骨太方針2019は、就職氷河期世代の中心層の正規雇用者を3年間で30万人増やすことを目標に置いた。2019年から2024年までの5年間で正規雇用は11万人増えた。2025年6月3日の関係閣僚会議決定は、これに役員の20万人を足して「合計で31万人の処遇改善が実現した」と書いている。目標に置かれた指標と、達成を語る指標が入れ替わっている。
ざっくり言うと
- 目標は3年間で正規雇用者を30万人増やすことだった
- 2019年から2024年の5年間で、正規雇用は11万人の増加にとどまった
- 政府文書は役員の20万人を足して「合計で31万人の処遇改善」と書いている
単位は万人。2025年6月3日の関係閣僚会議決定は、正規雇用11万人と役員20万人を足して「合計で31万人の処遇改善が実現した」と書いている。目標に置かれていた指標は正規雇用者である。
何が起きているのか
目標30万人に対し正規雇用の増加は11万人。政府は役員を足して31万人と書く
経済財政運営と改革の基本方針2019にもとづき、就職氷河期世代の中心層の正規雇用者を30万人増やすことを目指して集中的な支援が進められた。対象はバブル崩壊後の雇用環境が厳しい時期(1993〜2004年)に就職活動を行った世代である。
集中支援は3年間(2020〜22年度)の予定だった。新型コロナウイルス感染症の影響で正規雇用者数が伸び悩んだことを受け、基本方針2022が2023年度からの2年間を「第2ステージ」と位置づけた。
その結果が、労働力調査の数字に出ている。正規雇用労働者は923万人から934万人へ11万人の増加である。目標は30万人だった。
政府文書の書き方を見ておく必要がある。「2019年から2024年までの5年間において、就職氷河期世代の正規雇用は11万人、役員は20万人増加し、合計で31万人の処遇改善が実現した」と書かれている。
目標に置かれた指標は正規雇用者だった。達成を語る文では、そこに役員が足されている。 31万人は30万人を超える。
背景と文脈
施策の実績は55.9万人の正社員就職。件数の積み上げと統計の純増は別物である
施策の実績は件数、統計は残高
内閣官房が公表している施策の側の実績も見ておく。ハローワークの専門窓口を経由した正社員就職が559,459人、正社員転換した企業への助成による正社員転換が145,032人。自治体の支援による正規雇用者数が15,647人、国家公務員としての採用が4,586人、地方公務員が14,299人である。
55.9万人という正社員就職の件数と、11万人という正規雇用の純増を並べると差が見える。 前者は動いた人の数、後者は残高の差である。 同じ期間に正規雇用から離れた人がいれば、純増はその分だけ小さくなる。施策が効かなかったとは言えないし、55.9万人が実績だとも言えない。2つは別のものを数えている。
正社員就職の559,459人には注記がある。延べ人数であり、就職氷河期世代以外の実績を含む。同じ人が複数回数えられている可能性があり、対象世代の外の人も入っている。
社会参加の側は窓口が81から303へ
社会参加の側も動いている。ひきこもり支援の窓口を設置した自治体は81から303へ増え、就労のための準備支援による社会参加者数は18,475人。就労に困難を抱える者への職業的自立に向けた支援の利用件数は1,902,671件である。この件数も延べ数で、対象世代の外を含む。
中間的就労の受け皿は691人
数字の桁が変わるところがある。生活困窮者自立支援法にもとづく認定就労訓練事業の受入実績は691人(2023年度)である。
認定就労訓練事業は、すぐに一般企業等で働くことが難しい人が、能力や適性、状況に応じて支援を受けながら柔軟に働く「中間的就労」の受け皿として置かれている。無業から一般就労へ移る途中の段階である。 無業者44万人に対して、その受け皿の年間実績が691人。 新しい枠組みは、この事業の利用促進を掲げている。
同世代の比率は、上の世代より低い
同じ資料の参考欄に、世代を並べた比率が載っている。2024年の不本意非正規比率は31〜40歳が2.2%、41〜50歳が2.3%、51〜60歳が3.0%。無業者比率は31〜40歳が2.7%、41〜50歳が2.5%、51〜60歳が3.7%である。
氷河期世代の中心層は2024年時点で41〜50歳にあたる。 不本意非正規も無業者も、比率では上の51〜60歳より低い。 無業者比率は下の31〜40歳より低い。世代を名指しした枠組みを畳む判断は、この数字の上に立っている。
構造を読む
唯一増えた困難の指標が無業者の3万人。専用の枠組みは中高年層向けへ移る
唯一増えた指標が無業者の3万人
同じ文書に、増えたものがもう一つ書かれている。
「不本意非正規雇用は11万人減少したものの、2024年時点で35万人が存在するほか、この世代の無業者は3万人増加し、44万人となっている」。
数字の並びを見ると、この5年で何が起きたかが読める。非労働力人口は210万人から174万人へ36万人減った。働く側に移った人が多い。ところがその内側にある無業者は41万人から44万人へ増えている。無業者は、非労働力人口のうち家事も通学もしていない人と定義されている。
非労働力人口が36万人減るなかで、無業者だけが3万人増えた。 動ける人は動き、動けない人は残った。支援が最も要る層の指標が、この5年で唯一増えている。
増えた20万人が何かも見ておく
正規雇用の11万人と並んで書かれている数字も見ておく。役員は52万人から72万人へ20万人、自営等は101万人から106万人へ5万人増えた。
役員の増加は、勤め先で昇った人と、自分で会社を作った人の両方を含む。 どちらの経路で増えたのかは、この集計からは分からない。 30万人という目標が正規雇用者で置かれていた以上、31万人という数字を並べるなら、その中身の説明が要る。
賃金と蓄えは、正規雇用の外側に残る
政府文書はこの先の課題も書いている。この世代の賃金上昇率は足元で他世代に比較して小さく、上の世代と比較した賃金カーブも増加が緩やかである。金融資産の保有額も、10年前の40代と比較して500万円以下の貯蓄の世帯の割合が大きい。持家率が低下する中で、高齢期の住宅確保が課題となることも想定される。
介護の負担も重なる。家族の介護を行う有業者が、10年前の同年代と比較して25万人増加している。
正規雇用になれたかどうかとは別に、その先の蓄えと住まいの差が残る。 正規雇用者数という1つの指標では、ここは測れない。
3本柱に「高齢期を見据えた支援」が加わった
新しい枠組みは就労・処遇改善に向けた支援、社会参加に向けた段階的支援、高齢期を見据えた支援の3本柱で構成される。3本目が今回の追加である。
中身は住まいと家計に寄っている。2025年10月から改正住宅セーフティネット法にもとづき、居住サポート住宅の認定制度が創設される。公営住宅の年齢要件撤廃に向けた地方自治体への要請とUR住宅の家賃減額を引き続き実施する。家計改善支援事業の補助率を2025年度から引き上げる。
就労支援の枠組みが、老後の生活設計の話に半分移った。 正規雇用にならなかった人がそのまま高齢期に入ることを、政府文書が前提として書いている。
専用の枠組みは中高年層向けへ移る
枠組みそのものも変わる。基本方針2024は「5年間の集中的取組により、一定の成果を挙げている」と評価し、来年度以降は中高年層に向けた施策を通じて支援する方針を示した。
すでに窓口の側は動いている。ハローワークの専門窓口は2025年度から、対象を就職氷河期世代を含む中高年層(概ね35歳〜60歳未満)に拡充している。世代を名指しした専用の窓口ではなくなった。
政府は2025年4月25日に「就職氷河期世代等支援に関する関係閣僚会議」を設置し、6月3日に新たな枠組みを決定した。
次のKPIはまだ決まっていない
新しい枠組みには、まだ数値目標がない。2025年度内を目途にKPIを含む総合的な対策として新たなプログラムを取りまとめるとされ、実施期間は当面3年間程度(2028年度まで)の集中的な取組を想定している。
次に何を測るかが、これから決まる。 30万人という目標が正規雇用者で置かれ、達成の説明が正規雇用者と役員の合計で行われた。同じことを繰り返さないための材料は、指標をどう置くかの側にある。
目標と指標と達成の3つが揃うか
目標を立てて、指標を測って、達成を語る。この3つが同じ指標で通っていれば、次に何をすべきかは数字から出てくる。 今回は、目標が正規雇用者で、達成を語る文が正規雇用者と役員の合計だった。 そのぶん、11万人という数字が何を意味するかの議論は行われないまま、枠組みだけが次へ移る。
「政策が届かない層」の共通構造(このサイトの記事)で扱ったとおり、届いていない層は、届いた層の数字を見ていても現れない。この世代について言えば、届いていない層の数は44万人と書かれている。 書かれていないのではなく、書かれた場所が違うだけである。
生活困窮の相談は10年で345.6万件(このサイトの記事)で見たとおり、支援の件数と、統計に出る人数は別のものを数えている。認定就労訓練事業の691人と無業者44万人の距離が、次の3年で縮まるかどうかが、新しいプログラムの評価軸になる。
この記事で使った統計の出典
- 1内閣官房 新たな就職氷河期世代等支援プログラムの基本的な枠組み(2025年6月3日 関係閣僚会議決定) 出典を開く
- 2内閣官房 就職氷河期世代等の支援について(2025年4月25日) 出典を開く
- 3内閣官房 就職氷河期世代等の支援について(総務省「労働力調査」より作成)(2019年平均→2024年平均) 出典を開く
- 4内閣官房 就職氷河期世代等の支援について(2020年4月〜2025年2月) 出典を開く
- 5内閣官房 就職氷河期世代等の支援について(2020年4月〜2024年3月) 出典を開く
- 6内閣官房 就職氷河期世代等の支援について(2020〜2024年) 出典を開く
- 7内閣官房 就職氷河期世代等の支援について(2020〜2023年) 出典を開く
参考書籍
- 『アンダークラス2030 置き去りにされる「氷河期世代」』(外部サイト、新しいタブで開きます)(橋本健二、毎日新聞出版)。階級構造の研究者が、この世代が高齢期を迎えたときに何が起きるかを推計した本。11万人や44万人という数字の先を考えるのに使える。
参考文献
新たな就職氷河期世代等支援プログラムの基本的な枠組み(案) — 内閣官房 就職氷河期世代支援推進室 (2025). 内閣官房
就職氷河期世代等の支援について(第1回 就職氷河期世代等支援に関する関係閣僚会議 資料1) — 内閣官房 就職氷河期世代支援推進室 (2025). 内閣官房
就職氷河期世代等支援 — 内閣官房 (2026). 内閣官房

