ざっくり言うと
- 京都市の「非居住住宅利活用促進税」は2030年度に課税開始予定。全国初の法定外普通税として空き家に直接課税する
- 固定資産税の住宅用地特例が「壊すと損」の逆インセンティブを30年間生み出し、空き家900万戸の構造的要因となっている
- 英国の累進プレミアム(最大400%)やフランスのTLV(3,697市町村に強制適用)と比較すると、日本の税制介入はなお限定的である
何が起きているのか
京都市が全国初の空き家税を2030年度から導入。住宅用地特例の構造的問題に税制で切り込む初の試み
日本の空き家は900万戸、空き家率13.8%に達し、いずれも過去最高を更新した。このうち賃貸・売却の予定がない「その他の空き家」、いわゆる放置空き家は385万戸にのぼる。野村総合研究所の推計によれば、現行の対策を継続した場合でも2033年には空き家率が約18.3%、2043年には約25%に達する。4軒に1軒が空き家になる未来は、もはや仮定の話ではない。
なぜ空き家はこれほど増え続けるのか。構造的な原因は「空き家900万戸の構造」で詳述した通り、固定資産税の住宅用地特例が「壊すと損」の逆インセンティブを生み出していることにある。住宅が建っている土地の固定資産税は最大6分の1に軽減されるが、解体して更地にするとこの特例が外れ、税額は最大約6倍に跳ね上がる。老朽化した空き家であっても、建物を残しておく方が合理的なのである。
この構造に対し、税制という手段で正面から切り込む自治体が現れた。京都市が導入する「非居住住宅利活用促進税」は、全国で初めて空き家に対して法定外普通税として直接課税する制度である。2022年3月に条例が可決され、2023年3月に総務大臣の同意を得た。当初は2026年度の課税開始を予定していたが、システム開発の影響で延期され、現在の開始予定は2030年度(令和12年度)である。
空き家問題に税制で対処する試みは京都市だけのものではない。国レベルでは2023年の空家等対策特別措置法改正が管理不全空家への特例除外を可能にし、海外では英国やフランスがすでに数十年にわたる空き家課税の経験を蓄積している。本稿では「税制アプローチ」という切り口から、京都市モデルの構造、各国の先行事例、そして全国波及の可能性と限界を分析する。
背景と文脈
住宅用地特例の罠・特措法改正の射程・英仏の先行事例を比較し、税制アプローチの多様性を明らかにする
住宅用地特例の罠
空き家増加の構造的原因を理解するには、固定資産税の住宅用地特例の仕組みを正確に把握する必要がある。
小規模住宅用地(200平方メートル以下)の固定資産税は、課税標準が評価額の6分の1に軽減される。200平方メートルを超える一般住宅用地でも3分の1だ。この特例は「住宅が建っている土地」に適用されるため、人が住んでいなくても、建物さえ残っていれば適用される。逆に建物を解体して更地にすると、特例が外れて税額が跳ね上がる。
木造住宅の解体費用は100万〜150万円程度、鉄骨造やRC造ではさらに高額になる。所有者にとっては「壊せば税が上がり、壊す費用もかかる」という二重の負担が生じる。結果として「何もしない」が最も合理的な選択となり、この構造が30年にわたって空き家の蓄積を促してきた。
『老いる家崩れる街 : 住宅過剰社会の末路』の著者である野澤千絵は、人口減少社会にもかかわらず新築が年間80万戸前後で供給され続ける「住宅過剰社会」の構造を指摘する。住宅用地特例は本来、居住を促進するための制度であったが、人口減少社会では空き家保持のインセンティブとして逆機能しているのである。
京都市モデルの詳細設計
京都市の非居住住宅利活用促進税は、市街化区域内にある「非居住住宅」(当該住所に住民登録者がいない住宅)を対象とする。課税は家屋と土地の二層構造をとる。
| 課税対象 | 税率 |
|---|---|
| 家屋(家屋価値割) | 固定資産税評価額 × 0.7% |
| 土地(土地価値割) | 固定資産税評価額 × 0.15〜0.6%(立地による3段階) |
家屋の課税額は固定資産税(評価額×1.4%)の約半額相当になる設計である。導入当初の5年間は、家屋の固定資産評価額が100万円未満の物件を課税対象外とする経過措置が設けられている(本則は20万円未満)。事業用途や景観重要建造物等も適用除外となる。
課税対象となりうる住宅は約1.5万戸と推定されており、そのうち別荘・セカンドハウスは約2,200戸である。京都市の空き家数は約11万戸、空き家率14.1%で全国平均を上回る。高さ規制(最大31メートル)により高層マンション開発が困難なうえ、2024年の京都府新築マンション平均価格は前年比30.6%上昇と近畿圏でもトップクラスの高騰を見せている。若年・子育て世代が市外へ流出する構造的問題のなかで、非居住住宅への課税によって空き家の市場流通を促すことが制度の狙いである。
ただし、2030年度からの課税開始であるため、現時点で実施後の定量データは存在しない。条例可決以降、空き家所有者からの売却・賃貸化に関する問い合わせが増加しているとの報告はあるが、「利用意向があっても買い手・借り手が見つかりにくい」という所有者の声も多い。課税だけで市場流通が進むかどうかは、実施後のデータを待つ必要がある。
特措法2023年改正の射程
京都市が独自税で対処しようとしている問題に対して、国レベルでも制度的な対応が進んでいる。2023年12月に施行された空家等対策特別措置法の改正は、特定空家の前段階にあたる管理不全空家のカテゴリを新設した。
改正の核心は、管理不全空家に対する勧告によって住宅用地特例を解除できるようになった点にある。従来は、倒壊の危険や衛生上の問題がある特定空家に限定されていた特例除外の対象が、窓や壁の破損など管理が不十分な段階の空き家にまで拡大された。勧告を受けた管理不全空家の敷地は、翌年1月1日の固定資産税から住宅用地特例の適用が除外される。特例が外れると、土地の固定資産税は最大3倍程度に増加する。
しかし、この制度には執行能力の壁がある。全国385万戸の放置空き家に対して、市区町村が個別に管理不全空家を認定し、指導・勧告の段階的措置を実行していくには膨大なマンパワーが必要となる。制度は整備されつつあるが、「一件ずつ行政が介入する」という枠組みの限界は明らかである。
英国・フランスの先行事例
空き家への税制アプローチは、日本よりも英国とフランスが先行している。
英国のCouncil Tax Premiumは、空き家期間に応じて段階的に加算率が上昇する累進構造を採用している。1〜5年で通常の200%(100%プレミアム)、5〜10年で300%、10年超で400%。さらに2025年4月からは、イングランドの地方議会がセカンドハウスに対しても最大100%プレミアム(通常の200%)を賦課できるようになった。再居住すればプレミアムは即時解除されるため、空き家を「持ち続けるコスト」を明確に設計している。
フランスのTLV(Taxe sur les Logements Vacants)は、人口5万人超の需要ひっ迫地域(zones tendues)において、1年以上空室の未家具住宅に強制的に課税する国法である。税率は賃貸評価額の初年度17%から始まる。2024年にはTLVの適用市町村が1,100から3,697に大幅拡大され、2027年からは任意課税のTHLVと統合した新税TVLHへの一本化が予定されている。TLVの収益は国の住宅機関(Anah)に還元され、住宅供給の財源として活用される。
日本の現状と比較すると、三つの構造的な違いが浮かび上がる。第一に、累進性の有無である。英仏はいずれも空き家期間や地域の住宅需給に応じて税率が変動する仕組みを持つが、京都市モデルは一律の税率設計である。第二に、適用範囲の広さである。京都市モデルは1自治体にとどまるのに対し、英国は全自治体が任意で採用でき、フランスは需要ひっ迫地域に国法で強制適用している。第三に、制度の歴史である。英国は1990年代から、フランスは1999年から空き家課税を運用しており、数十年にわたる制度の改良と効果検証の蓄積がある。日本の税制アプローチは、まだ始まったばかりである。
構造を読む
京都市モデルの波及可能性と限界。税制だけでは解決できない相続・所有者不明問題との接続
この問題から三つの構造的論点を読み取りたい。
税制は行動を変えるか
京都市モデルの最大の意義は、住宅用地特例の「壊すと損」構造に対して、「持ち続けても損」のインセンティブを新たに付加したことにある。従来の空き家対策が補助金や行政指導による「活用の促進」を軸としていたのに対し、税という確実なコスト負担を通じて所有者の行動変容を促す点で、アプローチの質が異なる。
しかし、税制の効果には限界がある。課税対象となる約1.5万戸のうち、所有者が売却・賃貸の意思を持っていても「買い手・借り手がつかない」物件は一定数存在する。特に、立地条件の悪い物件や、境界未確定・相続未登記の物件は、課税を強化しても市場に流通しにくい。税制は「持ち続けるコスト」を可視化する手段としては有効だが、「流通を可能にする条件」の整備とセットでなければ機能しない。
「一件ずつ」から「面」への転換
特措法改正と京都市モデルに共通する限界は、空き家問題への介入が「一件ずつ」の個別対応にとどまっている点にある。特措法改正は管理不全空家の認定と段階的措置を各市区町村に委ねており、385万戸の放置空き家に対してスケールしない。京都市の空き家税も、対象は約1.5万戸にとどまる。
英国とフランスのモデルが示唆するのは、「面」での制度設計の重要性である。フランスのTLVは需要ひっ迫地域を国が指定し、該当する3,697市町村に一律に適用する。英国のCouncil Tax Premiumは全自治体が採用可能な枠組みとして整備されている。いずれも個別の空き家を認定するのではなく、「空き家であること」自体に制度的なコストを課す設計であり、行政のマンパワーに依存しにくい。
日本で同様の「面」的アプローチを実現するには、法定外税ではなく、固定資産税制度そのものの見直しが必要になる可能性がある。たとえば、居住実態のない住宅への住宅用地特例の適用を一定期間後に自動的に制限する仕組みや、空き家率の高い地域における新築抑制との組み合わせが考えられる。
税制の射程外にある問題
税制アプローチが有効に機能する領域と、そうでない領域は明確に区別する必要がある。
税制が機能するのは、所有者が「合理的な経済計算に基づいて行動を選択できる」場合である。持ち続けるコストと売却・賃貸のリターンを比較し、行動を変えられる所有者に対しては、課税は強い動機づけとなる。
一方で、税制では対処できない構造的問題がある。相続登記の未了により所有者が特定できない物件、相続人が数十人に及び合意形成が不可能な物件、相続放棄後も管理義務だけが残る物件。これらは税制の対象にすることすら困難である。
相続放棄件数は2022年に26万497件と過去最多を記録し、増加傾向が続いている。2024年4月から相続登記が義務化されたが(違反は10万円以下の過料)、すでに何世代にもわたって未登記の物件では、登記義務化だけでは問題は解決しない。所有者不明土地は2040年には約720万ヘクタールに達するとの推計があり、経済損失は累計6兆円規模と試算されている。北海道本島の面積が約780万ヘクタールであることを考えれば、この問題の規模が想像できるだろう。
『新・空き家問題 2030年に向けての大変化』の著者牧野知弘は、2030年以降に首都圏でも空き家が急増するフェーズに入ると指摘する。地方の問題だと思われてきた空き家は、やがて大都市圏の問題になる。税制アプローチと相続・所有権制度の改革を並行して進めなければ、空き家の増加トレンドを反転させることはできない。
空き家問題は、住宅政策の問題であると同時に、「所有とは何か」を問い直す制度設計の問題でもある。京都市モデルは、その問いへの最初の具体的な回答である。2030年度の課税開始後、この回答がどのような効果をもたらすかは、全国の自治体が注視している。
関連ガイド
関連コラム
参考文献
京都市 非居住住宅利活用促進税 制度概要 (2025年)
京都市の法定外税(非居住住宅利活用促進税)概要 (2023年)
空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律について (2023年)
令和5年住宅・土地統計調査 結果の概要 (2024年)
Why Am I Paying an Empty Homes Premium on My Council Tax? (2024)
Taxe sur les logements vacants (TLV) (2024)
日本における2033年の空き家数・空き家率の推計 (2024年)