千葉県銚子市で、輸入サバの価格高騰により水産加工業者の約2割が倒産か事実上の廃業状態にあるとNHKが報じた。財務省の貿易統計で輸入さばの単価を計算すると、2015年の204円/kgから2025年の523円/kgへ2.56倍になっている。国産のさば類は同じ10年で生産量が46.9%減り、産地価格は84.3%上がった。銚子漁港の水揚げの5.2%しかサバは占めていない。
ざっくり言うと
- 輸入さばの単価は2015年204円/kgから2025年523円/kgへ2.56倍になった
- 数量は10.1%減ったのに金額は20.3%増えた(2024年→2025年)
- 切り替え先の国産さば類も、生産量が10年で46.9%減っている
| 年 | 数量(千t) | 金額(億円) | 単価(円/kg) |
|---|---|---|---|
| 2015 | 73 | 149 | 204 |
| 2023 | 77 | 260 | 338 |
| 2024 | 68 | 265 | 390 |
| 2025 | 61 | 319 | 523 |
単価は数量と金額から割った値。数量は通関時の形態による重量なので、荷姿が違えば単価も変わる。国産に切り替えれば済む話にならないのは、国産の生産量が同じ10年で半分近くまで落ちているためである。
何が起きているのか
加工業者の約2割が倒産か事実上の廃業。原料は輸入サバである
NHKが2026年8月8日、千葉県銚子市について報じた。 「原料の大半を占めるノルウェー産などの輸入サバの価格高騰で水産加工業者の採算が悪化し、およそ2割が倒産や、事実上の廃業状態にあることが分かりました」 という書き出しである。
銚子市の水産加工がどれだけの規模かは、市の資料に出ている。水産加工関係の事業所数は79社、従業者数は1,743人、製造品出荷額等は6,178,306万円である。約618億円になる。
この618億円は、市全体の工業出荷額1,608億円の約38%に相当する(醤油醸造等は約48%)。 市の工業の4割弱が、輸入原料の値段で動く産業である。
背景と文脈
輸入も国産も、量が減って値が上がった。逃げ先がない
輸入さばの単価は10年で2.56倍
まず原料の値段を確かめる。水産白書の参考資料に、財務省の貿易統計から作った品目別の輸入数量と金額が載っている。
さばの欄は次のとおりである。平成27年(2015年)が数量73千トン・金額149億円、令和5年(2023年)が77千トン・260億円、令和6年(2024年)が68千トン・265億円、令和7年(2025年)が61千トン・319億円。
金額を数量で割ると単価が出る。204円/kg、338円/kg、390円/kg、523円/kg。 10年で2.56倍である。
量が減って、払う金が増えた
1年だけを切り出すと、動きの向きがはっきりする。令和6年から令和7年にかけて、数量は10.1%減り、金額は20.3%増えた。
買える量が減って、払う金は増えている。 加工業は、原料を仕入れて加工して売る。仕入れの単価が上がった分を売値に乗せられなければ、そのまま採算が落ちる。
切り替え先の国産も減っている
では国産に切り替えればいいのか。そうならない。
さば類の海面漁業生産量は、平成26年(2014年)の482千トンから令和6年(2024年)の256千トンへ46.9%減った。10年で半分近くまで落ちている。
値段も上がっている。さば類の産地価格は平成27年の80円/kgから令和7年の147円/kgへ84.3%上がった。白書も、太平洋側での不漁が続いてサバ等が高値で推移していると書いている。
輸入も国産も、量が減って値が上がった。 片方が高いからもう片方へ、という逃げ方ができない。
銚子漁港に揚がるサバは5.2%
銚子漁港そのものの数字も見ておく。令和6年の全国主要漁港の水揚順位で、銚子は数量が第2位の146,548トン、金額が第7位の194億1,729万円である。数量の第1位は釧路の173,659トン。
中身が偏っている。水揚量の82.4%がマイワシ、5.2%がサバで、この2魚種で約88%を占める。水揚金額でもマイワシ57.0%、サバ7.0%で約64%になる。
146,548トンの5.2%は、約7,600トンである。全国の輸入量61千トンと比べれば、8分の1の規模になる。 水揚げ全国2位の港のすぐ隣で、加工業が輸入原料の値段で潰れている。
構造を読む
揚がる魚と加工する魚が違う。設備の縮小は10年以上前から続いている
揚がる魚と、加工する魚が違う
これが構造の中心である。銚子漁港に揚がる魚の8割はマイワシで、サバは20分の1しかない。一方で加工の側は、NHKの表現を借りれば「原料の大半を占めるノルウェー産などの輸入サバ」で動いている。
港と工場が同じ町にあっても、扱っている魚は別である。 水揚げが日本一級だという事実は、加工業の原料調達を守らない。
しかもマイワシの用途も偏っている。マイワシの水揚数量のうち36%が生鮮・練り製品・すり身・缶詰などの食用で、残り64%は養殖または漁業用のえさに使われている。 揚がっている魚の大半は、人が食べる商品にはなっていない。
設備の縮小は10年以上前から続いている
今回の廃業は、突然始まった話ではない。
冷凍冷蔵工場は平成20年の104件から、平成25年88件、平成30年69件、令和5年52件へ減った。 15年でちょうど半分である。 1日あたりの凍結能力も3,639トンから2,951トンへ、冷蔵能力は204,305トンから162,720トンへ落ちている。
製氷も同じ形で動いている。製氷工場は8件から4件へ、製氷能力は1日795トンから583トンへ減った。
缶詰はもっと早い。水産缶詰・瓶詰の加工を行う事業所は、平成13年の市内4社から平成26年に2社になった。
従業者と出荷額が同じ率で減っている
事業所の側の数字も並べる。従業者4人以上の水産物加工事業所は、平成30年74社・2,008人・出荷額712億円から、令和4年79社・1,743人・出荷額618億円になった。
事業所数は74から79へ増えているが、従業者は13.2%、出荷額は13.3%減った。 数だけ増えて、中身は同じ率で縮んでいる。 1事業所あたりの従業者は、平成30年の27.1人から令和4年の22.1人になった。
規模を縮めながら数を保つ形で来て、そこへ原料の値上がりが来た。 今回の約2割という数字は、体力が細った状態での上乗せ分である。
この種の推移を追うには、事業所数と従業者数と出荷額を同じ表に並べる必要がある。手順は社会課題をデータで語るための統計リテラシー入門(このサイトの記事)で扱った。
産業の内訳が示すもの
令和4年の内訳を見ると、どこに人がいるかが分かる。冷凍水産食品が32社・755人、冷凍水産物が21社・479人、塩干・塩蔵品が13社・118人、水産練製品が4社・117人、水産缶詰・瓶詰が2社・187人、海藻加工が2社・24人、その他水産食料品が5社・63人である。
冷凍の2区分で53社・1,234人。従業者の70.8%がここにいる。 冷凍は原料を買って凍らせて出す工程で、原料費が占める割合が大きい。 値上がりが最も早く効く場所に、人が集中している。
サバの販路も資料に書かれている。文化干し、フィレ、開干し、青切りが関東を中心に販売され、塩蔵サバは名古屋・大阪・京都・神戸などの関西方面への販売が多い。近年はエジプトなどのアフリカ、ロシア、東アジア、東南アジアへ輸出されている。
人口の側で何が起きているか
産業の縮小は、人の動きと同時に進んでいる。銚子市の人口は、平成7年の82,180人から令和2年の58,431人へ減った。25年で28.9%減である。令和7年4月1日時点で53,509人まで下がっている。
令和6年の人口動態は、出生126人に対し死亡997人、転入1,635人に対し転出1,802人である。 1年で自然減871人、社会減167人。 老年人口の割合は37.7%である。
水産加工の従業者1,743人は、15歳以上就業人口27,946人の6.2%にあたる。その2割が失われれば、およそ350人分の雇用が消える計算になる。
値段を決められない産業に、地域政策は何ができるか
輸入サバの値段は、ノルウェーの漁獲枠と為替と輸送費で決まる。銚子の事業者が交渉できる相手ではない。 原価を自分で決められない産業が、地域の工業出荷額の4割弱を占めている。
漁業の人員確保と構造的停止リスク(このサイトの記事)で扱ったのは獲る側の話だった。今回は加工の側で、しかも原料が国内の漁ではなく輸入である。同じ「水産」でも、詰まっている場所が違う。
生活困窮の相談は10年で345.6万件(このサイトの記事)で見たとおり、失職した人が支援に届くかは別の問題である。相談まで来た人でも、継続的な支援の計画が作られるのは26.6%だった。
何を数えれば、次の判断ができるか
いま公表されている数字で追えるのは、事業所数と従業者数と出荷額である。いずれも年次の統計で、令和4年が最新になる。 今回の「約2割」がどの数字に、いつ出てくるかは、次の統計を待つことになる。
追えていないものもある。廃業した事業者で働いていた人が何人で、そのうち何人が市内で再就職したか。この数字は、産業の統計にも人口の統計にも直接は出ない。 規模の縮小は事業所数で見えるが、人がどこへ行ったかは見えない。
この記事で使った統計の出典
- 1銚子市 水産課「銚子の水産」(統計書 令和6年度版より)(令和4年) 出典を開く
- 2銚子市 水産課「銚子の水産」(令和7年4月) 出典を開く
- 3水産庁 令和7年度水産白書 参考資料3-17(財務省「貿易統計」より作成)(平成27年〜令和7年) 出典を開く
- 4水産庁 令和7年度水産白書 参考資料3-17(財務省「貿易統計」より作成)(令和7年/令和6年) 出典を開く
- 5農林水産省「漁業・養殖業生産統計」(水産庁 令和7年度水産白書 参考資料3-1)(平成26年〜令和6年) 出典を開く
- 6水産庁「水産物流通調査」(令和7年度水産白書 参考資料3-21)(平成27年〜令和7年) 出典を開く
- 7水産庁 令和7年度水産白書 第2章(令和7年度) 出典を開く
- 8銚子市 水産課「銚子の水産」(時事通信社調べ)(令和6年) 出典を開く
- 9銚子市 水産課「銚子の水産」(銚子市漁業協同組合資料)(令和6年) 出典を開く
- 10銚子市 水産課「銚子の水産」(2023年水産物流調査)(2023年) 出典を開く
- 11銚子市 水産課「銚子の水産」(製氷高及び使用高集計表、漁業センサス)(平成20年〜令和5年) 出典を開く
- 12銚子市 水産課「銚子の水産」(製氷高及び使用高集計表)(平成20年〜令和5年) 出典を開く
- 13銚子市 水産課「銚子の水産」(平成13年〜平成26年) 出典を開く
- 14銚子市 水産課「銚子の水産」(統計書 令和6年度版)(平成30年〜令和4年) 出典を開く
- 15銚子市 水産課「銚子の水産」(統計書 令和6年度版)(令和4年) 出典を開く
- 16銚子市 水産課「銚子の水産」(国勢調査)(平成7年〜令和2年) 出典を開く
- 17銚子市 水産課「銚子の水産」(住民基本台帳)(令和7年4月1日) 出典を開く
- 18銚子市 水産課「銚子の水産」(令和6年常住人口調査)(令和6年) 出典を開く
- 19銚子市 水産課「銚子の水産」(令和2年国勢調査)(令和2年) 出典を開く
参考書籍
- 『日本の水産資源管理: 漁業衰退の真因と復活への道を探る』(外部サイト、新しいタブで開きます)(片野歩・阪口功、慶應義塾大学出版会)。国内の漁獲量がなぜ減ったのかを、資源管理の制度から論じた本。輸入原料の値上がりに対して国産へ切り替える道が細い理由を、獲る側の事情から考えるのに使える。
参考文献
令和7年度 水産白書 参考資料 — 水産庁 (2026). 農林水産省
令和7年度 水産白書 第2章 我が国の水産業をめぐる動き — 水産庁 (2026). 農林水産省
銚子の水産(令和7年4月) — 銚子市 水産課 (2025). 銚子市
千葉 銚子 輸入サバ高騰で加工業者の約2割が倒産や廃業状態に — NHK (2026). NHK NEWS WEB
