防衛費は増え、文化庁予算は横ばいの国 — シェルター整備と図書館・博物館
防衛費8.7兆円、文化庁予算1,063億円。防衛費が文教関係費の2.1倍に達した2025年度、日本はシェルター整備基本方針を閣議決定した。台湾は人口の3倍超、スイスはほぼ全人口分を収容できる一方、日本の地下施設は約4,000カ所にとどまる。ミサイルからは守るが、貧困・情報格差・孤立からの防衛には予算が増えない構造を、国際比較と予算データから読み解く。
ざっくり言うと
- 2025年度、日本の防衛費は8.7兆円で文教関係費の2.1倍に達し、文化庁予算は防衛費の約80分の1にとどまる
- 日本の指定済み避難施設は約6万1,000カ所あるが地下施設は約4,000カ所で、台湾・スイスとの差が際立つ
- 英米では緊縮財政による図書館・博物館の削減が最貧困層に集中的打撃を与えており、日本では文化庁予算が横ばいのまま防衛費が増えている
何が起きているのか
防衛費8.7兆円に対し文化庁予算1,063億円。地下の避難施設は約4,000カ所で、台湾の10万カ所に及ばない
2025年度、日本の防衛関係費は8兆7,005億円に達した。前年より約7,500億円増え、2022年度の5兆4,000億円からは3年間で約3兆3,000億円増えた。
同じ2025年度、文教及び科学振興費は5兆5,496億円で、うち科学技術振興費が1兆4,221億円を占める。科学技術分を差し引いた文教関係費は4兆1,275億円で、 防衛費はその2.1倍 になった。文化庁の予算に至っては1,063億円にとどまる。防衛費の約80分の1。この比率を視覚化すると、規模の非対称性が際立つ。
× 2.1防衛費は文教費の約2.1倍、文化庁予算の約82倍
※ 防衛費は防衛省公表、文教費は財務省「一般会計予算」、文化庁予算は文化庁「予算概要」に基づく
シェルター整備の基本方針
そして2026年3月31日、政府はミサイル攻撃に備えた「シェルター」確保に向けた基本方針を閣議決定した。2030年までに市区町村単位で全住民を収容できる施設数の確保を目指すという。しかし指定済みの緊急一時避難施設は全国で約6万1,000カ所あるうち、公共施設が約5万4,000カ所を占め、ミサイル攻撃に対して実効性のある地下施設は約4,000カ所にとどまる。
台湾はシェルター10万カ所を整備し、人口の3倍超を収容できる体制を構築している。スイスは冷戦期に構築した37万カ所のシェルターを持ち、ほぼ全人口分の収容場所が確保されている。フィンランドは約5万500カ所で480万人分を収容でき、その約85%は建物ごとに設けられた民間の鉄筋コンクリート製シェルターである。
※ 日本の5%は地下施設(ミサイル攻撃に有効な施設)のみの人口カバー率。全指定施設を含めると約6万1,000カ所だが多くは地上構造物
ミサイルから市民を守るインフラに投資する。それ自体は安全保障上の合理性を持つ。問題は、同じ財政から支出される文化的インフラの予算が、防衛費のようには増えていないことにある。文化庁の当初予算は、2024年度の1,062億円、2025年度の1,063億円、2026年度の1,073億円とほぼ横ばいで推移している。防衛関係費が約7,500億円増えた2025年度に、文化庁の当初予算の増加は1億円だった。
背景と文脈
英米での緊縮財政による文化施設削減の実態と、各国シェルター整備の構造的背景
日本の文化的インフラの現状
文部科学省が定めた第6期中期目標(2026〜2030年度)は、国立博物館・国立美術館の展示事業について、費用のうち自己収入で賄う割合を最終年度に65%以上とするよう求め、その次の期間(2031年度から)には100%にすることを目指すとした。各館の割合が4年目(2029年度)に4割を下回っている等、社会的に求められている役割を十分に果たせていないと考えられる館は、再編の対象になる。文化庁は、再編は閉館を想定しておらず、4割未満になることだけですぐに再編の対象にするものではないと説明している。
全国の公共図書館は2025年の集計で3,318館あり、2024年の3,319館とほぼ変わらない。資料費の予算は、2025年度が292億3,729万円で、2024年度の286億4,629万円から増えた。2022年度時点で674館が指定管理者制度を導入しており、コスト削減を優先する運営が専門知識の蓄積と継続性を毀損しているとの指摘が絶えない。
英国の先行事例
英国は、文化施設削減の帰結を先行的に経験した国である。
2010年以降の緊縮財政によって、公共図書館への支出は、インフレを考慮するかどうかで支出全体の4分の1から8分の3にあたる額が削減された。年間の支出は2010年より2億3,250万ポンド少なく、インフレを考えると3億2,900万ポンド少ない。2016年以降、イングランドでは約125館が物理的に閉鎖され、約100館が地域団体に移管された。新規設置75館を差し引いても 実質150館の純減 という結果が残されている。
図書館を失う可能性は最も貧しい地域で4倍
注目すべきは、その分布の偏りである。最も貧しい層の地域は、2016年以降に公費で運営される図書館を失う可能性が4倍高かった。図書館の消失は、最も情報へのアクセスを必要とする層に集中的な打撃を与えた。
博物館・文化施設への影響も深刻だ。地方自治体の文化・レジャー支出(イングランド)は2010年度以降で23億ポンド削減された。教育・公衆衛生・警察・消防を除く自治体のサービス支出に占める文化・レジャーの割合も、2010年度の7.4%から2023年度(推計)の4.5%へ下がった。
米国IMLS廃止の衝撃
米国では2025年、トランプ政権が大統領令14238号によりIMLS(博物館・図書館サービス機構)の「最大限廃止」を指示した。職員約75人のほぼ全員が行政休職処分となり、カリフォルニア・コネティカット・ワシントン各州の図書館に対して既に約束されていた連邦補助が早期終了を通告された。
IMLSの予算は2024会計年度で2億9,480万ドルである。ALA(米国図書館協会)の部会である公共図書館協会など3団体の連名の声明は、連邦の資金がなければ図書館の職業訓練などが危うくなると述べ、IMLSの資金で地方の図書館の回線速度を上げた例を挙げている。その廃止は、すでに情報アクセスの格差が深刻な地域に、さらなる断絶をもたらすものである。
21州の司法長官が提訴し、2025年11月にロードアイランド連邦地裁がトランプ政権の措置を違法と判断して恒久的に差し止めた。2026年4月に政権が控訴を取り下げたことで事態は収束に向かったが、この間にニューヨーク市立図書館3館(NYPL・ブルックリン・クイーンズ)は5,830万ドルの運営費削減と1億2,500万ドルの資本計画削減を提案されている。2008年の金融危機後以来で最も大きい削減案だった。
図書館が果たしている「見えない防衛」
図書館は本の貸し出し施設ではない。文部科学省が公表した報告書は、題名で図書館を「地域の情報ハブ」と呼び、本文に「地域の情報拠点としての公共図書館」という節を置いている。子どもから高齢者まで全住民を対象とする社会インフラである。
米国サンディエゴ中央図書館の研究(2022年、n=63)では、住まいを失ったり不安定だったりする利用者49人の69%、職員14人の93%が、住まいや治療につなぐソーシャルワーカーを図書館に置くことを望んでいた。同じ論文は、先に臨床ソーシャルワーカーを採用したサンフランシスコ公共図書館で、6年間に150人以上が恒久的な住居を得て、800人がその他の支援を受けたことも紹介している。IMLSが公表した調査を紹介するNEA(米国芸術基金)のブログによると、図書館の存在と利用は、地域の健康指標・学校効果と正の相関を示している。農村部では、健康指標との関係が特に強い。一方で、博物館については、どちらとも有意な関係を検出できなかった。
これらは「貧困からの防衛」「情報格差からの防衛」「社会的孤立からの防衛」にほかならない。だが予算配分の優先順位において、こうした「見えない防衛」は、ミサイルや軍事的脅威からの防衛とは比較にならないほど軽く扱われている。
構造を読む
「何から市民を守るか」という問いの非対称性と、公共文化施設のデュアルユースの逆説
冒頭の数字を改めて並べる。防衛費8兆7,005億円。文教関係費4兆1,275億円。文化庁予算1,063億円。台湾は人口の3倍超を収容できるのに対し、日本の地下施設は約4,000カ所。この4つの数字が描き出すのは、「何から市民を守るか」という問いに対する、現在の日本の回答である。
防衛の偏り、デュアルユースの逆説、削減の不可逆性
第一の論点は、予算の非対称性がもたらす「防衛の偏り」 にある。防衛費の増額は、安全保障環境の変化を根拠としている。中国の軍事力拡大、北朝鮮の弾道ミサイル発射、ロシアのウクライナ侵攻。これらの地政学的リスクに対応するため、防衛力の強化は政策的合理性を持つ。しかし同時に、その財源確保のプロセスにおいて文化的インフラが犠牲になるとすれば、それは「安全」の定義自体が狭すぎることを意味する。ミサイルから身体を守ることは安全だが、知識・情報・文化へのアクセスを失うことは安全ではないのか。
第二の論点は、シェルターと文化施設の「デュアルユース」の逆説 である。日本型シェルターは、有事と大規模災害を兼用できる既存地下施設(地下街・地下駐車場など)を活用する設計思想を持つ。すなわち、平時には公共空間として機能し、有事にはシェルターとなる。この「デュアルユース」の発想を延長すれば、図書館や博物館こそが平時の「市民を守るインフラ」であるという認識に至る。サンディエゴの調査では、住まいを失ったり不安定だったりする利用者と、職員の多くが、住まいや治療につなぐ支援を図書館に置くことを望んでいた。図書館は、軍事的なシェルターとは異なる種類の「シェルター」であり、平時における社会的防衛の核である。
第三の論点は、削減の不可逆性 である。英国の経験が教えるのは、一度閉鎖された図書館は容易には再開しないという事実だ。建物は転用され、蔵書は散逸し、専門職は他の職種に移る。イングランドでは2016年以降、公費で運営する図書館が差し引き約150館減った(うち約100館は地域団体に移って続いている)。この分を公費の図書館として取り戻すには何十年を要するか、あるいは二度と取り戻せないのか。博物館の学芸員が蓄積してきた調査研究能力、作品の保存修復技術、地域文化の記録は、いずれも「見えない資産」であり、一度失われれば復元できない。シェルターは予算があれば掘ることができる。だが文化的蓄積は、時間と人の営みの中でしか形成されない。
北欧という参照点
北欧が示す一つの参照点がある。フィンランドの住民1人当たり図書館支出は60.1ユーロで、ドイツの約6倍だ。同時にフィンランドは、約5万500カ所、480万人分の市民防衛シェルターを維持している。文化的インフラと軍事的インフラを二項対立として扱わず、双方に投資する国も存在するということだ。
「何から市民を守るか」。この問いに対する回答は、予算配分という数字の中に、すでに書かれている。
関連コラム
- 「美術館は公費で賄え」 — 文化庁予算GDP比0.02%の国で問われていること(このサイトの記事)
- 日本の福祉捕捉率 — 届かないセーフティネット(このサイトの記事)
- 気候変動と社会的不平等の交差点(このサイトの記事)
この記事で使った統計の出典
- 1防衛省 令和7年度防衛関係予算のポイント(2025年度) 出典を開く
- 2防衛省 令和4年度予算の概要(2022年度) 出典を開く
- 3財務省 令和7年度予算政府案(2025年度) 出典を開く
- 4文化庁 令和8年度予算の概要(令和7年度当初予算額を併記)(2025年度) 出典を開く
- 5時事通信(2026年3月) 出典を開く
- 6日本経済新聞(2022年) 出典を開く
- 7スイス連邦国民保護局(2025年) 出典を開く
- 8フィンランド内務省(2024年) 出典を開く
- 9文化庁 令和7年度予算の概要(2024・2025年度) 出典を開く
- 10文化庁 令和8年度予算の概要(2026年度) 出典を開く
- 11文部科学省「独立行政法人国立美術館が達成すべき業務運営に関する目標(中期目標)」(2026年2月) 出典を開く
- 12日本図書館協会 日本の図書館 公共図書館経年変化(2025年) 出典を開く
- 13日本図書館協会 日本の図書館 公共図書館経年変化(2025年度) 出典を開く
- 14日本図書館協会(2022年) 出典を開く
- 15Public Libraries News(2024年) 出典を開く
- 16BBC Data Unit「Public libraries in 'crisis' as councils cut services」(2024年9月) 出典を開く
- 17Museums Association(2024年) 出典を開く
- 18Local Government Association「Under Pressure: council spending on culture and leisure」(2024年) 出典を開く
- 19Library Journal infoDOCKET(IMLS職員の休職を伝える報道の紹介)(2025年3月) 出典を開く
- 20Institute of Museum and Library Services「FY 2023 – FY 2025 Budget Appropriations Table」(2024年) 出典を開く
- 21American Library Association(2026年4月7日の発表)(2026年) 出典を開く
- 22The New York Public Library(2024年) 出典を開く
- 23Urada, Nicholls & Faille, International Journal of Environmental Research and Public Health 19(14)(2022年) 出典を開く
- 24NAPLE Forum(2024年) 出典を開く
参考文献
令和7年度防衛関係予算のポイント — 防衛省 (2025). 防衛省
令和8年度 文化庁予算の概要 — 文化庁 (2026). 文化庁
市町村単位で全住民収容 シェルター方針を閣議決定 — 時事通信 (2026). 時事ドットコム
Federal Council wants to modernize ageing shelters due to wars — swissinfo.ch (2024). swissinfo.ch
IMLS Cuts Put America's Public Libraries at Risk — Association for Rural & Small Libraries, Public Library Association, Urban Libraries Council (2025). ALA
£232 million cut to UK public libraries since 2010 — Public Libraries News (2024). Public Libraries News
Homelessness at the San Diego Central Library: Assessing the Potential Role of Social Workers — Lianne A. Urada, Melanie J. Nicholls, Stephen R. Faille (2022). PMC
参考書籍
読んだ後に考えてみよう
- 自分が住む地域の公共図書館は、5年前と比べてサービスが維持されているだろうか。
- 「市民の安全を守る」とは、軍事的脅威からの防衛だけを意味するのだろうか。
- 文化施設への公的支出を「コスト」と見なす思想は、何を見えなくしているか。
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