こども家庭庁の第21次報告で、心中以外の虐待死48人のうち0歳が33人、68.8%を占めた。その0歳33人のうち、生まれたその日に亡くなった子どもが16人で48.5%。さらにその16人で関係機関の関与があったのは1人、6.3%だった。虐待を見つける仕組みが出生後の接点に置かれている一方、最も多く亡くなっているのはその接点が生じる前の子どもである構造を読む。
ざっくり言うと
- 心中以外の虐待死48人のうち0歳が33人で68.8%、3歳未満が38人で79.2%を占めた
- 0歳33人のうち、生まれたその日に亡くなった子どもは16人で48.5%だった
- その16人のうち関係機関の関与があったのは1人、6.3%にとどまる
括弧内の割合は、日齢0日児の48.5%は0歳33人に対するもの、関係機関の関与の6.3%は日齢0日児16人に対するもので、それ以外は48人に対するものである。妊娠期・周産期の問題としては、遺棄が18人(37.5%)、予期しない妊娠・計画していない妊娠が13人(27.1%)、妊婦健康診査の未受診が11人(22.9%)、妊娠届の未提出が10人(20.8%)挙がっている。
何が起きているのか
亡くなった子どもの7割近くが0歳で、その半数は生まれたその日だった
こども家庭審議会の専門委員会がまとめた第21次報告は、令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間に発生または表面化した死亡事例56例65人を検証対象としている。うち心中以外の虐待死が44例48人、心中による虐待死が12例17人である。
年齢の内訳を見ると、偏りが極端に出る。心中以外の虐待死48人のうち、0歳が33人で68.8%、3歳未満が38人で79.2%。7割近くが1歳の誕生日を迎えていない。
さらにその内側がある。0歳33人のうち、日齢0日、つまり生まれたその日に亡くなった子どもが16人で48.5%である。
そして、この報告で最も重い数字はその次に置かれている。日齢0日児事例16人のうち、関係機関の関与があったのは1人、6.3%だった。
背景と文脈
発見の仕組みは出生後の接点に置かれ、生まれる前の把握は妊娠届に頼っている
防止の仕組みは、子どもと社会が接する点でできている
いまの児童虐待の防止は、子どもと社会が接する点を使って組み立てられている。
妊娠届を出して母子健康手帳を受け取り、出生届を出し、乳幼児健康診査を受け、保育所や幼稚園に通い、学校に上がる。それぞれの場面に、大人が子どもを見る機会がある。虐待の兆候はそこで拾われる。児童相談所や市区町村の虐待対応担当部署が動くのも、多くはこの経路から情報が届いたときである。
児童相談所が関わっていたのは31.3%である
実際にどこまで関わっていたか。心中以外の虐待死48人のうち、児童相談所の関与は「あり」が15人(31.3%)、「なし」が25人(52.1%)、「不明」が8人(16.7%)である。
機関別に見ると、児童相談所と市区町村の両方が関与していたのは14人で29.2%、市区町村のみが3人で6.3%、児童相談所のみが1人で2.1%。何らかの関与があったのは18人である。
48人のうち30人には、どちらも関わっていない。
自治体は「よく活用している」と答えている
地域の連携の枠組みが、要保護児童対策地域協議会である。関係機関が集まって、支援が必要な子どもの情報を共有する場になる。
その活用状況を自治体に聞いた結果がある。死亡事例が発生または表面化した地方公共団体における活用状況は、心中以外の虐待死事例で「よく活用している」が30人(73.2%)、「ある程度活用している」が11人(26.8%)。「あまり活用していない」「ほとんど活用していない」はいずれも0人(要保護児童対策地域協議会の未設置自治体2、設置が不明の自治体4があるため母数は41人)である。
活用していないと答えた自治体は、1つもない。
ところが、亡くなった子どもの75.6%は検討されていない
同じ協議会で、その子どもの事例が実際に検討されていたか。
要保護児童対策地域協議会における当該事例の検討状況は、心中以外の虐待死事例で検討「あり」が10人(24.4%)、「なし」が31人(75.6%)で、7割以上の事例で検討がなされていなかった(母数41人)。
内訳も出ている。検討「あり」の10人のうち、実務者会議で検討されていた事例が8人(19.5%)、個別ケース検討会議で検討されていた事例が6人(14.6%)。「要保護児童」として扱われていた事例は7人(17.1%)である。
心中のほうはもっと極端である。心中による虐待死事例では、要保護児童対策地域協議会で検討「なし」の事例が16人(100.0%)で、全ての事例で検討がなされていなかった。
枠組みは動いている。そこに乗っていない。 自治体の自己評価と、亡くなった子どもがそこで検討されたかどうかは、別の話である。
妊娠期の問題が並んでいる
報告は、妊娠期・周産期の状況も集計している。遺棄が18人で37.5%、予期しない妊娠または計画していない妊娠が13人で27.1%、妊婦健康診査の未受診が11人で22.9%、妊娠届の未提出が10人で20.8%。複数回答であり、重なっている事例も多い。
20年で0日児は185人である
長期の推移も表になっている。0歳児の心中以外の虐待死は、第1次から第20次までで504人、第21次で33人、総数537人。うち0日児は第1次から第20次までで185人、第21次で16人、総数201人。0か月児は43人、2人、総数45人である。
0日・0か月児事例が0歳児の死亡事例に占める割合は45.2%(第1次から第20次まで)。 0歳で亡くなった子どもの半分近くが、生後1か月以内に集まっている。
なお、こども家庭庁が令和8年度の概算要求資料でこの数字を引くときは、0日185人を37.7%と書いている。185を504で割ると36.7%になる。 同じ庁の2つの資料で、割合が一致しない。 ここでは、もとの検証報告の実数を使う。
構造を読む
最も多く亡くなる層に、いまの仕組みが触れる機会が制度上ほとんどない
仕組みは出生後にあり、死は出生の当日にある
数字を並べると、防止の仕組みと死が起きる場所がずれていることが分かる。
仕組みの側は出生後にある。母子健康手帳の交付、乳幼児健康診査、保育所、学校。どれも子どもが生まれてから機能する。虐待の通告も、誰かが子どもを見て初めて出せる。
死の側は出生の当日にある。48.5%がそこに集まっている。生まれたその日に亡くなった子どもは、乳幼児健診にも保育所にも学校にも一度も現れない。通告する誰かが、そもそも子どもを見ていない。
この層に対して、いまの仕組みは接点を持たない。 6.3%という数字は、関係機関の努力が足りないという話ではなく、触れる機会が制度上ほとんど用意されていないという話である。
0日児の加害者は、6割超が実母である
誰が加害者だったか。0日・0か月児事例で虐待を行った主たる加害者は、第21次の0日児16人のうち実母が10人(62.5%)、不明が6人(37.5%)。第1次から第21次までの総数では実母が205人(83.3%)である。
実父は第1次から第21次までの総数で3人(1.2%)にとどまる。 産んだ人が1人でいる場面である。
死因の半分は「出生後、放置」である
どう亡くなったかも出ている。第21次の0日児16人の死因となった虐待の類型は、ネグレクトが8人(50.0%)、身体的虐待が7人(43.8%)、不明が1人(6.3%)。
直接の死因では、出生後、放置が7人(43.8%、不明を除いた有効割合58.3%)、窒息(絞殺以外)が4人(25.0%、有効割合33.3%)である。
最も多いのは、生まれたあと放置されることである。 積極的な加害よりも、その場に誰もいない状態が死につながっている。
検証そのものが、8割で行われていない
事例のあとの検証にも数字がある。当該事例に関する第三者による検証の実施状況は、心中以外の虐待死事例で「実施していない」が38人(79.2%)、「実施した」が5人(10.4%)、「実施中」が5人(10.4%)である。
8割の事例で、第三者による検証が行われていない。 何が起きたかを外から確かめる工程が、大半で省かれている。
妊娠届を経路にすると、届けない人には届かない
では、生まれる前に把握する経路はあるか。ひとつある。妊娠届である。届出をすれば母子健康手帳が交付され、自治体が妊婦を把握する。ところが未提出が10人、20.8%。妊婦健康診査の未受診が11人、22.9%。届出を経路にしている限り、届出をしていない人には届かない。
ここには未受給と同じ構図がある。制度は用意されているが、本人が入口に立たなければ起動しない。しかも妊娠の場合、 入口に立てない理由そのものが状況の深刻さと重なっている。 予期しない妊娠、周囲に言えない事情、経済的な余裕のなさ。届出をためらう条件と、その後に困る条件が同じである。
届出の手前に接点をつくる事業が新規で立った
こども家庭庁は令和8年度の概算要求に、妊娠の悩み相談の広報を強化する事業を新規で盛り込んだ。妊娠検査薬を売る薬局など、悩みを抱える女性が立ち寄る先を通じて相談窓口を知らせるという設計である。届出を待つのではなく、届出の手前で接点をつくろうとしている。
方向としては、この層に触れる機会を増やすほかない。ただし広報で解ける部分と解けない部分がある。 窓口の存在を知っていても、行けるかどうかは別の条件で決まる。
制度が用意されていることと、それが届いていることを分けて数える必要があるのは制度からの排除と未受給(このサイトの記事)で扱った構造と同じで、ここでは入口に立つこと自体が最も重い障壁になっている。
子どもの側から発見の網を張る設計は、ヤングケアラーは高2で4.1%に下がり、大学3年で6.2%に戻る(このサイトの記事)でも限界が出た。学校に置いた仕組みは、学校を離れた層に届かない。ここではもっと手前で、生まれる前の層に届いていない。
何を数えれば、次の判断ができるか
いま分かっているのは、亡くなった子どもの数と、そこに関わっていた機関の数である。判断のために足りないものが2つある。
1つは、 妊娠届を出していない妊婦が何人いるか である。出生数と妊娠届の数を突き合わせれば近似は出るが、公表された形では存在しない。分母が分からなければ、広報が届いたかどうかも測れない。
もう1つは、 相談窓口に来た人がその後どうなったか である。概算要求の事業は相談件数の増加を目標に置いている。件数が増えることと、出産や養子縁組や中絶の選択に実際につながることは別である。 件数だけを目標にすると、増えたかどうかしか分からない。
この記事で使った統計の出典
- 1こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告)(令和7年9月) 出典を開く
- 2こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告) 表37(令和7年9月) 出典を開く
- 3こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告)(令和7年9月) 出典を開く
- 4こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告) 表60(令和7年9月) 出典を開く
- 5こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告) 表63(令和7年9月) 出典を開く
- 6こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告) 表67・表68(令和7年9月) 出典を開く
- 7こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告) 表68(令和7年9月) 出典を開く
- 8こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告) 表70(令和7年9月) 出典を開く
- 9こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告) 表71(令和7年9月) 出典を開く
- 10こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告) 表72(令和7年9月) 出典を開く
- 11こども家庭庁 こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告) 表66(令和7年9月) 出典を開く
参考書籍
- 『子どもの貧困 — 日本の不公平を考える』(外部サイト、新しいタブで開きます)(阿部彩、岩波書店)。子どもをめぐる不利がどこで生じ、どう積み重なるのかをデータから整理した一冊。制度の接点がどこに置かれているかを考えるのに使える。
参考文献
こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告) — こども家庭審議会児童虐待防止対策部会 児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会 (2025). こども家庭庁
令和7年児童福祉法等改正法の施行(一時保護中の児童の面会通信関係)等 — こども家庭庁 支援局虐待防止対策課 (2025). 全国児童相談所長会議
こども虐待による死亡事例等の検証結果 — こども家庭庁 (2026). こども家庭庁


