外国人技能実習制度の構造的矛盾 — 「国際貢献」と人手不足のあいだで
技能実習制度から育成就労制度への移行が2027年に迫っている。「国際貢献」という建前と労働力確保の実態との深刻な乖離、送出機関を介した構造的搾取、転籍制限に伴う人権侵害の問題。30年にわたり蓄積された制度的矛盾をデータと制度比較から分析する。
何が起きているのか
2024年10月末時点で、日本で働く外国人労働者は230万人を突破した。過去最高の更新。そのうち技能実習生は約47万人、2019年に新設された特定技能の在留者は約27万人に達している。
「国際貢献」を建前に、途上国への技能移転を目的として制度化。実態は人手不足産業への労働力供給。
入管法改正により独立した在留資格に。労働関係法令の適用を明確化。しかし失踪者は増加の一途。
外国人技能実習機構(OTIT)設立。監理団体の許可制導入。実習計画の認定制度を整備。
人手不足12分野で「労働力」としての受入れを初めて正面から認める。技能実習との二重構造が発生。
技能実習制度を廃止し、「人材確保・人材育成」を目的に再編。転籍制限の緩和が焦点。
この数字の背景にあるのは、30年以上にわたる制度の「二重構造」である。技能実習制度は1993年、「開発途上国への技能移転による国際貢献」を目的として創設された。だが実態は、農業・建設・食品製造といった人手不足産業への労働力供給パイプラインとして機能してきた。建前と本音の乖離こそが制度の原罪であり、あらゆる問題の起点となっている。
2024年6月、技能実習制度を廃止し「育成就労制度」に移行する改正法が成立した。施行は2027年を予定する。目的の記載から「国際貢献」の文言は消え、「人材確保及び人材育成」が前面に出た。30年越しの建前の修正。しかし、構造的な問題が法律の文言を変えるだけで解消するのか。その問いに答えるには、制度の内部構造に踏み込む必要がある。
2024年10月末時点で外国人労働者は230万人を突破し過去最高。技能実習は約47万人だが、特定技能が急増(約27万人)し、制度の重心が移りつつある。
背景と文脈
送出機関という「見えない搾取構造」
技能実習制度の最も深刻な問題は、来日前の段階で発生する。ベトナム、ミャンマー、カンボジアなどの送出国では、送出機関が実習生から高額な手数料を徴収する。その額は平均54万円、ベトナムの場合は65万円を超える事例も珍しくない。
実習生の多くは農村部出身の若者である。手数料を支払うために借金を重ね、来日時点で100万円前後の負債を抱えるケースが常態化している。この「借金構造」が、劣悪な労働環境からの離脱を困難にする。逃げれば借金だけが残る。耐えれば3年後に返済できるかもしれない。そうした計算が、実習生を使用者に従属させる力学として作用している。
2023年の技能実習制度に関する有識者会議最終報告書では、送出機関の手数料適正化に向けた二国間取極の強化が提言された。だが、送出国側にとって送出機関は外貨獲得の手段であり、規制強化のインセンティブは乏しい。制度の歪みは国境をまたぐサプライチェーンの中に埋め込まれている。
転籍制限と失踪の連鎖
技能実習制度のもう一つの構造的問題が「転籍制限」、すなわち実習先の変更が原則として認められない仕組みである。使用者からのハラスメント、賃金未払い、長時間労働があっても、実習生は自らの意思で職場を離れることができない。
この制限が「失踪」を生む。2023年の技能実習生の失踪者数は9,753人。制度開始以来の累計失踪者は10万人を超えた。失踪者は不法滞在者となり、さらに脆弱な立場に追いやられる。
育成就労制度では、就労開始から1〜2年後に「本人の意向による転籍」を認める方向で調整が進んでいる。ただし、転籍先が都市部に集中し地方の人手不足が加速するリスク、転籍を繰り返す「渡り鳥」化の懸念、そして受入れ企業側の育成投資回収の問題が論点として残る。転籍の自由と人材定着のバランスは、制度設計上の最大の難問と言ってよい。
人口減少と外国人依存の不可逆性
2024年の日本の出生数は約68.6万人。生産年齢人口は毎年約60万人ずつ減少している。農業、介護、建設、食品製造といった産業では、外国人労働者なしに事業を継続することがすでに不可能になっている現場が少なくない。
特定技能制度の受入れ上限は、2024年の閣議決定で2024〜2028年度の5年間に82万人と設定された。従来の34.5万人から2倍以上の拡大。「国際貢献」から「人材確保」へという転換は、もはや建前の修正ではなく、社会構造の変容を追認するものである。
構造を読む
技能実習制度の30年が浮き彫りにしたのは、日本社会が「移民」という言葉を避けながら、事実上の移民受入れ国になっていったプロセスである。
第一の構造:「建前と実態の乖離」がもたらす制度不信。国際貢献を掲げながら労働力として利用する二重基準は、実習生の権利保護を構造的に弱体化させた。「研修生」であって「労働者」ではないという位置づけが、労働法の適用を曖昧にし、監督体制の不備を正当化してきた。育成就労制度が目的を「人材確保」に改めたことは、この乖離を埋める第一歩ではある。だが、制度の名称変更だけでは、送出機関の搾取構造も、受入れ現場のパワーバランスも変わらない。
第二の構造:「中間搾取の国際サプライチェーン」。送出機関、監理団体、受入れ企業という三層構造の各段階で、情報の非対称性と手数料の不透明性が発生する。この構造は、技能実習制度固有の問題ではなく、国際的な労働移動に共通する「recruitment fee問題」の日本版である。ILOが提唱する「雇用主負担原則」(採用に要する費用は雇用主が負担すべきとする原則)の実装が問われている。
第三の構造:「人口減少社会における不可逆的依存」。外国人労働者への依存は、もはや一時的な補完ではない。毎年60万人の生産年齢人口が消失する社会において、外国人労働者は産業基盤の不可欠な構成要素である。しかし、選ばれる国であり続けるためには、賃金・労働条件・社会統合の質が問われる。韓国の雇用許可制、ドイツの専門人材移住法など、競合する受入れ国の制度設計との比較検討が不可欠になる。
制度の名前は変わる。だが構造は、意図的に設計し直さなければ再生産される。育成就労制度の施行まであと1年。その設計の精度が、日本の外国人労働政策の次の30年を規定することになる。
参考文献
「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)
厚生労働省. 厚生労働省
原文を読む
技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 最終報告書
出入国在留管理庁. 法務省
原文を読む
ILO General Principles and Operational Guidelines for Fair Recruitment
International Labour Organization. ILO
原文を読む
外国人技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況
厚生労働省. 厚生労働省
原文を読む