上下水道 コンセッション3 事例の 構造比較 — 宮城 ・ 浜松 ・ 須崎が 示す運営移管の 分岐条件
宮城県(上工下水道一体型)・浜松市(下水道の処理場)・須崎市(下水道、汚水管きょを含む)の3事例は、上下水道コンセッションの異なる設計類型を代表する。運営権の対象範囲・改築更新の費用負担・料金改定の決定権がそれぞれどう置かれているかを一次資料で比較し、2030年代に向けた自治体の設計選択肢を整理する。
本ノートは公共資産活用研究室(ISVD-LAB-005)の構造分析シリーズ第12稿である。国内で先行する3つの上下水道コンセッション事例を設計構造の観点から比較し、民間運営移管の条件と限界を整理する。
何が起きているのか
上下水道は全国の市区町村が運営する最大のインフラ資産のひとつだ。全国の上水道事業数は1,299に上り、そのうち人口減少による料金収入減少と施設老朽化の二重負担に直面している団体は相当数に及ぶ。
この状況に対し、下水道を所管する国土交通省と、当時水道を所管していた厚生労働省はコンセッション(運営権設定方式)の導入を推進してきた。水道整備・管理行政は2024年4月に厚生労働省から国土交通省・環境省へ移管された(外部サイト・新しいタブで開きます)。コンセッションとは、インフラの所有権は自治体に残したまま、民間に運営権(コンセッション権)を設定し、民間が運営収益で投資を回収する手法だ。
国土交通省(外部サイト・新しいタブで開きます)は2015年以降、下水道コンセッションの導入を推進する制度整備を進め、浜松市が2018年4月に国内初の下水道コンセッションを開始した。その後、宮城県が上工下水道一体型コンセッション(2022年4月開始)を実施し、規模・構造ともに先行事例を大幅に上回るモデルを確立した。
背景と文脈
なぜ上下水道でコンセッションが必要とされるのか
上下水道の設備更新費は、高度経済成長期(1960〜1970年代)に整備された管路・処理場が一斉に耐用年数を迎えることで急増している。全国の下水道管渠のうち標準耐用年数50年を経過した延長は約3万km(総延長の約7%)で、10年後には約9万km(約19%)に増える見込みである。
同時に、人口減少が続く自治体では料金収入が減少し、設備更新の財源確保が困難になっている。この「更新費増加×収入減少」の構造が、コンセッション導入の背景にある。
コンセッションでは、民間事業者が20年前後の長期契約で運営権を取得し、契約で定めた範囲の維持管理と改築更新を担う。自治体は運営権対価を受け取り、民間は運営収益で費用と投資を回収する。ただし改築更新をどこまで民間に持たせるかは事例ごとに違う。以下で見る3事例のうち、運営権者が改築更新を担うのは浜松市の機械設備に限られる。
3事例の概要
| 事例 | 規模 | 開始 | 契約期間 | 対象の料金 |
|---|---|---|---|---|
| 浜松市(下水道の処理場) | 処理能力 日最大20万立方メートル(全体計画40万) | 2018年4月 | 20年 | 下水道使用料 |
| 宮城県(上工下水道一体型) | 水道3事業・計9事業を一体 | 2022年4月 | 20年 | 水道料金・工業用水料金・下水道使用料 |
| 須崎市(下水道、汚水管きょを含む) | 行政人口約2万人 | 2020年4月 | 19年6か月 | 下水道使用料(うち8割までを事業者が利用料金として収受) |
構造を読む
浜松市:国内初の下水道コンセッション
浜松市の案件は、国内初の下水道コンセッション(外部サイト・新しいタブで開きます)として2018年に開始した。対象は西遠処理区(市内最大の処理区、処理面積約10,500ヘクタール)の処理場1か所とポンプ場2か所で、管理者(浜松市)がコンセッション権を民間(浜松ウォーターシンフォニー株式会社、代表企業ヴェオリア・ジャパン株式会社)に設定した。運営権対価は25億円である。
設計上の特徴は「性能発注」だ。浜松市は処理水質・設備維持の最低水準を契約で定め、その水準を達成する方法は民間に委ねる。民間は最低水準を上回る効率化で収益を確保する設計となっている。
浜松市は運営権者によるセルフモニタリング、市による業務別モニタリング、日本下水道事業団による第三者モニタリングの3層で監視している。第三者モニタリングと市モニタリングを重ねる二重確認の形をとっており、運営権者の自己申告だけでは水準の達成を認めない設計だ。
浜松市モデルが示した課題は、「単一自治体・単一事業では民間の投資回収が薄い」という点だ。処理量が限られる中規模都市のコンセッションでは、民間の収益余地が小さく、参入意欲のある民間事業者が絞られる。
宮城県:上工下水道一体型の設計
宮城県の案件は、上水道・工業用水道・下水道の3事業を一体で民間に運営移管するモデルだ。みやぎ型管理運営方式(外部サイト・新しいタブで開きます)と呼ばれ、2022年4月に宮城県から株式会社みずむすびマネジメントみやぎ(代表企業はメタウォーター株式会社)が運営権を取得した。維持管理は株式会社みずむすびサービスみやぎ(代表企業はヴェオリア・ジェネッツ株式会社)が担当する。
規模の面では浜松市を大きく上回る。3種の事業を9つの事業として束ね、20年間まとめて1つの運営権者に委ねる設計だ。
宮城県モデルが採用した設計上のポイントは2つある。
第一に、3事業一体化による収益の安定化。水道・工業用水・下水道を一体で受託することで、民間は収益源を分散できる。水道の需要が減少しても工業用水の稼働が高ければ収益を補完できる構造だ。
第二に、料金決定権を県に残したこと。宮城県は「民間会社に料金改定の権限はありません」と公表しており、水道料金はこれまでどおり県と市町村の協議を経て県議会の議決で決まる。運営権者の収入は、県が決めた料金の枠内で費用を下げることによって生まれる。
須崎市:汚水管きょまで対象に含めた下水道コンセッション
須崎市(高知県)の案件は「須崎市公共下水道施設等運営事業」で、2020年4月に始まった。契約期間は19年6か月、運営権者は株式会社クリンパートナーズ須崎である。運営権の対象(外部サイト・新しいタブで開きます)に汚水管きょと終末処理場が入る点が、処理場1か所とポンプ場2か所に絞った浜松市との違いだ。
料金は二重になっている。下水道の使用者は、市に使用料を、事業者に利用料金を払う。利用料金の額は、須崎市下水道条例が定める使用料等に市が決める割合を掛けたもので、上限は8割である。料金改定は市が計画的に検討し、事業者は5年に1回まで市に提案できるが、最終的に決めるのは市だ。
改築更新の費用は市が負担する。募集要項は、改築の設計・工事を「事業者の提案を受けて市が別途実施する」と定めている。修繕にも要求水準書が定める上限額があり、上限を超える管路修繕と終末処理場の修繕は市が実施する。運営権者が費用を負うのは維持管理と上限内の修繕までで、施設を作り替える費用は市に残る。
行政人口約2万人という規模では料金収入の総額が小さく、民間が改築更新費まで自己資金で負担するモデルは成立しにくい。費用の配分は、その制約に合わせて設計されている。
| 設計軸 | 浜松市 | 宮城県 | 須崎市 |
|---|---|---|---|
| 運営権の対象 | 下水道の処理場1・ポンプ場2 | 上水道・工業用水道・下水道の3種、計9事業 | 下水道の汚水管きょ・終末処理場ほか |
| 改築更新の費用 | 機械設備の改築更新が運営権者の対象業務 | 今回の出典では確認できず | 市が負担し、設計・工事も市が別途実施 |
| 料金改定 | 今回の出典では確認できず | 県議会が議決、民間に改定権なし | 事業者が5年に1回提案でき、決定は市 |
3事例の比較から見えるのは、「コンセッション」という名称が共通していても、設計の中身は事例ごとに違うという構造だ。対象を処理場に絞るか管きょまで入れるかで民間が負う範囲が変わり、改築更新を市が持つか運営権者が持つかで民間が負う費用が変わる。料金改定に民間の提案を入れるかどうかは、宮城県と須崎市ではっきり分かれた。
2030年代に向けて改築更新費の増大が確実な水道・下水道インフラにおいて、自治体が最初に決めるのは「どこまでを運営権の対象にするか」である。費用の配分と料金の設計は、その決定の後に続く。
この記事で使った統計の出典
参考文献
- 1.
- 2.
- 3.日本初 浜松市の下水道運営委託方式(コンセッション方式)の現状について(外部サイト・新しいタブで開きます)
浜松市上下水道部 上下水道総務課 (2020)
第23回PPP/PFI検討会 資料4(国土交通省)
- 4.
- 5.
訂正履歴
— 出典6件をすべて差し替え、浜松市の対象施設と宮城県の代表企業の記述を一次資料に合わせて直しました。
- 訂正前
- 国土交通省の6件の出典URLが、いずれも記事の主張とは無関係のページを指していました。また浜松市のコンセッションを「7か所の処理場と関連施設を対象に」、宮城県の運営会社を「ヴェオリアジャパン株式会社を中心とするSPC」と記載していました。
- 訂正後
- 出典を、浜松市上下水道部の資料(第23回PPP/PFI検討会 資料4、令和2年11月)、宮城県公式サイト、国土交通省のガイドライン(平成31年3月)、同「上下水道の現状(参考資料1)」に差し替えました。浜松市の対象は「西遠処理区の処理場1か所とポンプ場2か所」、宮城県の運営会社の代表企業は「メタウォーター株式会社」に改め、維持管理会社も追記。下水道管渠の老朽化と水道事業数についても、一次資料の数値をそのまま載せる形にしています。
誤った理由 6件のURLはいずれもHTTPステータス200を返すため、リンク切れの検査では通過していました。開いて中身を照合したところ、たとえば「浜松市下水道コンセッション事業」としていたURLの実体は「下水道管路施設の維持管理における包括的民間委託の導入に関する報告書」のとりまとめについてのページ。浜松市の「7か所」は処理区の数(平成17年の12市町村合併で7処理区を編入)であり、コンセッションの対象施設数ではありません。宮城県の代表企業も、県の公式サイトの記載と食い違っていました。
— コンセッションを推進してきた省庁の説明を、実際の所管に合わせて書き直しました。
- 訂正前
- 「国土交通省・厚生労働省(現・こども家庭庁統合前)はコンセッションの導入を推進してきた」と書いていました。
- 訂正後
- 「下水道を所管する国土交通省と、当時水道を所管していた厚生労働省」に改め、水道整備・管理行政が2024年4月に国土交通省・環境省へ移管された事実を、国土交通白書2024の出典つきで追記しました。
誤った理由 こども家庭庁は水道行政と関係がありません。水道整備・管理行政の移管先は国土交通省と環境省です(国土交通白書2024「コラム 水道整備・管理行政の移管について」)。読者が所管官庁を取り違える記述でした。
— 須崎市の事例は水道ではなく下水道。宮城県の料金改定についての記述も、県の公表内容と逆でした。あわせて比較表を作り直しています。
- 訂正前
- 須崎市の案件を「水道コンセッション」とし、契約期間15年、民間の収入源は水道料金、設備更新費は「一部自治体補助」と記載。宮城県については「一定の範囲内での料金改定申請権を認めている」「民間申請権あり」としていました。浜松市の規模は「処理水量31万立方メートル/日」、設備更新費は「民間全額」。
- 訂正後
- 須崎市の案件は「須崎市公共下水道施設等運営事業」で、対象は下水道です。契約期間は19年6か月、事業者は下水道条例の使用料等の8割までを利用料金として収受し、改築の設計・工事は市が別途実施。宮城県については「民間会社に料金改定の権限はありません」という県の記載に改め、料金は県と市町村の協議を経て県議会の議決で決まることを追記しました。浜松市の規模は出典の「処理能力 日最大20万立方メートル(全体計画40万)」に改め、運営権の対象は機械設備の改築更新であると明記。比較表は「運営権の対象」「改築更新の費用」「料金改定」の3軸に組み直し、出典で確認できない欄にはその旨を書いています。
誤った理由 須崎市の一次資料(同市公式サイト、および特定事業の選定・募集要項)で、事業名・対象・期間・費用負担のいずれもが記事の記述と食い違っていました。宮城県については、県公式サイトが「民間会社に料金改定の権限はありません」と明記しているにもかかわらず、記事は逆の内容。3事例の比較という記事の骨格が、確かめていない前提の上に立っていたため、比較表そのものを一次資料から組み直しました。
実務の手順と相談先
この記事は構造の話です。手順・事例・費用の相場は、当機構が別に運営している公共0区にあります。
ウォーターPPP レベル3.5の補助要件public0.isvd.or.jp具体の施設で相談する
初回のご相談は無料で、オンラインで1時間ほどです。
