ざっくり言うと
- 目的条項は将来の事業拡張を見据えつつ、具体性を失わない範囲で記載する
- 社員の資格や入退社条件に不当な制限を設けると、公証人の認証拒否リスクがある
- 理事・監事の任期は最長2年だが、再任可の定めを入れることで運営の継続性を確保できる
- 残余財産の帰属先を国・地方公共団体・公益法人等に限定することが非営利型の必須要件である
はじめに
定款は法人の「憲法」——作成段階のミスが設立後に長期間響く理由
非営利型一般社団法人の設立において、定款は法人の「憲法」に相当する最重要書類である。
定款の記載内容は、法人の活動範囲、ガバナンス構造、税制上の取扱い、そして将来の事業拡張の可能性までを規定する。作成段階で不備があると、公証人による認証が拒否されるだけでなく、設立後に税制優遇を受けられない、事業の幅が狭められる、理事の交代ができないといった問題が長期にわたって組織運営を制約する。
本記事では、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」)の規定を踏まえ、定款作成で見落としがちな7つのポイントを実務的な観点から解説する。
ポイント1: 目的条項の書き方
なぜ目的条項が重要か
定款の目的条項は、法人がどのような活動を行うかを対外的に宣言するものである。一般法人法第11条第1項第1号は、定款に「目的」を記載することを義務づけている。
一般社団法人にはNPO法人のような法定の活動分野制限がないため、目的を自由に設定できる。しかし、この自由度がかえって「何をどこまで書くべきか」という判断を難しくしている。
広すぎず狭すぎずの原則
目的条項の記載には、以下の2つのリスクがある。
広すぎる場合のリスク:
- 「社会貢献に関する一切の事業」のように抽象的すぎると、公証人から「目的が不明確」として認証時に補正を求められる場合がある
- 金融機関の口座開設審査で「事業内容が不明瞭」と判断される可能性がある
狭すぎる場合のリスク:
- 設立後に新たな事業を始める際、定款変更(社員総会の特別決議)が必要となる
- 定款変更のたびに登記変更の手続き(登録免許税3万円)が発生する
実務上の推奨
目的条項は「主たる事業を具体的に列挙し、最後に包括条項を加える」のが定石である。
(目的)
第○条 当法人は、○○に関する以下の事業を行うことを目的とする。
(1) ○○に関する調査研究事業
(2) ○○に関する教育・研修事業
(3) ○○に関する情報発信事業
(4) ○○に関するコンサルティング事業
(5) 前各号に掲げる事業に附帯又は関連する事業
第5号の「附帯又は関連する事業」が包括条項にあたり、将来の事業拡張に対する余白を確保するものである。
ポイント2: 社員の資格と入退社の条件
社員とは何か
一般社団法人における「社員」とは従業員のことではなく、法人の構成員(メンバー)を指す。社員は社員総会における議決権を有し、法人の最高意思決定に参加する存在である。一般法人法は設立時に2名以上の社員を要求している(第10条第1項)。
入退社条件の設計
定款には社員の資格、入社(加入)の条件、退社(脱退)の条件を記載する必要がある。ここで注意すべきは、社員の資格に不当な制限を設けないことである。
一般法人法第11条第1項第4号は「社員の資格の得喪に関する規定」を定款の絶対的記載事項としている。公証人は認証の際にこの条項を審査するため、以下のような規定は認証拒否のリスクがある。
- 「社員は理事会が認めた者に限る」(社員の入社を理事会の恣意的判断に委ねる規定)
- 「社員の退社は理事長の承認を要する」(退社の自由を不当に制限する規定)
一般法人法第28条第1項は「やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができる」と定めており、この退社の自由は強行規定である。定款でこれを制限することはできない。
非営利型の要件との関係
非営利型一般社団法人(非営利性が徹底された法人の類型)では、社員に共通する利益を図る活動が主目的ではないため、社員の資格を特定の職業や資格に限定するのではなく、法人の目的に賛同する者を広く受け入れる設計が望ましい。
ポイント3: 理事・監事の選任と任期
機関設計の基本
一般社団法人には最低1名の理事が必要である(一般法人法第60条第1項)。理事会を設置する場合は理事3名以上と監事1名以上が必要となる(第65条第3項、第61条)。
非営利型一般社団法人では、理事の親族等制限(各理事について、理事とその親族等の合計が理事総数の3分の1以下であること)が法人税法施行令で求められているため、機関設計の段階でこの制限を考慮する必要がある。
任期の上限と再任
理事の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までである(一般法人法第66条)。この2年という上限は定款で短縮することはできても延長することはできない。監事の任期は最長4年である(第67条第1項)。
ここで実務上きわめて重要なのが、「再任を妨げない」旨の記載である。
(理事及び監事の任期)
第○条 理事の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち
最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとする。
2 監事の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち
最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとする。
3 補欠として選任された理事又は監事の任期は、前任者の
残任期間と同一とする。
4 理事及び監事は、再任されることができる。
第4項の「再任されることができる」という一文がなければ、任期満了のたびに新たな理事を探さなければならなくなる。小規模な法人にとって、この記載の有無は運営の継続性に直結する。
ポイント4: 社員総会の決議事項と議決権
社員総会の位置づけ
社員総会は一般社団法人の最高意思決定機関である(一般法人法第35条第1項)。理事会を設置しない法人では、社員総会がすべての事項について決議できる。理事会設置法人では、社員総会は法律と定款に定められた事項に限り決議する(第35条第2項)。
普通決議と特別決議
社員総会の決議には2つの種類がある。
普通決議(第49条第1項): 総社員の議決権の過半数を有する社員が出席し、出席した社員の議決権の過半数で決する。
特別決議(第49条第2項): 総社員の半数以上であって、総社員の議決権の3分の2以上の多数で決する。定款変更、合併、解散などの重要事項が該当する。
議決権の設計
一般法人法第48条第1項は「社員は、各一個の議決権を有する」と定めている。ただし、定款で別段の定めをすることは可能である(同条ただし書)。
実務上の注意点として、非営利型一般社団法人においては、特定の社員に過大な議決権を与える設計は「非営利性が徹底された法人」の要件との関係で慎重に判断する必要がある。特定個人が法人の意思決定を支配する構造は、非営利型の趣旨に反すると判断されるリスクがある。
ポイント5: 基金制度の導入検討
基金制度とは
基金制度は、一般社団法人が資金調達のために利用できる仕組みである(一般法人法第131条〜第145条)。基金とは、法人に拠出された財産であり、法人が拠出者に対して返還義務を負うものである。
重要なのは、基金制度の導入は任意であるという点である。定款に基金に関する規定を設けなければ、基金を募集することはできない。
導入のメリット
基金制度には以下のメリットがある。
- 出資を受けられる: 一般社団法人には株式会社の「資本金」に相当する制度がないため、基金は設立後の活動資金を外部から調達する主要な手段となる
- 返還義務がある: 基金は寄付ではなく返還義務を伴うため、拠出者にとって「出しやすい」資金調達手段である
- 利息は不要: 基金の返還に際して利息を付す義務はない(一般法人法第141条第2項)
定款への記載
基金制度を導入する場合、定款に以下の事項を記載する必要がある。
- 基金の拠出者の権利に関する規定
- 基金の返還の手続きに関する規定
設立時に基金制度を導入する予定がなくても、将来の資金調達の選択肢を確保するために、設立時から定款に基金に関する規定を盛り込んでおくことを推奨する。設立後に基金制度を導入するには定款変更が必要となり、社員総会の特別決議を経なければならないためである。
ポイント6: 残余財産の帰属先
非営利型の最重要要件
非営利型一般社団法人の税制優遇(収益事業のみ課税)を受けるための要件のうち、定款に直接関わるものとして最も重要なのが残余財産の帰属先の限定である。
国税庁が示す非営利型の要件(非営利性が徹底された法人の類型)では、定款に以下を定めることが求められている。
解散したときは、その残余財産を国若しくは地方公共団体又は次に掲げる法人に帰属させる旨を定款に定めていること。
- 公益社団法人又は公益財団法人
- 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第17号イからトまでに掲げる法人
定款への記載例
(残余財産の帰属)
第○条 当法人が清算をする場合において有する残余財産は、
社員総会の決議を経て、国若しくは地方公共団体又は
公益社団法人若しくは公益財団法人に贈与するものとする。
よくある失敗
以下のような記載は非営利型の要件を満たさない。
- 「残余財産は社員に分配する」→ 非営利性が否定される
- 「残余財産は理事会が決定した団体に帰属させる」→ 帰属先が限定されていない
- 残余財産の帰属に関する条項そのものが欠落している → 非営利型として認められない
この条項の不備は、法人税法上の「公益法人等」としての地位を失うことを意味する。34業種の収益事業以外が非課税という税制上の優遇が受けられなくなり、全所得が課税対象となる。
ポイント7: 事業年度と決算公告の方法
事業年度の選び方
事業年度は定款の絶対的記載事項である(一般法人法第11条第1項第8号)。多くの法人は4月〜3月を採用するが、設立時期によっては以下の点を考慮すべきである。
考慮すべき要素:
- 設立月との関係: 設立が10月であれば、初年度が3月末決算だと最初の事業年度がわずか6か月になる。短すぎる事業年度は、実績の蓄積と助成金申請の観点で不利に働くことがある
- 助成金の申請スケジュール: 主要な助成金の申請時期に合わせて事業年度を設定すると、決算書の準備がスムーズになる
- 税務申告の期限: 法人税の確定申告は事業年度終了後2か月以内が原則。年度末の繁忙期と重なると事務負担が集中する
決算公告の方法
一般法人法第128条は、一般社団法人に貸借対照表(大規模法人の場合は損益計算書も)の公告を義務づけている。定款には公告の方法を記載する必要がある(第11条第1項第9号)。
公告の方法には以下の選択肢がある。
| 方法 | コスト | 特徴 |
|---|---|---|
| 官報に掲載 | 約6万円〜/回 | 最も一般的。費用がかかるが手続きが確立されている |
| 日刊新聞紙に掲載 | 数十万円〜/回 | 大規模法人向け。高コスト |
| 電子公告 | 年間数千円〜 | 自法人のウェブサイトに掲載。低コストだが5年間の掲載義務あり |
| 主たる事務所の公衆の見やすい場所に掲示 | 無料 | 法律上認められるが、実務上の信頼性は低い |
小規模な非営利法人にとっては電子公告が最もコスト効率が良い。ただし、電子公告を選択する場合は、公告を掲載するウェブサイトのURLを登記する必要がある。
まとめ
定款作成チェックリストと次のステップ
定款作成における7つのポイントを整理すると以下のとおりである。
| # | ポイント | 失敗した場合のリスク |
|---|---|---|
| 1 | 目的条項は具体的かつ拡張可能に | 事業拡大のたびに定款変更が必要 |
| 2 | 社員の資格・入退社条件に不当な制限を設けない | 公証人の認証拒否 |
| 3 | 理事・監事の任期に「再任可」を明記 | 任期満了のたびに新任が必要 |
| 4 | 社員総会の決議事項と議決権を適切に設計 | ガバナンス不全・意思決定の停滞 |
| 5 | 基金制度を設立時に盛り込む | 資金調達の選択肢が狭まる |
| 6 | 残余財産の帰属先を限定する | 非営利型の税制優遇を喪失 |
| 7 | 事業年度と決算公告を実務的に設計 | 事務負担の集中・公告コストの増大 |
定款は一度作成すれば終わりではなく、法人の成長に伴って変更が必要になることもある。しかし、設立時に正しい設計をしておけば、変更の頻度と手間を大幅に減らせる。
法人格の選択については「非営利型一般社団法人とは何か——NPO法人との違いと選び方」を参照されたい。定款作成が完了したら、次のステップは公証人による認証と法務局への登記申請である。
参考文献
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