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一般社団法人社会構想デザイン機構

出生率1.13の深層 : 婚姻数が横ばいでも出生が減る新たな少子化フェーズ

ヨコタナオヤ
約8分で読めます

2025年の合計特殊出生率は推計1.13。婚姻数は横ばいにもかかわらず出生数は減り続けている。その核心は、2015年を境に有配偶出生率が「押し上げ要因」から「押し下げ要因」に転換したことにある。完結出生児数1.90人(過去最低)、社人研推計を16年前倒しで下回る現実、そして「先進国モデル」の崩壊。結婚した夫婦も産まなくなった新局面を構造的に読み解く。

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ざっくり言うと

  1. 2024年の出生数は68.6万人(初の70万人割れ)、合計特殊出生率1.15で9年連続過去最低を更新。2025年は推計66.5万人・出生率1.13前後と、社人研の低位推計に接近する水準まで加速している
  2. 2015-2016年を境に有配偶出生率が「押し上げ要因」から「押し下げ要因」に転換し、婚姻数が横ばいでも出生数が減り続ける新たな構造が生まれた。完結出生児数1.90人(過去最低)だが、出産した母親に限れば2.01人という逆説的ギャップが存在する
  3. 社人研が66万人台を想定していた2041年に2025年時点でほぼ到達し、推計の前提が約16年分早期化。フランス(1.68→1.62)やスウェーデン(1.43)など「先進国の出生率維持モデル」も崩れつつある

何が起きているのか

出生数68.6万人(初の70万人割れ)、出生率1.15で9年連続最低更新。婚姻数は微増しているにもかかわらず出生数は5.7%減少するという「乖離」が発生している

2024年の日本の出生数は 686,061人。統計開始以来初めて70万人を割り込んだ。前年比マイナス41,227人(5.7%減)、合計特殊出生率は 1.15 で9年連続の過去最低更新である。

ここで注目すべきは、同年の婚姻件数が 485,063組(前年比+10,322組、+2.2%)と微増していたことである。婚姻が増えているのに出生が大幅に減る。この「乖離」こそが、少子化の新局面を示している。

日本総研の藤波匠主席研究員は、2025年の出生数を 約665,000人、合計特殊出生率を 1.13前後 と推計している。減少率は2022〜2024年の5%台から3%台に鈍化したものの、「若者の子どもを持つ意欲は低く、結婚しても子どもを持たない夫婦が増えている」と指摘する。

従来の少子化論は「未婚化が出生減の8割」(社人研・岩澤美帆部長の分析)という構図で語られてきた。50歳時未婚率は男性 28.25%、女性17.81%に達しており、未婚化が主因であること自体は変わらない。しかし2015年以降、もう一つのメカニズムが顕在化した。結婚した夫婦の出生率そのものが下がり始めた のである。

背景と文脈

2015-16年を境に有配偶出生率が押し上げから押し下げに転換。晩産化の進行、第2子の壁、子育て費用2,172万円という経済的圧力が複合的に作用している

有配偶出生率の転換点

有配偶出生率の構造転換
2015-16年 転換点
有配偶出生率が押し上げから押し下げに転じた
押し上げ要因
〜2015年
結婚した夫婦は子どもを産んでいた
押し下げ要因
2016年〜
結婚しても産まない夫婦が増加
完結出生児数
1.90人過去最低(第16回出生動向基本調査)
出産した母親の平均
2.01人産んだ人に限れば2人以上
子どもを持たない夫婦
9.9%約1割が無子
結婚した夫婦は2人産んでいるが、「結婚しても第1子を産まない」離脱が増加
出典: 国立社会保障・人口問題研究所 第16回出生動向基本調査(2021年実施)。転換点の時期は日本経済新聞・日本総研分析に基づく概念図。
有配偶出生率の少子化への影響(2005-2025年・概念図)

2015年まで、有配偶出生率(結婚している女性の出生率)は上昇傾向にあった。つまり、結婚した夫婦は以前よりも子どもを産む傾向が強まっており、少子化の「押し上げ要因」として機能していた。

この構造が2015〜2016年を境に反転する。日本経済新聞の分析は、「2016年以降、出生数の減少スピードが速くなったのは、結婚している人たちの子どもを生む割合が低下したことが最大の理由」と指摘する。有配偶出生率は 押し上げ要因から押し下げ要因に転じた

第16回出生動向基本調査(2021年実施)のデータが、この構造を裏付ける。結婚15〜19年の夫婦の完結出生児数は 1.90人 で過去最低を更新した。一方で、1人以上出産した母親に限れば完結出生児数は2.01人 である。この逆説的なギャップは何を意味するか。「結婚して産んだ人は2人産んでいるが、結婚しても第1子を産む前に離脱する夫婦が増えている」ということである。

子どもを持たない夫婦の割合は 9.9%、子ども1人の夫婦は19.4%に上る。不妊治療経験のある夫婦も 22.7%(4.4組に1組)に達しており、「産みたいのに産めない」層の広がりも見逃せない。

晩産化と婚姻タイムラグの長期化

有配偶出生率の低下を構造的に加速しているのが、晩婚化・晩産化の進行である。

2024年の第1子出産時の母親の平均年齢は 31.0歳。2005年の29.1歳から約20年間で1.9歳上昇した。第2子は33.1歳、第3子は34.2歳であり、第2子以降の出産は35歳を超える確率が高まっている。

さらに、結婚から第1子出産までの平均期間は2024年時点で約 2.8年 に長期化している。2020年以降の長期化傾向が顕著であり、コロナ禍「空白の3年間」(2020〜2022年)の影響も重なっている。婚姻数が回復しても、出生への下支え効果が顕在化するまでには数年のタイムラグが存在する。つまり、2024年の婚姻増が出生に反映されるのは早くとも 2026〜2027年 であり、目先の統計改善を過大評価すべきではない。

「第2子の壁」と経済的圧力

理想の子ども数と現実のギャップも拡大している。夫婦の平均予定子ども数は 2.01人(横ばい)だが、妻45〜49歳夫婦の実際の最終出生子ども数は1.81人(前回調査1.86人から低下)に沈む。理想と現実の乖離の最大の理由として挙げられるのが「子育て・教育にお金がかかりすぎる」である。

国立成育医療研究センターが2025年10月に公表した調査によると、0歳から18歳(高校3年生)までの子育て費用は 約2,172万円。大学4年間(国公立・自宅通学)を加えると概算3,200〜3,600万円に達する。高校1年生の年間コストが231万円で最高となっており、教育費の重さが第2子以降の出産を抑制する構造が浮かぶ。

東京都の合計特殊出生率は2023年時点で 0.99 と、都道府県単位で初の1.0割れを記録した。都市部の高い住居費が子育てコストを一層押し上げ、「都市型低出生率」の構造を固定化している。

構造を読む

社人研推計を16年前倒しで下回る現実、フランスモデルの崩壊、2026年丙午効果の限定的影響。政策効果の限界と「結婚できる経済基盤」の必要性

社人研推計との乖離が示すもの

社人研推計と現実の乖離
中位推計低位推計実績/推計値
2023年77.9万人73.0万人72.7万人
2024年77.4万人72.1万人68.6万人
2025年74.9万人65.8万人66.5万人
低位推計を下回る
低位推計に接近
16年の早期化社人研が66万人台を想定していた2041年に、2025年時点でほぼ到達
出典: 国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口(令和5年推計)/ 厚生労働省 人口動態統計確定数 / 日本総研推計。2025年の実績は日本総研推計値。
社人研推計 vs 実績: 少子化は想定より16年早く進行

社人研が2023年に公表した将来推計人口では、中位推計で2025年の出生数を74.9万人と見込んでいた。現実の推計値66.5万人との乖離は8万人以上に及ぶ。低位推計の65.8万人にほぼ到達している。

より深刻なのは、社人研が66万人台を想定していた時期が 2041年 であったという事実である。日本総研の分析が示すように、少子化は想定より 約16年早く進行 している。前記事(「少子化の本丸は子育て支援ではない」)で指摘した「2042年推計の17年前倒し」(速報値ベース)と整合する数字であり、確定値・最新推計に基づいてもこの乖離は縮まっていない。

推計の前提が崩壊する速度は、年金・医療・介護の制度設計に直結する。給付水準や保険料率は将来の人口構成に基づいて設計されているが、その前提が10年以上前倒しで崩れている以上、制度の持続可能性そのものが問い直されなければならない。

「先進国モデル」の崩壊

国際比較の視点からも、新たな変化が生じている。

フランスは GDP比2.9% を家族政策に投じ、出生率の維持に成功してきた「モデル国」であった。しかし2023年の出生率は 1.68(1946年以降最低)に低下し、2025年の推定値は1.62とさらに落ち込んでいる。スウェーデンもGDP比3.4%という高水準の家族政策を維持しながら、2024年の出生率は 1.43 に急低下した。

韓国は2023年に 0.72(OECD加盟国で唯一の1.0未満)まで落ち込み、2024年には 0.75 と9年ぶりに微増したが、依然として世界最低水準にある。

この国際的な同時低下は重要な示唆を含んでいる。「家族政策にGDPの3%を投じれば出生率は維持できる」という従来の政策前提が、先進国全体で揺らぎ始めている。日本の家族政策は GDP比1.6% でOECD平均(2.3%)にも及ばないが、仮にフランス並みに引き上げたとしても、出生率反転の保証はもはやないのである。

2026年丙午と政策の限界

2026年は60年に一度の丙午(ひのえうま)にあたる。1966年の丙午では出生数が前年比 25.4%減(約46万人減)という劇的な落ち込みが発生した。

SOMPOインスティチュートは「令和の丙午の影響は極めて限定的」と予測する。晩婚・晩産化が進んだ現代では、出産を1年遅らせる時間的コストが60年前より格段に大きい。また、SNSの普及により迷信を打ち消す情報拡散が容易である(妊娠・出産を考える世代の76.2%が「迷信を気にしない」と回答)。

ただし、丙午の影響が限定的であっても、コロナ空白期の余波・少子化加速トレンドとの三重苦により、2026年に 60万人割れ を懸念する声も存在する。

政策面では、2023年12月に策定された こども未来戦略 の「加速化プラン」が2024〜2026年度の3年間で総額3.6兆円を投じる計画だが、その効果には懐疑的な見方が強い。山口慎太郎教授(東京大学)は「現金給付は出生率を上げるが、それほど強い効果はない」と指摘し、柴田悠准教授(京都大学)のOECD分析では、出生率に有意に正の効果を持つのは「移民受け入れと保育充実のみ」であり、児童手当は有意でない という結果が出ている。

構造的処方箋は「結婚できる経済基盤」の再構築

本記事で見てきた構造は、少子化対策の焦点を問い直す。

第一に、有配偶出生率の低下は「保育所を増やす」だけでは対処できない。「結婚しても産まない」選択の背景には、子育て費用2,172万円という経済的合理性がある。現金給付の効果が限定的であるならば、住居費・教育費の構造的引き下げという、より根本的な経済政策が必要となる。

第二に、婚姻から出産までのタイムラグの長期化は、政策効果の遅延を意味する。婚姻数の改善が出生数に反映されるまで3年近くかかる以上、短期的な政策成果を求めて施策を変転させることは逆効果である。

第三に、フランスやスウェーデンのモデルの揺らぎは、「先進国に学べ」という安易な比較論の限界を示している。日本固有の「結婚しなければ産めない」という社会規範(婚外子比率 2.5%、フランスは約60%)を踏まえれば、「結婚できる経済基盤」の構築こそが日本型の少子化対策の核心である。

『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』山田昌弘が指摘するように、日本社会の「リスク回避・世間体重視」の文化が、保育中心の欧米型対策を無効化してきた。前記事で分析した「世代間予算配分の非対称性」(高齢者3経費113.6兆円 対 子ども・子育て10兆円)を是正しながら、その資源を若年層の雇用安定化と住居費軽減に振り向ける。それが、有配偶出生率の低下という新局面に対応するための構造的処方箋である。


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参考文献

令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況厚生労働省 (2025年)

第16回出生動向基本調査 結果の概要国立社会保障・人口問題研究所 (2022年)

日本の将来推計人口(令和5年推計)国立社会保障・人口問題研究所 (2023年)

2025年の出生数は66.5万人、婚姻数は48.5万組の見通し日本総研 (2025年)

2025年の合計特殊出生率は1.13前後日本総研 (2025年)

18年間の子育て費用約2,170万円国立成育医療研究センター (2025年)

丙午は令和時代にも出生数を押し下げるかSOMPOインスティチュート (2025年)

参考書籍

読んだ後に考えてみよう

  1. 「結婚した夫婦も産まなくなった」という構造変化に対して、従来の保育・児童手当中心の少子化対策はどこまで有効だと考えるか
  2. 子育て費用2,172万円という数字が示す「経済的合理性」と、出産・子育ての「非経済的価値」をどう両立させるべきか
  3. フランスや北欧のモデルも崩れつつある中で、日本独自の人口政策はどのような方向性をとるべきか

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