拠点や校舎の整備に休眠預金を充てられるかという問いに、2026年度の公募要領の条文で答えます。土地の購入は対象外、建物は賃貸が原則、新築は特例で鑑定評価額の80%が上限です。あわせて「他に代替手段がない」という条件が、申請者の属する分野にどんな資金制度があるかで広さを変えることを扱います。
ざっくり言うと
- 土地の購入は助成の対象外で、対象は賃貸のみである
- 建物の購入・新築は「他に代替手段がない場合に限り」認められる特例で、鑑定評価額の80%が上限になる
- 「代替手段がない」と言えるかどうかは、その分野に専用の資金制度があるかで変わる
はじめに
この記事が答える問いと、結論の要約
拠点や校舎を整えたい団体から、休眠預金を建設費に充てられないかという相談が来る。制度の説明資料には対象経費の一覧が載っていないため、公募要領を開くまで判断がつかない。
先に結論を書く。休眠預金等活用制度で土地を買うことはできない。建物は賃貸が原則で、購入と新築は特例の扱いになる。特例が認められても、助成されるのは不動産鑑定士等による評価額の80%までである。
ただし、条文を読んで終わりにすると判断を誤る。特例の条件のうち「他に代替手段がない場合」という一句は、申請者がどの分野の法人かによって、書ける範囲が変わる。制度の可否は、その制度の条文だけでは決まらない。
制度の全体像は休眠預金活用制度ガイド(このサイトの記事)に、申請要件は申請実践ガイド(2026年度版)(このサイトの記事)にまとめた。本稿はそのうち施設と不動産の部分だけを掘り下げる。
条文はどう書かれているか
公募要領の不動産条項の原文と、かかる範囲
公募要領の「助成対象となる経費」の章に、不動産の取扱いという項目がある。見出しは「不動産の取扱い(実行団体の事業を含む)」で、括弧書きのとおり、資金分配団体だけでなく実行団体の事業にも同じ条件がかかる。
土地の購入は助成の対象外とし、助成の対象は賃貸のみとします。建物は賃貸を原則とします。建物の購入又は新築は、事業目的の達成のために必要不可欠であり、他に代替手段がない場合に限り特例として認めることとします。建物の購入又は新築価格の経済的合理性を確保する観点から、JANPIAが不動産鑑定士等による評価を行い、当該評価額の80%を上限に助成します
この項目には脚注が付いていて、建物を購入または新築する事業を計画する場合は申請前にJANPIAへ相談するよう求めている。
条件は4つに分かれる。図にすると、段を下るごとに残る額が減っていく。
4つの条件を順に読む
土地・建物・特例・上限それぞれの読み方
土地の購入は対象外
条文の最初の一文が最も強い。土地については「助成の対象は賃貸のみ」と書かれている。取得費はここで全額が外れ、例外の余地は示されていない。
土地を借りて建物を建てるという組み立てなら、賃借料の部分は残る。ただし建物のほうは次の条件にかかる。
建物は賃貸が原則
建物についても、既定は賃貸である。購入と新築は「原則」から外れた扱いになる。ここを読み違えると、資金計画の柱を最初から特例の上に載せることになる。
事業計画を書く段階で、既存の施設を借りる案と建てる案を並べておくと、後の説明がしやすい。
特例が認められる条件
購入と新築が認められるのは、次の2つを同時に満たす場合とされている。
- 事業目的の達成のために必要不可欠であること
- 他に代替手段がないこと
1つめは事業計画の中で説明できる。難しいのは2つめで、これは事業計画の外側にある事実に左右される。この点は後の節で扱う。
鑑定評価額の80%が上限
特例が認められた場合も、助成額には上限がある。JANPIAが不動産鑑定士等による評価を行い、当該評価額の80%が上限になる。
ここで2つの差が生まれる。ひとつは評価額の残り20%。もうひとつは、工事費が評価額を上回った場合の差額である。鑑定は建物の経済的な価値を見るので、設計監理費や外構、物価上昇分が必ずしも評価額に反映されるとは限らない。自己負担の見込みは、工事費の20%ではなく、それより大きくなり得る。
採択後も条件は続く
取得財産の処分制限が建物では何年続くか
助成で取得した財産には処分制限がかかる。公募要領は、助成期間中および事業終了後5年間、善良な管理者の注意をもって管理する義務を定めている。ただし建物には括弧書きがあり、法人税法に定める減価償却資産の耐用年数の間とされている。
鉄筋コンクリート造の校舎や事務所の法定耐用年数は数十年になる。事業計画に定める事業以外の目的で使用・譲渡・交換・貸付け・担保設定を行うには、JANPIAの事前の書面による承諾が要る。処分により利益を得た場合、JANPIAは全部または一部の返還を求めることができる。
3年で終わる事業に対して、建物だけが数十年の義務を残す。この非対称は、上限80%より重い制約になり得る。
代替手段の有無は制度の外側で決まる
同じ条文が申請者によって違う広さになる理由
「他に代替手段がない場合に限り」という条件は、申請者の努力で満たすものではない。周りにどんな制度があるかで、書ける範囲が決まる。
- 施設整備に使える公的融資が見当たらない
- 民間金融機関の借入は、担保と返済原資の説明が要る
- 「他に代替手段がない」と書ける余地が残る
- 学校法人には私学事業団の融資がある
- 融資対象事業に「校舎・園舎等の建築・改築」が明記されている
- 返済期間は最長30年、低利・固定金利
JANPIA が融資の存在をどう扱うかは公募要領に書かれていない。要領は、建物の購入または新築を計画する場合は申請前に相談するよう求めている
分かりやすい例が学校法人である。日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)は、私立学校の施設設備の整備等に要する貸付事業を行っている。文部科学省の資料には、融資対象事業として「校舎・園舎等の建築・改築」が明記されている。返済期間は最長30年、低利・固定金利で、一部の事業には国の利子助成制度の適用もある。同じ資料には、大学以外の幼稚園・小中高・特別支援学校等も融資対象となり得ると注記されている。
つまり学校法人が校舎を建てる場合、その用途に合わせて設計された資金制度が別に存在する。この状況で「他に代替手段がない」と説明することは、容易ではない。
同じことは他の分野にも起きる。社会福祉事業の施設整備には福祉医療機構の福祉貸付事業があり、病院や診療所の整備には同機構の医療貸付事業がある。専用の制度を持つ分野ほど、この一句は狭くなる。
この構造は、休眠預金に限らない。「他に手段がない場合に限る」「他制度で対応できない場合に限る」という条件は、補助金や助成金の要領によく現れる。申請の可否を左右するのは自団体の熱意ではなく、その分野に用意されている制度の厚みである。
規模から見た場合
助成額の目安・平均額と、建物の事業費の距離
条文とは別に、額の面でも建物は制度の想定から外れている。
2026年度の公募要領は、事業類型ごとに実行団体への最大助成額の目安を示している。
| 事業類型 | 実行団体への最大助成額の目安 |
|---|---|
| 草の根活動支援事業 | 1団体あたり2千万円(最長で3年間分) |
| ソーシャルビジネス形成支援事業 | 1団体あたり6千万円(最長で3年間分) |
| イノベーション企画支援事業 | 1団体あたり6千万円(最長で3年間分) |
| 災害支援事業 | 1団体あたり4千万円(最長で3年間分) |
実績はこの目安より小さい。内閣府の資料によれば、実行団体の1事業当たりの平均助成予定額は1,624万円である。資金分配団体の側で見ても、1事業当たりの平均助成予定額は1.54億円で、これは複数の実行団体への助成を含んだ額になる。
目安の上限と実績の平均は別のものなので、混ぜて読まない。前者は「その類型で最大ここまで」、後者は「実際に配られている額の平均」である。どちらで見ても、建物の取得費を主たる使途に据えるには足りない。
さらに事業期間の制約がある。実行団体による事業の期間は原則として最長3年で、資金分配団体を含めても2030年3月末までとされている。建物は3年で成果を出す資産ではない。
では何に使えるのか
制度の設計に合う使い道
ここまでは制限の話だが、施設が関わる事業に休眠預金がまったく合わないわけではない。
制度の目的は公募要領の冒頭に書かれている。ひとつは国及び地方公共団体が対応することが困難な社会課題の解決を図ること、もうひとつは民間公益活動の自立した担い手の育成と、資金を調達できる環境の整備である。資産形成は目的に入っていない。この視点で使い道を組み替えると、次のような整理になる。
| 使い道 | 扱い |
|---|---|
| 土地の取得 | 対象外 |
| 建物の取得・新築 | 特例。鑑定評価額の80%が上限、事前相談が必要 |
| 土地・建物の賃借料 | 対象になり得る(賃貸が原則と明記されている) |
| 事業に携わる人の人件費 | 事業費として計上できる |
| 専門職の配置・研修 | 同上 |
| 事業の評価に要する経費 | 評価関連経費として区分がある |
既存の施設を借りて事業を始め、成果が出た段階で施設の取得を別の資金で行う。この順序なら、休眠預金は制度の設計どおりに使える。3年という期間も、賃借であれば無理がない。
なお実行団体には、助成期間合計の事業費の20%以上を自己資金または民間からの資金で確保する原則がある。要領はこの趣旨を、休眠預金等に係る資金に依存した団体を生まないための仕組みだと説明している。ここでも、制度は資産ではなく組織の自立を見ている。
申請前に確かめる順番
相談や申請の前に自分で調べられること
相談の前に自分で調べられることがある。順番は次のとおりである。
- 自分の分野に専用の資金制度があるかを調べる。学校法人なら私学事業団、社会福祉事業なら福祉医療機構というように、分野ごとに施設整備の融資制度が用意されていることが多い。ある場合、休眠預金の特例より先にそちらを検討することになる
- 建物を持たずに同じ成果を出せないかを検討する。賃借・既存施設の活用・他団体との共用で足りるなら、条文の制限にかからない
- 建物が不可欠だと判断した場合は、公募要領の該当箇所を示したうえでJANPIAに事前相談する。要領自身が求めている手順である
- 並行して、事業費側の計画を組む。人件費・専門職の配置・評価経費は、額の目安とも期間とも噛み合う
この順で進めると、仮に特例が認められなくても事業計画は残る。逆に建物を前提に組み立てると、条件ひとつで計画全体が止まる。
まとめ
判断の要点
休眠預金で建物を建てることは、不可能とは書かれていない。ただし条文は、土地を外し、建物を賃貸に寄せ、購入と新築を特例に落とし、その特例にも鑑定評価額の80%という上限を置いている。取得したあとは、法定耐用年数の間、処分制限が続く。
そのうえで判断を分けるのは「他に代替手段がない」という一句である。この条件は申請者の書き方では動かない。自分の分野に専用の制度があるかどうかで、あらかじめ広さが決まっている。
申請を考える前に、まず周辺の制度を調べる。それが最も早い。
使える制度の見分けがつかないときに
どの制度が自団体に当たるかの調べ物から、申請計画と予算書の作成まで。初回相談は無料。
この記事で使った統計の出典
- 1JANPIA 2026年度 資金分配団体(助成)通常枠第1回 公募要領(2026年) 出典を開く
- 2文部科学省 日本私立学校振興・共済事業団の融資業務の概要(2025年) 出典を開く
- 3内閣府 休眠預金等活用制度について(2026年7月(2026年4月末時点)) 出典を開く
参考文献
2026年度 資金分配団体(助成)通常枠第1回 公募要領 — 一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA) (2026)
休眠預金等活用制度について — 内閣府 (2026)
日本私立学校振興・共済事業団の融資業務の概要 — 文部科学省 (2025)
融資(私学振興事業) — 日本私立学校振興・共済事業団 (2026)
