令和8年7月28日の熊本地震で、8月3日時点の死者は38人。避難所には8,200人余りが残り、熊本市などは40度を超えた。10年前の熊本地震は死者273人のうち、警察の検視で確認されたのは50人だった。能登半島地震の災害関連死449人では、70歳以上が424人を占める。避難行動要支援者名簿は全1,741市町村が作成済みだが、個別避難計画は名簿の15.1%分しかない。義務と努力義務の差がどこに現れるかを読む。
ざっくり言うと
- 2016年の熊本地震の死者273人のうち、警察の検視で確認されたのは50人だった
- 能登半島地震の災害関連死449人のうち、70歳以上が424人で94.4%を占める
- 避難行動要支援者名簿は全1,741市町村にあるが、個別避難計画は名簿の15.1%分しかない
検視確認50人、災害弔慰金法にもとづき災害が原因と認められた死者218人、6月の豪雨で地震との関連が認められた死者5人
80代180人、90代169人、70代56人、100歳以上19人。95.8%に既往歴があり、認定理由の46.5%が社会福祉施設の被災による介護機能の低下
名簿は全1,741市町村が作成済み。計画の作成率が2割以下の市町村は911団体で全体の52.3%
名簿の作成は災害対策基本法 第49条の10で市町村の義務、個別避難計画は第49条の14で努力義務である。計画の全国作成率は令和8年4月1日現在で15.1%。
何が起きているのか
震度7の被災地に40度が重なり、死者の内訳に災害関連死の枠が立ち上がった
令和8年7月28日16時27分。熊本県熊本地方でマグニチュード7.1の地震が起きた。気象庁はこれを令和8年熊本地震と命名している。
最大震度7を宇城市と氷川町で観測した。
消防庁が8月3日16時30分にまとめた第35報によると、死者は38人、負傷者は123人、住家被害は7,194棟。避難指示は3市町村の115,075世帯、243,097人に出ている。
死者38人の内訳に、目立たない2行がある。「災害による負傷の悪化又は身体的負担による疾病により死亡した可能性のある死者1人」。「災害との関連を調査中の死者1人」。倒壊で亡くなった人とは別の枠が、発災から1週間で立ち上がっている。
そこに暑さが重なった。
日本赤十字社は7月31日、8月3日が酷暑日になるとして注意を呼びかけた。この時点で避難所は374か所、避難者は9,134人。高齢者や子どもなどの災害時要配慮者が影響を受けやすいと指摘している。
呼びかけた当日、熊本市などで最高気温が40度を超えた。同じ日、災害医療などに関する3つの学会が緊急の会見を開いている。NHKによると、被災地で高齢者の熱中症患者が相次いでいるという報告だった。軽症の段階から体を冷やすなどの対策を徹底してほしいと求めている。
さきの2行が、この暑さのなかで増えていく枠である。負傷の悪化や身体的負担による疾病で亡くなった人は、市町村の審査を経て災害関連死として認定される。
熊本県は8月3日から、ホテルや旅館へ移る2次避難の受付を始めた。避難所より生活環境の整った施設へ移す仕組みである。8月3日午後6時の時点で、避難所には8,200人余りが残っている。
背景と文脈
過去2つの地震で、亡くなった人の多くは揺れの瞬間ではなくそのあとの日々に集中している
10年前の記録が、この先に起きることを示している。
消防庁の第121報。平成31年4月12日付で、2016年の熊本地震について最後に公表された報である。死者は273人だった。
内訳を見ると、亡くなり方が分かれている。警察が検視により確認している死者は50人。市町村が災害弔慰金法にもとづき災害が原因で死亡したと認めたのは、熊本県215人と大分県3人。加えて6月19日から25日の豪雨のうち地震との関連が認められた死者が5人いる。
揺れや倒壊で亡くなったと検視で確認されたのは、273人のうち50人だった。残る223人は、そのあとの日々のなかで亡くなっている。
この構図は熊本に限らない。
石川県が令和7年12月に公表した資料に、令和6年能登半島地震の災害関連死の概況がまとまっている。第37回審査会までの認定は449人。審査はその後も続いているため、これは途中の数字である。年代の内訳が載っている。80代180人、90代169人、70代56人、100歳以上19人。70歳以上を合わせると424人になる。全体の94.4%である。
430人、95.8%に既往歴があった。もともと医療や介護につながっていた人たちである。
認定の理由も分類されている。複数選択で、最も多いのは地震のショックや余震への恐怖による肉体的・精神的負担で395件。次いで電気や水道等の途絶で233件。3番目に来るのが社会福祉施設の被災による介護機能の低下で209件、46.5%である。避難所等生活の負担は176件だった。
避難所の環境だけの話ではない。その人を支えていたケアの側が止まることが、死につながっている。
亡くなるまでの時間も分かれている。1週間以内が44人、1か月以内が103人。ここまでで147人、全体の3分の1にあたる。一方で3か月から半年のあいだが107人で23.8%、区分としては最も多い。
急性期を越えれば安全になる、という形にはなっていない。
構造を読む
名簿は義務で100%、計画は努力義務で15.1%。同じ法律のなかで語尾だけが違う
備える側の制度は、二段構えになっている。
災害対策基本法の第49条の10。市町村長は避難行動要支援者の名簿を「作成しておかなければならない」と書かれている。義務である。内閣府によれば、平成25年の改正で入った。
第49条の14。個別避難計画は「作成するよう努めなければならない」。努力義務である。令和3年の改正で入った。
同じ法律のなかで、語尾だけが違う。
差は数字に出ている。内閣府と消防庁が令和8年6月29日に公表した調査によると、名簿は全1,741市町村が作成済みで100%。一方、名簿に載る6,696,718人に対し、個別避難計画があるのは1,014,017人分で、作成率は15.1%である。
作成率が2割以下の市町村は911団体で、全体の52.3%を占める。半分以上の市町村では、名簿に載る人の5人に4人以上に計画がない。
熊本県は91,103人に対して30,381人分で33.3%だった。全国平均の2倍を超えている。それでも3人に2人には計画がない。
計画がないと何が起きるか。
名簿は「誰が支援を要するか」のリストである。計画は「その人を誰が、どこへ、どの経路で運ぶか」を決めたものだ。名簿だけがあるとき、災害が起きてから支援者を探すことになる。避難所の外で40度をしのいでいる人のところへ、誰が何日おきに訪ねるのか。名簿には書いていない。
2次避難にも同じ構造がある。ホテルや旅館への避難は、本人か家族が申し込んで成立する制度である。手を挙げられる人には届く。手を挙げられない人こそが、計画の対象者だった。
学会の会見が求めたのは、軽症の段階から体を冷やすことだった。ただし軽症の段階で気づくには、誰かが定期的にその人のところへ行っている必要がある。誰が何日おきに訪ねるかを事前に決めておく文書が、個別避難計画にあたる。
もうひとつ、名簿の側にも穴がある。
同じ調査で、名簿掲載者のうち平時から支援者に情報が渡っているのは39.9%にとどまる。名簿を持っている市町村は100%だが、その中身が地域の支援者に共有されているのは4割に満たない。作ったことと、届いていることは違う。
この構図は、民生委員の欠員が初めて2万人を超えた(このサイトの記事)で見た担い手の不足と重なる。名簿の情報を受け取って実際に訪ねる側が、2万人分空いている。計画を作る側でも、受け取る側でも、人が足りない。
制度が用意されていることと届いていることを分けて数える必要があるのは制度からの排除と未受給(このサイトの記事)で扱った。個別避難計画は、その届かなさが死者数として現れる領域にある。誰がどこで支援から外れるかを地図に落とす手順は災害時の社会的脆弱性マッピング(このサイトの記事)に、復興の枠組みそのものを問い直した議論は震災15年・能登2年(このサイトの記事)にある。
前進はしている。前回調査で50団体あった未作成の市町村は、今回ゼロになった。昨年1年間で198,106人分が新しく作られている。
ただし、計画のない5,682,701人をこの速さで埋めると29年かかる。名簿が義務化から13年で100%に届いたのは、名簿が書けば終わる文書だったからでもある。計画のほうは、支援者を1人ずつ探して本人の同意を取る作業である。同じ速さにはならない。
熊本ではいま、40度のなかで8,200人が避難所にいる。
この記事で使った統計の出典
- 1消防庁 令和8年熊本地震による被害及び消防機関等の対応状況(第35報)(令和8年8月3日16時30分) 出典を開く
- 2日本赤十字社 プレスリリース(熊本県第8回災害対策本部会議資料より)(令和8年7月31日15時) 出典を開く
- 3NHK NEWS WEB「地震の死亡38人 医療機関や学校の被害も」(令和8年8月3日18時) 出典を開く
- 4消防庁 熊本県熊本地方を震源とする地震(第121報)(平成31年4月12日18時) 出典を開く
- 5消防庁 熊本県熊本地方を震源とする地震(第121報)(平成31年4月12日16時30分現在(熊本県からの報告)) 出典を開く
- 6消防庁 熊本県熊本地方を震源とする地震(第121報)(平成31年4月12日) 出典を開く
- 7石川県危機管理部危機対策課 令和6年能登半島地震における災害関連死の概況(第37回審査会まで)(令和7年12月25日) 出典を開く
- 8石川県 令和6年能登半島地震における災害関連死の概況(第37回審査会まで)(令和7年12月25日) 出典を開く
- 9内閣府・消防庁 避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等に係る取組状況の調査結果(令和8年4月1日現在) 出典を開く
参考書籍
- 『人が死なない防災』(外部サイト、新しいタブで開きます)(片田敏孝、集英社新書、2012年3月)。津波避難の研究者が、警報や情報の側からではなく、人が実際にどう動くかという行動の側から防災を組み直した書。計画を紙の上で完成させることと、当日その人が動けることの距離を考えるのに使える。
参考文献
令和8年熊本地震による被害及び消防機関等の対応状況(第35報) — 消防庁災害対策本部 (2026). 総務省消防庁
熊本県熊本地方を震源とする地震(第121報) — 消防庁応急対策室 (2019). 総務省消防庁
令和6年能登半島地震における災害関連死の概況(第37回審査会まで) — 石川県危機管理部危機対策課 (2025). 石川県
避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等に係る取組状況の調査結果(令和8年4月1日現在) — 内閣府政策統括官(防災担当)・消防庁国民保護・防災部防災課 (2026). 総務省消防庁
令和6年能登半島地震において災害関連死として認定された事例及び認定されなかった事例(災害関連死事例集) — 内閣府政策統括官(防災担当)付 (2026). 内閣府

