休眠預金等活用制度は、伴走支援を担う専門家をプログラム・オフィサー(PO)と呼び、専用の経費区分と研修の義務まで置いている。一方で、誰がPOなのかは公開されていない。科研費とAMEDがPOの氏名を公開しているのと対照的である。公募要領の情報公開条項を読むと、この差は見落としではなく設計だと分かる。
ざっくり言うと
- 公募要領はPO関連経費を独立した区分として設け、1団体あたり年間800万円を上限としている
- 公開が定められているのは申請団体名・申請書類・選定過程・選定理由・助成額と人件費水準で、人の氏名は入っていない
- 日本学術振興会は9つの専門調査班ごとにPOの氏名を、AMEDは各事業のPO氏名・所属機関・役職を公開している。差は透明性の軸の置き方にある
何が起きているのか
制度がPOに与えている位置づけと、公開されていない事実
休眠預金等活用制度には、プログラム・オフィサーという役割がある。公募要領は略してPOと書く。資金分配団体の非資金的支援を中核的に担う専門家、という定義である。経営支援、研修等の伴走支援、進捗管理、評価、連携支援を担う。
制度はこの役割に、かなりの重さを置いている。
まず、独立した経費区分がある。JANPIAからの助成は、助成額(A)、PO関連経費(C)、評価関連経費(D)で構成されると定められている。POの費用は、事業費に紛れ込ませず、独立して積む建て付けになっている。
上限も決まっている。PO関連経費は1団体あたり年間800万円を上限とし、そのうち人件費は年間500万円を上限とする。対象は募集・採用に必要な費用、研修受講費用、人件費、伴走支援に係る出張費用や研修実施費用である。
さらに、PO関連経費の助成を受けるには、JANPIAが指定する研修の受講が必須とされている。研修はPOを対象とした年間3日から4日程度のものである。人件費を計上する場合は、人件費水準の公開も求められる。
制度の側に立つ人もPOと呼ばれる。選定後の手順を定めた表には「JANPIA-POの決定」という行があり、JANPIAの担当POが決まって資金提供契約に向けた手順を支援し、事業計画書等の確認をともに行うと書かれている。
ここまで役割を固めておきながら、誰がPOなのかは公開されていない。
背景と文脈
公募要領が定める公開項目の一覧と、他制度との比較
公募要領には情報公開に関する条項が2か所ある。ひとつは審査結果について、もうひとつは事業実施中の団体についてである。両方を並べると、何を公開する制度なのかがはっきりする。
- 申請団体名(選定の有無にかかわらず全団体)
- 申請団体が提出した申請書類
- 選定過程
- 選定・不選定の結果
- 選定・不選定の理由
- 助成期間の助成総額と各年度の見込み額、その根拠
- 資金分配団体の人件費の水準
- ガバナンス・コンプライアンス体制に関する規程類
- 伴走支援を担うプログラム・オフィサー(PO)の氏名
- POの所属・経歴・担当分野
- 実行団体を担当するPOの割り当て
- JANPIA-POが誰か
審査結果の情報公開は、6項目が列挙されている。申請団体名、申請団体が提出した申請書類、選定過程、選定・不選定の結果、選定・不選定の理由、選定された資金分配団体への助成総額と各年度の助成見込み額およびその根拠。選定の有無にかかわらず全ての申請団体について公開するとされていて、範囲は広い。
事業実施中の情報公開も定められている。資金分配団体は、実行団体の公募にあたって公募要領と書式を自団体のサイトで公表し、人件費の水準とガバナンス・コンプライアンス体制に関する規程類を一般に公表する。
どちらの列にも、人の氏名は入っていない。しかもこれは書き落としではない。申請書類の公開について、脚注はこう書いている。
この情報公開に当たっては、申請書類の中に記載がある個人情報や申請団体のアイディアやノウハウ等に係る部分については非公表とすること等により、申請団体の権利その他の正当な利益を損ねないよう留意します。
個人情報を出さないことは、制度の側が明示的に選んだ設計である。
同じ公的な資金の配分でも、扱いは一様ではない。日本学術振興会の学術システム研究センターは、PO(主任研究員と専門研究員)とプログラム・ディレクターの氏名を、人文学から医歯薬学まで9つの専門調査班ごとに、令和8年4月1日現在の名簿としてサイトで公開している。日本医療研究開発機構(AMED)は、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律に基づく規則を置いたうえで、事業ごとのページにPS・POの氏名・所属機関・役職を掲載している。科研費については審査委員名簿も公開されている。
JANPIAが何も出していないわけではない。2019年度の資金分配団体の公募については、審査委員名簿がPDFで公開されていて、委員長と委員の氏名・所属が読める。審査会議の構成についても、理事会で選任され理事長の委嘱を受けた外部専門家で構成されること、申請団体との利害関係を自己申告して関係があれば審査に加わらないことが公表されている。
公開されているのは、審査する人の一部と、団体と金額である。公開されていないのは、伴走する人である。
構造を読む
透明性の軸が団体と金額に置かれていることの帰結
この差を、隠している・隠していないの話にすると読み違える。公開の軸の置き方が違う、というのが正確である。
科研費やAMEDの透明性は、研究費の配分が専門家の判断に依存することを前提にしている。誰がその分野を見ているかが分からなければ、配分の妥当性を外から確かめられない。だから人を公開する。
休眠預金の透明性は、原資が国民の資産であることから来ている。公募要領は「休眠預金等活用事業の原資が国民の資産であることに鑑み、国民への説明責任を果たすため」と書き、そのうえで団体名・申請書類・選定過程・選定理由・金額を並べる。お金がどこへ行き、なぜそこへ行ったかを追えるようにする設計である。
透明性を「どこまで、誰に対して」開くかという問いは、この制度に限った話ではない。『公立文化施設のガバナンス論』(外部サイト、新しいタブで開きます)(渡部春佳)は、自治体によるアカウンタビリティが実務のなかでどう変わってきたかを追っている。開く対象を決めることは、誰に対して説明する制度なのかを決めることでもある。
軸が違うので、どちらが優れているという話にはならない。ただし、軸を選べば、選ばなかったほうに何かが落ちる。落ちるものが2つある。
ひとつは、応募する側の判断材料である。実行団体になろうとする団体は、資金分配団体が出す公募に応募する。その先で受けるのは資金だけでなく、伴走支援である。伴走支援の中身は、経営支援、進捗管理、評価、連携支援と幅広い。誰が担当するかで、3年間の進み方は変わる。しかし応募の段階で、その人を知る手段がない。テーマと金額で選ぶしかない。
もうひとつは、役割そのものの見え方である。PO関連経費は年間800万円、人件費は年間500万円が上限で、3年なら最大2,400万円になる。決して小さくない額が、この役割に付けられている。それだけの資源を投じている職能が、外からは職名としてしか存在しない。中間支援の専門職を育てるという制度の目的から見ると、育っている人が見えないのは、目的の一部を測りにくくしている。
制度に落ち度があるという話ではない。個人情報を守ることには十分な理由があり、団体規模の小さいセクターでは氏名の公開が本人の負担になることもある。
ただ、公開する・しないの二択にする必要もない。AMEDが公開しているのは氏名・所属機関・役職で、個人の連絡先ではない。役割を担う人が何人いて、どの分野を見ているのかという水準なら、個人の権利を損なわずに出せる範囲がある。人数と分野だけでも分かれば、この職能がどれだけ育ったのかを制度の外から確かめられる。
透明性の軸をどこに置くかは、制度の設計者が決めることである。しかし軸を1本だけにする理由は、公募要領のどこにも書かれていない。
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この記事で使った統計の出典
- 1JANPIA 2026年度 資金分配団体(助成)通常枠第1回 公募要領(2026年) 出典を開く
参考文献
2026年度 資金分配団体(助成)通常枠第1回 公募要領 — 一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA) (2026)
2019年度 資金分配団体の公募 審査委員名簿 — 一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA) (2019)
プログラムオフィサー(PO)|学術システム研究センター — 独立行政法人日本学術振興会 (2026)
独立行政法人等情報公開法第22条に規定する情報 — 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) (2026)
審査について — 一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA) (2026)
