ざっくり言うと
- 2023年の空き家数900万戸・空き家率13.8%はいずれも過去最高。うち385万戸が「放置空き家」で、増加分の72%を占める
- 住宅用地特例(固定資産税最大6分の1)が解体を阻み、解体費用100〜150万円の負担と相続の複雑化が放置を加速させている
- 2023年の空家等対策特別措置法改正は「管理不全空家」制度を新設したが、空き家の構造的増加を反転させるには住宅総量の制御が不可欠である
何が起きているのか
空き家900万戸・空き家率13.8%の実態と「放置空き家」385万戸の急増
日本の空き家は、もはや一部地域の問題ではない。総務省統計局が公表した2023年住宅・土地統計調査によれば、全国の空き家数は900万戸に達し、総住宅数6,502万戸に対する空き家率は13.8%。いずれも過去最高を更新した。30年前の1993年に448万戸だった空き家は、ちょうど2倍になった計算である。
問題の核心は、900万戸の内訳にある。賃貸用が443万戸、売却用が33万戸、二次的住宅(別荘等)が38万戸。そして残る385万戸が、賃貸にも売却にも出されていない「その他の空き家」 — いわゆる放置空き家である。この385万戸は2018年から37万戸増加しており、空き家全体の増加分51万戸の実に72%を占める。空き家が増えている主因は、市場に出すことも壊すこともできないまま放置される物件の積み上がりにほかならない。
「実家が空き家になって5年。売れない、貸せない、壊す金もない。固定資産税だけ払い続けている。」
こうした声は珍しくない。空き家問題は、人口減少や高齢化といった巨視的な社会変化と、個別の所有者が直面する経済的・法的な壁が交差する地点に生じている。
空き家の種類別内訳(2023年10月1日現在)
その他(放置): 385万戸
30年前の約2倍・増加分の72%を占める
※「その他」=賃貸・売却の予定もなく、居住世帯のない住宅。相続後放置が主因
🏠 固定資産税の住宅用地特例
更地にすると固定資産税が最大6倍 → 解体インセンティブなし
💰 解体費用
木造30坪で100〜150万円・補助金は自治体ごとにばらつき
📋 相続の複雑化
所有者不明・共有名義の多重化 → 意思決定不能
背景と文脈
住宅用地特例・解体費用・相続複雑化が生む三重のデッドロック
壊せない — 住宅用地特例の罠
空き家が放置される最大の構造的要因は、固定資産税の住宅用地特例にある。住宅が建っている土地は、固定資産税が最大6分の1に軽減される。逆に言えば、空き家を解体して更地にすると、この特例が外れて税額が跳ね上がる。実際の税額増は評価額や負担調整により4〜6倍と幅があるが、所有者にとっては「壊さない方が得」という強力なインセンティブが働く。
解体費用も高い壁である。木造住宅で100〜150万円、鉄骨造やRC造ではさらに膨らむ。自治体による除却補助金は存在するが、国土交通省の空き家再生等推進事業を財源とする間接補助が中心で、対象要件や補助額は自治体ごとに異なる。多くの所有者は「壊すと損をし、放置すればとりあえず税は安い」という合理的判断のもとで何もしない。
使えない — 相続と所有の複雑化
空き家が市場に出ない背景には、相続をめぐる構造的な障壁がある。法務省によれば、所有者不明土地の約3分の2は、相続登記が未了であることに起因する。2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内の登記が求められるようになった。違反には10万円以下の過料が科される。
しかし、相続登記の義務化だけでは問題は解決しない。すでに何世代にもわたって登記されていない物件では、相続人が数十人に及ぶケースも珍しくない。全員の合意なしには売却も解体もできず、一人でも連絡がつかなければ手続きは止まる。所有者不明土地の総面積は九州の面積に匹敵するとも推計されており、空き家問題の底流には「所有」という制度そのものの機能不全がある。
空き家率の地域格差
空き家率上位
「その他の空き家」率上位
※空き家率が高い地域と放置空き家率が高い地域は必ずしも一致しない。西日本の過疎地域で放置率が突出している
空家等対策特別措置法の射程
2015年に全面施行された空家等対策特別措置法(空家法)は、倒壊の危険や衛生上の問題がある空き家を特定空家に指定し、助言・指導・勧告・命令・行政代執行の段階的措置を可能にした。勧告を受けた物件は住宅用地特例が解除される。
2023年12月施行の改正法では、特定空家の前段階にあたる管理不全空家のカテゴリが新設された。放置し続けると特定空家になりうる物件を早期に指定し、勧告段階で住宅用地特例を解除できるようにした。あわせて、市区町村長が裁判所に「管理不全建物管理人」の選任を請求できる制度や、「空き家等活用促進区域」の指定制度も導入された。
改正法の狙いは「特定空家になる前の早期介入」にある。だが、全国385万戸の放置空き家に対して、自治体が個別に管理不全空家を認定し、段階的措置を実行していくには膨大なマンパワーが必要となる。法制度は整備されつつあるが、その執行能力が追いついていない。
構造を読む / 社会構想の種
2023年法改正の限界と住宅総量制御の必要性
この問題から三つの構造的論点を読み取りたい。
第一に、税制が行動を規定するという問題である。住宅用地特例は本来、居住を促進するための制度だった。しかし人口減少社会においては、「住まない家を壊さないインセンティブ」として逆機能している。制度が設計時に想定していなかった社会変化 — 世帯数の減少と住宅ストックの過剰 — が、制度の目的と効果を乖離させた。2023年の法改正で管理不全空家への勧告による特例解除が可能になったのは前進だが、数百万戸規模の問題に対して一件ずつ行政が介入する枠組みには限界がある。税制そのものの再設計 — たとえば居住実態のない住宅への特例適用を時限的に制限する仕組み — が本来は求められる。
第二に、住宅の「新築偏重」構造の問題である。日本総合研究所の推計によれば、現在の趨勢が続けば2040年代には空き家率が20%を超える都道府県が続出する。にもかかわらず、新築住宅の着工は年間80万戸前後で推移している。日本の住宅市場は中古住宅の流通比率が欧米に比べて著しく低く、「新しく建てて、古くなったら放置する」という構造が固定化している。住宅総量をコントロールする仕組み — 空き家率の高い地域での新築抑制や、中古住宅の流通促進税制 — なしには、空き家の増加トレンドは反転しない。
第三に、「所有権の絶対性」と公共の利益の緊張関係である。日本の民法は所有権を強く保護しており、たとえ放置された空き家であっても、行政が強制的に介入するハードルは高い。行政代執行は最終手段として存在するが、費用回収が困難なケースが多く、自治体にとっても負担である。空き家が隣家に被害を及ぼし、景観を損ない、防犯上のリスクとなり、地域の資産価値を下げている現実を考えれば、「使わない所有」に対する社会的責任をどう設計するかは、所有権のあり方そのものを問い直す課題である。
残る問い
「家を建て続ける社会」から「家を減らせる社会」への転換が問われている
空き家900万戸は単なる数字ではなく、人口減少社会が住宅政策に突きつけている構造転換の要請である。固定資産税制の歪み、相続制度の限界、新築偏重の市場構造 — これらは個別の問題ではなく、「家を建て続ける社会」を前提とした制度群が、「家が余る社会」という現実に適応できていないことの表れである。
2023年の法改正は、空き家対策の射程を広げた。だが法律だけでは家は減らない。「壊せない」構造を変える税制改革と、「建て続ける」構造を変える住宅総量の制御。その両方がなければ、空き家はこのまま増え続ける。問われているのは、空き家をどうするかではなく、日本がどのような住宅社会を設計するかである。
関連コラム
参考文献
令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計結果 — 総務省統計局. 総務省統計局
空き家対策の推進に関する特別措置法 — 国土交通省. e-Gov法令検索
空き家対策の施策概要 — 国土交通省 住宅局. 国土交通省
相続登記の申請義務化に関する概要資料 — 法務省 民事局. 法務省
2040年代の全国・都道府県別空き家数・空き家率の推計 — 日本総合研究所. 日本総合研究所

