技能実習制度を解消して育成就労制度を作る改正法が令和6年6月21日に公布され、令和9年4月1日から施行される。本人の意思による転籍が認められるまでの期間は分野ごとに決まり、17分野のうち8分野が2年、9分野が1年である。加えて技能検定基礎級等と日本語A2.1相当以上の試験の合格、同一業務区分内であること、転籍先の適正性が要る。
ざっくり言うと
- 改正法は令和6年6月21日公布、育成就労制度は令和9年4月1日から運用開始である
- 本人意向の転籍が認められるまでの期間は、17分野のうち8分野が2年、9分野が1年
- 転籍にはこのほか技能と日本語の試験、同一業務区分、転籍先の適正性の要件がある
- 介護
- 工業製品製造業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 資源循環
- ビルクリーニング
- リネンサプライ
- 宿泊
- 鉄道
- 物流倉庫
- 農業
- 漁業
- 林業
- 木材産業
A2.1 は「日本語教育の参照枠 A1 に到達し、かつ A2.2 到達に向けて学習が進展しているレベル」、A2.2 は「A2 相当のレベル」と定義されている。転籍にはこのほか、同一の業務区分内であることと、転籍先の適正性の要件がある。
何が起きているのか
令和9年4月1日施行。育成就労3年から特定技能へつなぐ形に変わる
令和6年6月21日に「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律」が公布された。これにより技能実習制度が発展的に解消され、育成就労制度が創設される。運用開始は令和9年4月1日である。
目的の書き方が変わっている。技能実習制度は技能移転による国際貢献を目的としていた。育成就労制度は制度の概要で、 「我が国の人手不足分野における人材の育成・確保」 と書かれる。建前の位置が動いたことは「移民政策ではない」の終わりの始まり(このサイトの記事)で扱った。今回はその中身、制度が実際にどう動くかを見る。
在留の道筋は3段構えになる。育成就労が3年間、特定技能1号が5年間、特定技能2号は在留期間の制限なし。育成就労産業分野は17分野、特定産業分野は19分野、特定技能2号はそのうち11分野である。令和8年7月時点で、特定技能19分野のうち育成就労の対象になっていないのは自動車運送業と航空の2分野だけである。
技能実習との最も大きな違いが、転籍を認めたことである。
背景と文脈
転籍の条件は期間・業務区分・技能・日本語・転籍先の適正性の5つである
技能実習では、本人の意思による実習先の変更が原則として認められていなかった。育成就労では、 本人の意思による転籍が一定の要件のもとで認められる。 ただしその要件は5つある。
期間は8分野が2年、9分野が1年
1つ目が期間である。同じ受入れ機関で働いた期間が、分野ごとに決められた長さに達している必要がある。介護、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、飲食料品製造業、外食業、資源循環の8分野が2年。ビルクリーニング、リネンサプライ、宿泊、鉄道、物流倉庫、農業、漁業、林業、木材産業の9分野が1年である。17分野が、ほぼ半々に割れている。
移れる先が1つしかない分野が9つある
2つ目が業務区分である。同一の業務区分内でしか移れない。この条件の重さは分野によって違う。
工業製品製造業は17業務区分を持つ。機械金属加工から、かばん製造、生コンクリート製造まで並ぶ。鉄道は6業務区分、建設と造船・舶用工業がそれぞれ3業務区分である。
一方で、資料の業務区分欄を数えると、業務区分が1つしかない分野が9つある。介護、ビルクリーニング、リネンサプライ、宿泊、物流倉庫、外食業、林業、木材産業、資源循環。 この9分野で働く人にとって、転籍先は同じ仕事をしている別の会社しかない。
技能は評価試験の初級か基礎級
3つ目が技能である。育成就労評価試験の初級、または技能検定の基礎級に合格していることが要る。分野によってどちらを使うかが決まっている。林業は技能検定の基礎級のみである。
日本語はA2.1相当以上、ただし介護は違う
4つ目が日本語である。日本語能力A2.1相当以上の試験に合格していることが条件になる。この水準はA1相当以上の水準から、特定技能1号移行時に必要となる日本語能力の水準までの範囲内で、各分野ごとに設定される。
ここに例外がある。 介護だけ、転籍時に求められる日本語がA2.2相当以上である。 他の16分野より1段階高い。介護は1年経過の時点でもA2.2相当以上と日本語学習プランが求められる(B1相当以上の場合は学習プラン不要)。期間も2年の側にある。 17分野のうち、転籍が最も遠いのが介護である。
鉄道は同じ分野の中で条件が分かれる
分野の中でも割れる。鉄道の運輸係員は、1年経過時にA2.2相当以上、転籍時もA2.2相当以上、育成終了時にB1相当以上が要る。同じ鉄道分野でも、軌道整備や車両清掃はA1から始まってA2.1で転籍できる。 業務区分が違えば、同じ会社の中でも越えるべき線の高さが違う。
5つ目が転籍先の適正性である。
構造を読む
転籍できる制度になったが、転籍できる状態になるまでに試験が3段階ある
A2.1は「限定的なやりとりならできる」水準
転籍の条件になっているA2.1が、実務でどのくらいの日本語かは資料に書かれている。A2.1は「日本語教育の参照枠A1に到達し、かつA2.2到達に向けて学習が進展しているレベル」、A2.2は「A2相当のレベル」。A1とA2の中間に新しく引かれた線である。
厚生労働省の外国人就労・定着支援事業が作った「できることリスト」が、同じ資料に並記されている。A1は「顧客等とのやりとり無し。上司・同僚から簡単な指示を受けて行う単独業務」で、検品・袋詰め・仕分け、農作物収穫、清掃・洗濯。A2.1は「顧客等とのやりとり有り。限定的・定型的なやりとりで実施可能な業務」で、機械オペレーター、顧客が少ない場所で行う商品陳列、キッチン内で行う調理業務。A2.2は「不明なことがあった場合、上司等が助けてくれれば実施可能な業務」で、レジ打ち等の接客、配達、介護、調理。
指示を受けて一人で作業する段階から、決まった形のやりとりができる段階へ。 その1段が転籍の条件である。日本語能力試験でいえばA1がN5相当、A2.1とA2.2がN4相当、B1がN3相当。
日本語の学習環境が悪い職場ほど、出にくい
ここに構造がある。 転籍は権利として書かれているが、行使するには試験に通る必要がある。 働きながら日本語を学び、A1からA2.1へ上げる。その間、職場は変えられない。日本語の学習環境が悪い職場に当たった人ほど、そこから出るための条件を満たしにくくなる。
この構造は育成就労制度「転籍の自由」が機能しない5つの構造的理由(このサイトの記事)で先に扱った。そこで挙げた要件が、令和8年7月改訂の資料で分野ごとの数字として確定した形になる。
同じ形は日本語教育の側でも見えている。日本語指導が必要な児童生徒84,759人のうち9,699人が指導を受けていない(このサイトの記事)で扱ったとおり、日本語を学ぶ機会は制度としては用意されていても、届き方に差がある。育成就労では、その差がそのまま職場を移れるかどうかの差になる。
拘束の長さが分野で倍ちがう
期間が1年と2年に分かれた点も見ておく必要がある。2年の側には介護と建設が入り、1年の側には農業と漁業が入る。分野別運用方針は令和8年1月23日に閣議決定されている。
受入れ側の育成にかかる負担が重い分野ほど長く、という説明は成り立つ。ただし働く側から見れば、同じ制度の下で職場を移れるまでの拘束が倍ちがう。 介護は2年に加えて日本語がA2.2。長さと高さが重なっている。
受入れの上限は「不足する人数」で決まる
分野ごとの受入れ人数にも枠がある。分野別運用方針では、生産性向上および国内人材確保を行ってもなお不足する人数に基づいて分野ごとの受入れ見込数を設定し、これを受入れの上限数として運用する。
不足の見積りが受入れの上限になる。 見積りを出す側と、人手を求める側は同じ産業の中にいる。 数字の作り方が制度の入口を決める構造は、介護職員の不足数をどう数えるか(このサイトの記事)で扱った推計と同じ問題を抱える。
送り出しと監理の側にも手が入った
転籍以外の変更点も並んでいる。送出国と二国間取決め(MOC)を作成し、送出機関に支払う費用が不当に高額にならない仕組みを導入する。原則としてMOCを作成した国からのみ受入れを行う。監理支援機関は許可制で、技能実習制度の監理団体も許可を受けなければ監理支援事業を行えない。育成就労計画は外国人育成就労機構による認定制で、期間(3年以内)、技能と日本語能力の目標、内容を記載する。
転籍の支援体制も書かれている。ハローワークが監理支援機関や外国人育成就労機構と連携して転籍を支援する。 本人が自力で次を探すのではなく、公的な職業紹介の側に役割が置かれた。 ここが実際に動くかどうかで、転籍の要件を満たした人が実際に移れるかが変わる。
準備はすでに動いている
施行は令和9年4月1日だが、手続きは先に始まっている。令和7年3月11日に基本方針が閣議決定、令和7年9月30日に主務省令が公布、10月1日に政令が公布、令和8年1月23日に分野別運用方針が閣議決定された。育成就労計画の認定の施行日前申請は令和8年4月15日に受付を開始、監理支援機関の許可の施行日前申請は令和8年9月1日に受付を開始する。
受入れ側の準備は今年から動いている。 制度の中身が決まる前に人を集める動きが出る局面でもある。
技能実習は令和9年4月以降も残る
移行にも時間がかかる。施行日時点で技能実習を行っている人は、施行後も技能実習のルールで続き、育成就労には移行できない。1号技能実習生は2号へ移行でき、3号への移行は施行日時点で2号を1年以上行っている人に限られる。
施行日前に技能実習計画の認定を申請していれば、施行日以後に技能実習生として入国できる場合がある(施行日から3か月以内に開始する計画に限る)。一方で施行日前に技能実習を終えて出国している人は、技能実習生として再度入国できない。
しばらくのあいだ、同じ職場に技能実習生と育成就労外国人が並ぶ。 転籍できる人とできない人が、隣で同じ仕事をする期間が生まれる。
数えなければ、制度の評価はできない
外国人技能実習制度の構造的矛盾(このサイトの記事)で扱った、国際貢献という建前と人手不足という実態の齟齬は、目的の書き換えで解消された。残ったのは、育てる期間と移る自由をどう配分するかという設計の問題である。
転籍できることと、転籍できる状態になれることは別である。 その間を埋めるのは、職場の中での日本語学習の機会であり、そこは制度の条文ではなく運用の側にある。
職業訓練の効果は測れるのか(このサイトの記事)で扱ったとおり、育成の成果は測ろうとしないと測れない。転籍した人の数と、条件を満たせずに転籍を諦めた人の数を、分野ごとに公表するかどうかが、この制度の評価を決める。
この記事で使った統計の出典
- 1出入国在留管理庁・厚生労働省 育成就労制度の概要(令和8年7月改訂) 出典を開く
参考書籍
- 『移住労働者の日本語習得は進むのか—茨城県大洗町のインドネシア人コミュニティにおける調査から』(外部サイト、新しいタブで開きます)(吹原豊、ひつじ書房)。日本で働く移住労働者が実際にどう日本語を身につけていくかを、一つの地域のコミュニティを追って調べた研究書。転籍の条件に日本語の試験を置くことの重さを考えるのに使える。
参考文献
育成就労制度の概要(令和8年7月改訂) — 出入国在留管理庁・厚生労働省 (2026). 出入国在留管理庁
育成就労制度の制度概要・関係法令 — 出入国在留管理庁 (2026). 出入国在留管理庁
育成就労制度に係る制度の運用に関する基本方針・分野別運用方針 — 出入国在留管理庁 (2026). 出入国在留管理庁
「日本語教育の参照枠」報告について — 文化庁 (2021). 文化審議会国語分科会


