一般社団法人社会構想デザイン機構

出生率ランキング最高は徳之島2.25、最低は東山区0.76 — 1,741市区町村を可視化する

ヨコタナオヤ
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全国1,741市区町村の合計特殊出生率(2018-2022年平均)を可視化すると、最高値の徳之島町2.25と最低値の東山区0.76の間には3倍近い格差が存在する。「西高東低」の地理的パターンの背景にある社会構造を分析する。

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ざっくり言うと

  1. 市区町村別TFRの最高値は徳之島町2.25、最低値は京都市東山区0.76で約3倍の格差がある
  2. 上位17位までを鹿児島県(奄美・薩南諸島)と沖縄県が占め、「西高東低」パターンが鮮明
  3. 出生率の地域格差は単純な「都市か地方か」でなく、若年女性の流出・定着構造が規定している

何が起きているのか

市区町村レベルで見ると出生率は3倍超の格差があり、上位は南西諸島・沖縄、下位は都市部の「区」が集中している

全国の合計特殊出生率(TFR)は2018年から2022年の5年間平均で約1.26だが(厚生労働省)、市区町村レベルに分解すると、この「平均」の背後に3倍近い格差が潜んでいることがわかる。

最高値は鹿児島県の徳之島町で2.25、最低値は京都市東山区で0.76だ。同じ「日本」の中に、代替水準(TFR=2.07)を上回る自治体と、0.76という世界的にも稀な水準の自治体が共存している。

上位5(高TFR)徳之島町(鹿)2.25天城町(鹿)2.24宜野座村(沖)2.20長島町(鹿)2.11金武町(沖)2.11全国平均 1.26下位5(低TFR)東山区(京)0.76浪速区(大)0.80上京区(京)0.80下京区(京)0.82毛呂山町(埼)0.83
合計特殊出生率 上位5・下位5市区町村(2018-2022年平均)出典: 厚生労働省

上位5自治体はいずれも鹿児島県の離島または沖縄県であり、上位17位までを鹿児島(奄美・薩南諸島)と沖縄が独占する。一方、下位には京都市の各区(東山区0.76、上京区0.80、下京区0.82)や大阪市浪速区(0.80)など、歴史的な都市部が集中している。

2022年の単年データでは東京都の合計特殊出生率は0.99と初めて1.0を割り込んだ。沖縄県の同年の値1.60との差は0.61ポイントにのぼる。

背景と文脈

西高東低の構造は若年女性の流出パターンと文化的差異が組み合わさって形成されている

西高東低の地理的構造

市区町村別の出生率データを地図に落とすと、「西高東低」のパターンが鮮明に浮かび上がる。九州・沖縄・南西諸島が高値を形成し、北海道・東北・関東(特に都市部)が低値を形成する。

沖縄・南西諸島最高水準(1.6〜2.25)九州・四国農村部高め(1.5〜1.8)全国平均1.26東北・北海道農村やや低め(0.9〜1.2)大都市圏・区部最低水準(0.76〜1.0)
合計特殊出生率の地域パターン「西高東低」構造

この構造は偶然ではない。沖縄・南西諸島で出生率が高い背景には、複数の社会文化的要因が重なっている。

20〜29歳女性の有配偶率が全国平均を上回り、若年結婚が有配偶出生率を押し上げている。婚外子の割合も沖縄は約4%と全国平均(約2%)の2倍で、家族形成に対する規範が相対的に柔軟だ(琉球新報)。

さらに、シーミー(清明祭)・ウークイ(旧盆)といった親族結集の機会の多さ、三世代同居・近居の文化、地域コミュニティの子育てサポート機能が重なることで、子育てのコストを社会的に分散する構造が形成されている。

東北・北海道の「地方なのに低い」問題

出生率が低いのは都市部だけではない。東北・北海道の農村部でも、「地方なのに出生率が低い」という逆説的な状況が生じている。

要因の核心は若年女性の人口流出だ。高校・大学進学の段階で若年女性が都市へ転出し、地元に戻らない構造が定着している。出生率は「結婚している女性がどれだけ子どもを産むか」だけでなく、「そもそも当該地域に15〜49歳の女性が何人いるか」に規定される。若年女性が流出した地域では、仮に残っている女性の出生率が高くても、分母が小さすぎてTFR全体を押し上げられない。

都市部の「区」が最低値を形成するメカニズム

東山区(0.76)・浪速区(0.80)・上京区(0.80)など歴史的な都市の「区」が最低水準に集中する理由は複合的だ。

第一に未婚率の高さ。国立社会保障・人口問題研究所のデータでは、大都市圏の若い女性の未婚率は全国平均を大きく上回る。第二に住居費と教育費の高さ。東京・大阪・京都の中心区では、子どもを育てるコストが所得水準に対して過大になりやすい。第三にライフコース多様化の影響。高学歴女性の多い都市部では、キャリア形成と出産のトレードオフが大きく、出産年齢の高齢化・非婚化が進みやすい。

構造を読む

都市が若者を吸い込みながら出産を抑制する「ブラックホール」構造が少子化を加速させている

市区町村別データが示す最も重要な構造的示唆は、「都市が若者を吸い込みながら出産を抑制する」メカニズムの存在だ。

人口戦略会議が2024年に公表したレポートでは、若年女性流入数は多いが域内の出生率が低い「ブラックホール型自治体」として25市区を特定している。そのうち21市区が関東地域に集中し、東京都特別区の多くが含まれる。人口を吸引しながら、その人口から子どもが生まれにくい環境を維持し続けているわけだ。

この構造の持続は全国的な少子化を加速させる。地方から若年女性が流出し、流入先の都市部でも出産が抑制されれば、どちらの地域においても出生数が減る。都市集中と少子化は、切り離せない構造的ループとして機能している。

市区町村別の出生率格差は、単なる地域統計の多様性ではない。若者が生きる場所・産む場所を選択する社会構造の反映であり、その選択を規定しているのは、雇用・住居・子育て支援・文化的規範の地域差だ。出生率を「上げる」ための処方箋を考えるとき、全国一律の政策より、地域ごとの構造診断が求められる所以がそこにある。


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参考文献

平成30年〜令和4年 人口動態保健所・市区町村別統計厚生労働省. 厚生労働省

令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況厚生労働省. 厚生労働省

2018-22年の市区町村別合計特殊出生率 最高は徳之島町(2.25)GemMed編集部. GemMed

沖縄県の合計出生率はなぜ本土よりも高いのか石井まこと 他. 地理学評論 93(2)

出生率の「西高東低」くっきりnippon.com編集部. nippon.com

参考書籍

読んだ後に考えてみよう

  1. 自分が住む地域の合計特殊出生率はどの水準にあり、その背景にはどのような社会構造があると考えるか。
  2. 出生率が高い南西諸島の社会文化的条件のうち、政策的に模倣・応用できるものはあるだろうか。
  3. 都市への人口集中と出生率の関係を踏まえると、少子化対策として有効な地域政策とはどのようなものか。
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