出入国在留管理庁が永住許可に関するガイドラインの改定案を公表し、令和8年8月4日から9月3日まで意見を募集している。収入要件は「世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準の額に継続して達しているか」となる。国民生活基礎調査で全世帯の平均所得金額は575万2千円、中央値は451万円、平均以下の世帯は61.5%である。年金と日本語B1と子の就学も新たに要件に入る。
ざっくり言うと
- 収入要件は「世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準」に引き上げられる
- 全世帯の平均所得金額575万2千円に対し、中央値は451万円で差は124万2千円ある
- 平均所得金額以下の日本人世帯は61.5%である
改定案は「世帯人数に応じた」平均としているが、どの統計のどの数字を使うかは概要に書かれていない。ここに挙げたのは世帯の類型別の平均で、世帯人数別の平均ではない。
何が起きているのか
永住許可の要件を具体化する改定案。意見募集は9月3日まで
NHKが2026年8月4日、政府が永住許可の審査要件を具体化するガイドラインの改定案をまとめたと報じた。
一次資料が公開されている。意見募集は令和8年8月4日から9月3日までで、令和8年1月23日の外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議で決めた総合的対応策を踏まえたものとされている。
改定案の概要に、これまで書かれていなかった一文が入った。在留資格「永住者」は「活動・期間の制限が無く、生涯を本邦で過ごすことが想定される最も安定した法的地位」なので「特に慎重な審査を行う必要」があると初めて明記した。
位置づけの記述が変わると、そこから下の要件が変わる。
背景と文脈
収入・年金・日本語・子の就学の4つが要件に入る
収入は「日本人と同等水準以上」になる
入管法第22条第2項は永住許可の要件を3つ置いている。素行が善良であること、独立の生計を営むに足りる資産または技能を有すること、その者の永住が日本国の利益に合すると認められることである。
改定案が動かすのは2番目と3番目である。独立生計要件の考え方として、現在および将来において、日本人と同等水準以上の経済条件を求めることを明記する。素行善良要件は特段の変更がない。
収入の書き方はこうである。世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準の額に継続して達しているか。概要には「基準の引き上げ」と付記されている。
年金の要件が新しく入った
収入と並んで、年金が要件に加わる。将来の受給見込額が、上記の年収水準で30年間厚生年金に加入していた水準に達しているか。新規追加であり、不足する場合は補填可能な金融資産も考慮する。
申請時点の収入ではなく、老後に受け取る額を見る要件である。 現在の資産と現在の所得だけでは足りない。
日本語と子の就学が国益要件に入る
3番目の国益要件も具体化される。積極的かつ具体的に当該外国人の永住が日本国に利益をもたらす必要があることを明記する。
そのうえで4つが並ぶ。公共の負担とならないこと、日本語能力はCEFR(日本語教育の参照枠)B1相当(自立した言語使用者)を求めること、我が国の制度等の理解が乏しい者は消極評価とすること、学齢期(義務教育期間)に子を就学させていなければ消極評価とすることである。
公共の負担については範囲が書かれている。独立生計要件が不要な類型(日本人、永住者または特別永住者の配偶者または子、難民等)でも、負担となるおそれが現実的であれば消極評価とする。
配偶者の特例は期間が延びる
在留期間の特例も動く。日本人・永住者の配偶者等については、婚姻期間3年かつ本邦在留期間1年で特例的に認めていたものを、それぞれ5年と3年に伸長する。
施行の時期は2段階である。適用は令和9年4月から。ただし収入に関する要素は令和8年10月から施行する。
構造を読む
「平均」を基準にすると、日本人世帯の61.5%が満たさない水準になる
その「平均」がどこにあるか
改定案は「日本人世帯の平均収入」を基準に置く。その平均がどこにあるかは、統計に出ている。
国民生活基礎調査によると、2024年の1世帯当たり平均所得金額は、全世帯が575万2千円である。
そして同じ調査に、もう2つの数字が並んでいる。中央値は451万円で、平均所得金額以下の割合は61.5%である。
平均575万2千円と中央値451万円の差は124万2千円。日本人世帯の61.5%が、その平均を下回っている。
平均を基準にすると、多数派が基準を満たさない
所得の分布は左に寄っている。所得金額階級別に世帯数の相対度数分布をみると、200〜300万円未満が13.5%、300〜400万円未満が13.0%、100〜200万円未満が12.2%と多い。山は300万円台にあり、平均は高いほうの尾に引っ張られて上がる。
中央値ではなく平均を採ると、基準は分布の上のほうに置かれる。 「日本人の平均並み」という言い方は、多数派と同じという意味に聞こえるが、統計上は多数派の上に線を引くことになる。
同じ形は別のところでも見てきた。生活保護「捕捉率」20%(このサイトの記事)で扱った捕捉率も、率を動かしているのが分子か分母かを分けないと対策の向きが変わる。 数字の作り方が制度の線引きを決める。
世帯人数に応じた基準は、家族を持つほど上がる
改定案は「世帯人数に応じた」平均としている。世帯類型別に見ると、この条件の効き方が分かる。
1世帯当たり平均所得金額は、児童のいる世帯が857万3千円、高齢者世帯以外の世帯が700万7千円、高齢者世帯が336万1千円、母子世帯が345万3千円である。
児童のいる世帯の平均は、全世帯の平均より282万1千円高い。 子を持てば、比べられる相手が変わる。 世帯人数が増えれば基準の額も上がる設計になっている。
一方で、国益要件には子の就学が入る。学齢期の子を就学させていなければ消極評価になる。 子を持てば収入の基準が上がり、子を就学させなければ別の要件で落ちる。 2つの要件が同じ家族の同じ状況に、逆向きにかかる。
どの統計を使うのかは書かれていない
概要に書かれていないことがある。 「日本人世帯の平均収入」を、どの統計のどの数字から取るのかである。
国民生活基礎調査には全世帯の平均所得金額があり、世帯人員1人当たりの平均所得金額(259万2千円)があり、世帯主の年齢階級別の平均所得金額(29歳以下364万3千円から50〜59歳814万6千円まで)がある。国税庁の統計にも、総務省の統計にも、別の「平均」がある。
どれを使うかで基準の額が変わる。年齢階級別を使えば、50〜59歳の814万6千円が基準になる年代が出てくる。
年金の要件は、いくらなのかが示されていない
年金の要件も同じ形をしている。「その年収水準で30年間厚生年金に加入していた水準」と書かれているが、それが年額いくらなのかは概要に出ていない。
計算には、平均標準報酬額、加入期間、基礎年金の扱いなど複数の前提が要る。 申請する側は、自分が満たしているかどうかを概要からは判断できない。
不足分は金融資産で補填できるとされているが、いくら足りないのかが分からなければ、いくら用意すればよいかも分からない。
日本語の階段はA1から始まってB1で終わる
日本語の要件も、他の制度とつながっている。
育成就労の転籍(このサイトの記事)で扱ったとおり、育成就労では就労開始までにA1相当以上、本人の意思で職場を移るときにA2.1相当以上、育成就労の終了時にA2.2相当以上が求められる。そして永住許可がB1相当である。
入国から永住まで、日本語の試験が4段ある。 B1は日本語能力試験のN3に相当し、参照枠では「自立した言語使用者」の最初の段階にあたる。仕事や学校で日常的に出合う話題について、主要点を理解できる水準である。
日本語指導が必要な児童生徒84,759人のうち9,699人が指導を受けていない(このサイトの記事)で見たとおり、日本語を学ぶ機会は制度としては用意されていても、届き方に差がある。 段が増えるほど、学ぶ機会の差がそのまま在留資格の差になる。
「公共の負担とならない」が及ぶ範囲
もう1つ、範囲の広がりがある。公共の負担とならないことは、独立生計要件が不要とされてきた類型にも及ぶ。日本人・永住者・特別永住者の配偶者または子、そして難民等である。
難民等が含まれている。 難民認定は迫害からの保護を理由とする資格で、経済力を理由とするものではない。そこに「負担となるおそれが現実的であれば消極評価」が入る。
「政策が届かない層」の共通構造(このサイトの記事)で扱ったとおり、制度の入口に条件を足すと、条件を満たせない層が静かに外側へ出る。この場合、外側に出た人は在留資格が変わらないだけで、日本にいること自体は続く。 永住許可が下りないことと、その人が日本から出ていくことは別である。
意見募集は9月3日まで
改定案は決定ではない。意見募集の期間中である。提出方法は電子政府の総合窓口(e-Gov)、電子メール、郵送の3つで、意見には理由を付すこと、日本語に限ることが求められている。
判断の材料として足りないものが2つある。1つは、基準に使う統計の名指しである。もう1つは、年金の要件が年額いくらを指すのかである。 どちらも、満たしているかどうかを申請者が自分で確かめるために要る。
この記事で使った統計の出典
- 1出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン改定案に係る意見募集について」(令和8年8月4日) 出典を開く
- 2出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン改定(案)(概要)」(令和8年8月4日) 出典を開く
- 3厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」(2024年の所得) 出典を開く
参考書籍
- 『移民の人権: 外国人から市民へ』(外部サイト、新しいタブで開きます)(近藤敦、明石書店)。外国人の在留と権利を、憲法と国際人権法の側から論じた本。在留資格の要件に何を入れてよいのかという問いを、権利の側から考えるのに使える。
参考文献
永住許可に関するガイドライン改定(案)(概要) — 出入国在留管理庁 (2026). e-Govパブリック・コメント
永住許可に関するガイドライン改定案に係る意見募集について — 出入国在留管理庁 (2026). e-Govパブリック・コメント
2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況 Ⅱ 各種世帯の所得等の状況 — 厚生労働省 (2026). 厚生労働省
永住許可に関するガイドライン(令和8年2月24日改訂) — 出入国在留管理庁 (2026). 出入国在留管理庁
外国人の永住許可 世帯年収が日本人の平均上回る水準かを考慮 — NHK (2026). NHK NEWS WEB



