一般社団法人社会構想デザイン機構
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社会保障費130兆円の行方 — 部門別構造を読む

ヨコタナオヤ
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社会保障給付費は2023年度に135.5兆円に達した。年金56.4兆円(41.6%)、医療45.6兆円(33.6%)、福祉その他33.5兆円(24.7%)。130兆円超の社会保障費を部門別・制度別に分解し、各部門が果たす受益の実態、GPIF・介護給付費・OECD国際比較・世代間の受益と負担の非対称まで横断的に読み解く。

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ざっくり言うと

  1. 2023年度の社会保障給付費は135.5兆円で、年金41.6%・医療33.6%・福祉その他24.7%の3部門で構成される
  2. 介護給付費は制度創設の2001年度から2.6倍以上に膨張し、2023年度は11.5兆円を突破した
  3. 日本の社会支出対GDP比は23.5%でOECD平均(約21%)を上回るが、フランス(30%超)やスウェーデンには大きく及ばない

何が起きているのか

社会保障給付費135.5兆円の規模と3部門の内訳

社会保障給付費の内訳(2023年度)

総額: 135.5兆円
対GDP比 22.76%国民一人当たり 108.9万円
41.6%
33.6%
24.7%
年金
56.4兆円
厚生年金・国民年金・共済年金など
医療
45.6兆円
医療保険給付・後期高齢者医療・公費負担医療など
福祉その他
33.5兆円
介護(11.5兆円)・児童手当・生活保護・障害福祉・雇用保険など
社会保障給付費の内訳(2023年度)— IPSS「令和5年度社会保障費用統計」より構成

国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)が公表した2023年度の社会保障給付費は、135兆4,928億円であった。前年度の137兆8,337億円から1.9%の減少となったが、これは新型コロナウイルス感染症対策関連経費の縮小によるものであり、構造的な膨張基調に変わりはない。

内訳を部門別に見ると、 年金56兆3,936億円(41.6%)で最大を占め、続いて 医療45兆5,799億円(33.6%)福祉その他33兆5,192億円(24.7%)である。年金と医療だけで全体の75%を占めており、この二大部門の動向が給付費全体の方向を決定づけている。

対GDP比は22.76%、国民一人当たりの給付費は108万9,600円である。つまり、赤ちゃんから高齢者まで含めた全国民の平均で、一人あたり年間約109万円の社会保障サービスが給付されている計算になる。

一方、国の一般会計予算における社会保障関係費は、2025年度(令和7年度)で38兆2,938億円に達し、一般歳出の約56%を占める。国の予算の過半が社会保障に投じられているという事実は、財政運営の自由度を著しく狭めている。

本稿では、「130兆円超の社会保障費がどこに使われているのか」を部門ごとに分解し、その構造的な増加要因、国際比較における日本の位置、そして世代間の受益と負担の非対称を読み解く。

背景と文脈

年金・医療・介護それぞれの構造的増加要因と国際比較

135.5兆円が生み出す受益 — 見えにくい「リターン」

社会保障費の内訳を読む前に、この支出が国民に何をもたらしているかを確認しておく必要がある。

日本の国民皆保険制度により、医療費の自己負担は原則3割(70歳以上は2割、75歳以上は1割)に抑えられている。仮にこの制度がなければ、高額な手術や入院で個人が破産するリスクは飛躍的に高まる。実際、国民皆保険を持たないアメリカでは、医療費が個人破産の主要因の一つである。

年金については、OECDの分析によれば、公的年金が存在しない場合の日本の高齢者貧困率は現行の約20%から50%超に跳ね上がるとの推計がある。年金56.4兆円は単なる「支出」ではなく、高齢者の生活基盤を支える社会インフラである。

介護保険制度は、それまで家族(とりわけ女性)が無償で担ってきた介護労働を社会化した。制度がなければ、約691万人の要介護者の生活は家族の犠牲の上に成り立つことになり、介護離職による経済損失も甚大となる。

つまり、135.5兆円の社会保障費は「消えている」のではなく、国民の生活リスクを社会全体で分散するという明確なリターンを生み出している。以下の部門別分析は、この受益の前提の上に読まれるべきである。

年金 — 最大部門56.4兆円の構造

社会保障給付費の4割超を占める年金は、現役世代の保険料で高齢世代の給付を賄う賦課方式を基本としている。厚生年金保険料率は2017年に18.3%(労使折半)で固定されたが、少子高齢化による支え手の減少が給付水準を構造的に圧迫し続けている。

年金財政の安定化装置として機能するのがGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)である。2024年度末時点の運用資産額は249兆7,821億円、2001年度からの累積収益は約155兆円に達する。ただし、GPIFは年金給付費全体の約1割を担う「バッファ」であり、年金財政の9割は現役世代の保険料と国庫負担で賄われている。積立金が潤沢であっても、賦課方式の構造的課題が解消されるわけではない。

年金の世代間格差は深刻である。1940年生まれの給付・負担倍率が2.3倍であるのに対し、2000年代生まれは0.6倍に低下するとの試算がある。マクロ経済スライドによる基礎年金の調整期間は2057年度まで続く見込みであり、若年世代ほど実質的な給付水準の低下を被る構造になっている。

医療 — 45.6兆円を押し上げる4つのドライバー

社会保障給付費の3分の1を占める医療費は、以下の4つの構造的要因によって増加し続けている。

  1. 高齢化: 75歳以上の後期高齢者の一人当たり医療費は、65歳未満の約4倍に達する。高齢化率が上昇するほど、医療費は機械的に増加する
  2. 医療技術の高度化: 高額な新薬や先進医療の登場が単価を押し上げる。オプジーボのような免疫チェックポイント阻害剤は1人あたり年間数百万円の薬剤費を要する
  3. 薬剤費の膨張: 国民医療費に占める薬剤費の割合は約22%に達し、後発医薬品の使用促進にもかかわらず総額は増加傾向にある
  4. 生活習慣病の増加: 糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病関連医療費は、医療費全体の約3割を占める

医療費48兆円の構造で詳述したとおり、後期高齢者医療制度の財源の約4割は現役世代からの支援金であり、積立金は給付費のわずか0.23か月分にすぎない。医療費の持続可能性は、年金以上に切迫した課題である。

介護 — 制度創設22年で2.6倍の膨張

2000年に創設された介護保険制度は、当初の予想を上回るペースで給付費が膨張している。2023年度の介護給付費は11兆5,139億円で過去最高を更新し、制度創設翌年の2001年度(4兆3,783億円)から2.6倍以上に膨張した。

年間受給者数は介護サービスが566万6,500人、介護予防サービスが124万4,600人で、合計約691万人が制度を利用している。介護保険料率は社会保険料の30年史で整理したとおり、2000年の0.6%から2023年には1.82%に上昇し、わずか23年で約3倍になった。

介護給付費の推移は、今後さらに加速する見込みである。2025年には「団塊の世代」が全員75歳以上になり、要介護認定率が急上昇する年齢帯に突入する。厚生労働省の推計では、2040年度の介護給付費は約25.8兆円に達するとされており、現在の2倍以上の規模になる。

「福祉その他」33.5兆円の中身

3部門のうち最も見えにくいのが「福祉その他」である。この部門には以下が含まれる。

  • 児童手当・子育て支援: 少子化対策として拡充が続く。2024年10月からは所得制限が撤廃され、高校生まで対象が拡大
  • 生活保護: 被保護世帯は約164万世帯。捕捉率の低さが構造的課題
  • 障害福祉サービス: 障害者総合支援法に基づくサービス給付費は増加傾向
  • 雇用保険・労災保険: 失業給付や育児休業給付金を含む

2026年に導入される子ども・子育て支援金(医療保険に上乗せする形で徴収、初年度0.23%)は、国民負担率をさらに押し上げる要因となる。

国際比較 — 日本はどこに位置するのか

OECD基準の社会支出で見ると、2023年度の日本の社会支出総額は139兆8,561億円、対GDP比は23.50%である。

OECD加盟国の公的社会支出の平均は対GDP比約21%であり、日本はこれをやや上回る。しかし、フランス(30%超)、オーストリア、フィンランドなどの欧州大陸型福祉国家と比較すると大きな開きがある。

政策分野別に見ると、日本の特徴は「高齢」への集中にある。年金支出の対GDP比は9.3%でOECD平均(7.7%)を上回る一方、家族関連支出は長年低水準にとどまってきた。「高齢者に手厚く、現役世代・子どもに薄い」という配分構造が、少子化対策の遅れと連動している。

公的社会支出 対GDP比特徴
フランス約31%OECD最高水準。家族給付が充実
スウェーデン約26%普遍主義型。現役世代向け給付も手厚い
日本約23.5%高齢者向けに偏重。家族給付が相対的に薄い
アメリカ約23%公的支出は中程度だが私的支出が大きい
OECD平均約21%

構造を読む / 社会構想の種

世代間の受益と負担の非対称

社会保障給付費135.5兆円の最大の構造問題は、受益と負担の世代間非対称にある。

内閣府の世代会計分析(2001年時点の推計)によれば、60歳以上の世代は生涯で約6,500万円の受益超過となる一方、将来世代(20歳未満およびこれから生まれてくる世代)は約5,200万円の負担超過となる。その差は1億円を超える。ただし、この推計は2001年時点のものであり、その後のマクロ経済スライド導入(2004年)、消費税率引き上げ(2014年・2019年)、子ども・子育て支援の拡充等の制度改正を反映していない。現時点では格差の規模は変動している可能性があり、数値そのものよりも「世代間に構造的な非対称が存在する」という方向性を読み取るべきである。

この非対称は、高齢者への給付(年金56.4兆円+医療の相当部分+介護11.5兆円)が社会保障給付費の大半を占めることと、その財源を現役世代の保険料と国債(将来世代の負担)で賄っていることから生じている。

厚生労働省の試算でも、20歳代から50歳代の現役層はいずれも負担超過であり、年間360万円の受益超過にある60歳以上の高齢層との断層は明白である。

「規模」の問題か「配分」の問題か

社会保障給付費135.5兆円という規模は、国際比較で見れば「突出して大きい」わけではない。対GDP比23.5%はOECD平均をわずかに上回る程度であり、フランスの30%超に比べれば控えめですらある。

ここで浮かぶ問いは、規模そのものが問題なのか、それとも配分の偏りが問題なのかということである。日本の社会保障は「高齢・年金・医療」への配分が厚く、「現役世代の生活保障・子育て・教育・住宅」への配分が相対的に薄い。この配分構造が、少子化の加速、若年層の将来不安、現役世代の負担感の増大と連動していることは多くの研究者が指摘している。一方で、高齢化率が世界最高水準にある日本において高齢者向け支出が大きいこと自体は、制度として不自然ではない。規模と配分の双方を複合的に検討する必要がある。

持続可能性への問い

2025年度の社会保障関係費38.3兆円は、すでに国の一般歳出の56%を占めている。高齢化のピークは2040年代に到来し、社会保障給付費は現行制度のままでは更なる膨張が避けられない。

権丈善一『もっと気になる社会保障』において、社会保障を「市場経済を補完する仕組み」として捉え直すことの重要性を説いている。給付の「削減」だけではなく、負担と給付の再配分、現役世代への投資的支出の拡充、そして制度の透明性向上が求められる。

130兆円超の社会保障費の大半は、年金・医療・介護として高齢者の生活基盤を支え、残りは子育て・生活保護・障害福祉として社会のセーフティネットを形成している。これらの支出が国民生活にもたらす受益は巨大であり、単純な「削減」論では問題は解決しない。問われるべきは「いくら使っているか」ではなく「誰に、何のために、どのような根拠で配分しているか」である。


参考文献

読んだ後に考えてみよう

  1. 自分が受け取る社会保障サービスの総額を、一度でも推計したことがあるだろうか?
  2. 年金・医療・介護のうち、最も持続可能性に危機感を覚えるのはどの部門か?
  3. 社会保障給付の「規模」と「配分」のどちらが本質的な問題だと考えるか?
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