一般社団法人社会構想デザイン機構
実践ガイド — 戦略・設計

社会課題の構造分析 — システム思考で「なぜ解決しないか」を可視化する

対症療法を繰り返しても状況が改善しないのはなぜでしょうか。システム思考は問題の構造そのものを読み解き、効果的な介入ポイントを見つける思考法です。因果ループ図・氷山モデル・レバレッジポイントの3つのツールと、NPO現場での実践ステップを紹介します。

更新日
ISVD編集部
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はじめに

フードバンクを運営するNPOが食料を届け続けても、食料支援を必要とする人は増え続ける。就労支援を行っても、支援後に再び無職になるケースが後を絶たない。個々の問題に手を打っているのに、全体としては何も変わっていない。この感覚は、社会課題の現場にいる人なら覚えがあるはずです。

原因は多くの場合、「問題の見え方」にあります。目の前の出来事だけに対処しているかぎり、課題は形を変えて繰り返される。出来事の背後にある構造を理解するための思考法が システム思考 です。


システム思考とは

システム思考は、複雑な問題を「相互につながる要素の集合体(システム)」として捉える思考法です。

MITのジェイ・フォレスター教授がコンピュータシミュレーションを用いたシステムダイナミクスとして基礎を築き、1970年代から政策分析や企業戦略の分野で発展。1990年にピーター・センゲが著した『第五の規律(The Fifth Discipline)』は、システム思考を「組織の学習能力を支える中核的な規律」として位置づけ、日本でも広く知られるようになりました。

考え方の核は単純で、「原因→結果」の直線的な見方をやめて、「要素が互いに影響し合うフィードバックの循環」として捉えること。

社会変革の分野では、ドネラ・メドウズの貢献が際立っています。1972年の『成長の限界』でシステム分析の重要性を示し、1999年に発表した論文「Leverage Points: Places to Intervene in a System」では、システムに介入できる12段階のポイントを提示。この枠組みは現在も社会課題の構造分析に広く使われています。


氷山モデル — 問題の見える部分と見えない部分

社会課題をシステムとして捉えるための最初のツールが、 氷山モデル です。

水面
できごとEvents
目に見える現象
パターンPatterns
繰り返される傾向
構造Structures
パターンを生む仕組み
メンタルモデルMental Models
前提となる価値観・信念
深層へ介入ポイントは深いほど効果が大きい
図: 氷山モデル — 水面上のできごとを深層構造から理解する

氷山が海面上に見せる姿は全体の一部に過ぎません。問題も同様に、表面に現れる「出来事」の下に、より大きな構造が隠れています。

【氷山モデルの4層】

  ───────────────────────────
  海面上   ▲ 出来事(Events)
  ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
           ▼ パターン(Patterns)
           ▼ 構造(Structures)
           ▼ メンタルモデル(Mental Models)
  ───────────────────────────

出来事(Events) は、日々観察できる現象です。「今月、フードバンクへの相談件数が増加した」などの具体的な事実がこの層に該当。私たちが普段「問題」と呼ぶのは、ほとんどがこの層です。

パターン(Patterns) は、時系列で見たときの傾向です。「毎年、年度末に相談件数が増える」という繰り返しのパターンは、出来事の層を積み上げて初めて見えてきます。

構造(Structures) は、パターンを生み出している仕組み。制度的な要因、組織間の関係性、資源の配分方法などが含まれます。「年度末に支援ニーズが増える」背景には、契約雇用の終了タイミングや社会保障制度の申請タイミングといった構造がある、という具合です。

メンタルモデル(Mental Models) は、構造を成立させている価値観・前提・思い込みです。「困窮は自己責任である」という社会的な思い込みがあれば、支援制度の設計も、支援を求める人の行動も、それに引きずられます。

氷山の下層に行くほど、変えることの影響は大きく、しかし変えることの難しさも増します。


因果ループ図 — 悪循環を図に描く

構造の層を可視化するツールが、 因果ループ図(Causal Loop Diagram) です。

因果ループ図は、システムの要素とその間の因果関係を矢印で結び、フィードバックの循環構造を図示します。矢印には2種類の関係があります。

  • 正の関係(+): 原因が増えると結果も増える(原因が減ると結果も減る)
  • 負の関係(−): 原因が増えると結果は減る(原因が減ると結果は増える)

フィードバックのループには、2種類あります。

強化ループ(Reinforcing Loop / Rループ)

変化が同じ方向へ増幅し続けるループです。良い意味でも悪い意味でも使われます。

貧困の連鎖を例に考えます。

低収入 → 教育への投資が難しい → 学力・資格の不足 → 低賃金の仕事に限られる → 低収入(戻る)

一つの要素が増えると次の要素も増え、それがまた最初の要素に戻ってくる。悪循環としての強化ループです。外部から断ち切る介入がなければ、ループは回り続けます。

均衡ループ(Balancing Loop / Bループ)

目標と現状のギャップを埋めようとするループです。安定化の機能を持ちます。

フードバンクへの支援要請が増えると、運営側は食料配布量の拡大で対応する。配布が増えれば相談件数は一時的に落ち着き、また需要が高まれば支援要請が増える。この循環が均衡ループです。均衡ループ単体では根本解決にならないことが多く、背後にある強化ループへの介入とセットで考える必要があります。


レバレッジポイント — どこを押せば変わるか

因果ループ図でシステムの構造を理解したら、次の問いは「どこへ介入するか」です。

ドネラ・メドウズは1999年の論文で、システムへの介入点を12段階に分けて提示しました。効果の小さい介入から大きい介入へ、順番に並べると以下のようになります。

段階介入点効果
12数値・パラメータ(補助金、税率等)最も低い
11蓄積量の規模低い
10物理的な構造低い
9遅延の長さ中程度
8均衡ループの強さ中程度
7強化ループの利得中程度
6情報の流れ(誰が何を知るか)高い
5ルールと制度高い
4自己組織化する力高い
3システムの目標非常に高い
2パラダイム(思考の枠組み)非常に高い
1パラダイムを超える力最も高い

多くの政策や支援活動は、12〜9の低い介入点に集中しています。補助金を増やす、施設を建設する、対応期間を延ばす。即効性があるように見えますが、システムの根本的な構造は変わりません。

一方、高い介入点はより広い範囲に効きます。たとえば「誰が何を知るか」という情報の非対称性を変えること(段階6)。就職活動に必要な情報に弱者がアクセスできない構造を変えれば、個別の就労支援よりもはるかに多くの人に届く。

最も高い介入点は、パラダイム、つまり問題を見る視点そのものの変革です。「困窮は個人の問題」から「社会の構造的問題」へと社会全体の認識が変われば、その後のルール設計から制度設計まで連鎖的に動きます。


NPO・社会事業への適用

活動の前に構造を問う

活動を設計する前に「この課題はなぜ繰り返されるのか」と問う。やることはそれだけです。

氷山モデルを使って、自分たちが対処しているのは「出来事」の層なのか「構造」の層なのかを確認する。出来事への対処が必要なことは間違いありません。しかし、それだけでは課題は繰り返される。どの層に働きかけているのかを自覚するだけで、活動の設計は変わってきます。

SIIFのシステムチェンジ投資

日本でシステムチェンジの概念を社会投資に組み込んでいる先駆的な組織が、一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)です。社会を「有機的に互いが影響し合う相互作用の総体」として捉え、個別の問題解決ではなく問題を生み出す構造そのものを変えることを目指す「システムチェンジ投資」を推進している。レバレッジポイントの上位層を狙う実践として参考になります。

因果ループ図を使った対話

因果ループ図は分析ツールであると同時に、対話のツールでもあります。紙1枚に要素を書き出し、矢印でつないでいくだけ。複数の関係者が参加して図を描くプロセス自体が、問題への共通認識を形成します。

完璧な図を作る必要はありません。「見えていなかったフィードバックが見える」、その経験が思考を変えるきっかけになります。


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ISVDの視点

社会課題は、単純な原因と結果の関係に収まりません。時間をかけてフィードバックが積み重なり、見えない構造の中で繰り返される。

「なぜ解決しないか」を問い続けること。目の前の出来事への即応と、背後にある構造への介入を意識的に組み合わせること。システム思考はそのための道具です。

ISVDのSDI診断では、社会課題の構造を読み解く視点と、自分自身の関わり方を重ねて考えるプロセスを取り入れています。課題の構造が見えると、自分がどこに立っているのかも見えてくる。

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