ざっくり言うと
- 休眠預金等活用制度はJANPIA→資金分配団体→実行団体の3層構造で資金が流れる
- 申請には法人格・評価計画(ロジックモデル)・ガバナンス体制・自己資金比率20%以上が必要
- 採択率は約29%と競争が厳しく、評価計画の質が採否を分ける最大の要因である
はじめに
休眠預金等活用法の基本概念と制度の複雑さについて説明
休眠預金等活用法(2016年成立、2018年施行)は、長期間取引のない銀行預金(一般的に10年以上)を、民間公益活動の財源として活用する制度である。国の税金でも企業の寄付でもない、新しい社会資金のルートとして広がりを見せている。
ただ、制度が複雑でどこから手をつければいいかわからないという声が多い。本ガイドでは、制度の基本構造、申請要件、評価計画の作り方、採択後の義務まで、実務者が押さえておくべきポイントを整理する。
制度の3層構造
JANPIA、資金分配団体、実行団体の役割と資金の流れを整理
休眠預金等活用制度の最大の特徴は、資金が3つの層を経由して届く点にある。
資金の流れを整理すると、次のようになる。
| 層 | 機関 | 役割 |
|---|---|---|
| 第1層 | JANPIA(日本民間公益活動連携機構) | 資金の管理・分配。資金分配団体の公募・審査・モニタリングを担う |
| 第2層 | 資金分配団体 | JANPIAから資金を受け取り、自らのテーマで実行団体を公募・採択・伴走支援する |
| 第3層 | 実行団体 | 資金分配団体の採択を経て、現場での事業を実施するNPO等 |
ここで押さえておきたいのは、 NPOが直接JANPIAへ申請することはできない 点である。実行団体として申請するときは、テーマや地域に合った資金分配団体の公募を探し、その公募に応募する形になる。
JANPIAのウェブサイトや「休眠預金活用プラットフォーム(休プラ)」では、現在公募中の資金分配団体の情報がまとめられている。申請検討の出発点として必ず確認してほしい。
対象分野と公募枠
制度が対象とする社会課題分野と申請可能な公募枠の種類
対象3分野
休眠預金等活用法が定める対象分野は以下の3つである。
- 子ども・若者支援: 子どもの貧困対策、教育支援、若者の就労支援など
- 生活困窮者支援: ホームレス支援、生活再建、フードバンクなど
- 地域活性化: 少子高齢化対策、地域コミュニティの再生、都市農村交流など
2023年の法改正で、出資事業と活動支援団体の支援が制度上に位置づけられた。NPOへの直接助成だけでなく、社会的事業体への出資や中間支援組織の機能強化にも対応が広がっている。
公募の種類
| 枠 | 期間 | 特徴 |
|---|---|---|
| 通常枠 | 最長3年 | 標準的な事業助成。多くの実行団体が対象 |
| 緊急枠 | 1年以内 | 社会的緊急性の高い課題に迅速対応 |
| 出資 | — | 事業収益を持つ社会的事業体向け。2023年改正で整備 |
通常枠は複数年にわたる継続的な事業設計が可能で、多くのNPOにとって主要な選択肢となる。緊急枠は期間が短い分、審査スピードが速い傾向にある。
申請に必要な要件
実行団体として申請する際の基本的な資格要件
1. 法人格
実行団体として申請できるのは、法人格を持つ団体に限られる。NPO法人、一般社団法人、公益社団法人・公益財団法人などが対象で、任意団体は対象外。まだ法人化していない団体は、申請前に法人格の取得が必要である。
2. 評価計画(ロジックモデル+アウトカム指標)
準備に最も時間がかかる要件である。JANPIAは2021年以降の公募でロジックモデルとアウトカム指標の提出を明示的に求めており、評価計画の質が採否に直結する。
評価計画で求められるのは、「活動がなぜ社会変化をもたらすか」の論理構造だ。「何人に支援した」という産出物(アウトプット)ではなく、「支援を受けた人にどんな変化が起きたか」というアウトカムを中心に据える。
アウトカム指標は、短期・中期・長期の時間軸で設計する。測定タイミング、測定方法、ベースラインの取得方法まで具体化して申請書に記載する。
3. ガバナンス体制
理事会・監事の構成、財務管理の体制、内部規程の整備状況が審査対象である。代表者が財務管理も担う「ワンオペ」体制はガバナンス上の弱点と見なされる。役割分担が明確で、相互チェックが機能している体制を文書で示せるかどうかがポイントだ。
4. 自己資金比率
一般的に自己資金比率20%以上が求められる。助成金で全額まかなう設計は認められない。自己資金には会費収入、事業収益、他の助成金(目的が重複しないもの)が含まれるため、申請前に資金計画を精査して裏付けを確認しておく必要がある。
申請プロセス
公募発見から申請書提出までの具体的な手順
実行団体として申請する流れを整理する。
ステップ1:資金分配団体の公募を探す
JANPIAの公式ウェブサイトおよび休プラで、現在公募中の資金分配団体を確認する。自団体の活動分野・地域・規模感に合った公募を探す。
ステップ2:公募要領の精読と事前相談
公募要領は数十ページに及ぶものもある。提出書類の一覧、申請書のフォーマット、評価基準を丁寧に確認する。多くの資金分配団体が事前相談の機会を設けているので、疑問点はこの段階で解消しておく。
ステップ3:申請書類の作成
事業計画書・ロジックモデル・評価計画・資金計画・団体情報などを作成する。特に評価計画は作成に数週間かかることもあり、申請締切の1〜2ヶ月前には着手するのが現実的な目安である。
ステップ4:資金分配団体による審査
書類審査ののち、多くの場合はヒアリング審査が行われる。申請書に書いたことを口頭で説明できるよう、チーム内で内容を共有しておく。
ステップ5:採択通知・契約締結
採択後は資金分配団体と協定・契約を締結し、事業開始となる。事業開始前に、詳細な実施計画と指標の基準値(ベースライン)の確定が求められる。
採択後の義務
採択決定後に求められる報告や評価に関する義務
採択されたあとにも、継続的な義務がある。
3段階評価
休眠預金等活用事業では、事前・中間・最終の3段階で評価が実施される。
| 評価段階 | タイミング | 主な内容 |
|---|---|---|
| 事前評価 | 事業開始前 | 指標の基準値確定、実施体制の確認 |
| 中間評価 | 事業期間の中盤 | 進捗確認、計画の修正 |
| 最終評価 | 事業終了時 | アウトカムの達成度検証、学びの文書化 |
評価は資金分配団体が主導するが、データ収集・整理・報告は実行団体が自ら行う。現場支援と並行して評価作業を継続する体制を事前に設計しておく必要がある。
情報公開
報告書はJANPIAのウェブサイトで一般公開される。事業内容、資金使途、評価結果を含む報告書が誰でも閲覧できる状態になるため、公開を前提とした記録・記述を心がける必要がある。
よくある失敗パターン
申請時や事業実施時によく見られる失敗事例
1. 評価計画の甘さ
「指標は後で考える」という姿勢で申請書を作ると、審査で落ちる。アウトカム指標が「参加者満足度」だけ、ベースラインの取得方法が未定、測定タイミングが曖昧。こうした計画では、評価の実施可能性自体を疑われる。
申請前の段階でロジックモデルを完成させ、指標、測定方法、タイミングを具体化しておくべきである。
2. 自己資金の裏付け不足
「他の助成金が採択されれば自己資金になる」という計画は、見通しとして弱いと判断される。確定している収入(会費・既存の事業収益)で20%をカバーできるか。申請前に財務状況を正直に棚卸しする。
3. ガバナンス未整備の過小評価
「小さな団体だから仕方ない」という感覚は通じない。理事会議事録が整備されているか、財務担当と業務執行担当が分離されているか、ハラスメント防止規程があるか。これらは審査項目として確認される。申請準備と並行して、内部規程の整備を進める必要がある。
4. 報告負担の過小評価
現場の支援活動に加えて、データ収集、進捗整理、報告書作成を継続する体制を事前に設計しておかないと、採択後に担当者が疲弊する。報告専任のスタッフを置く、記録フォーマットを標準化するなど、運用設計を申請前に済ませておくのが現実的だ。
5. 競争率の過小評価
休眠預金等活用事業の競争率は低くない。2024年度通常枠(第2回)では49件の申請に対して14件が採択された。採択率は約29%。「申請すれば通る」という前提は禁物である。審査基準を丁寧に読み込み、採択団体の報告書(JANPIAサイトで公開)を参照して、採択水準を把握してから申請書を設計する。
ISVDの視点
社会的インパクト投資の観点から見た制度活用のポイント
休眠預金等活用制度が従来の助成金と異なるのは、「評価と透明性を前提とした資金供給」という点である。ロジックモデルの提出、アウトカム指標の設計、中間・最終評価、報告書の全文公開。これらの要件は負担だが、団体の事業ロジックを整理する機会にもなる。
申請準備の第一歩はロジックモデルの作成である。ロジックモデルとは何かで基本構造を学び、アウトカム指標の設計で測定指標を具体化してから申請書に取りかかると、評価計画の質が変わる。助成金申請の書き方全般については助成金申請書の書き方も参照されたい。