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一般社団法人社会構想デザイン機構

選挙なしで議員になる国 — 無投票当選26%・定員割れ2,000超が問う「代表」の意味

ヨコタナオヤ
約5分で読めます

2023年統一地方選で都道府県議の26%が無投票当選。町村議会では定員割れが2,000件超。立候補するだけで議員になれる選挙は「選挙」と呼べるのか。投票する機会すら与えられない有権者と、一票も得ずに「代表」となる議員。国民主権の建前と地方民主主義の現実を構造から読む。

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ざっくり言うと

  1. 2023年統一地方選で都道府県議の無投票当選率は25.9%、町村議会では定員割れが2,000件超発生
  2. 無投票当選の議員は有権者から一票も得ていないが、法的には正当な「住民の代表」として議決権を行使する
  3. 人口減少・なり手不足・報酬の低さが重なり、地方議会そのものの存続が問われる段階に入っている

何が起きているのか

統一地方選挙で4分の1以上の議員が選挙なしで当選し、一部の自治体では立候補者が定数に達しない事態が起きている

選挙は民主主義の根幹である。有権者が候補者を選び、票を投じ、最も支持を集めた者が代表となる——。この前提そのものが、日本の地方政治では崩壊しつつある。

2023年の統一地方選挙(前半戦)で、都道府県議員選の無投票当選率は25.9%に達した。4人に1人以上の議員が、選挙を経ることなく当選している。

無投票当選とは、立候補者の数が定数以下だったために、投票が行われずに全員が自動的に当選する仕組みだ。法的には公職選挙法第100条に基づく正当な手続きである。だが有権者にとっては、「選ぶ権利」を行使する機会が最初から存在しない。

さらに深刻なのは、無投票当選すら成立しないケースだ。町村議会では定員割れが全国で2,000件以上発生した。立候補者が定数に達しないため、空席を抱えたまま議会が運営される。一部の自治体では、首長選で立候補者がゼロとなり、選挙そのものが不成立になった事例もある。

ここに生じる問いは明白だ。一票も投じられることなく「当選」した議員は、住民の「代表」なのか。

背景と文脈

報酬の低さ・兼業禁止・高齢化・人口減少が重なり、議員のなり手が構造的に不足している

なぜ立候補者がいないのか

無投票当選の原因は、候補者の不足——いわゆる「なり手不足」にある。その背景には複数の構造が絡み合う。

第一に、報酬の問題がある。町村議会議員の報酬は自治体により差があるが、月額20万円台の自治体も少なくないとされる。国会議員の年収約2,000万円(諸手当含む)との落差は大きい。政務活動費がゼロの自治体も珍しくない。専業議員としての生活が成り立たないため、定年退職者以外のなり手が限られる。

第二に、兼業の難しさがある。地方議員は法的には兼業が可能だが、議会の日程が平日昼間に集中するため、会社員が務めるのは事実上困難だ。農業や自営業のように時間の融通が利く職業の人間に偏る構造がある。

第三に、人口減少の直撃がある。過疎地域では、そもそも「立候補できる年齢の住民」の母数が少ない。地域に住む65歳未満の成人が数百人しかいない集落で、議員のなり手を見つけること自体が難題になっている。

無投票当選率の推移

1999
15.5%
2003
17.5%
2007
19.8%
2011
16.6%
2015
21.9%
2019
26.9%
2023
25.9%
25%超(4人に1人以上が無投票)

出典: 総務省 統一地方選挙データ

都道府県議員選の無投票当選率の推移(統一地方選)

無投票当選は一時的な現象ではない。統一地方選の無投票当選率は長期にわたって上昇傾向にある。1990年代には都道府県議選の無投票率は現在より低かったが、2010年代に20%台に乗り、2023年には過去2番目の高水準を記録した。

この増加は、有権者の「政治離れ」ではなく、立候補者の「議会離れ」である点に注意が必要だ。投票率の低下は有権者側の問題だが、無投票当選の増加は「候補者がいない」という供給側の問題だ。いくら投票意欲があっても、選択肢がなければ選挙は成立しない。

「選挙以前」の問題

近年、市区町村長選でも無投票当選が常態化している。首長——つまり自治体のトップが、選挙なしで決まる。これは「投票率が低い」という問題とは質的に異なる。投票率が低い選挙では、少なくとも投票する権利は存在する。無投票当選では、その権利自体がない。

定員割れの場合はさらに深刻で、議会の構成員が法定数に達しないまま意思決定が行われることになる。住民の税金の使い道を、誰にも選ばれていない——あるいは不完全に構成された——議会が決定する。

構造を読む

無投票当選の議員が「代表」と呼べるかという正当性の問いと、地方議会の存在意義そのものが問い直される段階

無投票当選の議員は、法的には完全に正当な存在だ。公職選挙法の規定に従って当選しており、議決権も質問権も通常の議員と同等に有する。しかし民主主義の原理から見ると、「住民の信任を得ていない代表」という矛盾を内包する。

この矛盾は、これまで「地方の問題」として扱われてきた。だが今、その範囲は拡大している。都道府県議の4分の1が無投票で、町村議会の定員割れが常態化しているということは、日本の地方自治制度そのものの持続可能性が問われているということだ。

いくつかの自治体が改革を試みている。議員報酬の引き上げ、政務活動費の新設、議会のオンライン開催の導入、夜間・休日議会の実施。長野県喬木村は議員定数を削減した上で報酬を引き上げ、なり手の確保に成功した事例として知られる。北海道の一部自治体ではオンライン出席を認める条例改正を行った。

しかしこれらは対症療法であり、構造的な解は見えていない。人口減少が続く限り、なり手不足は加速する。議員定数を減らせば一人あたりの報酬を増やせるが、「住民の声を拾う窓口」が狭くなる。オンライン議会は物理的な出席のハードルを下げるが、候補者不足の根本には手が届かない。

もう一つの問いが残る。地方議会は、今の形のまま存続すべきなのか。第32次地方制度調査会は、小規模自治体の議会制度に関して「議会の多様な構成のあり方」を議論した。住民総会への移行、議員の兼業要件の緩和、近隣自治体との議会共同設置など、従来の「1自治体1議会」モデルを超える選択肢が検討されている。

選挙なしで議員が決まり、議員すら足りない議会が予算を決める。この現実に対して「投票に行こう」と呼びかけても意味がない。投票に行く先が、存在しないのだから。

問われているのは有権者の意識ではない。代表制民主主義という制度が、人口減少という不可逆の変化に適応できるかどうか——そのこと自体だ。


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参考文献

第20回統一地方選挙 発表資料総務省. 総務省

地方選挙をめぐる状況と課題(令和5年統一地方選挙)参議院調査室. 参議院

国政選挙における年代別投票率の推移総務省. 総務省

参考書籍

読んだ後に考えてみよう

  1. あなたの住む自治体の議会で、前回の選挙は行われただろうか。
  2. 一票も得ていない議員が議決権を持つことに、違和感を感じるか。
  3. 地方議員の報酬が年収300万円だとして、あなたは立候補するだろうか。

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