生活困窮者自立支援制度の施行から10年間で、新規相談の受付は3,455,905件、継続的な支援のためのプラン作成は919,459件で26.6%だった。就労か増収に至ったのは327,967人で、相談の9.5%にあたる。令和6年度は相談が前年度から9,373件増えた一方、プラン作成は3,790件減っている。国が置いた目安値と実績の距離を読む。
ざっくり言うと
- 10年間の新規相談受付は3,455,905件、プラン作成は919,459件で26.6%である
- 就労か増収に至ったのは327,967人で、相談件数の9.5%にあたる
- 令和6年度は相談が9,373件増えたのに対し、プラン作成は3,790件減っている
令和6年度は新規相談が302,828件で前年度から9,373件増えたのに対し、プラン作成は89,492件で3,790件減った。国の目安値は令和5〜7年度のもの。
何が起きているのか
10年で345.6万件の相談。プランは26.6%、就労・増収に至ったのは9.5%
生活困窮者自立支援制度が平成27年4月の施行から10年を過ぎ、厚生労働省が累計を公表した。
10年間の新規相談受付件数は3,455,905件。そのうち継続的な支援のためプランを作成したのが919,459件で、相談の26.6%にあたる。
その先も細くなる。就労支援の対象になったのが460,865人でプラン作成の50.1%、就労した人が226,498人、増収した人が101,469人。足すと327,967人で、 10年間の相談件数の9.5%にあたる。
令和6年度だけを見ると、動きが噛み合っていない。新規相談受付は302,828件で前年度から9,373件増えた一方、プラン作成は89,492件で3,790件減った。就労支援対象者数も41,050人で、前年度の45,141人から減っている。
相談は増えて、その先の工程は減った。
背景と文脈
国が置いた目安値に届かず、相談者の半分が収入・生活費の話で来ている
4つの目安値のすべてで実績が下回っている
この制度には、国が置いた目安値がある。経済・財政再生計画の改革工程表に紐づく指標で、令和5年度から7年度は、新規相談が年間40万人(人口10万人・1か月あたり27件)、プラン作成が新規相談受付件数の50%、就労支援対象者数がプラン作成件数の60%、就労・増収率が75%、ステップアップ率が90%と置かれている。
実績と並べると差が出る。令和6年度の新規相談は人口10万人・1か月あたり20.2件で、目安の27件の74.8%。プラン作成は29.6%で目安の50%に届かない。就労支援対象者はプラン作成の45.9%で、目安の60%に届かない。就労・増収率は49%で、目安の75%に対して3分の2の水準である。
相談・プラン作成・就労支援・就労増収の4つは、いずれも目安を下回っている。 残る1つのステップアップ率は、目安が90%である。
相談件数は令和2年度に3.5倍まで跳ねた
10年の推移を見ると、山と谷がはっきりしている。施行初年度の平成27年度は226,411件だった新規相談が、令和2年度に786,163件まで跳ね上がった。約3.5倍である。住居確保給付金の対象が広がった時期にあたる。その後は令和3年度555,779件、令和4年度353,095件、令和5年度293,455件と4年連続で下がり、令和6年度に増加へ転じた。
就労・増収率も同じ形で動いている。平成28年度の71%から令和2年度の27%まで下がり、そこから43%、51%と戻してきたが、令和6年度は49%で再び下がった。
相談に来るのは男性が55.2%、50代が最も多い
令和6年度の新規相談者の内訳も公表されている。性別は男性55.2%、女性44.0%、不明0.8%(n=280,012)。年代は50代が18.2%で最も多く、70代以上が17.8%、40代が14.0%、60代が13.5%と続く。20代と30代を合わせても21.7%である。
相談の半分は「収入・生活費のこと」
相談内容は複数回答で集計されている。収入・生活費のことが51.5%、仕事探し・就職について22.5%、病気や健康・障害のこと20.1%、家賃やローンの支払いのこと19.6%、住まいについて19.6%。食べるものがないが6.9%、ひきこもり・不登校が3.6%。
課題と特性で見ると経済的困窮が47.3%で最も多く、病気16.7%、就職活動困難15.5%、その他メンタルヘルスの課題14.2%が続く。金の話で来て、その後ろに病気と仕事がある。
構造を読む
効果が確認されている就労準備支援と家計改善支援が、ほとんど使われていない
プランを作らなかった件数の行き先
10年間で、相談345.6万件に対してプラン作成は91.9万件。差の約253.6万件がどこへ行ったかは、同じ資料に書かれている。
他制度・他機関へのつなぎが約69.2万件、相談・情報提供のみで終了が約126.3万件。合わせて約195.5万件である。このうち生活保護の窓口へつないだのが約17.6万人。
ただしこの数字は推計である。新たな評価指標による調査をもとに占有率を算出して生活困窮者自立支援室が推計したもので、令和2年度以降は統計システムから抽出していると注記されている。 プランを作らなかった253.6万件のうち、内訳が示されているのは195.5万件で、差は約58万件ある。
つなぎ先で最も多いのは生活保護の窓口
令和6年度のつなぎ先も件数で出ている。福祉事務所(生活保護担当部署)が14,224件で最も多く、社会福祉協議会の生活福祉資金の窓口が2,707件、フードバンク等の食糧支援関係団体が2,483件、地域包括支援センターが1,943件、ハローワークが1,476件(n=45,003、複数回答)。
生活困窮者自立支援制度は生活保護に至る前の段階を受け持つ制度である。その相談窓口からの最大のつなぎ先が生活保護の窓口だという事実は、この制度が何をしているかを示している。 手前で止める制度が、実際には振り分けの窓口として働いている。
相談が増えてプランが減る年をどう読むか
令和6年度は、相談が増えてプランが減った。読み方は2つある。
1つは、相談の中身が変わったという読み。1回の相談で解決したり、他の制度につないで終わったりするケースが増えれば、プランを作らない件数は増える。資料はプラン作成者のうち自立に向けた改善が見られた者の割合は80%と書いており、作られたプランの側の質が落ちたわけではない。
もう1つは、現場の手が足りないという読み。プランを作れば継続的な支援が始まる。相談を受ける件数が増えたときに、プランを作る件数まで一緒には増やせない。この場合、増えた相談の一部は、プランを作れば支援に乗ったはずの人である。
この2つは、年度別の内訳が推計でしか出ていない以上、公表されている数字では区別できない。
効果が確認されている2つの事業が、ほとんど使われていない
任意事業の数字を見ると、別の形が出てくる。
就労準備支援事業を利用した人の自立意欲のステップアップ率は35.8%で、利用していない人の14.5%の2.5倍。自己肯定感は27.5%対14.0%、社会参加は38.0%対18.9%。家計改善支援事業でも、自己肯定感のステップアップ率は17.5%対13.8%。
事業の効果は数字に出ている。ところが規模が小さい。就労準備支援事業の実施自治体は753で実施率83%、令和6年度の利用件数は5,435件。家計改善支援事業は787自治体で実施率87%、利用件数は20,573件。 令和6年度のプラン作成89,492件に対して、就労準備支援事業は6.1%、家計改善支援事業は23.0%である。
自治体の実施率は10年で上がった。就労準備支援事業は平成27年度の27%から83%へ、家計改善支援事業は22%から87%へ。 やる自治体は増えたが、使う人は増えていない。 制度が用意されていることと使われていることの差は、「政策が届かない層」の共通構造(このサイトの記事)で扱った形そのままである。
就労・増収率49%の分母と分子
指標の作り方も見ておく。令和6年度の就労・増収率49%は、就労支援対象プラン作成者のうち就労・増収した20,148人を、就労支援対象者41,050人で割ったものである。就労率のみでは36%。
分母は就労支援の対象になった人で、プラン作成者89,492人ではない。相談302,828件から見れば、この指標が測っているのは13.6%の部分である。 指標の分母をどこに置くかで、同じ制度が違って見える。
変化は就労以外のところにも出ている
プラン作成対象者に見られた変化は、就労以外にも並ぶ。自立意欲の向上・改善が20.9%、住まいの確保・安定が20.5%、一般就労開始(継続的就労)が18.4%、精神の安定が14.8%、家計の改善が12.3%、孤立の解消が11.3%、生活保護適用が10.8%(n=61,693、複数回答)。この間に変化はみられなかったが19.9%で、約8割に何らかの変化が出ている。
ステップアップ率も同様である。自立意欲が15.2%、自己肯定感が14.4%、社会参加が19.5%上昇し、3項目のいずれかが上昇した人は32.2%、3項目すべてが上昇した人は10.5%。
初回面談の時点で自分のことを否定し受け入れられない人が2.9%、自分のことを否定的に話すことが多く限られた家族・支援者からしか認められていないと感じている人が16.8%。合わせて約2割である。社会・家族との接点を持たず外出もままならない人が3.3%。
就労の一歩手前に、こういう状態の人がいる。 就労・増収率という1つの数字では、ここは見えない。
次の10年で何を測るか
国が目安値として置いているのは、相談・プラン・就労支援・就労増収・ステップアップの5つである。5つのうち4つが就労に向かう流れの中の指標で、ステップアップ率だけが状態像の変化を見ている。 測っている軸が就労に寄っているぶん、住まいや家計の側の成果は数字に出にくい。
生活保護「捕捉率」20%(このサイトの記事)で見た捕捉率は入口の話だった。この制度は生活保護に至る前を受け持つので、2つは連続している。相談まで来た人は制度に届いている。届いたあとで細くなる。 入口の捕捉率と、入ったあとの通過率は、別の問題として測る必要がある。
10年で345.6万件の相談を受けた制度が、次の10年で何を目標に置くか。目安値の75%に対して49%という現状を、達成できていない目標と読むか、目標の置き方が実態と合っていないと読むか。判断の材料は、就労以外の変化をどこまで数字にするかにかかっている。
この記事で使った統計の出典
- 1厚生労働省 生活困窮者自立支援制度における支援状況調査 集計結果(平成27年4月〜令和7年3月) 出典を開く
- 2厚生労働省 生活困窮者自立支援制度における支援状況調査 集計結果(令和6年度) 出典を開く
- 3厚生労働省 生活困窮者自立支援制度における支援状況調査 集計結果(令和5〜7年度の目安値) 出典を開く
参考書籍
- 『生活保護解体論: セーフティネットを編みなおす』(外部サイト、新しいタブで開きます)(岩田正美、岩波書店)。生活保護を単一の制度として見るのをやめ、機能ごとに分けて組み直すことを提案した本。生活困窮者自立支援制度が受け持つ範囲を、安全網全体の中に置いて考えるのに使える。
参考文献
生活困窮者自立支援制度における支援状況調査 集計結果(平成27年4月〜令和7年3月) — 厚生労働省 社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室 (2025). 厚生労働省
令和6年度 生活困窮者自立支援制度における支援状況 集計表(4月〜3月累計) — 厚生労働省 社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室 (2025). 厚生労働省
生活困窮者自立支援制度支援状況調査の結果について — 厚生労働省 (2026). 厚生労働省



