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一般社団法人 社会構想デザイン機構
ISVD-LAB-003基盤構築

Design Justice の系譜と批判

ヨコタナオヤ
約6分で読めます

Design Justice(デザイン・ジャスティス)の思想的系譜を整理し、その貢献と限界を批判的に検討する。日本の社会構想デザインへの含意を論じる。

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誰が設計し、誰のために設計するか。 デザイン・ジャスティス(Design Justice)は、 この問いを設計実践の中心に置く。 デザインが意図せず周縁化・排除・抑圧を再生産する構造を問題にし、 設計プロセスの民主化と社会正義の両立を目指す。

日本では認知度が低いが、参加型デザイン・社会構想デザインと深く交差する思想的系譜である。

何が起きているのか

パパネクの先駆

デザイン・ジャスティスの先駆として、 ヴィクター・パパネクの仕事がある。 1971年の『現実世界のためのデザイン』は、 消費社会向けの商業デザインを正面から批判した。デザイナーは「市場のサーバント」であることをやめ、 開発途上国・障害者・高齢者・社会的弱者のための設計に向かうべきだ、という主張だった。

パパネクの批判は設計の「目的」に向けられた。しかし設計の「過程」への批判は不十分だった。 「誰のために」という問いは問うたが、「誰とともに設計するか」という問いは後景に退いていた。 この空白をデザイン・ジャスティスは埋めようとする。

デザイン・ジャスティスの形成

サシャ・コスタンザ=チョックが 2020年に刊行した『デザイン・ジャスティス』は、 2015年以降に形成されたDesign Justice Networkの実践を理論化した書物だ。

コスタンザ=チョックが整理した デザイン・ジャスティスの10原則は、 参加型デザインの系譜(スカンジナビア学派)と社会運動論を接続する。 冒頭の原則は「私たちは、コミュニティのメンバーが自分たちの生活を形作る構造・環境・システムの設計者となることを支える」だ。

思想的支柱は3つある。第一にインターセクショナリティ(交差性)だ。 キンバリー・クレンショーが提唱した交差性の概念は、 人種・ジェンダー・障害・階級・性的指向が交差する複合的抑圧を分析する枠組みだ。 デザイン・ジャスティスはこれをデザイン批評に適用する。

第二にベル・フックスの「周縁から中心へ」という立場だ。 周縁化された人々の経験は「欠如」ではなく、知識の独自の源泉だという主張は、 「専門家が設計し市民が使う」というデザインの標準的な権力関係を問い直す根拠になる。

第三に参加型行動研究(PAR:Participatory Action Research)だ。 コミュニティメンバーが研究プロセスに参加し、知識生産と変革行動を一体で進める手法は、 デザイン・ジャスティスの実践的基盤にあたる。

背景と文脈

テクノロジーとデザインの交差

コスタンザ=チョックの分析の特徴は、テクノロジー批判との接続だ。 空港のセキュリティスキャナーは、シスジェンダー男性の身体を「標準」として設計され、 トランスジェンダーの人々に過剰な身体検査を課す。顔認識システムの精度は、 白人男性の顔に対して最も高く、有色人種・女性・子どもで低下する。

これらの「技術的な問題」は、設計者の属性と設計プロセスにおける権力関係の問題だ。 デザイン・ジャスティスの問いは「誰の視点から設計されたか」に向かう。

日本の文脈では、行政デジタル化・マイナンバー・AIを活用した福祉給付判定といった 公共システムの設計において、同種の問題が顕在化しつつある。 「最適化」されたシステムが誰にとっての最適化かは、設計の前提に依存する。

「エンパシーの罠」への批判

デザイン思考(Design Thinking)への批判として、デザイン・ジャスティスが問題にするのが「エンパシー(共感)の罠」だ。

標準的なデザイン思考の手法では、「ユーザーへの共感」がプロセスの入り口に置かれる。 ペルソナ設定・ユーザーインタビュー・エスノグラフィーによって、 設計者は「ユーザーの気持ちを理解した」状態になる。

しかしコスタンザ=チョックはこれを「エンパシーの罠」と呼ぶ。 共感の主体は設計者であり、設計者が「理解した」と感じた後も、 権力関係は変わっていない。「あなたのことを理解した私が、あなたのために設計する」という構造は、 パターナリズムの洗練された変形だ。

問われるべきは、共感ではなく「誰が設計プロセスの主体か」という権力の問いだ。

構造を読む

参加型デザインとの比較

デザイン・ジャスティスと参加型デザイン(スカンジナビア学派)は近い立場にある。 しかし重点の置き方が異なる。

次元参加型デザイン(スカンジナビア学派)デザイン・ジャスティス
起源労働運動・職場民主主義(1960-70年代北欧)社会正義運動・フェミニズム(2010年代米国)
中心的価値労働者の設計参加・民主的職場インターセクショナルな公正・権力構造の変革
主な対象職場・産業システム日常生活・テクノロジー・公共サービス
権力分析労資関係人種・ジェンダー・階級・障害の交差
評価軸参加プロセスの質社会的マイノリティの権利保障と状況改善

社会構想デザインへの接続

デザイン・ジャスティスが社会構想デザインに提起する問いは3点ある。

第一に「デザイナーの位置性(positionality)」だ。設計者の人種・性別・社会的地位・経験は、 設計の前提と成果に影響する。設計者が自らの位置性に無自覚なとき、 その設計は「中立」ではなく特定の視点を体現する。社会構想デザインが日本社会の課題に取り組むとき、 設計者の位置性の問いは避けられない。

第二に「コミュニティの知識」の評価だ。当事者が持つ生活知・経験知・実践知を、 専門的知識と同等かそれ以上に評価する設計文化をどう作るか。 デザイン・ジャスティスの原則は、これを「価値観」ではなく「設計プロセスの構造」として扱う。

第三に「便益と損害の分配」だ。社会構想デザインが生み出す変化の便益は誰が受け、 損害は誰が負うか。この問いは設計の事前評価の基準になる。 「良い設計」は意図の良さではなく、分配の公正さで評価されるべきだ、というのがデザイン・ジャスティスの立場だ。

日本では「社会課題解決」という言葉が設計の正当性根拠として使われることが多い。 しかしその「課題」の定義は誰がしたか。「解決」の評価は誰がするか。 デザイン・ジャスティスの問いは、この点でまだ十分に受容されていない。

→ 関連: 参加型デザインの系譜 / スペキュラティブデザインと社会構想デザインの境界 / 社会構想デザインでないもの / 6領域統合仮説

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