2025年の介護事業者の倒産は176件で、うち訪問介護が91件と3年連続の最多になった。同じ年、通所・短期入所は45件で前年から19.6%減っている。逆向きに動いた背景には、令和6年度の介護報酬改定がある。訪問介護の基本単位は下がり、通所介護の基本単位は上がった。同じ制度変更が、事業の形によって逆向きに効く仕組みを読む。
ざっくり言うと
- 2025年の介護事業者の倒産は176件で2年連続の最多、うち訪問介護は91件で3年連続の最多となった
- 同じ年、通所・短期入所の倒産は45件で前年の56件から19.6%減っている
- 令和6年度の介護報酬改定では、訪問介護の基本単位が下がり、通所介護の基本単位は上がった
2025年の介護事業者の倒産は全体で176件、うち訪問介護が91件で3年連続の最多となった。倒産のうち従業員10人未満が142件(80.6%)、資本金500万円未満が128件(72.7%)を占める。集計は負債1,000万円以上が対象。
何が起きているのか
同じ年に訪問介護の倒産は増え、通所・短期入所の倒産は減った
東京商工リサーチの集計で、2025年の介護事業者の倒産は176件となり、2年連続で最多を更新した。
内訳を見ると、動きが揃っていない。訪問介護は91件で、前年の81件から12.3%増。3年連続の最多である。ところが通所・短期入所は45件で、前年の56件から19.6%減っている。有料老人ホームも16件で前年の18件から減った。
同じ年、同じ介護保険の下で、訪問は増え、通いは減った。
倒産した事業者の規模も偏っている。従業員10人未満が142件で80.6%、資本金500万円未満が128件で72.7%、負債1億円未満が141件で80.1%。原因は売上不振が140件で79.5%を占め、人手不足を挙げたものが29件で前年比45.0%増えた。
背景と文脈
同じ改定で、訪問介護の単位は下がり、通所介護の単位は上がっていた
分岐点は2024年4月にある。令和6年度の介護報酬改定で、サービスごとの単位数が見直された。
厚生労働省が分科会に諮った新旧対照の資料を開くと、訪問介護費の欄はこうなっている。身体介護が中心である場合、所要時間20分未満が167単位から163単位へ、20分以上30分未満が250単位から244単位へ、30分以上1時間未満が396単位から387単位へ。生活援助が中心である場合も、20分以上45分未満が183単位から179単位へ、45分以上が225単位から220単位へ下がった。いずれも2%あまりの引き下げである。
同じ資料の通所介護費の欄は、逆を向いている。通常規模型で所要時間3時間以上4時間未満の場合、要介護1が368単位から370単位へ、要介護3が477単位から479単位へ、要介護5が585単位から588単位へ上がっている。
同じ日に決まった、同じ改定である。それが訪問と通いで逆を向いた。倒産件数がその後2年で逆向きに動いたのは、これと無関係ではない。
構造を読む
報酬は提供した時間で決まるが、費用は移動を含む拘束時間で発生する
介護報酬は単位数で決まる。単位数はサービスの種類と所要時間で決まる。ここまでは訪問も通いも同じ形をしている。
違うのは、その時間の外側にある費用である。
訪問介護は利用者の家を1軒ずつ回る。1軒目から2軒目までの移動、駐車場所を探す時間、階段を上る時間。これらは所要時間に入らない。報酬が計るのはドアの中に入ってからケアを終えるまでで、そこに至るまでの時間は事業者が負担する。ガソリン代も同じである。仮に30分のケアのために往復40分かかるとすれば、実際の拘束時間は70分になるが、報酬は30分ぶんしか出ない。移動時間そのものの統計は本文の出典にはないが、単位の決まり方から導ける関係である。
通所介護は利用者を1か所に集める。送迎はあるが、1台で複数人を運べる。職員は施設にいるので、1人あたりの移動時間はサービス提供時間に比べて小さい。同じ2%の単位数の動きでも、乗る土台の大きさが違う。
この差が、倒産の規模別の内訳に出ている。従業員10人未満が80.6%を占めるということは、倒れたのは移動の非効率を人数で吸収できない事業所だということである。ヘルパーが20人いれば地域を分けて割り当てられるが、5人ではそれができない。
原因の内訳も同じ方向を指している。売上不振が79.5%で最多だが、訪問介護の売上不振は「客が来ない」ではない。回れる件数の上限が先に来る。人手不足を原因とする倒産が前年比45.0%増えているのは、その上限を決めているのが人数だからである。
制度の側から見ると、ここには測り方の問題がある。報酬はサービスを提供した時間で計られ、費用は移動を含む拘束時間で発生する。両者のずれは、事業の形によって違う。ずれの大きい事業に一律の率で引き下げをかければ、効き方は同じにならない。
同じ構図は運送の分野でも出た。トラック運送の「適正原価」— 多重下請で末端に薄まる運賃を、法定の下限で止められるか(このサイトの記事)で見たのは、荷待ちや荷役の時間が運賃に乗らないという問題だった。移動や待機を誰が負担するかは、値付けの単位をどこに置くかで決まる。
倒産が小さな事業所に集中することの意味は、事業者の数だけの話ではない。訪問介護は、利用者の家に人が行かなければ成立しない。事業所が消えた地域では、生活保護の捕捉率、都道府県で何が違うのか(このサイトの記事)で見たのと同じことが起きる。制度は存在しているが、届く経路がなくなる。この未受給を数える手順は制度からの排除と未受給(このサイトの記事)にまとめてある。事業所の廃業は、給付の額を変えずに給付の到達率だけを下げる。
この記事で使った統計の出典
参考書籍
- 『介護格差』(外部サイト、新しいタブで開きます)(結城康博、岩波書店)。介護サービスを受けられる人と受けられない人の間に何が起きているのかを、現場の実態から整理した一冊。事業所が消えた地域で何が起きるかを考えるのに使える。
参考文献
2025年「介護事業者」倒産 過去最多の176件 — 東京商工リサーチ (2026). TSRデータインサイト
令和6年度介護報酬改定 介護報酬の見直し案(別紙1-1 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準) — 厚生労働省 老健局 (2024). 社会保障審議会 介護給付費分科会 第239回
令和6年度介護報酬改定の主な事項について — 厚生労働省 老健局 (2024). 社会保障審議会 介護給付費分科会 第239回 資料1
令和6年度介護報酬改定に関する審議報告 — 厚生労働省 (2023). 厚生労働省

