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一般社団法人社会構想デザイン機構

「マイナンバーカードが使えない」— デジタルデバイドの世代別データ

ヨコタナオヤ
約6分で読めます

マイナンバーカードの保有率は79.6%に達した。しかし70歳以上のオンライン行政手続の認知率はわずか19.1%、医療機関の87.5%がマイナ保険証のトラブルを経験している。政府統計が示す「持っている」と「使える」の構造的な世代間格差とは何か。

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ざっくり言うと

  1. マイナンバーカード保有率79.6%に対し、オンライン行政手続の認知率は50.3%にとどまり、70歳以上では19.1%まで低下する
  2. 2025年度には約2,780万枚のカード・電子証明書が更新期限を迎え、医療機関の87.5%がマイナ保険証関連のトラブルを経験している
  3. 「保有率」という量的指標は世代間の利活用格差を構造的に不可視化しており、成果指標への転換が必要である

何が起きているのか

マイナンバーカードの保有率と実際のオンラインサービス利活用の間に大きな世代間格差が存在する。

マイナンバーカードの保有率は79.6%に達した。累計交付枚数が1億枚を超え、数字だけ見れば日本のは解消に向かっているかのように映る。

しかし、「持っている」と「使える」の間には深い溝がある。

カード保有率
79.6%
サービス利用経験あり(保有者のうち)
86.6%
オンライン行政手続の認知(保有者全体)
50.3%
70代以上のオンライン手続認知(引越し手続等)
19.1%
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カード保有率79.6%に対し、オンライン行政手続の認知率は50.3%にとどまる。70代以上では引越し手続等の認知が19.1%まで低下し、「持っている」と「使える」の溝が世代を追うごとに深くなる。

マイナンバーカード「保有」と「活用」の乖離 — デジタル庁(令和6年度調査)

デジタル庁の令和6年度調査によれば、カード保有者のうち何らかのカードサービスを利用したことがある人は86.6%に上る。一見高い数字に映るが、内訳を見ると様相が変わる。マイナポータル等を通じたオンライン行政手続の認知率はわずか50.3%。カード保有者の約半数が、オンライン行政手続の存在自体を知らない。

世代間格差はさらに際立っている。転居届等のオンライン手続の認知率は10〜20代で49.7%に達する一方、70歳以上ではわずか19.1%と、30ポイント以上の差がある。ふるさと納税のワンストップ特例申請に至っては、70歳以上の認知率は12.3%にすぎない。

80歳以上のインターネット利用率がわずか36.4%という現実と重ね合わせると、マイナカードのオンラインサービスが届かない人々の輪郭が浮かび上がる。約1,600万人——日本の人口の13%がいまだインターネットを利用しておらず、その大半は高齢者に集中している。

背景と文脈

2025年更新危機の到来と医療機関トラブルの急増が、デジタル前提の制度設計に内在する矛盾を露わにしている。

マイナカード「2025年問題」の衝撃

マイナンバーカード本体の有効期限は10年だが、健康保険証機能に必要な電子証明書は5年で失効する。この有効期限のミスマッチが、2025年度に大規模な混乱を引き起こしている。

2,780万件更新対象件数(2025年度)カード本体+電子証明書の合計
87.5%医療機関でのトラブル経験率2024年12月以降(保団連調査)
31%電子証明書期限切れトラブル前回調査14.1%から倍増
期限切れの連鎖構造
1更新通知がマイナポータル上のみ
2高齢者がデジタル通知に気づかない
3電子証明書が期限切れ
4マイナ保険証が医療機関で使えない
5窓口に来庁して更新(移動困難者は行けない)
マイナンバーカード2025年問題 — 更新の壁が最も高齢者に集中する構造

2025年度には約2,780万枚のカードと電子証明書が更新期限を迎える。全国保険医団体連合会(保団連)の調査によれば、2024年12月以降、全国の医療機関の87.5%がマイナ保険証関連のトラブルを経験している。電子証明書の期限切れに起因するトラブルは14.1%から31%へと倍増以上に膨れ上がった。

問題の核心は通知体制にある。更新通知は主にマイナポータルでデジタル配信されるため、マイナポータルを定期確認しない高齢者は失効に気づけない。その結果、医療機関の窓口で「使えない」と初めて気づくケースが頻発している。約80%の医療機関が従来の健康保険証による確認に頼っており、厚生労働省が推奨する「資格情報通知書」も十分に普及していない。

デジタル前提設計に内在する排除

更新手続には本人または代理人が市区町村窓口に出向く必要がある。外出困難な高齢者や障害者にとって、この「現地更新」は大きな障壁となる。デジタル化の便益を享受するために、非デジタルな行動(役所への来庁)が求められるという矛盾が制度の根幹に埋め込まれている。

デジタル活用支援推進事業のような支援事業も存在する。しかし、70歳以上における健康保険証機能の認知率が87.0%と比較的高い一方、オンライン行政手続の認知率は19.1%にとどまる。「知っている機能」と「使える機能」の壁は、認知率の数字が示す以上に深い。

若年層も異なる課題を抱える。「更新するつもりはない」と回答した割合は20代で20.5%、30代で12.5%に達し、顔認証カードリーダーへの抵抗感も報告されている。デジタルネイティブ世代がカードを必要と感じていないという構造的現実も無視できない。

構造を読む

保有率という量的指標が世代間の利活用格差を構造的に不可視化するメカニズムの分析。

「保有率」が覆い隠す不平等の三層構造

マイナカードをめぐるデジタルデバイドは、既存のデジタルデバイドの三層構造と同じパターンをたどっている。

第一層——「アクセスの格差」——はインターネット利用率の世代差に現れる。80歳以上の利用率36.4%は、13〜59歳の97%と比べて60ポイント以上の差がある。インターネットを利用できない人に対しては、オンラインサービスの存在を伝えること自体が本質的に困難である。

第二層——「スキルの格差」——はカードを持っていてもオンライン手続を操作できない人々の中に現れる。暗証番号の管理、マイナポータルの操作、電子証明書の更新——この一連の操作はデジタルリテラシーを前提とする。

第三層——「成果の格差」——はデジタルを活用できる人とできない人の間で行政サービスへのアクセス品質が分岐する段階である。コンビニで証明書を取得できる人(満足度84.2%)と、市区町村窓口に並ばなければならない人。e-Taxで確定申告を完結できる人と、紙書類を持って税務署に行かなければならない人。同じカードを持っていても、得られる便益は世代によって大きく異なる。

量から質へ——指標転換が問うもの

「保有率80%」という指標を政策の成果として語る瞬間、誰が取り残されているかが同時に不可視化される。2040年には日本人の3人に1人が高齢者となる。デジタルツールを「使えない」人口は縮小するどころか、高齢化の進行とともに構造的に再生産される。

必要なのは、保有率・交付枚数といった量的指標から、「何人がオンライン手続を完了したか」「何人が更新通知に気づいたか」「何人がトラブルなく医療を受けられたか」という成果指標への転換である。量的指標は「配布したもの」を測るが、「実際に使えた人」は測らない。

2028年には次世代マイナンバーカードが計画されている。Android搭載のカード機能(2026年から)、スマートフォンのみで完結する確定申告——利便性向上は確かに進んでいる。しかし、こうした機能拡張がスマートフォン保有を前提とする以上、スマートフォンを持たない・操作できない人々への支援を同時に設計しなければ、格差はむしろ拡大する。

『デジタルファシズム — 日本の資産と主権が消える』(堤未果、2021年)が警告したように、デジタル化はあくまで市民の利便性を高めるための手段であり、目的ではない。「誰一人取り残さないデジタル社会」という理想と、保有率を追う現在の政策設計の間には構造的矛盾がある。その矛盾と向き合い、「使えること」を中心に据えた制度設計へと転換すること——それがマイナンバーカードが真の社会インフラとなるための条件である。

デジタルデバイドの全体構造についてはデジタルデバイド2026 — DXが「取り残す人」を生む逆説を、政策が届かない人々の構造については政策が届かない人々の共通構造を参照されたい。

関連ガイド


参考文献

マイナンバーカード交付状況総務省. 総務省

マイナンバーカードの普及・活用状況調査(令和6年度)デジタル庁. デジタル庁

令和6年通信利用動向調査の結果総務省. 総務省情報通信統計データベース

マイナ保険証の電子証明書期限切れトラブル31%——3,023医療機関全国保険医団体連合会. 保団連ニュース

保険証とマイナ保険証の2025年問題とその課題谷口友基. 第一生命経済研究所

Digital 2026: JapanDataReportal. DataReportal

参考書籍

読んだ後に考えてみよう

  1. 身近な高齢者がマイナンバーカードの更新や利用に苦労している場面を目にしたことがあるだろうか。
  2. 「持っている」と「使える」の乖離が障壁を生む文脈は、他にどのような場面で存在するだろうか。
  3. デジタル技術に不慣れな人々にとって、最も効果的な支援の仕組みはどのようなものだろうか。

この記事の用語

デジタルデバイド
情報通信技術を利用できる人とできない人の間に生じる格差。アクセス格差(端末・回線の有無)、スキル格差(操作能力の差)、成果格差(デジタル活用で得られる便益の差)の三層構造を持つ。

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