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一般社団法人社会構想デザイン機構

地方創生2.0「関係人口1,000万人」の構造分析:目標と手段は逆転していないか

ヨコタナオヤ
約8分で読めます

2025年6月に閣議決定された「地方創生2.0基本構想」は、ふるさと住民登録制度による関係人口1,000万人を10年間の数値目標に掲げた。1.0の「反省」は構造的に活かされているのか。定義のあいまいさ、数値目標化のリスク、国際比較から、政策の論理構造を読み解く。

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ざっくり言うと

  1. 地方創生2.0はふるさと住民登録制度を通じて10年間で関係人口1,000万人(実人数)を目指すが、国交省推計の「広義の関係人口」2,263万人とは母集団が異なり、定義のギャップが存在する
  2. 1.0は10年間・累計約1.5兆円の投入にもかかわらず、東京圏転入超過は2024年に13.6万人に拡大しており、「人口奪い合い」「外部委託・当事者意識の欠如」を政府自身が反省点として認めている
  3. 2.0は「人口減少を受け入れた上での適応」にパラダイムを転換したが、「選ばれる地方」を目指す競争原理は1.0と構造的に変わっておらず、「登録が関係を生む」のか「関係が登録に至る」のかという手段と目的の逆転リスクを内包する

何が起きているのか

2025年6月の閣議決定で地方創生2.0が始動。ふるさと住民登録による関係人口1,000万人を数値目標に掲げた

2025年6月13日、内閣官房新しい地方経済・生活環境創生本部が策定した「地方創生2.0基本構想」が閣議決定された。対象期間は2025年度から2034年度までの10年間。前身である「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(地方創生1.0、2014〜2024年度)の後継として、日本の地方政策は新たなフェーズに入った。

基本構想の柱は三つある。第一に、若者・女性に選ばれる地方の生活環境の創生。第二に、付加価値創出型の新しい地方経済の創生。第三に、人や企業の地方分散である。そしてこの第三の柱の中核に据えられたのが「ふるさと住民登録制度」であり、10年間で1,000万人(実人数)の関係人口を創出するという数値目標が掲げられた。延べ(年間×10年)では1億人である。

「関係人口」とは、移住でも観光でもない、地域と多様に関わる人々を指す概念である。国土交通省の推計によれば、現在の関係人口は約2,263万人(18歳以上の約22%)とされる。訪問系が約1,884万人、非訪問系が約379万人で、最多の類型は「趣味・消費型」、つまり旅行で訪れるだけの層である。

ここで最初の疑問が生じる。「広義の関係人口」がすでに2,263万人いるのに、なぜ「ふるさと住民登録1,000万人」が目標なのか。この数字の非対称性は、後述する「定義のあいまいさ」問題の核心に関わる。

背景と文脈

1.0の10年間の反省と、関係人口の定義問題、東京一極集中の構造的継続

地方創生1.0の10年間:何が変わり、何が変わらなかったか

比較軸1.0(2014〜2024)2.0(2025〜2034)
人口観人口減少を食い止める人口減少を前提に適応する
目標軸移住・定住者数関係人口・価値創出
女性政策付随的な位置づけ中核(アンコンシャス・バイアス解消)
デジタル後追い(デジタル田園都市)新技術を中核に位置づけ
好事例全国展開を目指す「普遍化」の困難を課題として認識
成果KPI未達(東京圏転入超過継続)10年で1,000万人(ふるさと住民登録)

1.0が自認した反省点

  • 1.自治体間の人口奪い合い
  • 2.若者・女性への対応不足
  • 3.出生率のみ注目、出生数減少を軽視
  • 4.外部委託と当事者意識の欠如

問い: パラダイムは転換したが、「選ばれる地方」を目指す競争原理は変わっていないのではないか

地方創生1.0 → 2.0 パラダイム転換の構造比較

地方創生2.0を理解するには、まず1.0の10年間を振り返る必要がある。

2014年12月、安倍政権下で「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定された。累計約1.5兆円の予算が投入され、上勝町(徳島県)・神山町(徳島県)・海士町(島根県)などが「成功事例」として全国に紹介された。

しかし、10年間の結果はどうだったか。地方創生2.0の基本構想自身が、1.0に対する四つの反省を明記している。

第一に、「子育て支援や移住促進などが中心となり、地方公共団体間での人口の奪い合いにつながった」。第二に、「若者や女性にとって魅力的で、働きやすく、暮らしやすい地域づくりに向けた取組が十分になされなかった」。第三に、「出生率の地域比較が注目されたが、各地の出生数の大幅な減少に対して、より目を向けるべきだった」。第四に、「地方公共団体が戦略や企画の立案の大部分を外部に委託し、当事者意識を持って主体的に取り組まなかった事例がある」。

数値で見れば、反省の根拠は明確である。1.0の最重要KPIであった「2027年度における地方と東京圏との転出・転入の均衡」は、達成不可能な状況にある。総務省統計局によれば、2024年の東京圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)への転入超過は135,843人で、前年から9,328人拡大した。外国人を含む集計が始まった2014年以来、11年連続の転入超過である。日本人のみに限っても29年連続で東京圏への一極集中は続いている。

女性の流出:アンコンシャス・バイアスという新しい切り口

2.0が1.0と明確に異なる点の一つが、女性政策の中核化である。基本構想の概要には、東京圏に転出した女性の約半数が「出身地では夫は働き、妻は家庭という意識がある」と回答したデータが記載されている

2024年の人口移動データでは、20〜24歳の東京圏への転入超過が86,908人(男女計)と最多であり、若年女性の流出は地方の人口再生産力を根底から損なっている。2.0がアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)の解消を明示したことは、1.0にはなかった視点であり、評価に値する。ただし、意識変革を政策目標に掲げること自体の実効性をどう測定するかは、依然として不透明である。

関係人口の定義問題

現状推計(国交省調査)

約2,263万人

18歳以上の約22%

訪問系:約1,884万人(18%)観光・趣味・消費が最多
非訪問系:約379万人(4%)ふるさと納税・オンライン等

政府目標(2034年度)

ふるさと住民登録

1,000万人(実人数)

関係人口(延べ)

1億人創出

定義のギャップ

  • 「広義の関係人口」2,263万人 ≠ ふるさと住民登録1,000万人
  • 旅行で年2〜7日訪問する「趣味・消費型」も関係人口に含まれる
  • 「登録」が「関係」を生むのか、「関係」が「登録」に至るのか
関係人口「1,000万人」目標と現状推計の構造的ギャップ

「関係人口」の定義は、政策の根幹でありながら、実はきわめて曖昧である。

国土交通省の推計では、年に2〜7日地方を訪れる「趣味・消費型」が最多を占める。これはほぼ「観光客」と区別がつかない。自治体問題研究所は、定義が広すぎることで数値が操作的になるリスクを指摘している。

ふるさと住民登録制度は、この曖昧な概念をスマートフォンアプリによる「登録」で可視化しようとする。プレミアム登録にはマイナンバーカードが必須で、登録者には公共施設の住民料金利用や地域会議への参加権が付与される。しかし、「登録」すれば関係人口になるのか、それとも地域と深い関係を持つ人がいずれ「登録」に至るのか。この因果の方向性が不明確なまま、「1,000万人」という数値だけが先行している。

東京新聞は「数が目的化する危うさ」を報じた。1.0で「移住者数」を追いかけた結果が自治体間の人口奪い合いだったとすれば、2.0で「登録者数」を追いかけることが本質的に異なるのかという問いは避けられない。

構造を読む

目標と手段の逆転リスク、国際比較から見える制度設計の課題、好事例の「普遍化」問題

「選ばれる地方」の競争は終わっていない

2.0は「人口減少を受け入れた上での適応」というパラダイム転換を掲げた。1.0の「人口減少を食い止める」という目標は、国全体の出生数が減り続ける中では非現実的であったと認めたのである。

しかし、パラダイムの転換と競争構造の転換は別の問題である。各自治体が「関係人口を増やす」ことを目指す限り、「どの地方が選ばれるか」という競争は継続する。関係人口は「移住」より軽い関わり方を許容するが、関わりの総量が有限(個人の時間・資金は限られている)である以上、自治体間のゼロサム的競争は避けられない。自治体問題研究所は、「国全体の人口減少を前提としながら、個々の地域は『選ばれる地方』を目指す」という矛盾を指摘している。

国際比較:連邦制と中央集権の構造差

地方政策を国際比較すると、日本型の特異性が浮かび上がる。

ドイツは連邦制のもとで、16州が税収と産業政策の実質的権限を持つ。経済産業研究所(RIETI)が紹介するように、産業クラスター、フラウンホーファー研究所(応用研究機関)、工科大学の三位一体による地方産業育成が、中堅都市の自律的発展を支えてきた。ただし、ドイツもまた2023年・2024年と2年連続のマイナス成長に陥っており、モデルとして無条件に称揚できるわけではない。

フランスは1963年にDATAR(国土整備・地域開発委員会)を設立し、パリ一極集中の是正を国家計画として50年以上にわたって段階的に推進してきた。日本との類似点は中央集権的アプローチであるが、フランスが1960年代から半世紀かけて進めた地方分権を、日本は「平成の大合併」(1999〜2006年)で数年のうちに強行した点が大きく異なる。

日本の地方創生2.0は、ドイツ型の連邦制でもフランス型の段階的分権でもなく、「中央政府がデジタル制度(ふるさと住民登録)で関係人口を可視化する」という独自の道を模索している。これは「第3の道」とも呼べるが、中央集権構造を維持したまま地方の自律を促すという構造的矛盾を内包しているとも言える。

好事例の「普遍化」問題

1.0で最も成功したとされる神山町や海士町の事例は、特定のキーパーソン(移住者のリーダー、首長の強いリーダーシップ)に依存していた。木下斉著『地方創生大全』(東洋経済新報社)は、補助金依存とコンサル委託が地方自治体の「地方創生の文法」として定型化し、本当に必要な自律した地域経済の仕組みが普及しなかったことを批判している。

2.0の基本構想も好事例の「普遍化」の困難を課題として認識している。しかし、日本総合研究所が指摘するように、成功事例が普遍化されない根本原因が財源保障制度の欠如にあるならば、交付金の枠組みを変えない限り同じ問題が繰り返される。

残る問い

関係人口という概念は、高橋博之著『関係人口 都市と地方を同時並行で生きる』(光文社新書)や田中輝美著『関係人口をつくる 定住でも交流でもないローカルイノベーション』(木楽舎)が論じるように、都市と地方の二項対立を超える可能性を持つ概念である。問題は、その概念を「1,000万人」という数値目標に落とし込んだ瞬間に、手段が目的化するリスクが生じることにある。

1.0が10年間で残した最大の教訓は、「KPIを設定し、PDCAを回す」という行政の定型的手法が、地方の活性化という複雑な課題にはうまく機能しなかったということである。(証拠に基づく政策立案)の観点からも、「登録者数」という単一指標で関係人口の「質」や地域への実質的な貢献を測定できるかは疑問が残る。

2.0が本当に「2.0」であるためには、1.0と同じ轍を踏まないための構造的な仕組みが必要である。登録者数の多寡ではなく、登録者と地域との関係の深さや持続性をどう評価するのか。その制度設計の具体が問われている。


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参考文献

読んだ後に考えてみよう

  1. 自分は特定の地域と「関係」を持っているか。もしそうなら、その関係は行政の登録制度で可視化されるべきものだろうか
  2. 東京一極集中が30年続いている事実は、政策の失敗を意味するのか、それとも経済合理性の反映なのか
  3. 地方が「選ばれる」ことを目指す構造は、人口奪い合いの1.0とどう本質的に異なるのか

この記事の用語

EBPM
客観的なエビデンス(統計データ、研究結果等)に基づいて政策を立案・評価する手法。

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