一般社団法人社会構想デザイン機構

障害福祉150億円不正の構造 — 就労継続支援A型の制度設計はなぜ悪用を許したか

ヨコタナオヤ
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2026年3月、大阪市は株式会社絆ホールディングス傘下4事業所に指定取消処分を下し、110億円超の返還を請求した。認定された全国不正総額は約150億円。就労継続支援A型の「就労移行支援体制加算」を循環利用する「36か月プロジェクト」と呼ばれる手口が浮かび上がる。2017年あじさいの輪事件から約100倍のスケールで繰り返された制度の穴を、報酬構造と改定史から読み解く。

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ざっくり言うと

  1. 2026年3月27日、大阪市が絆HD傘下4事業所に指定取消処分。返還請求額110億7,650万円、全国認定不正総額は約150億円
  2. 手口は「就労移行支援体制加算」を循環算定するスキーム。1人の利用者をA型とグループ内企業の間で往復させ加算を多重取得
  3. 2017年あじさいの輪事件(約1.37億円・解雇280人超)から約100倍のスケールで構造的問題が再発した
  4. 2024年度改定で厳格化した結果、3〜7月に全国329か所が閉鎖・約5,000人が解雇される副作用も発生している

何が起きているのか

大阪市による絆HD傘下4事業所への指定取消処分と110億円返還請求の事実関係

2026年3月27日、大阪市は株式会社絆ホールディングス(大阪市)傘下の4つの就労継続支援A型事業所に対し、障害者総合支援法に基づく指定取消処分を発出した。対象はリアン内本町・リベラーラ・レーヴ・Mirrime(ミライム)の4事業所で、2026年4月末で閉鎖、5月1日付で処分の効力が発生する。

認定された不正請求額は大阪市分だけで約79億円、加算金40%を上乗せした返還請求額は110億7,650万円に達する。さらに大阪府・京都府・奈良県・埼玉県など2府5県75市町村への不正請求約71億円を含めると、全国認定不正総額は約150億円、関係自治体は14都府県104市町村以上に及ぶ。

本稿では110億円と150億円を明確に使い分ける。前者は大阪市が請求する返還額(79億円の本体+40%加算金)、後者は全国自治体が認定した不正総額である。1事業所グループの不正としては、障害福祉サービス制度史上でも類を見ない規模と言ってよい。

背景と文脈

就労継続支援A型の制度構造と、2017年以降の報酬改定史

A型事業所とは何か

就労継続支援A型事業所は、障害者総合支援法第5条第14項に基づく障害福祉サービスである。通常の事業所に雇用されることが困難な障害者に対し、雇用契約を締結した上で就労の機会と訓練を提供する。B型との決定的な違いは 雇用契約の有無 であり、A型利用者は労働基準法上の「労働者」となり、最低賃金法の適用を受ける。

事業者は都道府県別最低賃金以上の賃金を支払う義務を負い、その原資は原則として生産活動収入から賄わなければならない。ここがA型特有の経営圧力となる。賃金を生産活動収入で賄えない事業所は、訓練等給付費(報酬)を実質的に賃金原資に流用することになり、制度趣旨から逸脱する。厚労省は2017年3月30日の告示で厚生労働省この原則を明文化したが、令和5年3月末時点で指定基準未達事業所の比率は50.7%に達していた。

報酬構造の階層

A型の報酬は「基本報酬+加算」の二階建てである。基本報酬は2018年度改定で「1日の平均労働時間」による7段階区分となり、2021年度改定で5項目のスコア方式(労働時間・生産活動・多様な働き方・支援力向上・地域連携)に刷新された。2024年度改定では項目が7つに拡張され、3期連続で生産活動収支が賃金総額を下回ると基本報酬が減点20される仕組みも新設された。

加算の中で今回の事件の核心となったのが 就労移行支援体制加算 である。これは前年度にA型から一般就労へ移行し6か月以上継続勤務している者の人数に応じ、当該年度の全利用者日数に単位数を上乗せする仕組みで、snabi-bizの解説によれば、A型事業者に「一般就労への橋渡し実績を出すインセンティブ」を与える設計である。制度の建付けは合理的だが、算定単位が「人×日数」であり、かつ事業所がグループ内に「一般就労先」を自前で用意できる構造を禁じていなかった点に穴があった。

あじさいの輪事件(2017年)という前史

2017年7月、岡山・倉敷の一般社団法人「あじさいの輪」グループが事業所閉鎖し、障害者280人超が一斉解雇された。同年9月には役員が詐欺容疑で送検され、労働時間水増しによる被害総額は約1億3,700万円と認定された。補助金が鰻養殖や焼肉店への転用に流用されていたことも報じられた。

この事件を受けて厚労省は2017年3月に指定基準を見直し、生産活動収入による賃金支払い原則を明文化した。経営改善計画書制度も導入された。しかし9年後の絆HD事件は、スケールを約100倍にして同じ構造を反復した。違いは「失敗した不正」(倒産で発覚)だったあじさいの輪に対し、絆HDは 発覚まで2年以上検知されなかった「成功していた不正」 である点だ。

構造を読む

加算の循環算定が経済合理化する制度設計の欠陥と、2017年あじさいの輪事件との比較

「36か月プロジェクト」の仕組み

絆HDが社内で「36か月プロジェクト」と呼んでいたとされる手口は、就労移行支援体制加算を循環算定するスキームである。注記しておくと、「36か月プロジェクト」は制度用語ではなく絆HD内部の呼称である。

具体的な循環は以下のとおりである。

  1. A型事業所の利用者(雇用契約あり)をグループ内企業に「一般就労」として再雇用する
  2. 6か月以上経過したところで「就労定着者」としてカウントし、翌年度から就労移行支援体制加算を算定開始する
  3. その後、同じ人物をA型利用者に戻す
  4. 再度グループ内の別企業へ「一般就労」として切り替え、再び6か月定着で加算対象化する
  5. これを約3年(36か月)サイクルで繰り返し、1人あたり複数回の加算を積み増す

大阪市の認定文言は「事業所の主導により計画的に自社雇用への移行を繰り返すことで過大に就労定着者を創出」「自社雇用は支援計画プロセスの一部にすぎず、就労定着に向けた継続的な支援体制とは認められない」と明確である。厚労省は2024年度報酬改定時に「過去3年間で同一利用者について複数回算定することは想定していない」と公式見解を示していたが、絆グループは改定後も違反請求を継続していたとされる。

指定基準審査の形骸化と横断検出の困難

全国社会就労センター協議会は令和6年9月の要望書で、指定権者(都道府県・政令市・中核市)によっては「必要な書類が揃っていれば指定を出す」運用になっていると批判している。指定基準未達事業所が半数を超える状態で7年以上経過していた事実は、書類審査と実地指導のギャップを示す。絆HDのケースでは、複数回の市指導後も請求が継続したと報じられており、指導→監査→処分のエスカレーションが遅すぎたことが被害額を膨張させた。

もう一つの構造的課題が、請求データの横断検出の困難である。現状、国保連合会の請求データは都道府県・市町村単位で分散集計されており、複数自治体にまたがる事業者の不正パターンを統合的に検出する仕組みが弱い。絆HDの不正が14都府県・104市町村以上に分散したのは、1自治体あたりの請求額が監査閾値を下回るよう設計されていた可能性を示唆する。

2024年改定のドミノと成果指標の逆説

2024年度報酬改定で厚労省は「生産活動収支で賃金を賄えない事業所へのペナルティ」を強化した。結果として2024年3〜7月に全国でA型事業所329か所が閉鎖し、ハローワーク把握の解雇者数は4,884人、うちA型利用者は4,279人に及んだ。令和6年8月末時点の再就職者は936人、B型への移行予定者は2,073人と、行き場を失った利用者が大量発生している。

ここに、制度設計の本質的なジレンマが現れる。厳格化は「雇用主としての能力がない事業所」を市場から退出させる合理性を持つが、同時に利用者の行き場を奪う副作用を生む。そして絆HDのように 厳格化を逆手に取って不正を最大化する事業者 までは排除できない。加算系の成果指標は、金銭化されるほど偽装が経済合理化するという逆説を抱えている。

福祉労働の商品化という論点

A型は「脱施設・地域移行・一般就労」を基本方針とする現代障害福祉政策の中で、施設型福祉と一般就労の中間財として設計された。全国A型事業所数は2019年の3,842か所から2024年の4,415か所へ約15%増加し、利用者数は72,197人から85,421人へ約18%増加している。営利法人の参入がこの増加を牽引してきたが、その中で「一般就労」のラベルが加算金生成のために消費される事例が絆HD事件である。

循環スキームにおいて、障害者本人の意思決定・キャリア形成・定着支援は形骸化し、利用者は「加算金を発生させる記帳単位」として扱われた。脱施設の理念は、制度設計が不備だと「施設の形を変えた収益装置」に転化する。本件は福祉労働の商品化の一つの臨界点であり、誰のための就労支援かを問い直す契機となる。本稿の主語を「事業所」「経営者」「制度設計」に置いたのは、利用者を被害者ではなく制度の対象としてのみ扱う視角を避けたいからである。

関連書籍

本記事で取り上げた就労継続支援A型の制度設計と障害者雇用の実務全体を体系的に理解したい方には、『改訂版 障害者雇用の実務と就労支援 —「合理的配慮」のアプローチ』(眞保智子著、日本法令)が制度の法的根拠・報酬体系・支援実務を網羅する一冊として参考になる。

参考文献

障害者就労不正、大阪市が4事業所指定取り消し 110億円返還請求 (2026)

2026年3月27日付お知らせ(指定取消処分に関する報告) (2026)

就労継続支援A型の状況について(令和6年度社会保障審議会障害者部会資料) (2024)

指定就労継続支援A型における適正な運営に向けた指定基準の見直し等に関する取扱い(平成29年3月30日告示) (2017)

令和6年9月 就労継続支援A型事業所に関する要望書 (2024)

障害就労A型事業所廃止の対応整理 厚労省、自治体に事務連絡 (2024)

絆ホールディングス傘下の150億円不正受給問題 (2026)

相次ぐ障害者の大量解雇 家族からは不安と憤りの声 岡山 (2017)

就労継続支援A型の令和6年度報酬改定を解説 (2024)

読んだ後に考えてみよう

  1. 成果指標が金銭化されるほど偽装が経済合理的になる構造は、福祉以外の行政給付制度にも見られるのではないか。
  2. 複数自治体にまたがる不正を横断検出する仕組みを、国保連データの利活用でどう設計できるか。
  3. 厳格化によって真面目な事業者まで退出する「ドミノ」は、誰の責任で誰が救済すべきか。
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