dBだけでは測れない — 文脈依存型ストレスという概念
同一dBレベルの騒音でも、音の種類・時間帯・予期の有無によってストレス反応は大きく異なる。現行のdB平均指標の限界と、感覚過敏者に特化した新しい指標の必要性を論じる。
このノートは 4つの研究仮説 のH4を掘り下げたものです。
気づいたこと
騒音の研究を始めて最初に違和感を覚えたのは、すべてが「dB(デシベル)」で語られることだった。
70dBの工事音と、70dBの改造バイクの爆音は、数値上は同じだ。しかし後者が引き起こすストレスは桁違いに大きい。 なぜなら改造バイクの音は「誰かが意図的に出している」「予告なく突然来る」「夜中にも来る」という文脈を持つからだ。
dBは音の物理的エネルギーの指標であって、人間のストレスの指標ではない。
現行指標の3つの限界
1. 時間平均の罠
環境基準で使われるLAeq(等価騒音レベル)は、一定時間の平均値だ。深夜2時の突発的な爆音も、24時間平均では薄まって消える。被害が最も深刻な瞬間が、指標上は存在しないことになる。
2. 音源の意味性が消える
dBには「何の音か」という情報がない。自然音80dB(滝の音)と人工音80dB(トラック)では、ストレス反応が全く異なることは多くの研究で示されている。しかし規制値は音源を区別しない。
3. 個人差の無視
同じ60dBでも、感覚過敏者にとっては「逃げたくなる音」であり、一般市民にとっては「気にならない音」かもしれない。現行指標は「平均的な人」を想定しており、感覚特性による差異を扱えない。
仮説
同一dBレベルの騒音であっても、音の種類(改造バイク・拡声器・工事音等)と発生文脈(時間帯・予期の有無・本人の状態)によってストレス反応は大きく異なる。現行のdB平均指標は感覚ストレスの代理指標として不十分である。
新しい指標の構想: dBストレス乖離指標
実測dBと主観ストレスの差分をモデル化する「dBストレス乖離指標」を開発したい。
- 実測dB = 60だが、主観ストレス = 90相当 → 乖離スコア +30(文脈ストレスが高い)
- 実測dB = 70だが、主観ストレス = 40相当 → 乖離スコア -30(慣れた音・予期された音)
この乖離スコアが高い音源・場所・時間帯を特定することで、dB規制では捉えられない「本当に困っている場面」を可視化できる。
技術的アプローチ: TinyMLによる音源自動分類
音源の「種類」を識別するために、TinyML技術(Raspberry Pi + YAMNet)による音源分類の自動化を検討している。これにより「この時間帯のこの場所では、改造バイク音が主観ストレスの主因である」といった分析が可能になる。
一般市民を対象とした文脈依存騒音研究は存在するが、感覚過敏者に特化した研究は空白だ。ここに静かなまちプロジェクトの独自性がある。