中国が2025年2月にタングステンの輸出管理を強化し、4月には国内の精鉱生産の上限を発表した。ロッテルダム価格は1年で約2倍になったが、世界の鉱山生産は82,000トンから85,000トンへ3.7%増えただけである。中国が生産の78.8%、埋蔵量の53.2%を持つ。2010年のレアアース規制のとき何が効いたのかを、今回と並べて読む。
ざっくり言うと
- 中国は2025年2月に輸出管理を強化し、4月に国内の精鉱生産の上限を発表した
- ロッテルダムの精鉱価格は266ドルから551ドルへ、APTは331ドルから675ドルへ上がった
- 世界の鉱山生産は82,000トンから85,000トンへ3.7%増えただけである
世界生産は 2024年の 82,000トン から 2025年の 85,000トン へ 3.7% 増えた。増分の大半はカザフスタンで新たに生産が始まった 2,400トン である。中国を除く全世界の生産を足しても 18,000トン で、中国 1 国の 3 割に満たない。
何が起きているのか
価格は2倍。世界の生産は3.7%しか増えず、中国が78.8%を持つ
タングステンの価格が上がっている。中国の輸出管理が引き金である。
米国地質調査所は、2025年の動きをこう記録している。2024年末に米国が通商法301条(b)にもとづき中国産のタングステン製品への関税を50%へ引き上げ、2025年2月に中国が特定のタングステン品目に新たな輸出管理を実施した。
価格はその後に動いた。65%精鉱が1メートルトン単位あたり266ドルから551ドルへ、APTが331ドルから675ドルへ。どちらも約2倍である。
エネルギー・金属鉱物資源機構も同じ年を追っていて、2月の輸出規制強化の公告に加え、4月には中国政府が国内の精鉱生産の上限を発表したと書いている。APT価格は年初の1トンあたり392.5ドルから、11月以降は800ドルを超える水準で推移している。
ここで供給の側を見ると、話が変わる。世界の鉱山生産は2024年の82,000トンから2025年の85,000トンへ。 価格が2倍になった1年で、供給は3.7%しか増えていない。
背景と文脈
用途の6割は超硬工具。代替素材は使用量を減らすが置き換えにはならない
供給が中国に寄っている
増えない理由は分布にある。
2025年の85,000トンのうち、中国が67,000トン。78.8%である。埋蔵量でも中国が250万トンで、世界計470万トン超の53.2%を占める。
中国を除く全世界の生産を足すと18,000トン。中国1国の3割に満たない。 産地を分散させようとしても、分散させる先の総量が足りない。
中国は最大の生産国であり、最大の輸入国でもある
ここに、輸出規制を「出し惜しみ」とだけ読むと外す点がある。USGSは中国が引き続き、タングステン精鉱の世界最大の生産国であり、輸入国であり、消費国でもあると記録し、2025年に中国の消費と輸入が大幅に増加したと書いている。
世界の8割近くを掘っている国が、同時に世界最大の買い手でもある。 輸出に回る量が減っているのは、出さないと決めたからだけでなく、自国で使う量が増えているからでもある。 規制が解けても、この需要は残る。
増えた3,000トンの中身
2025年に増えた3,000トンも見ておく必要がある。カザフスタンのBoguty鉱床で生産が始まり、2,400トンが出た。増分の大半がこの1件である。新しい鉱山が1つ立ち上がって、世界の供給が2.9%動いた。
裏を返せば、鉱山を1つ開けて動く幅がその程度だということでもある。
用途の6割は超硬工具、代替は「減らす」までしか届かない
需要の側は代えがきかない。米国で消費されるタングステンの約60%が超硬工具に使われている。建設、金属加工、鉱業、石油・ガス掘削の現場で、削る・掘る道具の刃になる部分である。残りは合金・特殊鋼、電極、フィラメント、電線などに回る。
代替素材はある。モリブデン炭化物、ニオブ炭化物、チタン炭化物、セラミックス、サーメット、工具鋼。ただしUSGSは注記を付けている。 「これらの選択肢の多くは、タングステンの使用量を減らすものであって、置き換えるものではない」。 用途によっては、代替するとコストが上がるか性能が落ちるとも書かれている。
装甲貫通弾のように、劣化ウランか焼入鋼でしか代わりが利かない用途もある。密度と放射線遮蔽が要る場面では、置き換えの候補そのものが限られる。
リサイクルは数字が出てこない
供給を増やすもう一つの道がリサイクルである。ところが二次タングステンの生産量と、加工業者・最終需要家が二次原料から消費した量は、いずれも企業の機密にあたるとして非公表になっている。
どれだけ回っているかが分からないものは、増やす計画も立てられない。 供給源の多角化を議論するとき、リサイクルは数字のない選択肢として残る。
備蓄は積んであるが、日数は分からない
日本側では、経済産業省の資料がタングステンを超硬工具・特殊鋼の材料として挙げ、備蓄の対象鉱種に入れている。リンを追加して備蓄対象は全体で35鉱種になった。ただしこの資料に、タングステンを何日分持っているかは書かれていない。
米国のほうは数字が出ている。政府備蓄の2025会計年度は、タングステンの取得枠が2,041トン、鉱石・精鉱の処分枠が499トン。取得の側に枠が立っている。買い増す構えである。
なお米国は2015年以降、タングステンを商業的に採掘していない。見かけの消費に占める純輸入依存度は50%超で、輸入元は中国(香港を含む)が26%、ドイツ14%、ボリビア8%、ベトナム8%、その他44%である。
構造を読む
レアアースのとき効いた3つの手が、タングステンでは規模の面で効きにくい
2010年のレアアースで何が効いたか
同じことが2010年に起きている。レアアースである。
そのときの対応を、経済産業省の資料が3本立てで整理している。上流の開発、省資源化の研究、そしてWTOへの提訴である。時系列がそのまま載っている。
2011年4月にJOGMECと双日が豪州ライナス社に2億5000万ドルを出融資し、2013年2月にマレーシアの分離精製施設で商業生産が始まった。研究のほうは2010年12月に540億円の研究開発プロジェクトが始まり、2012年2月に研磨剤のレアアース使用量低減、2016年9月にDyフリー磁石、2018年2月にNd使用量を削減した磁石の製造に成功している。
提訴は2012年7月に米国・日本・EUがパネル設置を要請し、2014年8月にWTO上級委員会が中国の措置はWTOの規定に反すると明記した報告書を公表、2015年5月に中国が輸出制限を撤廃したとWTOに報告した。
規制から撤廃まで4年5か月かかっている。 その間、価格は市場が引き受けた。
今回のタングステンで、この3本立てがどこまで効くか。1本ずつ見ると差が出る。
上流の開発 — 規模が2桁足りない
レアアースのときは豪州ライナス社という受け皿があった。タングステンで同じことをやるなら、中国以外の総生産18,000トンを増やす話になる。カザフスタンの新鉱山1つで2,400トン。中国の67,000トンに並べるには、同じ規模の鉱山が28要る。
しかも鉱山は思い立って開くものではない。探鉱から生産まで10年単位でかかる。 規制が出てから着手したものは、規制が解けたあとに立ち上がる。
省資源化 — 「減らす」と「置き換える」の距離
レアアースでは使用量を減らす研究が実を結び、Dyフリー磁石まで到達した。ネオジムを減らした磁石も作れるようになった。到達点は「使う量を減らす」であって「使わない」ではないが、磁石という用途では実用になった。
タングステンの代替は、USGSの書き方では「減らすが置き換えない」段階にある。減らす方向は同じでも、超硬工具の刃としてゼロにする道は見えていない。 同じ言葉で語られる「省資源化」が、金属によって届く距離が違う。
WTO提訴 — 前回と同じ手だが、4年5か月かかる
ここは前回と同じ手が使える。中国の措置がWTOの規定に反すると認定された前例があり、論理はそのまま持ち込める。
問題は時間である。パネル設置の要請から撤廃の報告まで4年5か月。その間の供給をどうつなぐかは、提訴とは別の問題として残る。備蓄がその期間を持ちこたえられるかが、実際の争点になる。
3つのうち、前回と同じ効き方をしそうなのは1つ
上流の開発は規模が足りない。省資源化は届く距離が違う。WTO提訴だけが同じ手として残るが、それは時間を買う手ではなく、時間がかかる手である。
前例があることと、前例が使えることは別である。
価格は供給を呼ばず、需要を削った
もう一つ、価格の動き方に出ている構造がある。
市場では、価格が上がれば供給が増える。2025年は価格が2倍になった。それでも供給は3.7%しか増えなかった。鉱山を1つ開けるのに何年もかかるためで、 価格は需要側を削ることでしか調整できていない。 買えなくなった分が、そのまま使わない分になる。
削られるのは、価格転嫁ができない側から順になる。超硬工具は建設・金属加工・鉱業の現場で使われる。日本国内で調達難と価格高騰が報じられているのは、その末端である。
米国はどこに手を打っているか
USGSは、2025年に動いた案件も記録している。カナダと米国で、国防生産法第3編にもとづく交付を受けた案件が複数あり、ネバダ州、ニューブランズウィック州、ユーコン準州の案件が含まれる。さらに10月には、カザフスタンと米国がタングステン資源を開発する合弁を発表した。
打っている手の中身は、レアアースのときの日本と同じである。 上流に金を入れ、産地を1つずつ増やす。 ただし前項で見たとおり、その1つずつが2,400トンの単位である。
備蓄の日数と、鉱山の年数
結局、問いは2つの時間の長さの比較になる。備蓄で持ちこたえられる日数と、代替供給源が立ち上がるまでの年数である。
日本の資料には、タングステンを何日分持っているかが書かれていない。書かれているのは、対象が35鉱種であることと、備蓄に要る借入利子と倉庫の維持費をJOGMECに補助していることまでである。 持ちこたえられる期間が公表されていないものについて、間に合うかどうかは議論できない。
レジリエント組織設計ガイド(このサイトの記事)で扱ったとおり、不確実性に耐える設計は、事が起きてからでは間に合わない部分を先に作っておくことでしか成り立たない。鉱山も同じで、開けるのに要る年数は規制の告知より長い。
ホルムズ海峡が閉じる日(このサイトの記事)で扱ったエネルギーの構造と、形は似ている。違うのは代替の距離である。原油には備蓄があり、産地も複数ある。タングステンは産地が1国に寄っていて、備蓄の日数を超えたときに向かう先がない。
セキュリティクリアランス制度が問う経済安全保障(このサイトの記事)で見たとおり、経済安全保障は制度の側で整えられてきた。ただし制度は、鉱山の数を増やさない。
いま数字に出ているのは、 規制が出てから代替を探し始めると、間に合う保証はどこにもない ということである。2010年に4年5か月かかった問題が、2025年に別の金属で開いた。
この記事で使った統計の出典
- 1USGS Mineral Commodity Summaries 2026(タングステン)(2025年) 出典を開く
- 2USGS Mineral Commodity Summaries 2026(タングステン)(2025年、ロッテルダム) 出典を開く
- 3JOGMEC 2025年 金属鉱物資源をめぐる動向(2025年) 出典を開く
- 4USGS Mineral Commodity Summaries 2026(タングステン)(2024年→2025年推計) 出典を開く
- 5USGS Mineral Commodity Summaries 2026(タングステン)(2025年推計) 出典を開く
- 6USGS Mineral Commodity Summaries 2026(タングステン)(2025年、米国) 出典を開く
- 7経済産業省 鉱物政策を巡る状況について(2024年10月28日) 出典を開く
- 8USGS Mineral Commodity Summaries 2026(タングステン)(2025会計年度) 出典を開く
- 9USGS Mineral Commodity Summaries 2026(タングステン)(2021〜2025年) 出典を開く
- 10USGS Mineral Commodity Summaries 2026(タングステン)(2021〜2024年) 出典を開く
- 11USGS Mineral Commodity Summaries 2026(タングステン)(2025年10月) 出典を開く
参考書籍
- 『レアメタルの地政学:資源ナショナリズムのゆくえ』(外部サイト、新しいタブで開きます)(ギヨーム・ピトロン、児玉しおり訳、原書房)。産地を訪ねて、脱炭素とデジタル化が特定の金属への依存を深める構造を書いた本。今回のタングステンが例外ではなく、同じ形が複数の金属で起きていることを確認できる。
参考文献
Mineral Commodity Summaries 2026: Tungsten — U.S. Geological Survey (2026). U.S. Geological Survey
2025年 金属鉱物資源をめぐる動向:カレント・トピックス — 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構 (2026). JOGMEC
鉱物政策を巡る状況について(産業構造審議会 資料3) — 経済産業省 製造産業局 (2024). 経済産業省
