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一般社団法人社会構想デザイン機構

地方自治体の担い手消失:公務員試験倍率半減と若手退職が映す構造的衰退

ヨコタナオヤ
約8分で読めます

地方公務員試験の競争倍率は10年で7.9倍から4.1倍に半減し、30歳未満の退職者は2.7倍に急増した。教員採用試験は過去最低の2.9倍を記録している。「若者の公務員離れ」と語られがちなこの現象の構造は、送り出す若者すらいない人口減少と、OECD最低水準の公務員比率で増え続ける業務を支える無理な体制にある。

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ざっくり言うと

  1. 地方公務員試験の倍率は7.9倍(2013年)から4.1倍(2024年)に半減し、東京都ですら5.6倍から2.4倍に低下した。受験者数そのものが10年で25%減少している
  2. 30歳未満の自己都合退職者は1,564名(2013年)から4,244名(2022年)に2.7倍増加し、メンタル不調による長期病休者は48,971人(職員数の1.5%)に達している
  3. 日本の公務員比率4.9%はOECD最低水準(平均18.4%の約1/4)であり、「公務員が多い」という認識と実態の乖離が政策議論を歪めている

何が起きているのか

公務員試験倍率の半減、教員採用倍率の過去最低更新、自治体職員47万人減少の現状

日本の典型的な市役所の外観
地方公務員試験の競争倍率は10年で7.9倍から4.1倍に半減した

「地方の構造問題」シリーズの最終回として、本稿では自治体を支える 「人」 の危機に焦点を当てる。

地方公務員試験の競争倍率は、この10年で半減した。全体の競争倍率は2013年度の約7.9倍から2024年度には4.1倍まで低下した。受験者数も2013年度の583,541人から約75%の水準まで減少している。

全国平均東京都(一般行政職)教員採用試験(全体)
2×4×6×8×2013201520182020202220242025倍率7.96.55.24.15.62.43.22.9
地方公務員試験の競争倍率は10年で半減。東京都ですら5.6倍から2.4倍に低下した。教員採用試験は2025年度採用で過去最低の2.9倍を記録している。
総務省「地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果」各年度
地方公務員試験 競争倍率の推移(2013〜2024年)

この傾向は地方に限った話ではない。東京都の一般行政職(I類B)試験でさえ、2019年の5.6倍から2023年には2.4倍に低下した。2024年度には 26の都道府県庁で競争倍率が4.0倍を下回ったとされる。

教員も同じ構造にある。文部科学省の発表では、2025年度採用の教員採用試験は全体倍率 2.9倍(過去最低)、小学校は 2.0倍 まで下がった。受験者数は12年連続で低下しており、地域差も大きい。最低倍率は富山県の1.8倍であった。

4.1倍

地方公務員試験 競争倍率(2024年度)

2013年度の7.9倍から半減

2.9倍

教員採用試験 全体倍率(過去最低)

小学校は2.0倍。受験者は12年連続減

281万人

地方公務員数(2025年)

ピーク時328万人から47万人減

自治体を支える人員の総量も縮小している。地方公務員の総数は ピーク時の1994年に約328万人だったが、2025年4月時点では約281万人まで減少した。約47万人、14.3%の削減である。

背景と文脈

人口減少・初任給格差・若手退職急増・メンタル不調拡大の複合的原因

空席が目立つ行政オフィス
30歳未満の自己都合退職は10年で2.7倍。入っては壊れて抜けていく構造

「若者の公務員離れ」の背後にある人口構造

「若者が公務員を選ばなくなった」という語りは、表面をなぞっているにすぎない。そもそも、公務員を志望しうる若年人口そのものが縮小している。

2024年10月時点で人口が前年比で増加したのは東京都と埼玉県の2都県のみ。45道府県で人口が減少し、全国の総人口は1億2,380万2千人(前年比55万人、0.44%減)と14年連続で減少を続けている。人口減少率が1%を超える県は18県にのぼり、前年より3県増えた。

つまり、倍率の低下は「公務員の魅力低下」と「受験者の絶対数減少」の複合作用であり、後者の要因は構造的に不可逆である。

初任給格差と参入障壁

公務員を選ばない理由の一端は、処遇にある。地方公務員の大卒初任給は 約19.7万円 であるのに対し、民間企業の大卒初任給は 約24.8万円 に達する。月額で約5万円の差がある。

平均年収では公務員が民間を上回るケースもあるが、それは長期にわたる安定昇給を前提とした数字である。「入口」で5万円低い給与を見せられ、しかもその入口に到達するには半年から1年の専門的な試験対策が求められる。民間の就職活動と比べて参入障壁が明らかに高い。

2025年の人事院勧告では月例給3.62%の引き上げと一時金0.05月増が閣議決定されたが、初任給・若年層への重点配分が主であり、根本的な構造改革には至っていない。

入った後の崩壊:若手退職とメンタル不調

問題は入口だけではない。入った後に辞める若手が急増している。

30歳未満の自己都合退職者数は、2013年度の1,564名から2022年度には4,244名へと2.7倍に増加した。退職経験者1,223人への調査(20〜35歳対象)では、退職理由として給与水準への不満(68%)やキャリア形成への不安(61%)が挙がっている(山梨総合研究所の調査報道による)。

年功序列型の人事制度、3〜4年ごとの定期異動、本人のキャリア希望が反映されにくい配置。「頑張っても報われない」「やりたい仕事に就けない」という構造的な不満が、入職後の早期離職を招いている。

メンタル面の負荷も深刻である。2024年度中に1か月以上の病気休暇・休職を取得した職員は48,971人にのぼり、職員数に占める割合は1.5%。この数字は10年前比で約1.9倍に増加している。

業務が一般列挙主義(法律や条例で定めれば際限なく積み上がる仕組み)に基づいているため、福祉・防災・DX対応・外国人対応と業務範囲は拡大する一方で、人員は増えない。「育てられず、守れず、期待にも応えられない」職場が、特に小規模自治体で広がっている。

日本の公務員比率:OECD最低

🇳🇴ノルウェー
30.3%
🇸🇪スウェーデン
28.7%
🇩🇰デンマーク
27.5%
🇫🇷フランス
21.5%
🇬🇧イギリス
16.2%
🇺🇸アメリカ
14.6%
🇩🇪ドイツ
11%
🇰🇷韓国
8.8%
🇯🇵日本
4.9%
OECD平均 18.4%
日本はOECD最低の4.9%。平均18.4%の約1/4にすぎない。
日本は「小さな政府」モデルで運営されてきたが、福祉・防災・DX対応など業務量は増加の一途にある。少ない公務員で増える業務を支える構造は限界に近づいている。
内閣人事局「公的部門における職員数の国際比較」(2024年)
OECD主要国の雇用者に占める公務員比率(2023年)

こうした問題の根底には、日本の公務員比率の低さがある。

日本の雇用者に占める一般政府雇用者の比率は4.9%。OECD平均の18.4%の約4分の1にすぎず、加盟国で最低水準にある。北欧諸国のノルウェー(30.3%)やスウェーデン(28.7%)とは6倍近い開きがある。

にもかかわらず、「公務員が多い」「公務員は楽だ」というイメージが日本社会には根強い。この認識と実態の乖離が、増員の議論を封じ、既存の少ない人員にさらなる負荷をかけるという悪循環を生んでいる。

構造を読む

DXによる業務再設計、官民人材循環、OECD比較から見える構造的課題と展望

リノベーションされたコミュニティセンター
給与を上げるだけで終わるなら、人はまた抜けていく。仕事そのものの再設計が必要

給与改善だけでは解決しない

初任給の引き上げは必要条件ではあるが、十分条件ではない。問題の核心は、仕事そのものの設計 にある。

地方公務員法による制約のもと、自治体は民間のように機動的な賃上げができない。民間企業の71.1%が2025年に新規採用者の賃上げを計画する一方で、自治体の給与体系は条例改正を経なければ動かない。しかも財源は税収に依存するため、人口が減れば原資そのものが縮小する。

処遇改善と同時に、仕事の魅力・裁量・意義の再設計が伴わなければ、「入ったが辞める」の構造は変わらない。

DXは省力化ではなく転換

自治体DXの先行事例は、単なる省力化を超えた可能性を示している。

つくば市は2017年からを本格導入し、市民税課の5業務で 業務時間を79.2%削減(424時間→88時間)した。神戸市は通勤手当決定業務にRPAを導入し、年間2,350時間の削減を見込む。

RPAの導入率は都道府県94%、政令指定都市100%に達した。しかし、その他の市区町村では41%にとどまる。DXの果実が大規模自治体に偏在する構造は、そのまま人材確保力の格差に重なる。

重要なのは、自動化で浮いたリソースを対人サービスや政策立案にシフトする再設計であり、単に「人を減らすためのDX」ではないということである。

集約先自体が成り立たなくなる

担い手不足は公務員に限った話ではない。

2030年には物流の輸送能力が需要の約34%不足し、バスの運転手は必要人員の28%が不足すると推計されている。建設業では55歳以上が就業者の36.7%を占め、29歳以下は11.7%にすぎない。

ここで問われるべきは、「集約すれば解決するのか」という前提そのものである。過疎地域のサービスを中核都市に集約するという処方箋は、集約先の都市自体が担い手不足に直面している以上、機能しない。行政・医療・物流・建設のいずれにおいても、「都市部に集めれば持続可能」という仮定が崩れ始めている。

官民循環という回路

希望の兆しは、行政と民間の人材循環にある。

地域活性化起業人制度の令和6年度実績は、企業派遣型780名と副業型91名の計871名(過去最高)。421団体・390社が活用し、民間のスキルが地方自治体に流入するルートが拡大している。

2025年6月には地方公務員の副業が条件付きで正式解禁された。横浜市は技術系採用に大学推薦枠を設置し、SPI試験の採用や早期選考など、参入障壁を下げる動きも広がりつつある。

木下斉氏が繰り返し指摘するように、報酬だけでなく「地域のなかで意義のある仕事ができる」という環境の設計が、担い手確保の核心にある。岩手県紫波町のオガールプロジェクトのように、行政経験と民間経験の両方を持つ人材が地域変革を主導した事例は、官民循環の具体的な成功モデルを示している。

「ここで働きたい」をどう設計するか

自治体の担い手消失は、人口減少・処遇格差・組織構造・公務員比率の異常な低さという4つの構造的要因が重なった帰結である。給与を上げるだけでは解決しない。試験制度を変えるだけでもDXを入れるだけでも足りない。

問われているのは、「この自治体で、この仕事をしたい」と思える環境を総合的にデザインできるかどうかである。採用制度の柔軟化、DXによる業務の再設計、官民人材循環の制度化、そして年功序列からキャリア自律への転換。これらを個別の対症療法としてではなく、統合的な「職場の再設計」として実行できるかどうかに、地方自治体の持続可能性がかかっている。

人口減少は不可逆である。だからこそ、残された時間で何を変えるかが問われている。


この記事の着想元


参考文献

地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果総務省 (各年度)

地方公務員の退職状況等調査総務省 (2022年度)

公立学校教員採用選考試験の実施状況文部科学省 (2025年度採用)

人口推計(2024年10月1日現在)総務省統計局 (2024年)

Government at a Glance 2025: Employment in general governmentOECD (2025年)

地方公務員健康状況等の現況地方公務員安全衛生推進協会 (2024年度)

令和7年版 国土交通白書 第1章国土交通省 (2025年)

若手自治体職員の早期離職をめぐる問題(Vol.314)山梨総合研究所 (2024年)

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読んだ後に考えてみよう

  1. あなたの住む自治体で、公共サービスの質が低下していると感じる場面はあるだろうか。
  2. 公務員という職業を「選びたい仕事」にするために、何が変わるべきだと考えるか。
  3. 日本の公務員比率がOECD最低という事実を知って、「公務員は多すぎる」という議論をどう見直すか。

この記事の用語

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
ソフトウェアロボットにより、定型的なPC操作(データ入力・転記・照合等)を自動化する技術。自治体では窓口業務や給与計算などで導入が進み、業務時間の大幅削減に寄与している。

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