一般社団法人社会構想デザイン機構
実践ガイド

災害時の社会的脆弱性マッピング実践ガイド — 能登半島地震の教訓から学ぶ

災害の被害は均等には降りかからない。高齢者、障害のある人、外国人住民といった社会的に脆弱な層へ被害が集中する構造を可視化する方法を解説する。要配慮者マップの作成手順から避難所運営の改善策、地域全体の受援力向上まで実践的なガイド。

ISVD編集部
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はじめに

2024年1月の能登半島地震は、改めて災害の社会的側面を浮き彫りにした。最大震度7、死者470名超(直接死228名・災害関連死を含む、2025年3月時点)。その被害は高齢化率50%を超える過疎地域に集中し、要配慮者の避難支援体制の脆弱性が露呈した。

災害は「自然現象」だが、被害は「社会現象」である。同じ震度でも、誰が・どこで・どのような社会的条件のもとで被災するかによって、その影響は劇的に異なる。この認識を起点とした「社会的脆弱性」の視点が、実効性ある防災には不可欠となる。

本ガイドでは、NPO・地域団体が取り組める社会的脆弱性マッピングの手法を、能登半島地震の教訓を交えながら解説する。


社会的脆弱性とは何か

5層モデルで構造を把握する

社会的脆弱性は単一の要因で決まるものではなく、複数の層が重なり合って形成される。以下の5層モデルで整理する。

第1層:身体的脆弱性

高齢・障害・乳幼児・妊産婦など、移動・判断に支援が必要な個人特性

第2層:情報アクセスの脆弱性

言語的障壁(外国人住民)、デジタルデバイド、視聴覚障害による情報遮断

第3層:社会関係の脆弱性

独居・社会的孤立・地域コミュニティからの断絶。避難行動を促す人間関係の不在

第4層:経済的脆弱性

低所得・住宅の耐震不足・保険未加入。被災後の生活再建能力の格差

第5層:制度的脆弱性

要配慮者名簿の未整備・個別避難計画の不在・福祉避難所の不足

外側の層ほど社会的・制度的要因が強く、個人の備えだけでは対応できない。能登半島地震では第3〜5層の脆弱性が同時に顕在化した。
社会的脆弱性の5層モデル — 災害時に被害が集中する構造

重要なのは、これらの層が相互に強化し合う点である。身体的脆弱性(第1層)を抱える独居高齢者(第3層)が、経済的理由で耐震補強をしていない住宅(第4層)に住み、個別避難計画が未策定(第5層)という状況。能登半島地震ではこの複合的脆弱性がそのまま被害に直結した。

災害関連死の構造

能登半島地震における災害関連死は、発災後数ヶ月にわたって増加を続けた。その多くは75歳以上の高齢者であり、避難所での生活環境悪化、持病の悪化、低体温症が主因である。直接死だけでなく、災害関連死の抑止を含めた脆弱性対策が求められる。


要配慮者マップの作成手法

ステップ1: 対象者の特定と個人情報の取り扱い

災害対策基本法第49条の11に基づき、市町村は「避難行動要支援者名簿」の作成を義務付けられている。しかし、名簿の整備率は全国で約98%に達する一方、それに基づく「個別避難計画」の策定率は2024年時点で約20%にとどまる。

NPOが名簿情報にアクセスするには、市町村との協定締結が前提となる。個人情報保護条例との整合を取りながら、以下の手順で進める。

  1. 市町村防災担当部署との協議: 名簿の外部提供に関する条例確認
  2. 協定書の締結: 個人情報の利用目的・管理体制・廃棄方法を明記
  3. 要配慮者の同意取得: 本人同意に基づく情報共有が原則(災害時は同意不要の例外規定あり)

ステップ2: 地理情報との重ね合わせ

要配慮者の所在情報を、以下の地理データと重ね合わせることで、リスクの空間的集中を可視化する。

データ入手先活用方法
ハザードマップ(洪水・津波・土砂災害)国土交通省ハザードマップポータル危険区域と要配慮者分布の重複分析
高齢化率メッシュデータ国勢調査(500mメッシュ)高齢者集中エリアの特定
福祉施設の位置情報WAM NET避難先候補の近接性評価
道路ネットワークOpenStreetMap避難経路の到達時間分析

GIS(地理情報システム)の専門知識がなくとも、QGIS(無料)やGoogle Earthを用いた簡易マッピングは可能である。重要なのは完璧な地図を作ることではなく、「どこにリスクが集中しているか」の大まかな把握を得ることにある。

ステップ3: 脆弱性スコアリング

各地区の脆弱性を定量化するスコアリング手法を導入する。

指標配点基準重み
75歳以上人口比率30%以上: 3点 / 20-30%: 2点 / 20%未満: 1点×2
障害者手帳保持者比率地域平均以上: 2点 / 以下: 1点×1.5
独居高齢者率20%以上: 3点 / 10-20%: 2点 / 10%未満: 1点×2
ハザードゾーン内人口比率50%以上: 3点 / 25-50%: 2点 / 25%未満: 1点×2.5
外国人住民比率5%以上: 2点 / 以下: 1点×1

合計スコアによって各地区を「高リスク」「中リスク」「低リスク」に分類し、資源配分の優先順位を決定する。


避難所運営とインクルージョン

福祉避難所の現状と課題

福祉避難所は、要配慮者のために特別な配慮がなされた避難所である。能登半島地震では、指定福祉避難所の開設率が50%を下回り、開設後も専門スタッフの不足が深刻な問題となった。

NPOに求められる役割は以下の3点に整理できる。

  • 事前協定の促進: 社会福祉施設と市町村の間の福祉避難所協定の締結を働きかけ、実効性を担保する
  • 運営人材の確保: 介護福祉士・看護師等の専門職ネットワークを平時から構築しておく
  • 訓練の実施: 年1回以上の福祉避難所開設訓練を、要配慮者本人の参加を得て実施する

多様性に配慮した避難所設計

ジェンダー、障害種別、文化的背景の多様性を反映した避難所運営は、災害関連死の抑止に直結する。具体的なチェックリストを示す。

  • 間仕切り・個室スペース: 女性・障害者のプライバシー確保
  • 多言語表示: 英語・中国語・ベトナム語・ポルトガル語の最低4言語
  • アレルギー対応食: 食料配給での宗教的・医学的配慮
  • 授乳室・おむつ替えスペース: 乳幼児連れ世帯への配慮
  • バリアフリー動線: 車椅子・歩行器利用者のアクセス確保

受援力という概念

「助けを受ける力」の構築

受援力(じゅえんりょく)とは、被災地が外部からの支援を効果的に受け入れる能力を指す。内閣府「受援力向上ガイドブック」(2019)で提唱された概念であり、能登半島地震ではこの受援力の不足が支援の遅延を招いた場面が複数報告されている。

受援力の構成要素は以下の3つである。

  1. 情報発信力: 何が・どこで・どのくらい不足しているかを正確に発信する能力。被災直後の情報空白を最小化する
  2. 調整力: 外部支援団体のマッチング・配置を行う受援コーディネーターの存在。能登では災害ボランティアセンターの立ち上げに1週間以上を要した地域もあった
  3. 受入インフラ: 支援物資の集積拠点、ボランティアの宿泊場所、活動拠点の事前確保

NPOが平時からできること

  • 受援計画の策定支援: 市町村の地域防災計画に「受援計画」を組み込む働きかけ
  • 災害中間支援組織との連携: JVOADなどの全国ネットワークとの平時からの関係構築
  • IT基盤の整備: 災害時に支援ニーズと支援リソースをマッチングするシステムの事前構築

まとめ

災害の被害は、社会の既存の不平等を増幅する形で顕在化する。高齢化・過疎化が進む地域ほど、災害脆弱性は高まり、支援が届きにくくなるという悪循環が生じる。

社会的脆弱性マッピングは、この構造を可視化し、限られた資源を最も必要な場所に届けるための基盤技術である。完璧なデータを待つ必要はない。今ある情報で「どこにリスクが集中しているか」を把握し、そこから個別避難計画の策定、福祉避難所の整備、受援力の向上へと進む。能登半島地震は、その一歩を踏み出す緊急性を改めて突きつけている。

参考文献

令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応検討ワーキンググループ報告書

内閣府(防災担当). 内閣府

原文を読む

避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針

内閣府(防災担当). 内閣府

原文を読む

At Risk: Natural Hazards, People's Vulnerability and Disasters (3rd Edition)

Wisner, B., Blaikie, P., Cannon, T. & Davis, I.. Routledge

原文を読む

受援力向上ガイドブック

内閣府(防災担当). 内閣府

原文を読む

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