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一般社団法人社会構想デザイン機構
実践ガイド — 設立・法人化

営利法人と非営利法人の二層構造——経営者が知らない広告費・税務の最適化

ISVD編集部
約12分で読めます

営利法人(合同会社・株式会社)と非営利型一般社団法人を組み合わせる「二層構造」により、Google Ad Grantsの月$10,000広告枠を非営利側で活用し、営利側の広告費を構造的にゼロにできる。税務上の非課税メリット、社会的信用の向上、設計パターン、リスクと注意点を実務目線で解説する。

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ざっくり言うと

  1. 営利法人+非営利型一般社団法人の二層構造により、Google Ad Grants(月$10,000)を非営利側で活用し、営利側の広告費をゼロにできる
  2. 非営利型一般社団法人は収益事業(法人税法上の34業種)のみ課税され、寄附金・助成金・会費収入は原則非課税となる
  3. 二層構造は社会的信用の可視化にも有効で、営利法人単体では得られない行政・助成金・テクノロジー支援へのアクセスが開かれる
  4. 50%ルール・利益供与の禁止・税務リスクなど、設計を誤ると税務否認や法人格の取消しにつながる重大なリスクが存在する

はじめに

二層構造という選択肢が知られていない現状と、本記事の対象読者

中小企業の経営者にとって、広告費は最も大きな変動費のひとつである。月数十万円のリスティング広告費を「必要経費」として受け入れている経営者は多いが、その広告費を 構造的にゼロにする方法 が存在することを知る経営者は極めて少ない。

その方法が、営利法人と非営利法人の 二層構造 である。

具体的には、既存の営利法人(株式会社・合同会社)に加えてを設立し、非営利法人側で(月$10,000=年間約$120,000相当の検索広告枠)を取得する。これにより、営利法人側の広告費を大幅に削減——場合によってはゼロにすることが可能となる。

この構造は「裏技」ではない。法人税法・一般社団法人法・Google for Nonprofitsの各制度が正しく設計されている限り、完全に合法的な仕組みである。ISVDは合同会社コラレイトデザインとの二層構造を実際に運用しており、その実体験に基づいて本記事を執筆している。

本記事では、二層構造の基本概念から広告費・税務の最適化メカニズム、具体的な設計パターン、そしてリスクと注意点までを体系的に解説する。


二層構造とは何か

営利法人と非営利法人を組み合わせる基本概念と、なぜ今注目されるのか

基本概念

二層構造とは、同一の経営者(または経営チーム)が営利法人と非営利法人の両方を設立・運営する組織形態を指す。営利法人が本業の事業執行を担い、非営利法人が社会貢献・調査研究・広報活動を担う——この役割分担により、単一法人では実現できないリソースへのアクセスが可能になる。

ここでいう「非営利法人」とは、多くの場合を指す。NPO法人(特定非営利活動法人)も選択肢のひとつだが、設立に3〜6ヵ月かかること、20の特定非営利活動分野に限定されること、10名以上の社員が必要なことから、二層構造の非営利側としては一般社団法人のほうが適している(法人格の比較詳細は非営利型一般社団法人とNPO法人の比較記事を参照)。

なぜ今注目されるのか

二層構造が注目される背景には3つの構造変化がある。

  1. デジタル広告費の高騰: リスティング広告のCPCは年々上昇しており、中小企業にとっての負担が増大している
  2. 非営利法人向けテクノロジー支援の充実: をはじめ、Microsoft・Salesforce・Canva等が非営利団体向けに大規模な無償支援を提供している
  3. 社会的価値への関心の高まり: ESG・SDGsの文脈で、企業の社会貢献活動が取引先選定や採用にも影響を与えるようになった

これらの変化により、「非営利法人を持つこと」のメリットが、設立・維持コストを大きく上回るケースが増えている。


広告費の最適化——Ad Grantsの戦略的活用

Ad Grantsの仕組みと、二層構造における広告費ゼロ化のメカニズム

Ad Grantsの仕組み

Google Ad Grantsは、に登録された非営利団体に対し、月額最大$10,000(年間$120,000)相当のGoogle検索広告枠を無償で提供するプログラムである。日本では、非営利型一般社団法人・NPO法人・公益社団法人・公益財団法人等が対象となる(詳細はAd Grantsの仕組み解説記事を参照)。

二層構造における広告費ゼロ化のメカニズム

通常、営利法人はAd Grantsの対象外である。しかし二層構造では、以下のフローで広告費の最適化が実現する:

  1. 非営利法人がGoogle for Nonprofitsに登録 → Ad Grants資格を取得
  2. 非営利法人がAd Grantsで検索広告を運用 → 非営利法人のミッションに関連するキーワードで広告出稿
  3. 非営利法人のWebサイトが集客ハブとなる → 社会課題に関する情報提供・調査研究の発信
  4. 関心を持ったユーザーが営利法人のサービスに到達 → 非営利法人サイトから営利法人への適切な導線

重要なのは、Ad Grantsの広告は 非営利法人のミッションに直接関連するコンテンツ に誘導する必要があるという点である。営利法人の商品ページに直接誘導することはGoogle Ad Grantsのポリシー違反となる。あくまで非営利法人が独自の社会的ミッションを持ち、その活動の一環として情報発信を行い、結果として営利法人の認知向上や信頼構築につながるという構造が求められる。

具体例:ISVDとコラレイトデザインの場合

ISVDは社会構想デザインに関する調査研究・情報発信を行う非営利型一般社団法人であり、合同会社コラレイトデザインはWebデザイン・マーケティングを行う営利法人である。

  • ISVDがAd Grantsで「非営利法人 設立」「社会課題 データ分析」等のキーワードで広告を出稿
  • ユーザーがISVDのガイド記事や調査レポートにアクセス
  • ISVDのコンテンツを通じて社会課題解決に関心を持ったユーザーが、実務支援を提供するコラレイトデザインの存在を知る

この構造により、コラレイトデザインは 検索広告費をゼロ にしつつ、質の高いリードを獲得している。


税務上のメリット——収益事業課税の構造

非営利型一般社団法人の税制優遇と、二層構造における税務設計

非営利型一般社団法人の課税範囲

非営利型一般社団法人の最大の税務メリットは、収益事業のみ課税 される点にある。

法人税法上、収益事業とは「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるもの」と定義され、34業種が限定列挙されている。

つまり、非営利型一般社団法人がこの34業種に該当しない活動——例えば調査研究、情報発信、セミナー開催(無料)、社会課題の啓発活動——から得た収入(寄附金・助成金・会費等)は 法人税が非課税 となる。

二層構造における税務設計

二層構造の税務設計では、以下の原則が重要となる:

項目営利法人非営利法人
課税範囲全所得収益事業のみ
主な収入売上・報酬寄附金・助成金・会費
広告費削減可能Ad Grantsで無料
法人住民税均等割年7万円〜年7万円〜(免除なし)

非営利法人の維持には法人住民税の均等割(最低年約7万円)や決算・申告費用がかかるが、Ad Grantsの年間$120,000相当の広告枠や税務上の非課税メリットと比較すれば、費用対効果は極めて高い。

注意:非営利型の要件維持

非営利型の税制優遇を受けるためには、法人税法施行令第3条に定める要件を継続的に満たす必要がある。主な要件は以下のとおり:

  • 剰余金の分配を行わない旨を定款に定めていること
  • 解散時の残余財産を国・地方公共団体・公益法人等に帰属させる旨を定款に定めていること
  • 上記の定款に違反する行為を行ったことがないこと
  • 各理事について、理事とその親族等である理事の合計数が理事総数の3分の1以下であること

これらの要件を一つでも満たさなくなった時点で、非営利型の認定が取り消され、全所得課税に移行する。


社会的信用の向上——非営利法人がもたらすアクセス

行政・助成金・テクノロジー支援への新たなアクセス経路

行政・助成金へのアクセス

非営利法人を持つことで、営利法人単体では応募できない 行政の委託事業・助成金プログラム への道が開かれる。多くの助成金は「NPO法人・一般社団法人・公益法人」を対象としており、営利法人は対象外である。

テクノロジー支援プログラムへのアクセス

Google for Nonprofits以外にも、非営利法人が利用できるテクノロジー支援は多岐にわたる:

  • Google Workspace for Nonprofits: Business Standard相当のプランが無料
  • Microsoft 365 for Nonprofits: Business Premium相当が無料または大幅割引
  • Canva for Nonprofits: Canva Proが無料
  • Salesforce Nonprofit Cloud: 10ライセンスまで無料

これらの支援を受けるためには、いずれも非営利法人格が必要である。

ブランディングと採用への効果

「社会貢献活動を行う法人を運営している」という事実は、営利法人のブランディングにも寄与する。特に採用市場では、社会的ミッションを持つ組織への関心が高まっており、二層構造は採用ブランディングの差別化要因となりうる。


二層構造の設計パターン

役割分担・資金フロー・ガバナンスの具体的な設計方法

パターンA:役割分離型(推奨)

最も基本的な設計パターンであり、ISVDとコラレイトデザインが採用している形態である。

  • 営利法人: 本業の事業執行(受託・販売・サービス提供)
  • 非営利法人: 調査研究・情報発信・社会啓発活動・コミュニティ運営

両法人は 法的に完全に独立 しており、資金の流れは業務委託契約・寄附・協賛等の正当な取引によってのみ発生する。

パターンB:事業補完型

営利法人の事業領域の一部を非営利法人で担うパターン。例えば:

  • 営利法人がIT研修サービスを提供 → 非営利法人がデジタルデバイド解消の無料講座を運営
  • 営利法人が建設業を営む → 非営利法人が空き家問題の調査研究を実施

パターンC:地域貢献型

地域密着型の営利法人が、地域貢献を非営利法人で制度化するパターン。地域の商工会議所・自治体との連携において、非営利法人の存在が信頼の基盤となる。

共通の設計原則

いずれのパターンでも、以下の原則を守る必要がある:

  1. ミッションの独立性: 非営利法人は独自の社会的ミッションを持つこと。営利法人の「下請け」であってはならない
  2. ガバナンスの分離: 役員構成を完全に同一にしない。少なくとも理事の過半数は営利法人の役員以外とする
  3. 会計の透明性: 両法人間の取引は全て適正対価で行い、帳簿に明記する
  4. 実態のある活動: 非営利法人が実際に社会貢献活動を行っていること。ペーパー法人は税務否認のリスクがある

リスクと注意点

50%ルール・利益供与禁止・税務否認リスクへの対処

50%ルール

Ad Grantsのポリシーでは、非営利法人のWebサイトのコンテンツのうち、商業的コンテンツ(営利法人のサービス紹介等)が過度に多い場合、アカウントが停止される可能性がある。非営利法人のサイトは ミッションに関連するコンテンツが主体 でなければならない。

利益供与の禁止

営利法人から非営利法人への不当な利益供与(市場価格を大幅に超える業務委託費の支払い等)は、法人税法上の寄附金認定を受ける可能性がある。逆に、非営利法人から営利法人への利益供与は、非営利型の要件違反となる。

両法人間の取引は、必ず 独立当事者間取引(アームズ・レングス原則) に基づく適正対価で行うこと。

税務否認リスク

非営利法人が実態のない「名ばかり法人」であると税務当局に判断された場合、非営利型の認定取消しに加え、過去に遡って全所得課税が適用される可能性がある。以下の点に注意が必要である:

  • 定期的な理事会・社員総会の開催と議事録の作成
  • 事業報告書・決算書の適正な作成と公開
  • ミッションに基づく実質的な活動の実施と記録

Google for Nonprofits の適格性リスク

Google for Nonprofitsの適格性審査は定期的に行われる。非営利法人としての活動実態がない、または営利法人の広告代理的な運用をしていると判断された場合、アカウントが停止される。


どのような経営者に向いているか

業種・規模・フェーズ別の適性判断

適性が高いケース

  • 月10万円以上のリスティング広告費を支出している: Ad Grantsの月$10,000が直接的なコスト削減効果を持つ
  • 事業に社会的要素がある: 教育・福祉・環境・文化・地域活性化等に関連する事業を営んでいる
  • コンテンツマーケティングを重視している: 非営利法人の情報発信が営利法人のSEO・ブランディングにも寄与する
  • 採用ブランディングを強化したい: 社会的ミッションを持つ組織としてのアピールが可能になる

適性が低いケース

  • 事業に社会的要素を見出しにくい: 非営利法人のミッションを無理に作ると、実態のない法人になるリスクがある
  • 法人維持のコスト(年10〜20万円)が負担になる: 売上規模が小さい段階では、維持コストがメリットを上回る可能性がある
  • ガバナンスに割けるリソースがない: 二法人の理事会・決算・申告を適正に行う余力がない場合は時期尚早

設立ステップの概要

営利法人側から非営利法人を設立する具体的手順

既に営利法人を持つ経営者が非営利型一般社団法人を設立する場合の基本ステップは以下のとおりである:

  1. ミッションの策定: 営利法人の事業に関連しつつ、独立した社会的ミッションを定義する
  2. 社員の確保: 最低2名の社員(設立時の出資は不要)。営利法人の役員以外の者を含めることが望ましい
  3. 定款の作成: 非営利型の要件(剰余金不分配・残余財産帰属制限等)を盛り込んだ定款を作成する
  4. 定款認証と設立登記: 公証人による定款認証を受けたうえで、法務局への設立登記を行い法人格を取得する(一般社団法人法第13条・第22条。所要2〜4週間
  5. Google for Nonprofitsへの登録: 設立後、Goodstackでの認証を経てGoogle for Nonprofitsに申請(詳細はGoogle for Nonprofits申請ガイドを参照)
  6. Ad Grantsの申請・運用開始: Google for Nonprofits承認後、Ad Grantsを有効化し広告運用を開始

設立から Ad Grants の運用開始まで、早ければ 2〜3ヵ月 で到達可能である。


まとめ

二層構造の導入判断に向けた次のアクション

営利法人と非営利法人の二層構造は、「知っていれば選べた」選択肢の代表例である。Ad Grantsによる広告費の最適化、非営利型法人の税制メリット、社会的信用の向上——これらのメリットは、正しい設計と継続的な運用があってはじめて実現する。

二層構造の導入を検討する経営者は、まず以下の3点を確認してほしい:

  1. 自社の事業に関連する 社会的ミッション を定義できるか
  2. 非営利法人の維持コスト(年10〜20万円)を上回る メリットが見込めるか
  3. 二法人のガバナンスを適正に維持する リソースがあるか

3つとも「はい」であれば、二層構造は有力な選択肢となる。次のステップとして、非営利型一般社団法人とNPO法人の比較を読み、非営利側の法人格の詳細を理解することを勧める。


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参考文献

法人税法(昭和四十年法律第三十四号)e-Gov法令検索 (2024)

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)e-Gov法令検索 (2024)

収益事業の範囲(国税庁タックスアンサー No.5105)国税庁 (2024)

Google Ad GrantsGoogle (2025)

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読んだ後に考えてみよう

  1. 自社の広告費のうち、検索広告が占める割合はどの程度か? Ad Grantsで代替可能な領域はあるか?
  2. 自社の事業活動のなかに、非営利法人として切り出せる社会貢献要素はあるか?
  3. 二層構造の維持コスト(法人住民税均等割・決算費用等)は、得られるメリットに見合うか?

この記事の用語

Google Ad Grants
Google for Nonprofitsの一部として提供される検索広告プログラム。対象非営利団体に月額最大$10,000(年間$120,000)相当のGoogle検索広告枠を無償で付与する。CPC上限$2.00、CTR 5%以上の維持が条件。
Google for Nonprofits
Googleが非営利団体に提供するプログラム。Google Ad Grants(月額最大$10,000相当の検索広告枠)、Google Workspace無償化、YouTube Nonprofit Programなどの特典を含む。日本ではNPO法人・非営利型一般社団法人・公益法人・社会福祉法人などが対象。
非営利型一般社団法人
一般社団法人のうち、定款で非営利性が確保された法人。法人税法施行令第3条の要件を満たすことで、収益事業以外の所得が非課税となる。設立は2名以上の社員で可能で、NPO法人と異なり活動分野の制限がない。

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