一般社団法人社会構想デザイン機構

障害者雇用率制度の構造と限界 — 法定2.5%の内側で何が起きているか

ヨコタナオヤ
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法定雇用率2.5%は達成されているのか。2018年の中央省庁水増し問題、特例子会社への分離集約、精神障害者の就労定着率49.3%。数字の背後にある構造を読み解く。障害者雇用率制度が「量」を追求する設計であるがゆえに見落とす「質」の問題を、データとともに検証する。

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ざっくり言うと

  1. 障害者雇用数は20年連続過去最高だが、法定雇用率達成企業は50.1%にとどまり半数が未達成
  2. 2018年の中央省庁水増し問題は「率」という単一指標に依存する制度設計の脆弱性を暴いた
  3. 精神障害者の就労定着率49.3%が示すように、「量」の追求が「質」の改善を伴っていない

何が起きているのか

雇用数は増加しているが、半数の企業が法定雇用率未達成

2023年6月時点の民間企業における障害者雇用数は64万2,178人。20年連続で過去最高を更新した。実雇用率は2.33%で、法定雇用率2.3%を初めて上回った年でもある。

数字だけを見れば、制度は機能しているように見える。

障害種別雇用者数
身体障害者360.2千人

最大の雇用区分だが減少傾向

知的障害者151.7千人

年平均+5%の安定増

精神障害者130.3千人

10年で約6倍に急増、定着率が課題

法定雇用率の推移
2013年2.0%
2018年2.2%
2024年4月2.5%
2026年7月2.7%(予定)

精神障害者の雇用は急増しているが、1年後の職場定着率は49.3%にとどまる。身体障害者の60.8%、知的障害者の68.0%と比較して最も低い。数字の増加が「質を伴う雇用」を意味するとは限らない。

障害種別 民間企業雇用者数と法定雇用率の推移 — 厚生労働省「障害者雇用状況の集計結果」

だが、この「過去最高」の内実を分解すると、異なる風景が浮かぶ。身体障害者の雇用は36万人でほぼ横ばいで、高齢化による退職が新規雇用を相殺している。知的障害者は15万人台で安定的に増加。そして精神障害者は13万人と、10年前の約6倍に達した。

2024年4月、法定雇用率はさらに2.5%へ引き上げられた。2026年7月には2.7%が予定されている。引き上げのたびに企業は「数合わせ」に追われ、達成率は低下するという循環が繰り返されてきた。2023年時点で法定雇用率を達成している企業は全体の50.1%。半数の企業が未達成のまま、納付金を支払って義務を「代替」している。

背景と文脈

2018年の水増し問題が制度の構造的課題を露呈

水増し問題が暴いた制度の脆弱性

2018年8月、中央省庁における障害者雇用の水増しが発覚した。国の行政機関33機関中27機関で、約3,700人分の不正計上が行われていた。障害者手帳を持たない職員を障害者としてカウントする、退職者を引き続き計上するといった手口で、制度を監督する側が制度を形骸化させていた事実は衝撃的だった。

問題の根は「率」という単一指標に制度全体が依存していた点にある。法定雇用率制度は1960年の身体障害者雇用促進法に端を発し、60年以上にわたって「何人雇用しているか」を基軸に運用されてきた。雇用の質(職種の適切さ、職場環境の整備、キャリア形成の機会)は制度の評価軸に組み込まれていない。

水増し発覚後、政府は約4,000人の障害者を緊急採用した。しかしその多くは非常勤の事務補助職であり、「数字の修復」と「質の向上」が同義ではないことを改めて示す結果となった。

特例子会社という「分離」の装置

法定雇用率 2.5%
実雇用率 2.33%(2023年)
達成企業 50.1%
未達成企業 49.9%
構造的課題
  • 中央省庁の水増し問題(2018年):3,700人分を不正計上
  • 特例子会社への集約——本体からの「分離」が進む
  • 精神障害者の短時間雇用(週20h未満)を0.5人カウント
  • 納付金(月5万円/人)が「免罪符」として機能
達成率の推移
法定雇用率が引き上げられるたびに達成率は低下する。2018年の水増し発覚後、数字上の「改善」が進んだが、質的な雇用環境の変化は別の問題である。
障害者雇用率制度の構造 — 法定義務と実態のギャップ

特例子会社制度は、障害者の雇用を親会社のグループ全体の雇用率に算入できる仕組みである。2023年6月時点で598社が認定されており、約4万6,000人が就業している。制度の趣旨は「障害特性に配慮した職場環境の整備」。だが実態として、この制度は本社の一般職場から障害者を「分離」し、清掃・印刷・データ入力などの定型業務に集約する構造を生み出してきた。

企業にとっては合理的な選択である。本社の業務フローを変えることなく、法定雇用率を達成できる。しかし、国連障害者権利条約が求めるインクルーシブ雇用、つまり障害のない労働者と同じ職場で同じ労働条件で働く権利とは、明確に異なる方向性だ。

日本は2014年に同条約を批准している。にもかかわらず、制度設計の根幹が「分離型」に傾斜し続けている矛盾を、どう捉えるべきか。

精神障害者の「定着」という壁

2018年に精神障害者の雇用が法定雇用率の算定基礎に加えられたことで、数字上の雇用は急増した。しかし、就職後1年時点の職場定着率は49.3%で、身体障害者の60.8%、知的障害者の68.0%を大きく下回る。2人に1人が1年以内に離職している計算だ。

離職理由の上位は「職場の雰囲気・人間関係」「疲れやすく体力が続かない」「症状の悪化」。いずれも職場側の環境整備と合理的配慮の不足を示唆する内容である。精神障害は症状の波があり、週5日フルタイムという「標準的な働き方」に適合しにくい。にもかかわらず、短時間勤務(週20時間未満)は0.5人分のカウントにとどまるため、企業は可能な限りフルタイムに近い雇用を求める傾向が生じる。

制度が「フルタイム=1人」「短時間=0.5人」というカウント方式を採用する限り、柔軟な働き方は構造的に抑制される。これは精神障害者だけでなく、難病や発達障害など、多様な障害特性に対応するうえでの根本的な制約となっている。

納付金は「免罪符」か「調整弁」か

法定雇用率を達成していない企業(常用労働者100人超)は、不足1人につき月額5万円の障害者雇用納付金を支払う。一方、達成企業には1人あたり月額2万7,000円の調整金が支給される。

この納付金制度は、雇用率を達成できない企業と達成企業との間の経済的不均衡を調整する仕組みとして設計された。しかし、大企業にとって月5万円×不足人数は決して大きなコストではない。結果として、「納付金を払って雇用しない」という選択が経済合理的に成立してしまう。罰則的な機能が弱い点が、制度の構造的な限界の一つである。

構造を読む

量的指標重視の制度設計が抱える本質的限界

障害者雇用率制度が抱える問題は、個別企業の怠慢ではなく、制度そのものの設計思想に根ざしている。

第一の構造:「量」の追求が「質」を圧迫する逆説。法定雇用率の段階的引き上げは、障害者雇用を「増やす」圧力にはなるが、「良くする」圧力にはならない。達成率と定着率が逆相関する現象は、この構造の帰結だ。

第二の構造:「分離」と「統合」の未解決な緊張。特例子会社制度は雇用数を増やす効率的な手段だが、障害者権利条約が目指すインクルーシブ雇用とは構造的に相容れない。日本が批准した条約の理念と、国内制度の実態との乖離は年を追うごとに拡大しつつある。

第三の構造:「カウント方式」が働き方を規定する。0.5人カウントの短時間雇用制度は、柔軟な就労を可能にする一方で、フルタイムに近い雇用を誘導する設計になっている。障害特性に応じた多様な働き方を制度が許容できるかどうか、これが定着率改善の鍵を握る。

2024年4月の制度改正では、週10〜20時間の超短時間雇用を0.5人として算定する「特定短時間労働者」の枠組みが導入された。方向性は正しい。しかし、「カウント」を軸にした制度設計を維持する限り、企業の行動原理は「何人雇ったか」に収斂し続ける。障害者雇用の質を問う指標(定着率、賃金水準、職務内容の適切さ、キャリア形成の有無)を制度に組み込まなければ、この構造は変わらない。


参考文献

令和5年 障害者雇用状況の集計結果厚生労働省. 厚生労働省

障害者の就業状況等に関する調査研究障害者職業総合センター. JEED

障害者雇用における合理的配慮の実態 — 精神障害者を中心に独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構. JEED

国の行政機関における障害者雇用に係る事案に関する検証委員会報告書内閣官房. 内閣官房

参考書籍

読んだ後に考えてみよう

  1. 身近な職場や組織では、障害者雇用についてどのような議論や取り組みが行われているだろうか
  2. 制度運用において「数値目標の達成」と「実質的な成果」のどちらがより重要と考えるか
  3. もし自分が障害者雇用率制度の設計者であれば、現在の制度にどのような改善策を提案したいか
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