一般社団法人社会構想デザイン機構
実践ガイド — 戦略・設計

Theory of Change 実践ワークショップガイド — 変化の仮説を「みんなで」描く方法

「なぜその活動で社会的変化が起きるのか」をチーム全員で言語化したことはありますか。セオリー・オブ・チェンジは成果への道筋を仮説として可視化するフレームワークです。ワークショップ形式での進め方と、助成金申請や事業評価に活かす方法を紹介します。

更新日
ISVD編集部
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はじめに

活動の設計書はある。実績データも揃っている。それでも「なぜそれで変化が起きるのか」という根本的な仮説が言語化されていないと、支援者への説明にも内部の戦略議論にも限界が来ます。

(チェンジ理論、以下ToC)は、その仮説を明文化するためのフレームワークです。一人で作る成果物ではなく、チームで議論を重ねて到達するプロセスにこそ価値があります。


Theory of Change とは

ToCの起点は、Carol Weissが1995年のAspen Institute Community Change Roundtableで提唱した概念です。「プログラムや組織の活動がなぜ・どのようにして社会的変化をもたらすかを、前提条件と成果の因果連鎖として明示した理論」。これがToCの定義です。

ポイントは「仮説」という性質にあります。ToCは完成された答えではなく、「この前提条件が満たされれば、この介入によって、この変化が起きるはずだ」という構造的な仮説。仮説だからこそ、実践を通じて検証し、改訂できます。

ロジックモデルとの違い

ToCとの違いについては、ロジックモデルとは何かで詳しく解説しています。ここでは要点だけを整理します。

観点ロジックモデルTheory of Change
問いの焦点何をするかなぜ変化が起きるか
思考の方向線形・定型的非線形・文脈依存
主な用途設計後の記述・整理設計前の戦略思考
前提条件の扱い暗黙的明示・検証が必須

ロジックモデルが活動の構造を整理する「図面」だとすれば、ToCは「なぜこの設計が機能するか」を問う戦略的な思考基盤です。実務では、ToCで変化の仮説を立て、ロジックモデルでそれを具体的な活動設計に落とし込む組み合わせが有効です。


ToCを構成する柱

長期的なビジョン(Long-term Outcomes) は、活動を通じて最終的に実現したい社会の姿です。「5〜10年後に、どんな状態になっていてほしいか」という問いへの答えがここに入ります。

前提条件(Assumptions) は、変化が起きるために必要な条件の明示です。「参加者がプログラムに継続的にアクセスできる環境がある」「地域の行政が協力的な姿勢を持っている」。こうした条件が揃ったうえで、はじめて因果連鎖が機能します。前提条件を明示する点が、ToCとロジックモデルの根本的な違いです。

介入ロジック(Intervention Logic) は、前提条件が満たされたうえで、どの活動がどの順序でどの成果につながるかの連鎖です。バックワードマッピング(逆算)で描くことで、「この活動をするから変化が起きる」ではなく「この変化を起こすために、何が必要か」という問い方ができます。


ToCの作成手順

ステップ1: 長期目標を定義する

「5〜10年後に、誰の何がどのように変わっているか」を一文で記述します。具体的に。「支援した若者が就労し、自立した生活を送っている」ではなく、「ひきこもり経験のある20代が、自分のペースで社会参加の場を選択できる社会になっている」という水準が目安です。

ステップ2: バックワードマッピングで成果の連鎖を描く

長期目標
Impact
中期成果
Outcomes
短期成果
Outputs
活動
Activities
資源
Inputs
↑ 逆算の方向: 長期目標から必要条件を遡る
図: ToC逆算マッピング — 長期目標から「何が必要か」を遡る

長期目標から逆算して、「その状態を実現するために、何が変わっている必要があるか」を問い続けます。長期成果→中期成果→短期成果の順に、付箋を使って空間上に配置します。

「活動から出発して成果を考える」のではなく、「成果から逆算して何が必要かを考える」。この方向性の違いが、ToCをロジックモデルと区別するポイントです。

ステップ3: 前提条件(Assumptions)を明示する

各成果の連鎖の接続点ごとに「この変化が起きるためには、何が真でなければならないか」を問います。たとえば、「保護者の認識が変わる」という成果が生まれるためには、「保護者が情報にアクセスできる環境がある」「文化的・言語的バリアがない」といった前提条件が必要です。

これらの前提条件は、図の外枠または各矢印の脇に書き添えます。スキップすると、ToCはロジックモデルと見分けのつかない図になってしまいます。

ステップ4: 介入ポイントを特定する

バックワードマッピングで描いた成果連鎖のうち、自分たちの活動が効果的に働きかけられる「介入ポイント」を特定してください。すべての成果を自分たちが生み出す必要はありません。他の主体が担う部分、制度が果たすべき部分を仕分けることで、集中すべき場所が浮かび上がります。

ステップ5: 指標を設定する

各成果レベルに対して、「変化が起きたことをどうやって確認するか」の指標を設定します。測定可能であること、時間軸が明確であること。この2点が条件です。「意識が変わった」ではなく、「〇ヶ月後のアンケートで自己効力感スコアが上昇している」という形にします。

ステップ6: 図を完成させ、ナラティブを書く

ToCは図(ダイアグラム)とナラティブ(文章による説明)の2点セットで完成します。図は因果の全体構造を一覧できるビジュアル。ナラティブは、「なぜこの理論が成立するか」を読む人が追体験できる文章です。図だけではロジックが伝わりきらない場面を、ナラティブが補完します。


ワークショップで描く — 実践タイムライン(6時間版)

ToCは一人で作るより、チームで議論しながら作る方が質が高まります。ステークホルダーの多様な視点が、前提条件の見落としや単純化を防ぐからです。

以下は、6時間の全日ワークショップのタイムライン例です。参加者5〜7名のグループ構成を想定しています。

時間帯内容主な手法
9:00〜10:00導入・関係者の現状認識の共有ポストイット個人作業→発表
10:00〜11:30長期目標の定義と合意形成ファシリテーテッド議論
11:30〜12:30バックワードマッピング(成果連鎖の作成)付箋を模造紙に配置
12:30〜13:30昼休憩
13:30〜14:30前提条件の明示と批判的検討「なぜ成立するか」反論演習
14:30〜15:30介入ポイントの特定と指標の素案小グループ→全体共有
15:30〜16:30全体の図の統合とナラティブの骨子作成全員で図を整理
16:30〜17:00振り返りと次のアクション確認ファシリテーター主導

半日(3〜4時間)の入門ワークショップでは、ステップ1〜3までを扱い、後日チームが続きを作業する形も有効です。2日間バージョンでは、初日に図の完成まで進め、翌日にナラティブの精緻化と外部専門家によるフィードバックを受けるセッションを設けます。

ファシリテーターの役割

ToCワークショップの成否は、ファシリテーターの質に大きく依存します。中立性の維持と「なぜ」の問い続け。「この活動をすれば変化が起きる」という発言に対して、「なぜそう思うか」「その前提は何か」を丁寧に掘り下げ、合意を急がず、対立を恐れない姿勢が必要です。


ツール選択

作業環境に合わせて適切なツールを選びます。

対面ワークショップには、 模造紙と付箋 の組み合わせが最も扱いやすいです。物理的に動かせる付箋は、成果連鎖の組み替えを繰り返す作業に向いています。

オンラインまたはハイブリッド環境では、 Miro が汎用性の高い選択肢です。テンプレートが充実しており、遠隔参加者もリアルタイムで書き込めます。より特化したツールを求めるなら、 TOCO(Theory of Change Online) も検討してみてください。ToCの構造に特化した入力インターフェースを持ち、ナラティブの自動整理機能も備えています。

最終的な図の整形と共有には Google Slides も実用的です。ツールの複雑さに時間を取られるより、議論の質に集中できる環境を優先してください。


日本での活用事例

日本のNPO・研究機関でもToCの活用は広がっています。

多胎児(双子・三つ子など)の家族支援を行う団体では、「孤立した保護者が、地域のサポートネットワークに接続されている状態」を長期目標に設定し、オンライン相談・ピアサポートグループ・自治体連携という介入経路を持つToCを描いています。各経路の前提条件として「保護者がスマートフォンを持ち、移動が困難な状況にある」という条件が明示されており、支援設計がその現実に即した形になっています。

生涯学習・社会参加型の市民大学では、「市民が地域課題を自分ごととして考え、主体的に行動している状態」というビジョンのもとでToCを構成。プログラムの参加が知識獲得にとどまらず行動変容につながるかどうかを検証する指標として、修了後の自発的活動件数を追跡する仕組みをToCから導出しています。

制度・政策との接点も広がりを見せています。 SIMI(ソーシャル・インパクト・マネジメント・イニシアチブ)ガイドライン Ver.2 (2021年)はToCを評価設計の出発点として位置づけ、休眠預金等活用制度を管理する JANPIA のガイドラインでも助成申請時にToCの提出を求めるケースが増加。助成機関との対話において、ToCは内部ツールの域を超えた説明責任の共通言語へと変わりつつあります。


よくある失敗パターン

責任と希望の混同

「この団体が全力を尽くせば、貧困が解消される」という書き方をしているToC。自分たちの介入が直接制御できる成果と、活動が貢献する(しかし決定はしない)長期的な社会変化を混同しています。インパクトは「方向性」であり、「約束」ではありません。

現状の後付け正当化

既存の活動ありきで作成した結果、ToCが「やっていることを美化する図」になるケース。活動の設計前にToCを描く、または活動を一旦括弧に入れて「本当に必要な変化の連鎖は何か」から問い直す姿勢が必要です。

前提条件の検証省略

図に前提条件を書いても、「それが実際に成立するか」を検証するプロセスをスキップするパターン。前提条件は仮説です。現場観察、当事者へのインタビュー、先行研究の参照によって、その妥当性を検討することが設計の精度を高めます。

測定不可能な理論

「社会全体の意識が変わる」「文化が変容する」という成果を掲げながら、それをどうやって確認するかを定義しないケース。指標を設定できない成果は、検証不可能です。評価の軸を持てないToCは、ただの夢想になります。

お蔵入り

ワークショップで完成させた後、誰も参照しない状態。作成プロセスに意義があるとはいえ、定期的な見直しと実際の意思決定への活用がなければ、ToCは紙の上の飾りで終わります。年次の活動振り返りにToCを持ち込む運用を、設計段階で決めておいてください。

複雑化

成果を細かく分類しすぎ、矢印が入り組んで全体が見渡せなくなるケース。ToCは関係者が共通認識を持つためのコミュニケーションツールでもあります。A3用紙1枚に収まらない図は再整理のサインです。


ISVDの視点

ToCワークショップで最も価値ある瞬間は、図が完成した瞬間ではありません。「私はこの変化が起きると思っていた、でもあなたは違う前提を持っていたんですね」という気づきが生まれる瞬間です。

ToC作成は、チームの暗黙知を表出させるプロセスです。共同作業を通じて、前提条件のズレ・成果の優先順位の違い・活動の根本的な目的についての解釈の差異が可視化されます。

一般社団法人社会構想デザイン機構(ISVD)は、社会課題に向き合う個人・組織が「変化の仮説」を描き、それを実践に接続するための支援を行っています。ToCで変化の仮説が言語化されると、次に問われるのは「その仮説を検証するための評価設計」です。アウトカム指標の設計が、その具体的な手法になります。また、ToCの中で特定した介入ポイントを具体的な活動計画に変換するにはロジックモデルが有効です。

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