ざっくり言うと
- 2026年4月に施行された防衛特別法人税は基準法人税額の4%を付加し、平年度で約7,710億円の税収を見込む
- 法人税の負担は価格転嫁と取引先への圧力を通じて消費者に波及し、「企業課税=国民負担なし」は成立しない
- 所得税付加税は復興特別所得税の終了時期を10年延長する構造であり、実質的な「隠れ増税」として機能する
何が起きているのか
2026年4月に防衛特別法人税が施行され、43兆円計画の財源確保が本格化した
2026年4月1日、防衛特別法人税が施行された。正式名称は「防衛特別法人税」。法人税の確定申告と同時に、基準法人税額から500万円を控除した額に対して4%を付加する仕組みである。
計算式は単純だ。
防衛特別法人税 = (基準法人税額 − 500万円) × 4%
基準法人税額とは、外国税額控除や所得税額控除等を差し引く前の法人税額を指す。500万円の基礎控除は中小企業への配慮として設けられた。法人税額が500万円以下であればゼロ申告で済む。たとえば基準法人税額が600万円の企業であれば、追加負担は(600万 − 500万)× 4% = 4万円にとどまる。
この税が導入された背景には、2022年12月に閣議決定された防衛力整備計画がある。2023年度から2027年度の5年間で総額43.5兆円の防衛費を確保するという計画である。2025年度の防衛関係費は8兆7,005億円に達し、GDP比約1.8%。2022年度の5兆4,000億円から毎年1兆円規模で膨張している。
その財源は「3本柱」で構成される。
防衛増税の財源3本柱
目標: 2027年度時点で1兆円強の確保
基準法人税額 × 4%(500万円控除後)
所得税額 × 1%(復興税1%削減で当面ゼロ増)
加熱式たばこの税率を段階的に引き上げ
※所得税付加税は復興特別所得税の1%削減と相殺され、単年度の手取り減はゼロ。ただし復興税の終了時期が2037年末→2047年末に10年延長される
第1柱が本稿の主題である防衛特別法人税。国税庁の試算では、初年度(令和8年度)に約5,280億円、令和9年度に約8,210億円、平年度には約7,710億円の税収増を見込んでいる。
第2柱は防衛特別所得税。2027年1月から所得税額の1%を付加する。ただし復興特別所得税率を2.1%から1.1%に引き下げることで、単年度の手取り減はゼロとされる。この構造の意味は後述する。
第3柱はたばこ税の増税。2026年4月から段階的に加熱式たばこの税率を引き上げ、2027年度の第2段階でさらに税率を上乗せする。
ベンチャーインク会計事務所の試算によれば、法定実効税率は東京都23区内の外形標準課税対象法人で30.62%から31.52%へ、約0.9ポイント上昇する。数字だけ見れば「わずかな上昇」だが、企業会計の世界では利益率の0.9%は軽くない。
背景と文脈
所得税先送りの政治的背景、NATO GDP比2%の国際文脈、財源調達方法の各国比較
なぜ法人税が先行したのか
3本柱の順序には政治的な理由がある。
NRI(野村総合研究所)の木内登英氏の分析によれば、岸田政権時代から所得税増税に対しては自民党内から「強い反発」が噴出していた。「広く国民の負担となることを避けたい」という政治的配慮が、所得税の先送りと法人税の先行を決定づけた。法人税であれば「企業への課税」として説明でき、有権者の直接的な反発を回避しやすい。
この「迷走」は数年に及んだ。2024年12月の自公決定では所得税増税の開始時期が明示されず、最終的に2025年12月の税制大綱で2027年1月開始が確定した。防衛費の規模が「先に決まり」、財源が後付けで迷走した経緯は、財政民主主義の観点から批判を受けている。
GDP比2%の国際文脈
防衛費増額の根拠として頻繁に引用されるのが、NATOのGDP比2%目標である。
NATOによれば、2025年には全32加盟国がGDP比2%目標を達成した。2014年時点では3カ国のみだったことを考えれば、ロシアのウクライナ侵攻がもたらした安全保障環境の激変がいかに大きかったかがわかる。欧州・カナダの平均防衛費はGDP比2.3%に達している。
SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の2026年報告では、2025年の日本の軍事費は620億ドルで前年比9.7%増、GDP比1.4%と報告されている。1958年以来の最高水準である。
ただし、財源調達の方法は各国で異なる。ドイツは憲法改正により連邦債務ブレーキの例外を適用し、1,000億ユーロのBundeswehr特別基金を設立した。増税ではなく国債による調達を選択したのである。日本が増税路線を採ったことは、一つの選択であって必然ではない。
「図書館を閉じてシェルターを掘る国」の続き
前編「図書館を閉じてシェルターを掘る国」では、防衛費拡大と文化予算削減の非対称性を論じた。今回はその「財源側」の物語である。
2025年度 一般会計の主要歳出比較
一般会計総額: 115.5兆円
新規防衛財源: 防衛特別法人税(平年度 約7,710億円)
← 法定実効税率 30.62% → 31.52%(約0.9%増)
2025年度の一般会計で、防衛費8.7兆円は文教関係費4.1兆円の2.1倍、文化庁予算1,062億円の約82倍である。社会保障費38兆2,778億円は毎年「自然増」を約1,300億円ずつ圧縮されている。防衛費のために新たな増税を課しながら、社会保障は削減するという構造がここにある。
構造を読む
法人税から消費者への波及経路と、復興税延長という隠れ増税、財政民主主義の問い
法人税は「企業の税」で終わるのか
防衛特別法人税は「担税力のある大企業への課税」として説明される。しかし、法人税の最終的な負担者は企業自身とは限らない。
廣瀬総合経営会計事務所の分析が指摘するように、法人税の負担増は以下の経路で消費者に波及しうる。
第一の経路は価格転嫁である。 一般に法人税は販売価格に転嫁しにくいとされるが、実際には業種の競争構造に依存する。価格規制のある業種(鉄道・電力・通信)では転嫁が困難であるため、利益減少がサービス投資の縮小につながる。規制のない業種では、利益確保のために商品・サービスの値上げという形で消費者に転嫁される可能性がある。
第二の経路は、大企業から中小企業への圧力である。 防衛特別法人税の基礎控除500万円は、課税所得に換算すると約2,400万円以下の中小企業を直接的な課税対象外としている。しかし取引先の大企業が税負担増に直面すれば、仕入れ価格の引き上げや単価の引き下げという形で圧力が中小企業に伝播する。特に下請け構造の強い製造業、食品産業、建設業でこの連鎖が生じやすい。
つまり「法人税 = 企業が払う = 国民は払わない」という等式は、サプライチェーンの現実においては成立しない。企業が吸収した税負担は、最終的に消費者価格か、あるいは従業員の賃金抑制として、誰かの生活に到達する。
復興税延長という「隠れ増税」
第2柱の所得税付加税には、巧妙な設計が施されている。
表向きは「復興特別所得税を2.1%から1.1%に引き下げ、防衛特別所得税1%を新設する」ことで、合計税率は変わらず、単年度の手取り減はゼロとされる。だがその代償として、復興特別所得税の終了時期が2037年末から2047年末へと10年延長される。
この構造が意味するのは明白である。2038年以降、本来であれば消滅するはずだった復興税が10年間継続する。その「延長分」が実質的な防衛費の財源となる。「復興財源の軍拡への事実上の流用」と批判される所以である。
2011年の東日本大震災を受けて設けられた復興特別所得税を、15年後に防衛費の財源として転用する。この構造的な問題は、単年度の数字だけでは見えない。「今年の手取りは減らない」という説明は技術的に正しいが、10年分の追加負担という全体像を覆い隠している。
財政民主主義の問い
NRIの木内氏が指摘するように、本質的な問題は防衛費の規模が「先に決まった」ことにある。43兆円という数字が閣議決定され、その後に財源が模索された。増税か国債かという選択も、法人税か所得税かという順序も、すべて「43兆円ありき」の後付けである。
東京法律事務所は、防衛費増額が社会保障費の自然増圧縮と同時進行している点を指摘する。ミサイルへの備えと、貧困・高齢化・教育への投資。どちらも「市民を守る」ための支出だが、その優先順位を誰がどのように決めたのか。
防衛特別法人税は年間7,710億円の税収を生む。その負担は法人から消費者へ、大企業から中小企業へ、そして現世代から将来世代へと、目に見えにくい経路を通じて伝播していく。「誰が決め、誰が払うか」。この問いに正面から答える仕組みが、現在の制度設計に組み込まれているとは言いがたい。
関連コラム
関連ガイド
参考文献
防衛特別法人税に関するパンフレット — 国税庁. 国税庁
令和7年度防衛関係予算のポイント — 防衛省. 防衛省
防衛特別法人税とは? — freee. freee
増税への強い反対で迷走する防衛費増額の財源議論 — 木内登英. NRI
Defence Expenditure of NATO Countries (2014-2025) — NATO. NATO
SIPRI Fact Sheet: Trends in World Military Expenditure, 2025 — SIPRI. SIPRI
防衛費倍増は何が問題なのか? 財政民主主義から考える3つの懸念点 — imidas. imidas

