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一般社団法人社会構想デザイン機構

不登校35万4,000人・12年連続最多: 増加率2.2%への急減速が示す構造転換

ヨコタナオヤ
約8分で読めます

2024年度の不登校は小中合計35万3,970人と12年連続で過去最多を更新した。一方、前年比増加率は2.2%と2021年度の24.9%から急減速し、新規不登校は9年ぶりに減少した。この逆説的な数字が示すのは、コロナ禍急増の一巡と、制度・意識・受け皿の三位一体で始まった構造転換の入口である。

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ざっくり言うと

  1. 小中合計35万3,970人(前年比+2.2%)と過去最多を更新しながら、増加率はコロナ禍急増期(+24.9%/+22.1%)から急減速した
  2. 新規不登校が9年ぶり減少・不登校継続率が初めて低下に転じ、「流入減×回復加速」の構造変化が始まった
  3. COCOLOプランの300校目標に対し2026年4月時点で84校(28%)にとどまり、受け皿整備の遅れが回復スピードを制約している

何が起きているのか

35万3,970人と最多更新しながら増加率が2.2%に急減速。新規不登校は9年ぶりに減少し、構造変化の起点となった

2024年度(令和6年度)の小・中学校における不登校児童生徒数は35万3,970人と、12年連続で過去最多を更新した。小学校が13万7,704人(前年比+5.6%)、中学校が21万6,266人(同+0.1%)で、在籍者に占める割合は約3.8%。おおよそ 26人に1人 にあたる計算である。

数字だけを見れば深刻さは変わらない。しかしこの発表には、もう一つの注目すべきデータが含まれていた。

前年比増加率は +2.2%。2021年度の +24.9%、2022年度の +22.1% というコロナ禍のピークから急減速し、増加幅は前年(+4万7,434人)の6分の1以下の+7,488人にとどまった。さらに、新規不登校(年度内に初めて不登校になった児童生徒)は 15万3,828人 と、9年ぶりに減少した。

不登校(小中合計)増加率の推移(2019〜2024年度) — 文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」

「最多更新」という事実と「増加率の急減速」という事実が同時に存在する。この逆説的な統計は、日本の不登校問題がコロナ禍による急増フェーズを抜け、構造転換の入口に差し掛かっていることを示唆している。

背景と文脈

コロナ禍の急増一巡・教育機会確保法の浸透・COCOLOプランの整備が増加率鈍化の三重底

コロナ禍の「一時的流入」の収束

2021年度・2022年度に増加率が+20%超を記録した背景には、コロナ禍の学校休校・分散登校・生活リズム崩壊がある。登校習慣の断絶が不登校への入口となった児童生徒が、この2年間で集中して計上された。

その後、コロナ関連要因による「一時的な追加不登校」の流入が一巡しつつある。新規不登校が9年ぶりに減少したのは、この「コロナ起因」の新規流入が落ち着いてきた反映と解釈できる。不登校継続率(前年度も不登校だった割合)も小学校71.7%・中学校77.1%と、いずれも初めて低下に転じた。まだ70%台という高水準だが、「一度なったら長期化する」という構造に変化が生じ始めている。

年度小中合計(人)増加数増加率
令和元(2019)181,272+14,855+8.9%
令和2(2020)196,127+14,855+8.2%
令和3(2021)244,940+48,813★+24.9%
令和4(2022)299,048+54,108★+22.1%
令和5(2023)346,482+47,434+15.9%
令和6(2024)353,970+7,488★+2.2%

出典: e-Stat 不登校児童生徒数の推移

教育機会確保法とCOCOLOプランの効果

増加率鈍化の制度的背景として、(2016年施行)とその後の政策展開を見落とせない。

同法は「不登校児童生徒の休養の必要性」を法律として初めて明記し、「学校に登校する結果のみを目標とせず、社会的自立を目指す」という方針(2019年文科省通知)へとつながった。「無理に登校させなくてもよい」という社会規範が浸透したことで、不登校を選びやすくなった(増加要因)と同時に、支援につながりやすくなった(鈍化要因)の両面がある。

2023年3月に文部科学省が策定した (「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」)は、3本柱からなる。第一に学びの場の確保(不登校特例校・校内教育支援センター・ICT活用)、第二に1人1台端末を活用した心の小さなSOSの見逃し防止、第三に学校風土の「見える化」(学校環境調査の義務化)である。

フリースクール等の居場所と校内支援センターが整備されることで、「重症化せずに回復する」ケースが増加したとの解釈は支持を集めている。ただし、実効性を議論するには制度整備の現在地を正確に把握する必要がある。

中学校横ばいと小学校低学年増加という非対称性

増加率鈍化は一様ではない。中学校の前年比増加数は +154人(+0.1%)と事実上の横ばいだが、小学校は +7,334人(+5.6%)の増加を続けている。特に小学校低学年(1・2年生)の急増は過去10年で5.5倍に達しており、これは単なるコロナ後遺症では説明できない構造的な問題を示唆している。

公益社団法人 子どもの発達科学研究所(2024年3月)の調査によれば、学校側が「無気力・不安」と把握しているケースの多くに、いじめ・学校内人間関係・発達特性等の複合要因があることが判明している。統計上の「要因」は学校側の把握に基づくため、本人・保護者の認識と大きなギャップが生じている。

構造を読む

増加率鈍化は改善のシグナルだが、90日以上欠席者・未相談者・フリースクール格差という「見えにくい深刻化」は続く

増加率鈍化は「改善」ではない

増加率鈍化を「不登校問題が改善している」と読むのは誤りである。

第一に、総数は依然として過去最高水準(35万3,970人)にある。第二に、90日以上欠席した児童生徒は約6万7,000人と過去最多水準を維持しており、長期化・深刻化は並行して進行している。第三に、学校内外の専門機関等に まったく相談していない 不登校児童生徒が約 13万6,000人 に達している。不登校全体の38%以上が支援の網の外にある。

増加率の鈍化は「新たな不登校の流入が落ち着いてきた」という意味での変化であり、既存の深刻な状況が解決に向かっているわけではない。

受け皿整備の決定的な遅れ

COCOLOプランが掲げる全国300校の学びの多様化学校(不登校特例校)設置目標に対して、2026年4月時点の設置数は 84校(28%)。目標達成は遠い。

文部科学省の設置者一覧によれば、全国67自治体のうち30自治体が「設置予定なし」と回答している。ICTを活用した自宅学習による出席認定を受けた児童生徒も、小学校3,970人・中学校6,439人の合計1万409人にとどまり、不登校全体のわずか約3.5%である。

制度は「多様な学びの選択肢」を謳うが、現実にアクセスできる児童生徒は限られている。

フリースクールの経済格差問題

フリースクールは不登校児童生徒の重要な「居場所」機能を担うが、月額利用料は一般に3〜7万円程度。家庭の経済力によって利用機会に大きな格差が生じており、東京都のような補助金制度を持つ自治体は少数にとどまる。

2024年度に開校した大阪市立心和中学校(大阪府初の学びの多様化学校)のように個別学習を設定する学校や、石川県加賀市が NPOカタリバ と連携して設置する校内教育支援センターのような先進事例はある。しかし長野県の「信州型フリースクール認証制度」(全国初・2024年4月開始)のような制度的枠組みを持つ自治体はまだ限られており、地域間格差は大きい。

国際的文脈:「不登校」は日本固有の課題

比較の視野を広げると、「不登校」という概念自体が日本の制度設計に由来することが見えてくる。

米国の Chronic Absenteeism(授業日数の10%以上欠席)は病欠を含む広義の概念であり、英国の Persistent Absence も同様の定義をとる。フィンランドでは多様な学び方が制度的に前提とされているため、対応概念自体が希薄だ。日本で「不登校」とされる状態の一部は、他国では「オルタナティブ教育の選択」として制度内に包摂されている。

日本では、フリースクールやホームスクーリングの法的地位が依然として不明確であり、一条校(正規学校)以外の学習機会を制度として認めてきた歴史が短い。教育機会確保法 は2016年に施行されたが、代替教育の法的地位の確立という課題は未完のままである。

増加率が鈍化に転じた今こそ、「登校か不登校か」という二元論ではなく、多様な学びの場を社会インフラとして整備するための本格的な議論が必要だ。制度・意識・受け皿の三位一体改革は、始まったばかりである。


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参考書籍

不登校問題の構造と歴史的文脈をさらに深く理解するために、以下の書籍を推薦する。

『不登校の理解と支援のためのハンドブック: 多様な学びの場を保障するために』(伊藤美奈子 編著、ミネルヴァ書房、2022年)は、校種別・領域別に不登校の現状と効果的支援を整理した実践的ハンドブック。政策・学術・現場の三視点が一冊にまとまっており、本稿で論じた制度整備の現状を深掘りする際の基本文献となる。

『学校へ行く意味・休む意味: 不登校ってなんだろう?』(滝川一廣、日本図書センター、2012年)は、児童精神科医の著者が「登校拒否」から「不登校」への呼称変更を含む歴史的経緯・諸説・対応策の変遷を俯瞰した一冊。概念の変遷が政策・制度にどう影響したかを理解するための必読書。

『不登校・ひきこもり急増: コロナショックの支援の現場から』(杉浦孝宣、光文社新書、2021年)は、コロナ禍による不登校急増を現場から記録した一冊。オンライン支援・居場所機能・eスポーツ活用等の実践を論じており、本稿で言及したコロナ禍急増期の実態を理解する上で補助線となる。


参考文献

令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について文部科学省. 文部科学省

不登校児童生徒数の推移(統計表)政府統計の総合窓口(e-Stat). e-Stat

誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)文部科学省. 文部科学省

不登校の要因分析に関する調査研究(報告書)公益社団法人 子どもの発達科学研究所. kohatsu.org

義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(教育機会確保法)e-Gov法令検索. e-Gov

読んだ後に考えてみよう

  1. 不登校の増加率が下がることは「問題が解決に向かっている」と同じ意味か。
  2. フリースクールの月額3〜7万円という費用は、どの家庭が負担できるか。
  3. あなたの自治体は学びの多様化学校を設置しているか、設置予定があるか。

この記事の用語

COCOLOプラン
2023年3月に文部科学省が策定した「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」。①学びの場の確保(不登校特例校・ICT活用)、②心の小さなSOSの見逃し防止(1人1台端末活用)、③学校風土の「見える化」の3本柱からなる。全国300校の学びの多様化学校設置を目標とする。
教育機会確保法
2016年12月施行の「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」。不登校児童生徒の休養の必要性を法律で初めて明記し、フリースクール等民間施設との連携促進・夜間中学設置推進を規定した。
不登校
文部科学省の定義では「病気や経済的な理由など以外の理由で、年間30日以上欠席した児童生徒」。1992年から閾値(年間30日以上)は変更されていない。フリースクール等に通っていても、在籍校の出席認定を受けていなければ不登校にカウントされる。

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