年出生数70.6万人(速報値)は社人研の中位推計を17年前倒しで下回り、出生数の減少加速度が制度設計の前提を根本から崩している
  2. 政策分野別の社会支出は「高齢」49.4兆円に対し「家族」11.5兆円で、比率は4.3対1。子育て支援金の初年度6,000億円は「高齢」の1.2%に過ぎない
  3. 団塊ジュニア約800万人の出産適齢期に非正規雇用が拡大し、男性では非正規雇用者の未婚率が全年齢階級で就業者全体を上回るという形で「結婚できる経済基盤」が構造的に失われたことが根本的原因である

何が起きているのか

出生数70.6万人は社人研推計を17年前倒しで下回り、出生数の減少速度そのものが制度の前提を壊している

誰もいない小学校の教室
出生数70.6万人。10年で32%減少し、社人研の推計を17年前倒しで突破した

2025年の日本の出生数は 705,809人(速報値)。10年連続で過去最少を更新した。

この数字の衝撃は、単に「減った」ことにあるのではない。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が2023年に公表した中位推計では、出生数が70万人台に落ち込むのは 2042年 とされていた。現実はその推計を 17年前倒し で突破した。

出生数の減少加速度を10年単位で見ると、その勢いが際立つ。2015年に 1,005,721 人だった出生数は、2022年に 770,759 人、2024年には 686,173 人と、統計史上初めて70万人を割り込んだ。10年間で 32%の減少 である。

実績値
社人研推計(2023年・中位)
100.6
15
97.7
16
94.6
17
91.8
18
86.5
19
84.1
20
81.2
21
77.1
22
72.7
77.9
23
68.6
77.4
24
70.6*
76.9
25
17年前倒し70万人台到達は2042年予測だった
* 速報 出典: 厚生労働省 人口動態統計確定数 / 国立社会保障・人口問題研究所 2023年推計(中位)。2025年は速報値。
出生数の実績推移と社人研推計の乖離(2015-2025年)

合計特殊出生率も歯止めがかからない。2024年の確定値は 1.15 で、過去最低を記録した。2015年の1.45から10年で0.3ポイント低下したことになる。東京都に至っては2023年時点で0.99と、自治体単位で初めて1.0を下回った。

社人研の推計が「2023年に底を打ち、2024年は77.9万人に持ち直す」と見込んでいたことを考えると、 推計の前提そのものが崩壊している と言わざるを得ない。

背景と文脈

団塊ジュニアの機会損失、社会支出の「高齢」対「家族」4.3対1、シルバーデモクラシーの構造が少子化を固定化している

新旧の住宅が混在する日本の郊外住宅街
政策分野別の社会支出は「高齢」49.4兆円に対し「家族」11.5兆円。4.3対1の開き

団塊ジュニアの「失われた機会」

少子化の「構造的原因」を理解するには、1990年代に遡る必要がある。

団塊ジュニア(1971〜1974年生まれ)は毎年200万人以上が誕生し、4年間の合計出生数は約800万人に上る。人口動態の観点からは、この世代が出産適齢期を迎える1990年代後半〜2000年代前半こそが、出生数を回復させる最後の大きな機会であった。

ところが、この世代を待ち受けていたのは 就職氷河期 と非正規雇用の拡大であった。1993年にバブル崩壊後の就職難が本格化し、1996年に労働者派遣対象業種が拡大、1999年には原則自由化、2003年には製造業への派遣が解禁された。

政策面では、1994年に策定された エンゼルプラン が少子化対策の柱とされた。しかしその内容は保育所の増設や時間延長保育など、事実上 「保育プラン」 にとどまった。未婚者や非正規雇用者の経済基盤という根本問題にはまったく手が届かず、「少子化対策=保育所対策」という狭い認識が以後30年間続くことになる。

結果はデータに刻まれている。団塊ジュニアの50歳時点の未婚率は男性 28.25%、女性17.81%に達した。人口規模が最も大きかった世代の約3割が生涯未婚に至ったことは、出生数に壊滅的な影響を与えた。

社会支出の分野別配分 — 4.3対1の非対称性

2023年度の社会支出(OECD基準)の総額は 139兆8,561億円。これを政策分野別に見ると、構造の歪みが浮き彫りになる。

最も大きいのは「保健」の 59兆333億円42.2%)で、これは年齢では分かれておらず全世代に配られる。次いで「高齢」が 49兆3,574億円35.3%)。一方「家族」は 11兆5,122億円8.2%)にとどまる。「高齢」対「家族」の比率は 4.3対1 である。

社会支出 総額 139兆8,561億円
4.3 : 1高齢 対 家族
高齢35.3%
49兆3,574億円
保健59.0兆円
42.2%
高齢49.4兆円
35.3%
家族11.5兆円
8.2%
家族8.2%
11兆5,122億円
「高齢」との比較
「高齢」の約23%に相当
保健59兆333億円42.2%
出典: 国立社会保障・人口問題研究所「令和5年度 社会保障費用統計」政策分野別社会支出。「保健」は全世代に配られる支出で、年齢では分かれていない。
政策分野別の社会支出(2023年度実績・OECD基準)

2026年4月に徴収が始まった 子ども・子育て支援金 は、初年度約 6,000億円、2028年度に約1兆円の規模となる。被用者保険加入者の平均負担は月約450円である。

この規模感を「高齢」49.4兆円と比較すると、構造の非対称性が明確になる。初年度の6,000億円は「高齢」の1.2%、満額の1兆円でも2.0%にすぎない(この割り算は本記事のもの)。子育て支援金が少子化対策として「焼け石に水」と批判される理由は、金額の絶対値ではなく、 配分構造の中での相対的な位置づけ にある。

シルバーデモクラシー — なぜ配分は変わらないのか

世代間配分が固定化される背景には、投票行動の世代間格差がある。

2021年の衆議院選挙における年代別投票率を見ると、20代が 36.50% であるのに対し、60代は71.38%で、約35ポイントの差がある。直近の2024年衆院選でも20代は 34.62% にとどまった。

有権者に占める高齢者の比率が高まり、かつその世代の投票率が圧倒的に高いことで、高齢者向け施策が優先される政治構造が生まれる。これが シルバーデモクラシー と呼ばれる現象である。選挙で勝つためには高齢者票が不可欠であり、年金・医療の給付削減は政治的自殺行為となる。結果として、世代間配分の見直しという「正論」は、民主主義の回路を通じて実現することが極めて困難になっている。

世代会計 — 5,000万円の生涯格差

島澤諭氏の試算による は、この非対称性を生涯を通じた数値で可視化する。

団塊世代(1946〜50年生まれ)は生涯で +1,820万円 の純受益(給付が負担を上回る)を得る一方、1990年代生まれは ▲3,000万円 の純負担となる。両世代の差は約5,000万円に及び、日本の世代間不均衡は国際的に見ても突出している。ジュニア世代の負担はシニア世代の 2.69倍(169%増) に達し、米国の1.51倍、ドイツの1.92倍を大きく上回る。

「少子化を止めたい」と言いながら、若い世代に5,000万円の純負担を課す構造を維持し続けるのは、制度としての自己矛盾である。

構造を読む

世代間配分の転換、結婚できる経済基盤の構築、人口減少前提の制度再設計という3つの処方箋

若者が集うコワーキングスペース
「増やす」より「縮み方を設計する」。70万人時代を前提とした制度再設計が求められている

処方箋1: 社会保障の世代間配分を変える

少子化対策の議論は、いつも「何を増やすか」(児童手当の拡充、保育の無償化、育休の延長)から始まる。しかし、社会支出139兆8,561億円の中での配分構造に踏み込まない限り、追加的な子育て支援は 高齢者向け支出の「余白」の中での微調整 にとどまる。

政府も形式的には「全世代型社会保障」を掲げ、2022年には 全世代型社会保障構築会議 を設置した。2022年10月には後期高齢者医療の窓口負担が一定所得以上で1割から2割に引き上げられた。しかし対象は高齢者全体の約20%(約370万人)にとどまり、高齢者3経費の構造を変えるには至っていない。

国際比較でも差は大きい。こども家庭庁の資料が並べる家族関係社会支出の対GDP比は、スウェーデン 3.42%、フランス 2.71%、ドイツ 2.42%、イギリス 2.41% に対し、日本は 2.01%(2019年度は1.74%)である。

問題は「もっと予算を増やせ」ではない。 139兆8,561億円の配分をどう変えるか が問われている。

  • スウェーデン3.42%
  • フランス2.71%
  • ドイツ2.42%
  • イギリス2.41%
  • 日本2.01%2019年度は1.74
  • アメリカ0.62%
家族関係社会支出の対GDP比(こども家庭庁 参考資料集、2019年・日本は2020年度)

処方箋2: 「結婚できる経済基盤」を作る

学術研究が一貫して示すのは、現金給付の出生率効果は限定的だという事実である。山口慎太郎教授(東京大学)は「現金給付は出生率を上げるが、それほど強い効果はない」と指摘し、保育サービス充実や男性育休取得促進の方が効果的だと述べている。

保育や育休より前の問題

しかし、保育や育休以前の問題がある。 そもそも結婚に至れない 若者が増えていることである。

男女共同参画白書は「男性では『非正規雇用者』の未婚率が、全年齢階級を通じて『就業者全体』の未婚率と同値または上回っている」と書いている(平成26年版・第2図)。第2図は年齢階級別のグラフで、階級ごとの数値は印字されていないが、20代後半から40代前半にかけて非正規と正規の差がはっきり開く形になっている。雇用形態による未婚率の格差は、年収の差だけでは説明できない。年収500万円超の非正規男性ですら全国平均以上の未婚率を示すデータがあり、 雇用形態そのものが結婚市場での障壁 になっている可能性がある。

年収300万円は「家族形成の壁」とされる閾値であり、20代非正規男性の約79.5%がこの水準を下回っている。子どもを産むかどうか以前に、「結婚できる所得水準に到達できない」という経済構造の問題がある。

柴田悠准教授(京都大学)のOECDデータ分析では、出生率に有意に正の効果をもつ要因は 移民受け入れと保育充実のみ であり、児童手当は有意ではなかった。つまり、児童手当の増額という「見えやすい」施策よりも、若年層の雇用の質を根本から改善する方が、少子化対策としての費用対効果は高い可能性がある。

処方箋3: 人口減少前提の制度再設計

出生数が仮に今後回復したとしても、その効果が生産年齢人口に反映されるまでには20年以上かかる。つまり、向こう20年間は出生数70万人前後を前提とした制度設計が不可避である。

RIETIは2025年の研究で「いかに建設的な縮小をするか」が本当に必要な政策であると提言した。日本学術会議も2020年の提言で「人口縮小社会を幸福な社会として設定する」ことを求めている。

2024年に 人口戦略会議 が公表した「消滅可能性自治体」は 744自治体 に上る。学校統廃合は2年間で293件が実施され、地方の金融機関・スーパー・ガソリンスタンドの閉店が相次いでいる。

「少子化を止める」という目標設定自体を問い直す時期に来ている。 「増やす」ことに固執するのではなく、「縮み方を設計する」 というアプローチへの転換が求められる。それは人口の回復を諦めることではなく、出生数70万人時代に持続可能な社会の形を具体的に描くことである。


この記事の着想元

本記事は、以下の発信を着想元に、ISVDが独自のデータ分析を行ったものである。

  • 木下斉氏のnote投稿「2025年の出生数は70万5,809人」(2026年4月)

この記事で使った統計の出典

  1. 1日本経済新聞(厚生労働省速報値)(2025年) 出典を開く
  2. 2厚生労働省 令和7年人口動態統計月報年計(概数)第3表(2015年) 出典を開く
  3. 3厚生労働省 令和7年人口動態統計月報年計(概数)第3表(2022年) 出典を開く
  4. 4厚生労働省 令和7年人口動態統計月報年計(概数)第3表(2024年) 出典を開く
  5. 5厚生労働省 人口動態統計(2024年) 出典を開く
  6. 6国勢調査(2020年) 出典を開く
  7. 7国立社会保障・人口問題研究所「令和5年度 社会保障費用統計」政策分野別社会支出(2023年度) 出典を開く
  8. 8こども家庭庁(2026年度) 出典を開く
  9. 9総務省 年代別投票率推移(2021年) 出典を開く
  10. 10総務省 年代別投票率推移(2024年) 出典を開く
  11. 11未来工学研究所 世代会計試算(2023年) 出典を開く
  12. 12未来工学研究所 世代会計比較(2023年) 出典を開く
  13. 13こども家庭庁 参考資料集(家族関係社会支出の対GDP比の国際比較)(2019年) 出典を開く
  14. 14こども家庭庁 参考資料集(家族関係社会支出の対GDP比の国際比較)(2020年度) 出典を開く
  15. 15人口戦略会議(2024年) 出典を開く

参考文献

令和5(2023)年度 社会保障費用統計国立社会保障・人口問題研究所 (2025年)

日本の将来推計人口(令和5年推計)国立社会保障・人口問題研究所 (2023年)

日本の世代間格差と世代会計島澤諭 (2023年)

少子化対策と出生率に関する研究のサーベイ ―結婚支援や不妊治療など社会動向の変化と実証―内閣府経済社会総合研究所(ESRI) (2023年)

国政選挙における年代別投票率の推移総務省 (2024年)

消滅可能性自治体分析レポート人口戦略会議 (2024年)

参考書籍

訂正履歴

  1. 社会支出の総額が、結論部分に旧いまま残っていました。

    訂正前
    給付費135.5兆円
    訂正後
    社会支出139兆8,561億円

    誤った理由 本文は 2026-08-18 に直していましたが、ogLead・keyPoints・SNS 文面など、読者が最初に目にする場所は旧いままでした。

  2. 出生数、社会保障給付費、世代間の配分、非正規男性の未婚率を、出典どおりに改めました。

    訂正前
    2015年に100.6万人/2024年には68.6万人/2023年度の社会保障給付費135.5兆円/子ども・子育て関連は約10兆円(7.4%)/日本の1.6%/30代の非正規男性の未婚率は75.6%で、正規雇用の30.7%と比べ約2.5倍
    訂正後
    1,005,721人/686,173人/139兆8,561億円/高齢59兆333億円(42.2%)ほか、出典の分類どおりの内訳

    誤った理由 社会保障給付費は年度と分類を取り違えており、「子ども・子育て関連 約10兆円」は出典の分類に無い括り方でした。未婚率75.6% / 30.7% も出典で確認できませんでした。

読んだ後に考えてみよう

  1. 社会保障費の世代間配分を見直すとしたら、具体的にどの支出項目をどう変えるべきだと考えるか
  2. 「結婚できる経済基盤」を作るために、雇用政策と住宅政策のどちらが優先度が高いか
  3. 出生数70万人時代を前提に、自分が住む自治体はどのような「縮み方」を設計すべきか

この記事の用語

世代会計
生まれた年ごとに、生涯を通じて政府へ払う額と政府から受け取る額を計算し、差引きを比べる手法。ある年度の収支ではなく一生分で見るため、世代間の負担の偏りが金額で表れる。

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