一般社団法人社会構想デザイン機構
1.2.1

誰のために何を変えるか — 対象者3層設計

感覚過敏当事者をコアに、ミソフォニア傾向の一般市民をブロードに、都市住民全体を潜在支持層として3層で定義。コア層を起点にした設計改善が全体の音環境向上につながる波及構造を整理する。

このノートは静かなまちプロジェクトの対象者設計パートです。変化の理論、組織設計は 公益と収益の分離(準備中) を参照してください。

なぜ対象者設計が必要か

「誰のためにやるのか」を曖昧にしたプロジェクトは、何も変えない。全員のためにやろうとすると、結局誰にも届かない。

静かなまちプロジェクトは「都市を静かにする」プロジェクトではない。 感覚過敏者が都市の中で普通に暮らせるようにする プロジェクトだ。この起点を明確にすることで、活動・成果物・政策提言の全てに一貫性が生まれる。

対象者の3層設計

誰のために、何を変えるのか。対象者を明確に3層で定義する。

対象人口規模(推計)プロジェクトとの関係
【コア】ASD・発達障害・感覚過敏当事者日本人口の数%最優先の受益者。データ提供者でもある
【ブロード】ミソフォニア傾向のある一般市民一般人口の12〜20%Jager et al., 2020; Naylor et al., 2021共感・参加・アプリ利用の主要層
【潜在支持】「なんとなく騒音が嫌い」な人全員都市住民の大多数世論形成・政策支持の基盤
【コア】ASD・発達障害・感覚過敏当事者
日本人口の数%最優先の受益者・データ提供者
【ブロード】ミソフォニア傾向のある一般市民
一般人口の12〜20%共感・参加・アプリ利用の主要層
【潜在支持】「なんとなく騒音が嫌い」な人全員
都市住民の大多数世論形成・政策支持の基盤
図: 対象者の3層設計 — コアからブロードへ影響を拡大

コア層からの波及設計

感覚過敏者は都市の音環境問題に最も敏感に反応する存在だ。建物のバリアフリー設計が車椅子ユーザーのために始まり、結果的にベビーカーや高齢者にも恩恵をもたらしたように、感覚過敏者を起点にした音環境の改善は、都市全体の生活の質を向上させる

この「カーブカット効果」(curb-cut effect)がプロジェクトの波及戦略の核だ。

コア → ブロードへの波及

コア層のデータと体験が、ブロード層(ミソフォニア傾向のある一般市民15〜20%)の「自分も実はストレスを感じていた」という認識を呼び起こす。この層がアプリの利用者・データ提供者・SNSでの拡散者となる。

ブロード → 潜在支持への波及

ブロード層の参加によりデータの規模が政策議論に足るレベルに達する。「都市住民の大多数」が潜在的に持っている「騒音が嫌だ」という感覚に、データという言語が与えられる。これが世論形成と政策支持の基盤になる。

設計の判断基準

プロジェクトのあらゆる意思決定で、この3層設計を参照する。

  • 優先順位: コア層の利益が最優先。ブロード層への訴求のためにコア層を犠牲にしない
  • コミュニケーション: コア層には「あなたのためのプロジェクトです」、ブロード層には「あなたも当事者かもしれません」
  • プロダクト設計: まずコア層が日常的に使える機能(静かな経路提案等)を作り、その上にブロード層向けの機能を積む

プロジェクトの関係者マップ

対象者(受益者)だけでは不十分だ。プロジェクトの成果を社会に届けるには、関わる全ての関係者を把握し、それぞれとの関係を設計する必要がある。

関係者役割関係性
感覚過敏・ミソフォニア当事者データ提供者・最優先受益者コア対象者。研究の起点
文京区(環境政策課・福祉課)騒音苦情窓口・政策実行者政策提言の第一の宛先
環境省(大気生活環境室)騒音規制の基準設定者構造分析の提出先
警察庁・都道府県警交通騒音の取り締まり規制構造の一端を担う
国土交通省(地方運輸局)車両基準・整備命令規制の分断構造に関与
大学研究者(聴覚科学・都市工学)学術連携・共同研究・査読データの信頼性担保
障害者支援団体・NPO当事者ネットワーク・政策提言の連携先コア層へのリーチ
メディア(報道・SNS)社会発信・世論形成ブロード層→潜在支持への拡散
不動産・都市開発事業者「静かさ」の経済価値化長期的なインセンティブ設計

3層設計と関係者マップの接続

対象者3層設計は「誰のために」を定義する。関係者マップは「誰と一緒に」を定義する。

  • コア層 へのリーチには、障害者支援団体・NPOとの連携が不可欠
  • ブロード層 への拡散には、メディアとSNSが主要チャネル
  • 政策変更 には、行政(文京区・環境省)への直接的なデータ提供と提言が必要
  • 持続可能性 には、不動産業界の経済的インセンティブとの接続が鍵になる

この関係者マップは、研究フェーズが進むにつれて更新していく。Phase 0(フィールドワーク準備)の段階では行政と当事者団体との関係構築が最優先だ。

参考文献

Prevalence and Profile of Misophonia: A Large-Scale Population Study

Jager, I. et al.. PLOS ONE, 15(2), e0227118

原文を読む

The Prevalence and Severity of Misophonia in a UK Student Population

Naylor, J. et al.. Psychiatric Quarterly, 92, 495-507

原文を読む

The Curb-Cut Effect(ユニバーサルデザインの波及効果)

Blackwell, A. G.. Stanford Social Innovation Review

原文を読む

Architecture for Autism: Concepts and Built Environment

Mostafa, M.. Archnet-IJAR, 8(1), 143-158

原文を読む

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