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一般社団法人 社会構想デザイン機構

「無料の相談」は誰が払っているのか — 就活・語学・留学であべこべな三つの制度

ヨコタナオヤ
約9分で読めます

進路に迷った学生が使える相談窓口は、どれも学生からは料金を取らない。しかし財源と、財源にかかる歯止めは業態ごとにまったく違う。就職の紹介は法律が利用者からの徴収を禁じ、国内の語学教室には解約権が法定され、いちばん高額な決断を扱う留学あっせんには、この分野に固有の規制が存在しない。三つの制度を並べて、学生が置かれている情報環境を読み解く。

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ざっくり言うと

  1. 困ったとき大学のキャリアセンターに相談すると思う学生は70.1%、実際に相談した経験者は11.2%
  2. 就職の紹介は職業安定法が求職者からの手数料徴収を原則禁止。無料は善意ではなく制度の帰結
  3. 留学あっせんを包括的に規制する法律はなく、許可も登録も不要だとJASSOが明記している

何が起きているのか

制度化された相談窓口ほど、実際に困ったときには使われていない

進路に迷った学生が相談できる窓口は、数の上では足りている。大学にはキャリアセンターがあり、無料の就職エージェントがあり、留学やワーキング・ホリデーの相談会もある。どれも学生からは料金を取らない。

ところが、実際に困ったときに使われているかというと、そうではない。

内閣府が2025年に実施した調査に、その落差がはっきり出ている。就職活動の終了を強要されるハラスメント、いわゆるオワハラを受けていない学生に「仮に受けたらどこに相談すると思うか」を聞くと、大学のキャリアセンターが70.1%で最も高い。ところが実際に受けた学生に「どこに相談したか」を聞くと、大学のキャリアセンターは11.2%まで落ちる

順位も入れ替わる。実際に頼られたのは家族・親戚が25.2%、まわりの友達が25.3%で、制度として用意された窓口ではなく身近な人だった。ハローワークや労働局は0.2%、弁護士と警察にいたっては0.0%である。制度化された窓口ほど、想定と実際の落差が大きい。

この設問はオワハラという特定の困りごとに限られており、進路相談一般の相談先を聞いたものではない。経験者は238人と母数も小さい。それでも、想定される窓口と実際に使われる窓口がここまで食い違う事実は、相談行動の傾向として見ておく値打ちがある。

さらに踏み込むと、経験者のうち49.2%は誰にも相談していない。その内訳が問題を絞り込んでくれる。「相談するところはわかっていたが、相談しなかった」が35.5%を占め、「相談するところがわからないので、相談しなかった」の13.7%を2.6倍上回る。

窓口を知らないのではない。知っていて、使わなかったのである。同じ調査で、経験者がキャリアセンターに相談した割合は2023年度18.1%、2024年度14.7%、2025年度11.2%と、3年続けて下がっている。

足りていないのは窓口の数ではなく、窓口の性質だと考えたほうがよい。では、その性質は何によって決まっているのか。財源から見直すと、学生が使える三つの無料窓口は、まるで違う制度の上に乗っていることがわかる。

背景と文脈

就職の紹介・語学教室・留学あっせんで、財源にかかる歯止めがまるで違う

就職の紹介では、法律が学生から金を取ることを禁じている

新卒の就職エージェントが学生に料金を請求しないのは、事業者の判断ではない。職業安定法がそう定めているからである。

同法第32条の3第2項は、次のように書いている。

有料職業紹介事業者は、前項の規定にかかわらず、求職者からは手数料を徴収してはならない。ただし、手数料を求職者から徴収することが当該求職者の利益のために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、同項各号に掲げる場合に限り、手数料を徴収することができる。

ただし書きの例外は、厚生労働省令が指定する職業に限られる。職業安定法施行規則 第20条第2項が挙げるのは、芸能家、モデル、科学技術者、経営管理者、熟練技能者の5つだけである。新卒で就職活動をしている学生は、そのどれにも当たらない。

つまり事業者は、学生から料金を取ることが法律上できない。そのうえで職業紹介そのものは、厚生労働大臣の許可を受けた事業である。では誰が費用を負担しているのか。新卒紹介を手がける各社は、採用が決まった時点で企業から報酬を受け取る成果報酬型だと自社サイトの料金案内に掲げている。学生が払わない以上、費用は採用する企業から出るほかない。

ここで確認できるのは、学生にとっての「無料」が善意ではなく制度の帰結だということである。誰が顧客かを決めているのは、料金表ではなく法律のほうだ。

国内の語学教室には、やめるときの歯止めがある

視点を、就職から学びに移してみる。国内で語学教室に通う場合、その契約は消費者庁が所管する特定商取引法の対象になる。

特定継続的役務提供と呼ばれる枠組みで、対象は次の7役務に限定されている。

役務期間金額
エステティック1月超5万円超
美容医療1月超5万円超
語学教室2月超5万円超
家庭教師2月超5万円超
学習塾2月超5万円超
パソコン教室2月超5万円超
結婚相手紹介サービス2月超5万円超

対象になると、8日間のクーリング・オフが終わったあとも、将来に向かって契約を解除する中途解約権が残る。解約料にも上限がかかるので、事業者が契約書に何を書いていても、その上限を超えて請求することはできない。

長期にわたって高額を前払いする取引では、途中でやめられるかどうかが決定的に効く。だから法律がそこに手を入れている。

留学とワーキング・ホリデーのあっせんには、固有の規制がない

ところが同じ語学の学習でも、海外の学校をあっせんしてもらうと話がまったく変わる。

日本学生支援機構(JASSO)は、海外留学情報サイトで留学あっせん業者の利用について次のように明記している。

これらのサービス全体を包括的に規制する法律などはなく、業者には国や自治体の許可や登録は必要ありません

政府機関が、規制の不在をそのまま書いている。同ページによれば、2011年から一般社団法人留学サービス審査機構(J-CROSS)が認証を実施しているが、これは業界団体による任意の認証であって、許可でも登録でもない。認証を受けていない事業者が営業できなくなるわけではない。

同ページはあわせて、契約前に確認すべきこととして「支払経費に含まれるものと含まれないものの明細」および「手数料」の明記が必須だと注意を促している。裏返せば、明記されないことがあるということである。

そして留学あっせんは、先に挙げた特定継続的役務提供の7役務にも入っていない。国内の語学教室で保障される中途解約権と解約料の上限は、海外留学のあっせん契約の外にある。

もっとも、まったくの無法地帯というわけではない。事業者と消費者のあいだの契約である以上、消費者契約法は適用され、不当な条項は無効になりうるし、誤認による契約は取り消せる場合がある。ここで欠けているのは一般法の保護ではなく、この分野に固有の歯止め、すなわち参入の許可と、途中でやめる権利の法定である。

構造を読む

高額な決断を扱う領域ほど固有の規制が薄く、統計すら存在しない

三つ並べると、順序があべこべになっている

ここまでの三つを一覧にすると、歯止めの分布がはっきりする。

就職の紹介
職業安定法
  • 参入に許可・登録が要る厚生労働大臣の許可
  • 利用者から金を取ることに制限原則徴収禁止
  • 途中でやめる権利が法定該当場面なし
  • 第三者による確認許可と行政指導
  • ¥学生が前もって払う額法律により原則ゼロ
国内の語学教室
特定商取引法
  • ×参入に許可・登録が要る開業規制なし
  • 利用者から金を取ることに制限解約料に上限
  • 途中でやめる権利が法定中途解約権あり
  • 第三者による確認行政処分
  • ¥学生が前もって払う額5万円超・2月超で法の対象
留学・ワーホリのあっせん
根拠法なし
  • ×参入に許可・登録が要る許可も登録も不要
  • ×利用者から金を取ることに制限制限なし
  • ×途中でやめる権利が法定契約次第
  • 第三者による確認任意の認証のみ
  • ¥学生が前もって払う額学費・渡航費・滞在費を前払い、定めなし

○ = 定めがある / △ = 部分的または任意 / × = 定めがない。特定商取引法の中途解約権と解約料の上限は国内の語学教室(2月超・5万円超)には及ぶが、留学あっせんは対象7役務に含まれない。

どれも学生からは料金を取らない。就職の紹介から留学のあっせんへ進むほど歯止めは減り、学生が前もって払う額は逆に大きくなる

学生から見れば、どれも「無料で相談できる窓口」に見える。パンフレットにも説明会にも、そう書いてある。

違うのは金の出どころと、その出どころにかかる歯止めである。しかも歯止めは、扱う金額が大きくなるほど強くなる、という順番になっていない。むしろ逆で、休学して1年を使い、学費と渡航費と滞在費を前払いする決断ほど、制度の空白地帯に置かれている。

「無料」という言葉が、三つとも別のことを指している

同じ「無料」でも、成り立ち方は次のように分かれる。

就職の紹介における無料は、法律が利用者からの徴収を禁じた結果である。負担者は採用する企業であり、その関係も法律の枠内に収まっている。

国内の語学教室に無料の相談があるとすれば、それは有料の契約への入口である。ただし契約したあとも、やめる権利が法律で確保されている。

留学あっせんの無料相談には、この二つのどちらの説明も当てはまらない。誰が負担しているかについての制度上の定めがなく、その先の契約にも解約の歯止めがない。

学生に必要なのは「無料かどうか」ではなく「誰が払っているか」を知ることである。ところがこれは、窓口の前に立った時点ではまず分からない。契約書を読んでも、法律の裏づけがあるのかないのかまでは書いていない。

使われない理由を問うた統計が、存在しない

冒頭の落差に戻る。知っていて使わなかった人が、知らなかった人の2.6倍いた。ではなぜ使わなかったのか。

内閣府の調査に、その設問はない。相談したかどうか、どこに相談したかは聞いているが、行かなかった理由までは聞いていない。利害関係を感じたのか、話しても解決しないと思ったのか、単に時間がなかったのか。判別する手がかりが、公的統計のどこにも置かれていないのである。

留学あっせんについても同じことが言える。国民生活センターの発表情報には、留学あっせんを単独で集計した相談件数が見当たらない。規制する法律がなく、所管する官庁もはっきりしない領域。そもそも数える主体がどこにも置かれていないのである。

規制がないところには、統計もない。統計がなければ問題は表に出ず、制度も作られない。 この順序は、留学あっせんに限った話ではないはずである。生活保護の捕捉率が推計22.9%にとどまる構造を分析した「政策が届かない層」の共通構造(このサイトの記事)でも、情報の非対称性と手続きの負担が相互に強化しあう形が指摘されている。窓口の不在ではなく、窓口の使いにくさが問題になるという点で、同じ形をしている。

窓口を増やす前に問うべきことがある。既にある窓口が使われていないという事実と、使われない理由が測られていないという事実を、同時に見ておく必要がある。

進路の相談先を、利害関係から選び直す

ISVDでは学生キャリア相談をプロボノ(無償)で行っています。就職先の紹介はせず、採用の斡旋もしません。


関連資料


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この記事で使った統計の出典

  1. 1内閣府 令和7年度委託調査事業 学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査(オワハラ未経験者 n=3,045)(2025年) 出典を開く
  2. 2内閣府 令和7年度委託調査事業 学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査(オワハラ経験者 n=238)(2025年) 出典を開く

参考文献

令和7年度委託調査事業 学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査 調査結果報告書内閣府 (2025年). 内閣府 経済財政政策

特定継続的役務提供消費者庁 (2026年). 特定商取引法ガイド

留学あっせん業者(留学エージェント)の利用について独立行政法人日本学生支援機構 (2025年). JASSO 海外留学情報サイト

参考書籍

読んだ後に考えてみよう

  1. 自分が無料で受けたサービスについて、誰がその費用を払っていたかを考えたことがあるだろうか。
  2. 窓口を「作る」ことと「使われる」ことの間には、何が横たわっているだろうか。
  3. 統計が存在しない領域は、問題がないのか、それとも見ようとされていないのか。

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