一般社団法人社会構想デザイン機構

ISVDの実践記録——営利法人+非営利法人の二層構造で得られた具体的メリット

合同会社コラレイトデザイン(営利)と一般社団法人ISVD(非営利)の二層構造を自ら実践した記録。Google Ad Grantsの月$10,000広告枠、Workspace無償プラン、助成金申請資格など、二層構造がもたらす具体的メリットとリスク管理を実体験に基づいて解説する。

ISVD編集部
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ざっくり言うと

  1. 営利法人と非営利法人を別法人として設立する二層構造により、Google for Nonprofitsの特典(Ad Grants月$10,000・Workspace無償)を合法的に活用できる
  2. コラレイトデザインのWeb制作・広告運用スキルをISVDの社会事業に投入することで、外注コストゼロで高品質なデジタル基盤を構築した
  3. 二層構造の運用には50%ルール(非営利活動比率)・利益供与禁止・税務リスク管理の3つの注意点がある

はじめに

なぜ二層構造を選んだのか——この記事の位置づけ

本記事は、筆者が代表を務める合同会社コラレイトデザイン(営利法人)と一般社団法人社会構想デザイン機構(ISVD)(非営利法人)の二層構造について、設立の動機から運用実態、得られたメリットとリスクまでを実践記録として開示するものである。

「営利法人と非営利法人を両方持つ」という選択肢は、制度上は完全に合法でありながら、日本ではほとんど認知されていない。筆者自身、この構造を設計するにあたって参考にできる日本語の実践記録が見つからなかった。だからこそ、この記事を書く意味がある。

本記事の内容は、一般論や制度解説ではなく、実際に二つの法人を運営する中で得た一次情報に基づいている。「こうすればできる」ではなく「こうやった結果、こうなった」を記録する。


なぜ二層構造を選んだのか

コラレイトデザインの事業

合同会社コラレイトデザインは、Web制作・デザイン・広告運用を主たる事業とする営利法人である。クライアントワークを通じて、サイト構築、Google広告の運用、データ分析の実務スキルを蓄積してきた。

営利法人としての活動を続ける中で、蓄積したスキルセットが社会課題の解決にそのまま転用できることに気づいた。具体的には以下の3点である。

  1. Webサイト構築: 社会課題に関する情報発信基盤をゼロコストで構築できる
  2. Google広告運用: の運用ノウハウがそのまま適用できる
  3. データ分析: 統計データの可視化・解釈を通じた社会課題の構造的理解

非営利法人が必要だった理由

これらのスキルを社会事業として展開するにあたり、営利法人のままでは構造的に限界がある。

第一に、の特典は非営利法人にしか付与されない。月$10,000のAd Grants広告枠も、Google Workspaceの無償プランも、営利法人では申請すらできない。

第二に、助成金やの申請資格は非営利法人に限定されるケースが多い。営利法人が社会貢献活動を行っていても、制度上の資金調達手段にアクセスできない。

第三に、社会課題に関する情報発信の信頼性である。営利法人が「社会のために」と発信しても、マーケティングの一環と見なされやすい。非営利法人としての発信は、組織の目的そのものが社会的ミッションであるため、受け手の信頼構造が異なる。

これらの理由から、営利法人を廃止して非営利法人に一本化するのではなく、両方を併存させる「二層構造」を選択した。


二層構造の設計——役割分担の具体像

コラレイトデザイン(営利法人)の役割

  • クライアントワーク(Web制作・デザイン・広告運用)による収益事業
  • 実務スキルの蓄積と高度化
  • ISVDへの技術的支援(ボランタリーベース)

ISVD(非営利法人)の役割

  • 社会課題のデータ分析・研究・発信
  • isvd.or.jpの運営(コラム・実践ガイド・調査研究の公開)
  • Google for Nonprofitsの特典の受領・活用
  • 助成金・休眠預金への申請

両法人の関係

重要なのは、コラレイトデザインとISVDの間に資金的な利益供与関係がない点である。コラレイトデザインからISVDへの金銭的な支援は行っていない。代表が同一人物であるため、コラレイトデザインで培ったスキルをISVDの活動に個人として投入している形になる。

この構造により、以下の2点が担保される。

  1. 税務上の明確性: 営利事業の収益と非営利事業の活動が法人格レベルで分離されている
  2. 制度的適格性: ISVDは純粋な非営利法人としてGoodstackの審査を通過できる

Google for Nonprofitsの取得と活用

Ad Grants・Workspace・YouTube Nonprofit Programの活用実績

取得プロセス

ISVDはとして設立後、Google for Nonprofitsの申請をGoodstack経由で行った。審査で重視されたのは以下の3点である。

  1. 定款における非営利性の確保(剰余金の分配禁止、残余財産の帰属制限)
  2. Webサイト(isvd.or.jp)の存在と活動内容の公開
  3. 事業内容の公益性(社会課題のデータ分析・研究・発信)

審査は約2週間で完了し、Google for Nonprofitsの全特典へのアクセスが承認された。

Ad Grants——月$10,000の広告枠

は、ISVDにとって最も価値の高い特典である。月額最大$10,000(年間$120,000)相当のGoogle検索広告枠が無償で付与される。

ISVDではこの広告枠を以下の目的で活用している。

  • isvd.or.jpへの集客: 社会課題に関するガイド記事・コラムへの検索流入の獲得
  • 認知度向上: 「非営利法人設立」「EBPM」「ロジックモデル」等のキーワードでの露出
  • データ収集: 検索クエリデータを通じた社会課題への関心の定量的把握

Ad Grantsの運用には5%以上の維持が義務付けられているが、コラレイトデザインでのGoogle広告運用経験がそのまま活きている。キーワード選定、の設定、の最適化といった実務ノウハウを、追加の学習コストなしにISVDのAd Grants運用に適用できた。

これが二層構造の最大の利点である。営利法人で蓄積した広告運用スキルを、非営利法人の無償広告枠に直接投入できる。外部の広告代理店に依頼すれば月額数十万円の運用費用が発生するところを、自前のスキルでゼロコスト運用している。

Google Workspace——インフラコストゼロ

Google for Nonprofitsには、Google Workspaceの無償プラン(Business Standard相当)が含まれる。ISVDが実際に利用している機能は以下の通りである。

機能内容通常料金(参考)
Gmail@isvd.or.jp 独自ドメインメール
Google Drive共有ストレージ100TB
Google Meetビデオ会議(150名まで・録画機能付き)
Google カレンダー組織カレンダー
Google ドキュメント / スプレッドシート共同編集

Business Standardプランの通常料金は1ユーザーあたり月額1,600円(税抜・年額払い)である。仮に5ユーザーで運用した場合、年間96,000円のコスト削減に相当する。小規模な非営利法人にとって、この固定費ゼロの影響は大きい。

特に100TBの共有ストレージは、調査データ・統計資料・画像素材の保管に不可欠である。個人のGoogleアカウント(15GB)では到底足りない規模のデータを、組織として管理できる。


設立から運用開始までのタイムライン

法人設立からGoogle for Nonprofits取得までの時系列

ISVDの場合、設立から本格運用までの流れは以下の通りであった。

フェーズ所要期間内容
定款設計約1週間非営利型要件を満たす定款の起草。法人税法施行令第3条の要件確認
法務局への登記申請1日設立登記申請。登録免許税6万円
登記完了約1週間法人番号の付与
銀行口座開設約2週間法人口座の開設
Webサイト構築約2週間isvd.or.jpの構築・公開(Next.js + Vercel)
Google for Nonprofits申請約2週間Goodstack経由の審査・承認
Ad Grants運用開始承認後即日広告アカウントの設定・キャンペーン作成

定款設計からAd Grants運用開始まで、約2か月である。NPO法人の場合は行政認証に3〜6か月を要するため、一般社団法人の設立スピードは二層構造を早期に稼働させるうえで決定的な優位性を持つ。


二層構造の具体的メリット

コスト削減・資金調達・スキル活用の数字

1. 広告費の実質無償化

Ad Grantsの月$10,000は、年間換算で約180万円(1ドル=150円換算)の広告価値に相当する。コラレイトデザインが営利事業で同等の広告を出稿する場合、この金額は全額自己負担となる。二層構造によりISVDの社会事業に関する広告がゼロコストで運用できることは、広告費の最適化という観点で極めて大きい。

2. インフラコストの削減

Google Workspace無償プランにより、メール・ストレージ・ビデオ会議のインフラコストがゼロになる。加えてISVDのWebサイトはVercelの無償プランで運用しており、サーバー費用も発生していない。非営利法人の固定費を限りなくゼロに近づけることで、活動原資を事業そのものに集中できる。

3. スキルの直接転用

コラレイトデザインで蓄積したWeb制作・広告運用・データ分析のスキルを、ISVDの活動にそのまま転用している。具体的には以下の通りである。

  • サイト構築: Next.js + TypeScript + MDXによるisvd.or.jpの構築・運用(外注費ゼロ)
  • 広告運用: Ad Grantsのキャンペーン設計・最適化(代理店費用ゼロ)
  • データ分析: e-Stat APIを活用した統計データの取得・可視化(分析ツール費用ゼロ)
  • デザイン: ロゴ・OGP画像・図解の制作(デザイン外注費ゼロ)

仮にこれらを外注した場合の概算コストは、サイト構築で100〜300万円、広告運用で月額20〜50万円、データ分析で月額30〜60万円、デザインで50〜100万円程度となる。二層構造とスキル転用により、これらがすべてゼロコストで実現している。

4. 資金調達チャネルの拡大

非営利法人の設立により、営利法人では申請できない資金調達手段にアクセスできるようになった。

  • 助成金: 各種財団・行政の助成プログラムへの申請資格
  • 休眠預金: JANPIAを通じた休眠預金等活用制度への申請資格
  • 寄附: 非営利法人への寄附は寄附者側の税制優遇がある場合がある

5. 社会的信頼性の分離

営利事業と社会事業が法人格レベルで分離されていることで、ISVDの発信する情報が「マーケティング目的ではない」ことが制度的に担保される。isvd.or.jpにはアフィリエイトリンクを一切設置しておらず、収益化を目的としない純粋な情報提供の場として運営している。


注意点とリスク管理

50%ルール・利益供与禁止・税務リスク

二層構造には明確なメリットがある一方で、運用上の注意点も存在する。以下の3点は、二層構造を維持するうえで常に意識すべき事項である。

1. 50%ルール(非営利活動比率)

Google for Nonprofitsの維持には、法人の活動が公益目的であることが求められる。非営利型一般社団法人が「非営利型」の要件を維持するためには、収益事業の比率が法人活動全体の過半を占めないよう注意が必要である。ISVDの場合、収益事業は行っておらず、活動のすべてが社会課題のデータ分析・研究・発信であるため、この要件は明確にクリアしている。

2. 利益供与の禁止

営利法人から非営利法人への不当な利益供与は、税務上の問題を引き起こす。具体的には以下の行為を回避する必要がある。

  • コラレイトデザインの収益をISVDに無償で移転すること
  • ISVDの特典(Ad Grants等)をコラレイトデザインの営利事業の宣伝に使用すること
  • 両法人間での市場価格を逸脱した取引

ISVDのAd Grantsで表示される広告は、すべてISVDの社会事業(社会課題に関するガイド記事・調査研究等)へのリンクであり、コラレイトデザインの営利サービスの宣伝には一切使用していない。この一線を守ることが、二層構造の適法性の根幹である。

3. 税務区分の明確化

非営利型一般社団法人は、法人税法上、収益事業(法人税法施行令第5条に定める34業種)のみが課税対象となる。ISVDの主たる活動(データ分析・研究・情報発信)は収益事業に該当しないため非課税である。ただし、将来的に有償のコンサルティングや研修事業を行う場合は、その部分が課税対象となる可能性があり、事業の拡大時には税理士との事前相談が不可欠である。


二層構造を検討している人へ

判断基準と最初のステップ

向いているケース

二層構造は、以下のいずれかに該当する場合に特に有効である。

  • すでに営利法人を運営しており、社会貢献活動を始めたい: 営利法人のスキルを非営利法人に転用できる
  • Web制作・広告運用・IT関連のスキルを持っている: Google for Nonprofitsの特典を最大限に活用できる
  • 小規模で機動的に動きたい: 一般社団法人は2名から設立可能で、NPO法人より圧倒的に早く始められる

向いていないケース

一方で、以下の場合は二層構造のメリットが薄い。

  • 営利事業と非営利事業の領域が完全に重複している: 利益供与の疑いを避けることが難しくなる
  • 非営利法人側の活動実態を維持できない: Webサイトの更新や事業報告ができないと、Google for Nonprofitsの審査更新に支障をきたす
  • 税務管理のコストを負担したくない: 2法人分の決算・税務申告が必要になる

最初のステップ

二層構造を検討する場合の最初のステップは以下の3つである。

  1. 非営利法人の目的を明確化する: 「何のための非営利法人か」を定款レベルで定義できるか確認する
  2. 営利法人との役割分担を設計する: 利益供与の疑いが生じない境界線を明確にする
  3. Google for Nonprofitsの申請要件を確認する: 申請ガイドで審査基準を把握しておく

まとめ

競合が出せないコンテンツとしての位置づけ

本記事は、コラレイトデザインとISVDの二層構造について、実際の運用経験に基づいて記述した。制度解説記事は他にもあるが、二層構造を自ら実践し、その具体的なメリット・リスク・運用方法を一次情報として公開している記事は、筆者の知る限り日本語では存在しない。

この「実践者しか書けない」という性質こそが、本記事の最大の価値である。二層構造は制度上の知識だけでは設計できない。定款の書き方、Goodstackの審査で何を聞かれるか、Ad Grantsの運用でどこに注意すべきか——これらは実際にやった人間にしかわからない。

二層構造は万能ではない。しかし、営利法人のスキルを社会事業に投入し、非営利法人の制度的優遇を合法的に活用するという設計は、知っていれば選べる選択肢である。本記事が、その選択肢の存在を知る最初の一歩になれば幸いである。


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参考文献

Google for Nonprofits — 非営利団体向けプログラムGoogle (2026)

Google Ad Grants — プログラムポリシーGoogle (2026)

Google for Nonprofits — 利用資格Google (2026)

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律e-Gov法令検索 (2026)

法人税法e-Gov法令検索 (2026)

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読んだ後に考えてみよう

  1. 自分の営利事業のスキルセットの中に、社会課題の解決に転用できるものはあるか?
  2. 非営利法人を設立した場合、Google for Nonprofitsの特典だけで設立コストを回収できるか?
  3. 二層構造の運用で、営利事業と非営利事業の境界を明確に説明できるか?

この記事の用語

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広告のインプレッション(表示回数)に対するクリック数の割合。CTR = クリック数 ÷ インプレッション数 × 100で算出。Ad Grantsではアカウント全体でCTR 5%以上の維持が義務付けられている。
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Google for Nonprofits
Googleが非営利団体に提供するプログラム。Google Ad Grants(月額最大$10,000相当の検索広告枠)、Google Workspace無償化、YouTube Nonprofit Programなどの特典を含む。日本ではNPO法人・非営利型一般社団法人・公益法人・社会福祉法人などが対象。
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10年以上取引のない預金。休眠預金等活用法(2018年施行)により、民間公益活動の資金として活用される。JANPIAが資金分配団体として指定され、NPO法人・公益法人・非営利型一般社団法人等が助成を受けられる。
非営利型一般社団法人
一般社団法人のうち、定款で非営利性が確保された法人。法人税法施行令第3条の要件を満たすことで、収益事業以外の所得が非課税となる。設立は2名以上の社員で可能で、NPO法人と異なり活動分野の制限がない。
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