一般社団法人社会構想デザイン機構
論考・インサイト

「移民政策ではない」の終わりの始まり — 育成就労制度が問う日本の外国人受入れの構造

外国人労働者257万人、技能実習生の失踪9,753人(過去最多)、米国は日本を人身取引Tier 2に格付け。2027年施行の育成就労制度は、技能実習の「国際貢献」という建前を廃し「人材確保」を正面に掲げる。しかし統合政策なき受入れ拡大が問う構造を分析する。

ISVD編集部
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何が起きているのか

多様な労働者
日本の外国人労働者政策は大きな転換点を迎えているUnsplash

日本の外国人労働者数が急増を続けている。厚生労働省によれば、2024年10月末時点で230.3万人、2025年10月末時点で257.1万人に達し、初めて250万人を突破した。届出義務化以来、過去最多を連続更新中である。

この急増の背景で、技能実習制度の構造問題も顕在化してきた。2023年の技能実習生の失踪者数は9,753人(過去最多)。国籍別ではベトナムが5,481人と全体の56.2%を占める。失踪動機の67%が「低賃金」であり、送出し機関への多額の手数料(ベトナム人の場合100万円以上の借金を抱えて来日するケースが多い)が構造的な要因として指摘されている。

こうした状況を受け、2024年6月に改正出入国管理及び難民認定法が公布され、技能実習制度に代わる「育成就労制度」が創設された。施行日は2027年4月1日と正式に決定されている。

背景と文脈

技能実習制度の構造的問題

項目技能実習育成就労
目的技能移転による 「国際貢献」人手不足分野の 「人材育成・確保」
転籍(転職)原則不可1〜2年後に可能
制裁形骸化の指摘外部監査人義務化
キャリアパス特定技能への移行困難育成就労→特定技能 1号→2号
※ 育成就労制度は2027年4月施行予定
図: 技能実習制度から育成就労制度への主な変更点

技能実習制度は1993年の創設以来、「技能移転による国際貢献」を目的に掲げてきた。しかし実態は、人手不足分野への労働力供給機構として機能してきた。この目的と実態の乖離が、構造問題の根源にある。

労働基準監督署の調査では、2022年に技能実習生を受け入れる事業場の73.3%で法令違反が確認されている。違反内容は不適正な残業、残業代未払い、最低賃金違反など多岐にわたる。暴力、パスポート取り上げ、強制帰国といった深刻な人権侵害も報告されている。

米国務省の人身取引報告書は、日本を2020年以降継続して第2階層(Tier 2)に格付けしている。「人身取引撲滅のための最低基準を十分には満たしていない」との評価であり、技能実習制度が「搾取のために悪用」されていると指摘する。

育成就労制度——何が変わり、何が変わらないか

育成就労制度は、2つの点で従来の制度と決定的に異なる。

第一に、目的の転換である。「国際貢献」から「人手不足分野の人材育成・確保」へと、制度の存在理由そのものが書き換えられた。建前と実態の乖離を解消した点で、少なくとも制度設計の誠実さは増した。

第二に、転籍(転職)の容認である。従来の技能実習では原則として転職が認められなかったが、育成就労では分野ごとに定める制限期間(1〜2年)の経過後、本人の意向による転籍が可能となる。

一方で、構造的に変わらない点もある。転籍には一定水準の技能と日本語能力の修得が条件であり、制限期間中は事実上の拘束が続く。監理支援機関(旧・監理団体)の許可要件は厳格化されるが、「外部監査人義務化」がどの程度実効性を持つかは未知数である。

「移民政策ではない」という建前の矛盾

257万人
外国人労働者数
2025年10月・初の250万人突破
374万人
在留外国人
総人口の約3.0%
9,753人
技能実習生の失踪
2023年・過去最多
384万人
2035年の労働力不足
パーソル総研・中大推計
構造的矛盾
政府: 「移民政策はとらない」 → 実態: 外国人労働者257万人、特定技能2号で事実上の永住可能
図: 外国人労働者の急増と構造問題 — 「移民政策ではない」の建前と実態

日本政府は一貫して「いわゆる移民政策はとらない」と明言している。しかし実態を見れば、外国人労働者257万人、在留外国人約396万人(総人口の約3.2%)。特定技能2号では家族帯同が認められ、在留期間の更新に上限がないため、事実上の永住が可能となっている。

経団連は2025年12月に「転換期における外国人政策のあり方」を公表し、外国人を「労働力」としてだけでなく「生活者」として受け入れるための包括的政策を提言した。

「移民」の定義を狭く解釈することで包括的な統合政策の策定を回避しているとの批判は、国際社会からも国内からも向けられている。

構造を読む

統合政策の不在——受入れ拡大の先にあるもの

外国人労働者の受入れを拡大しながら、統合政策を整備しないことの帰結は何か。

橘玲は『無理ゲー社会』で、能力主義(メリトクラシー)が社会の隅々にまで浸透した結果、「自己責任」の論理が弱者を構造的に排除する仕組みを分析した。外国人労働者の問題にもこの構造は当てはまる。日本語能力や文化適応を「個人の努力」に帰責し、社会の側が統合のための制度基盤を整備しないまま受入れを拡大する構造は、能力主義による排除の一形態である。

MIPEX(移民統合政策指数)で日本は調査対象国の下位グループに位置し、特に反差別政策で「致命的に遅れている」と評価されている。日本語教育推進法(2019年)は理念法にとどまり、体系的な日本語教育体制は自治体任せである。健康保険・年金は制度上は内外人平等だが、実態として未加入・未払いの問題が存在する。

言語教育の問題は深刻である。育成就労制度では転籍の条件として日本語能力試験N4程度(基本的な日本語を理解できる水準)が求められるが、来日前後に体系的な日本語教育を受ける機会は限られている。技能実習生の多くは母国の送出し機関で数ヶ月の簡易研修を受けるにとどまり、来日後は職場での実地習得に頼らざるを得ない。生活に必要な日本語——医療機関の受診、行政手続き、子どもの学校対応——を学ぶ場は、ボランティアベースの日本語教室や自治体の国際交流協会に依存しており、地域によって質・量に大きな差がある。

2035年には384万人の労働力不足が見込まれ、外国人就業者は205万人から377万人への増加が推計されている。北関東・東海の製造業では外国人労働者が全体の4〜5割を占める地域があり、介護分野では前年比+28.1%と最も急増している。

人口減少社会が問われていること

日本人人口は16年連続で減少し、65歳以上人口は全体の29.58%に達している。生産年齢人口の急減は不可逆的に進行している。

この人口動態のもとで、外国人労働者なしに社会を維持することは現実的ではない。問われているのは「受け入れるかどうか」ではなく、「どのように受け入れるか」——すなわち、労働力としてのみ利用するのか、社会の構成員として包摂するのか、という根本的な選択である。

育成就労制度の2027年施行は、技能実習の制度設計上の欺瞞を一部是正するものである。しかし「移民政策ではない」という建前を維持したまま、統合政策なき受入れ拡大を続けることは、構造問題の先送りにすぎない。


外国人労働者の受入れ制度の歴史については、「日本の外国人労働者制度の変遷と構造」も参照されたい。

参考文献

外国人雇用状況の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)

厚生労働省

原文を読む

育成就労制度Q&A

出入国在留管理庁

原文を読む

2024年人身取引報告書(日本に関する部分)

在日米国大使館

原文を読む

転換期における外国人政策のあり方

経団連

原文を読む

外国人材の育成就労制度、27年4月から

日本経済新聞

原文を読む

Japan's Governors Speak Out on Need for a Better Foreign Resident Policy

nippon.com

原文を読む

無理ゲー社会

橘玲. 小学館新書

原文を読む

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